実力者たち
“龍の文鎮” の名で知られる岩山の迷宮の第二層を、一組の探索者たちが進んでいた。
先頭を行くのは、一目で
身長一八〇センチメートルに達する、堂々たる偉丈婦。
「―― “消灯の罠” を抜けたら、“
休養を命じられた “フレンドシップ7” に代わって “
「了解」
兜を被れない
事前に打ち合わせ済みではあったが、こうしてたまに会話を交わすことで、身心の凝りをほぐす。
ストイックなだけでは、迷宮探索は行き詰まる。
パーティは先頭から順に、
①スカーレット(戦士)
②ゼブラ(戦士)
③エレン(戦士)
④ノエル(僧侶)
⑤ヴァルレハ(魔術師)
⑥ミーナ(盗賊)
――の、一列縦隊だ。
三列目までが前衛。四列目からが後衛である。
前衛の誰かが倒れた時には、四番手のノエルが穴を埋める。
僧侶は戦士についで
逆に
最後列のミーナがそのヴァルレハの背中を守ると同時に、盗賊の鋭敏な聴力で後方からの奇襲を警戒する。
朋輩 “フレンドシップ7” のフェリリルと同じ役目というわけだ。
やがて彼女たちは、件の “消灯の罠” が仕掛けられている
手筈どおりノエルが “永光” の加護を願い、六人の女探索者たちの周囲を柔らかな魔法光が照らす。
ここからが、この
今日の探索の目的は、昨日模写した地図を確認することにある。
ここは足を踏み入れた者を、常に惑わし続ける地下迷宮なのだ。
出発前の計画では、エバ・ライスライトが『複数の蛇が群れ集まって大蛇となった』と評した玄室群をすべて踏破して四層に昇り、第一層の小島へ下りる
そのために必要な “
四層から
「――スカーレット」
先頭を行く緋色の髪のリーダーに、すぐ後ろに続く褐色の肌の女戦士が声を掛けた。
左右の頬に刻まれた三本の白い傷跡から “ゼブラ” と呼ばれ畏怖されている、南方出身の手練れの
「わかってる。騒々しい奴らだ。まるでボッシュの
扉を隔てた前方から、複数の足音が近づいてきている。
人数にして、ざっと二〇人以上はいるだろう。
“
そんなところだろう。
「――やっかいなのは聖職者の “
「了解」
前後を仲間に守られたもっとも安全なポジションにいるヴァルレハが、落ち着いた声で答える。
他に同様の呪文を封じた “滅消の指輪” も所持している。
早々呪文切れは起さない。
むしろ
出立前に持たされた “
スカーレット、ゼブラ、そして三番手のエレンが、それぞれ得物を抜いた。
いずれも “
“フレンドシップ7” の戦士レットやカドモフが、
武器の軽さは攻撃回数の増加につながり、切れ味の良さは一撃の威力を増す。
攻撃呪文の使用回数と合せて、総合的に “緋色の矢” の殲滅力は “フレンドシップ7” を頭ふたつは上回っている。
足音がさらに近づき、無造作に扉が開かれた。
先頭の “修道士” がギョッとした表情を浮べるよりも速く、玄室の空気を揺るがす衝撃音と共に血塗れの肉塊と成り果てる。
すぐにその後ろのふたりも、同様の運命を辿った。
ノエルは、残った “修道士” と “魔女” に向かって “静寂” の加護を施すかを、冷静に見極めていた。
答えは否。その必要はなし。
すぐ背中で紡がれるヴァルレハの瑠璃細工のように澄んだ詠唱が、目の前の “修道士”や “魔女” の詠唱よりも速く完成することを直感した。
このパーティで回復を行えるのは自分だけだ。
加護の無駄打ちを避けるのは、生還への一里塚である。
次の瞬間、ノエルの判断が正しかったことが証明された。
ヴァルレハの “滅消” が完成し、パーティの三倍以上いた敵は一瞬ですべて塵になり、それで戦闘は終わった。
前衛の三人がそれぞれ自分の剣に血振りをくれ、床に散らばっていた装備の中に目ぼしい物がないかを確認すると、何事もなかったように歩き出す。
“紫衣の魔女の迷宮” 最強のパーティは、この “龍の文鎮” でも充分に通用する実力者たちなのだ。
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