メルトダウン
そこは始点である縄梯子から、わずか八
扉を蹴破り突入したアッシュロードとドーラが目にしたものは、
この緑青の大龍に比べれば、“
ふたりの古強者は畏怖の念に打たれ、玄室に飛び込んだままの姿で硬直した。
そして直感した。
眼前を圧する巨大な龍こそ、この岩山の迷宮の主であると。
猛り狂う
ただ静かに佇み無礼な闖入者を見下ろしているだけだったが、そこには他の邪竜が絶対に持ち得ない神威があった。
この星の意思にして、世界蛇。
真なる龍にして、神なる龍。
違えようはずがなかった。
果たして、アッシュロードとドーラの直感は正しかった。
ふたりの意識に直接、龍が名乗ったからだ。
『――我は “
むしろ清澄な響きであった。
しかしたたずまいと同様に、その声にも人智を超えた威厳があった。
だが――。
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
“真龍” は
そして三度……。
「おい、どうした?」
アッシュロードは声を出してから、身体に自由が戻っていることに気づいた。
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
「いったいどうしちまったって言うんだい?」
油断なく身構えながら、それでもドーラの口からは当惑した声が漏れた。
たった今まで自分たちを圧していた、荘厳な神威が消えている。
世界蛇はただのデカい蛇に成り下がっていた。
「わからん。俺たちが見えてないのか……いや、そんなはずはねえよな」
アッシュロードは意を決して、声を励ました。
「――おい、“真龍”! 俺たちの姿が見えてるか!? お招きに応じて来てやったぞ! 害虫駆除をして欲しいなら情報を寄越せ!」
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
「アッシュ……こいつは」
「……どうも物狂ってるみたいだな」
まるで壊れたレコーダーのように同じセリフを繰り返す
「酔っ払ってる場合じゃねえぞ! おめえがそんなんじゃ、いくら俺たちにその気があっても――」
このデカい蛇は、自分らに
正気に戻ってもらわなければ話が進まない。
アッシュロードにしてみれば当然の思いであったのだが――正気を失っている者にショックを与えるのは、往々にして悪手となる。
次の瞬間、
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
『――我は “真龍”。使命に挑む者よ。幾多の試練を潜り、数多の危難を越え、よくぞここまで辿り着いた』
“真龍” は、まさしく壊れたレコーダーのように倍速のリピーターと化した。
さらにそれだけでなく、口上を繰り返す度に全身が不気味な明滅を始めた。
「アッシュ!」
「ああ、こいつはヤバそうだ――ずらかるぞ!」
まるで
血相を変えて、つい今し方蹴り破った扉を振り返るアッシュロード。
そして凍りつく。
扉は消えていた。
閃光が玄室を充たす。
愕然とするふたりの古強者を呑み込んで “真龍” は臨界に達した。
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