廃工房の激闘①★
ズズズズッッ……!
前回の探索で
湿度があるために泥と化した土埃。
床に堆積しているその
この主なき工房の
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023211745112555
「来るぞ!」
「いいのをもらうなよ、ゲッショー!」
「ゲッショー言うな! 俺はまだ在家だ!」
雲を衝くような “泥人形” の威容に、隼人くんが警告を発し、五代くんが揶揄し、早乙女くんが言い返します。
この広間は南北一〇
この八つの小部屋が、かつてドワーフたちが工房として利用していた玄室なのでしょう。
イロノセさんの話ではこの小部屋のどれかに、東南
「八艘飛びだ! 手近な玄室に飛び込め!」
隼人くんの言い得て妙な指示の下、わたしたちは鈍重な “土人形” の
「扉を閉じろ!」
最後尾のわたしが扉の隙間から身体をこじ入れるや、隼人くんが鋭く命じます。
五代くんと早乙女くんが体当たりするように扉を押し閉め、わたしたちは息を殺しました。
“泥人形” に知性はなく、探知範囲の外に出てしまえば元の泥濘に戻ってしまうのです。
やがて玄室の外で響いていた、ズチャン! ズチャン! という水分を含んだ重い足音が聞こえなくなると、全員が安堵の汗を拭いました。
「見て……!」
その時、背後を見た田宮さんが声を上げました。
そこでようやく “
玄室に拡がっていたのは、荒れ果て、奪い尽くされ、破壊尽くされた、まさに廃墟でした。
言葉を失う六人。
迷宮での生活を少しでもよくしようと、屈強なドワーフによって開かれた大工房。
それがいかなる理由があってか、深閑の中に打ち捨てられていました。
かつては赤々と燃え盛っていたはずの炉の火も、
「三〇年も無人なんだ……こんなもんだろうよ」
やっと漏れた五代くんの呟きにも、いつもの皮肉っぽさがありません。
「迷宮や兵どもが夢の跡……だな」
ハッと顔を向けたわたしに、隼人くんが怪訝な表情を浮かべます。
「? どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
それは “
わたしの胸にだけ納めておきたい言葉なのです……。
「恋、大丈夫?」
「…………うん、今のところは」
田宮さんの気遣いに、安西さんが口元を掌で押さえてうなずきました。
安西さんには喘息の持病があり、湿度が高く低温の迷宮は本来身体に悪いのです。
特にこのような厚い土埃に覆われた場所は、これまで可能な限り避けてきました。
「さっさと済ませてしまおう」
「よし、一艘目でいきなり当たりを引いてやるぜ! 俺はこう見えてガチャ運が強いんだ!」
勢い込んで僧衣の袖をめくった早乙女くんが、散乱するガラクタに歩み寄り――。
「――駄目っ!」
「えっ――ガァッ!?!?」
わたしの警告は間に合わず、ガラクタから湧き出た気配に触れられた早乙女くんが、雷に打たれたように激しく身体を震わせました!
浮かび上がる蒼黒い影!
「“
わたしは
「早乙女!」「早乙女くん!」
「
五代くんと安西さんが早乙女くんに駆け寄り、同様に様子をうかがった田宮さんがわたしの名前を叫びます。
「――ここは俺に任せて、おまえは早乙女を!」
魔剣を手に、隼人くんがわたしの隣に立ちました。
「俺にはまだ麻痺は治せない! おまえまで白くなったらお手上げだ!」
言っている意味がわからず、わたしは早乙女くんをチラ見しました。
そして隼人くんの言葉の意味を悟り、慄然とします。
怖ろしいことに、早乙女くんの全身には真っ白な霜が降りていたのです。
「お願いします!」
わたしは一瞬の逡巡のあと、後方に退きました。
初遭遇ですが
何体いようと、今のわたしならまとめて
ですが万が一にも先制攻撃を受けてしまえば、先に早乙女くんが麻痺してしまっている以上、治療のためにラーラさんの拠点まで戻らなければならなくなります。
その時間的なロスと道中の危険を考えれば、隼人くんの判断が正しいと認めざるを得ません。
「任せて! あなたは早乙女くんを!」
「はい!」
わたしと入れ替わり、五代くんと田宮さんが隼人くんの左右に立ちました。
“氷霊” の最大出現数は、最少の1。
レベル7の前衛が三人いれば、まず抜かれる心配はありません。
「枝葉さん!」
ピクリとも動かない早乙女くんを抱きかかえながら、安西さんが今にも泣きだしそうな顔でわたしを見上げます。
大柄な身体に回している手が低温で灼かれているのに、安西さんは気にする素振りも見せません。
「大丈夫、すぐに治療しますから」
わたしは早乙女くんの身体に手を置くと、安西さんと同じ痛みを感じながら素早く
「慈母なる女神 “ニルダニス” よ――」
「瑞穂っ!!!」
(えっ?)
「GiYaAaaaaaーーーーーッッッ!!!」
突然頭上に転移した “氷霊” が、身も凍る金切り声を上げて躍りかかってきたのです!
――
驚愕と、祝詞を唱え終えたのと、自分の身体が霜に塗れたこと……。
どれが最初だったのかは、わかりません……。
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023211745493307
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※スピンオフ第二回配信・開始しました!
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信・第二回~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
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プロローグを完全オーディオドラマ化
出演:小倉結衣 他
プロの声優による、迫真の迷宮探索譚
下記のチャンネルにて好評配信中。
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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