第2話 とりあえず煽ってみよう
トトとアメリアは、同じ村に住む幼馴染だ。
それがどうして婚約者候補となったのかは、単純に歳が近いからであったり、両親同士の仲が良かったからであったりといろいろあるが、一番の理由はアメリアがトトに懐き、それを望んでいたからである。
まぁ婚約者といっても、所詮は村人同士の口約束に過ぎないが。
可愛らしい外見のくせして中身は青年男子というふざけた境遇であったトトは、当然見た目より精神年齢が高く、アメリアと遊ぶというよりも面倒を見ていたという方が正しい。
アメリアの我儘にも適度に応え、危険なことからは守ってやっていたため、いつの間にかアメリアにとって、トトは自分を守ってくれる男の子という認識になっていた。
それがいきすぎた結果、好意に変わり、将来を共にする相手になったのだ。田舎の村では恋愛と結婚を自然と結びつけられているのも、悪い方向へと働いてしまった。
まさか婚約者扱いされて親まで乗り気になってしまうなどと、トトは考えてすらいなかった。
(これほぼ洗脳、とまではいかなくても、刷り込みに近いよな。ちょっと罪悪感が……!)
元々そんなつもりが全くなかっただけに、なおさら申し訳なく思っている。
無意識に光源氏計画とか、ゴメンですむ話ではない。日本なら事案である。
(そもそもあいつらが悪いんだよな。いや、子供ならしょうがないとは思うけどさ)
ノカド村には他にも同年代の子供達が居る。だが、アメリアにとってトト以外の異性は眼中にない。
それも当然ではある。誰だって自分を虐めていた連中と仲良くしようと思う奴はいない。
(好きな子に関わっていたいからちょっかいをかける。子供ならよくあることだけど、やられた本人にとっては嫌がらせでしかないもんな)
チラリと、トトは隣を歩くアメリアを見た。
腰まで伸ばした黒髪は、もともとの髪質が良いのかサラサラと風に揺れている。
こんな辺境の村で、ここまで綺麗な髪を持っている子は他に居ない。まるでお姫様みたいだと大人達が褒め、同年代の女の子が羨ましそうしているのをトトは何度も見たことがある。
それだけでも目立つには十分すぎるというのに、アメリアはまだ子供ながらに顔立ちが整っていた。綺麗なだけではなく、ニコニコと笑って愛嬌もある。
正直、他の子供と比べても群を抜いている可憐さだった。将来はとんでもない美人になると確信している。
貴族に見つかったら、確実に見初められて愛人一直線だろう。奴隷商に涎を垂らして誘拐されかねない。同年代の少年がちょっかいをかけるのも仕方がないと言えた。
(俺も普通の子供だったら素直に喜べたんだけどな。いくら可愛いくても、今はまだ子供だからなんとも……)
異性というよりも被保護者を見る目になり、いまいち恋愛感情は出ない。子供に好かれてもな〜というのが正直な所だ。トトとしては、村の未婚のお姉さん達の方がよっぽど魅力的に思える。胸とか、尻とか、すっごく大事。
五年も経てばまた別だとは思うが、こうまで近すぎると、妹、あるいは娘としか見れないんじゃないかという心配もある。こんな美少女に好かれて嬉しい反面、複雑でもあった。
「それでね、ハンナおばさんが……トト、聞いてる?」
「ん? うん、聞いてるよー。それはファンタスティックだな」
「ファ、ファン……? もうっ、聞いてなかったでしょ!」
「ごめん、ぼーっとしてた。痛っ、悪かった! 悪かったって!」
アメリアとじゃれていると、トトはふと視線を感じた。
なんとなくそちらを見ると、農作業の手を止め、険しい表情でトトを睨んでいる少年が居た。
(ああ、ボーグか)
村に住む子供の中でも、特にアメリアに懸想を抱いている少年だ。そして、最もアメリアにちょっかいをかけていた少年でもある。
おかげでアメリアには蛇蝎のごとく嫌われ、口も聞いてくれない。そのせいか、こうしてトトを仇でも見るような目で睨んでくることがよくある。
(自業自得じゃねぇか)
それで睨まれても……と、トトとしては困惑するしかない。子供の他愛もない嫉妬だし、特に気にするほどのことでもないが、ただ睨まれているだけというのも面白くない。
とりあえず煽ってみよう。トトはアメリアの髪に手を伸ばした。
「ひゅあっ!? な、なにっ!?」
「いや、相変わらず綺麗な髪だなって思って、つい」
「ほ、ほんと? え、えへへ、ちょっとびっくりしたけど、なら触っていいよ」
「いや、もう飽きたからいいや」
「――――!?」
またポカポカと殴ってくるアメリアの攻撃を流しつつ、スッと視線をボーグへ移す。
そして、ふん、と鼻で笑ってやった。
「――――ッ! お前っ……!」
「ボーグ! サボってないで手を動かせ!」
――勝った。
父親に叱られるボーグの姿を見届け、優越感に浸りつつ、トトはアメリアと一緒に森の中に入っていった。
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