女の戦場
・水晶のダンシングオールナイトフィーバー
・プレイハウス・ミステリーシアター『大人の遊び』
・祝いと狂乱の夜会
羊皮紙の地図に書き込まれた、三つの未踏破
“メンフレディのテーマパーク” は最初に降り立ったエントランス部と合わせて、大きく四つの区域で成立っているのです。
「お、おう」
と言ったきり、言葉が続かない早乙女くん。
「……どうせシラミ潰しに調べるんだ。後か先かの違いだけだ」
皆を奮い立たせるつもりだったのでしょうが……隼人くんの声からもゲンナリ感が拭えません。
「ぶ、舞踏系のアトラクション? がふたつありますね」
わたしは
名前からして、
「南の “祝いと狂乱の夜会” っていうのが多分、メアリー・ジェーンの奥方がいってた舞踏会ね……ペンだこが腐り落ちたお祝いの」
「夜会=舞踏会だから間違いないね。実際に “南側の扉の先” っていってたし」
「他のふたつの内容はわからん。『大人の遊び』の方は想像がつく――痛て!」
安西さんに二の腕をつねられて、五代くんが口をつぐみます。
「不潔な人は嫌い!」
「……」
(こういうとき、男女混成パーティは不便だな)
(……)
早乙女くんが隼人くんに囁きますが、あえて聞こえないふりをしてあげます。
「どうしますか?」
わたしは隼人くんの決断を仰ぎました。
ここで冴えない顔を見合わせていても始まりません。
「少しでも情報がある南の夜会から調べてみよう――みんな、ダンスの経験は?」
「体育の創作ダンスくらい」
「あとは後夜祭とかキャンプのフォークダンス……わ、わたし、バレエよりピアノな女の子だったから」
「ぼ、盆踊りなら」
「……聞くな」
「全員似たようなもんか」
隼人くんが、田宮さん、安西さん、早乙女くん、五代くんの答えに嘆息します。
そして思い出したように、
「瑞穂は?」
「え?」
「外交使節団の一員だったおまえなら、舞踏会の経験もあるんじゃないか?」
「そうよ、枝葉さんはリーンガミル聖王国――マグダラ女王の賓客だったんだから、そういう経験があるんじゃない?」
田宮さんが澱んでいた顔を、パッと輝かせました。
「一度だけ出ましたが、壁の華でした」
思い返せば……あれがすべての始まりだったのです。
あの夜会に、冥府の底より復活した “
(……本当に遠くに来てしまいました)
「でも作法とか、そういうのはわかるんでしょ!?」
と、これは安西さん。
どういう心境なの変化なのか、なにやら勢い込んでいます。
「見よう見まね程度でしたら」
「「教えて!」」
田宮さんと安西さんが、わたしの両手を握って迫りました。
気持ちはわかります。
女の子なら誰だって、舞踏会で恥は掻きたくありません。
「……男だってだ」
わたしの気持ちがわかったのか、今一度嘆息する隼人くん。
「で、では、本当に基本的なことだけ」
思いもよらず、わたしのダンス超初心者講習が始まりました。
「そうだよなぁ。ファンタジーな世界の娯楽っていったら普通ダンスなんだよなぁ」
ギコチナイ
隼人くんも五代くんも、似たり寄ったりの表情です。
そんな男子ズを見て、
「男の子って頼りないから、女がリードしないと駄目」
安西さんが鋭い目つきで、田宮さんとわたしに囁きます。
「ほんと、こういうときに堂々とリードしてくれるとポイント高いのにね」
「シャ、シャイなんですよ、みんな」
でも確かにあの夜も、堂々と誘ってくれたら踊ってしまったかも。
まあ、あの人が踊ったのは……。
「ど、どうしたの、急に怖い顔して?」
不意に黙り込んだわたしに、田宮さんがたじろぎました。
「思い出したのです。あの舞踏会の夜の非常に不快な出来事と感情を」
(ぬぬぬぬぬ! あの直立グレートデンめ、わたしではなくハンナさんと踊りおってからに!)
「そっちがその気なら、こっちもこの気です!」
「は?」
「なにやらわたしも俄然闘志が湧いてきました。舞踏会は女の戦い。参りましょう、わたしたちの戦場へ!」
わたしは肩を怒らせて、鼻の穴をピスピスさせました。
((え、枝葉さんが壊れちゃった!))
パーティはキャンプを畳むと、壁や床や天井に極彩色のキャラクターが遊ぶ回廊を一路南に向かいました。
やがて子供じみた回廊の先に現れたのは、それまでとは打って変わった、迷宮には似つかわしくない豪華絢爛な扉でした(キャラクターの描かれた扉も大概ですが)。
“祝いと狂乱の夜会”
「それでは皆さん、心の準備はいいですか?」
「女の戦い!」
「女の戦場!」
扉の前で振り返ったわたしに、田宮さんと安西さんが勢い込んでうなずきます。
男子ズは無言です。ナサケナイ。
「いざ、出陣!」
五代くんが無言で従者のごとく調べた扉を、わたしは一気に押し開けました。
たちまち押し寄せる典雅なワルツの洪水。
視界に溢れるは、色とりどりの豪奢でエレガントなドレスをまとった淑女たちと、優雅かつ巧みに彼女たちをリードする夜会服姿の紳士たち。
一組一組が独自に踊っているのに決してぶつかり合うような無作法はなく、まるで老練な
「……奇麗」
「……ほんと」
田宮さんと安西さんが
――と、ガチャガチャと無粋で無骨な音が響いて、五代くん、早乙女くん、そして隼人くんが武器を抜きました。
「ちょ、ちょっと何考えてるのよ」
「そうよ、無粋よ」
「しっかりしろ、連中を良く見てみろ」
安西さんに睨まれた五代くんが、
「ええ、五代くんの言うとおりです。踊っているゲストをよく見てください。特に、彼らの足下を」
わたしもさすがに、今度ばかりは男子に賛同せざるを得ません。
「「足下……?」」
「「……」」
「「あ、足がないっ!!」」
「ええ、踊っているゲストは全員、
ゾワッとした気配がパーティを包み、軽やかなワルツが遠くなりました。
“あら、珍しく温かい人たちがいらしたわ”
“ほう、これはチャーミングなヤングレディたちだ”
“そんなに怖がることはなくてよ。ここではなにより無粋な振る舞いが嫌われるの。武器を振るったり、魔法を使ったり、
“そうだとも、だから安心してくれたまえ。我々は吸ったりしないから”
“うふふふ、だからあなたたちも、わたしたちを解き放ったりしないでね”
“そうそう、僕たちは好きでこの現し世に留まっているのだからね――ああ、なんて幸せなんだろう! こんな風に永遠に踊り続けていられるなんて!”
わたしたちの入場に気づいた幽霊たちが集まってきて、口々に語りかけてきます。
“チャーミングな聖女さま。どうかわたくしと一曲”
口髭を生やしたダンディな紳士が、そういってわたしに一礼しました。
“おほほほ、子爵様。残念ながら温かい人たちとわたしたちは踊れませんことよ”
“おっと、失礼。そうだった。なにせ永く死んでいると、そんな些末なことは忘れてしまうのでね”
“では代わりに彼らに踊ってもらいましょう!”
“おお、それは良い趣向だ。久方ぶりに生身の人間のダンスを見てみたい!”
“さあ、踊ってみせてくださいな! 優雅で、軽やかで、美しく、そしてなによりも温かなワルツを!”
幽霊だからというよりも、元が貴族さまなのでこの辺りは無邪気にわがままです。
「これでは壁の華を気取る……というわけにはいかなそうですね」
これはなかなかに、なかなかな、なかなかの展開と言わざるを得ません……。
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