決死の閉塞★
「慈母なる女神 “ニルダニス” の熱情もちて――」
クワッ!
「――
目を見開き最後の祝詞を唱え上げた直後、開閉された城門に向かって群がり寄る海賊たちの足元から、真っ赤な火柱が噴き上がりました。
要塞の天井までも達する、灼熱の立柱。
聖職者系第五位階に属する、加護では珍しい
あの人が好んで嘆願する加護を、わたしもようやく授かることが出来たのです。
八人の褐色の肌をした大柄な海賊たちが通路高く噴き上げられ、断末魔の悲鳴が劫火の中から響きました。
加護の効果が切れると、白煙を上げる炭化した死体がドサドサと降ってきました。
ふたりほど生き残って力なく宙に腕を伸ばしていますが、もう戦闘力はないでしょう。
「今のが最後の “焔柱” です!」
わたしは閉塞の指揮を執る、レットさんに伝えます。
そして、この要塞城門で二度の “焔柱”
都合、六回。
第五位階のすべての加護を使い切ってしまったのです。
「――フェルは!?」
「わたしは、あと二回!」
戦棍と盾を構えたフェルさんが、即答します。
聖職者の第五位階の加護には、わたしとフェルさんが嘆願できる最大の癒やしの加護 “
パーシャの気転で海賊たちの包囲を突破したわたしたちは、次々に立ち塞がる新手を蹴散らし蹴散らし、どうにか要塞の城門まで辿り着くことができました。
ですが見つかってしまった以上、城門の近くに隠れ潜んで、アッシュロードさんとカドモフさんが戻ってくるのを待つことは出来ません。
ふたりが戻ってくるまで、ここで海賊たちを抑え続けるしかないのです。
「パーシャは!?」
「“
“
“
前方をジグさんとレットさんとわたしに、後方をフェルさんに守られたパーシャが、疲労に滲む声で答えました。
ここに到達するまでの間、そしてここで踏ん張る間に、彼女もかなりの呪文を消費してしまっているのです。
「よし……最後の “滅消” はギリギリまで温存だ」
疲労したパーシャを労るような柔らかな声が、レットさんから漏れました。
その気持ちが通じたのか、ホビットの女の子の顔に本来の可愛らしい笑みが浮かびます。
“滅消”は “
例え何十人の海賊が一度に押し寄せてこようと、効果範囲内に引きつければ、この呪文で一網打尽に出来ます。
城門に辿り着くまでに、パーシャはこの呪文を二回使ってしまいました。
この呪文は威力もさることながら、威嚇力・抑止力が凄まじいのです。
目の前で大勢の仲間が一瞬で塵になるところを見れば、どんな人間だって怯みます。
せめてここでもう一度使えれば、時間を稼げるのですが……。
「――痛いっ!」
その時、パーシャが悲鳴を上げて小さな両手で額を押さえました。
指の隙間から零れる鮮血。
「“
「あ、あたいはいいから、先に “
さらに前方から飛来する、複数の火矢!
ジグさんやレットさんが盾をかざして、決して外れることのないその魔法の火矢から身を守ります!
「フェルさんは
「了解!」
戦闘要員である “
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669607562899
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https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669591452177
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212988755486
特に、聖職者はやっかいです。
そもそもわたしたちが今の窮地にあるのは、あの時先んじて魔法を封じられてしまったからなのですから。
「慈母なる女神 “ニルダニス” よ――」
“静寂” の加護を嘆願するわたしの耳に、海賊の聖職者が唱える同様の祝詞が届きました。
どちらが先に相手側の魔法を封じるか、命懸けの競争です。
冷静に――慌てず、急いで、正確に。
「―― “静寂”!」
半瞬の差で、今度はわたしが差し切りました。
女神の御力が海賊たちが信仰する “海洋神” よりも先に、彼らの聖職者を包み込みます。
空気の振動が抑えられ、発声を必要とする祝詞の詠唱が封じ込まれました。
ほぼ同時に、フェルさんが魔術師の呪文を封じました。
「あったまきた! あたいの血は高くつくんだから! 目にも見よ、ホビット怒りの詠唱、いま唱えん! ―― “焔爆”」
火の玉パーシャに火が着いて、本物の火の玉が飛びます。
最前列の海賊たちのど真ん中で炸裂した火球は、周囲に炎を伴う衝撃波をまき散らして、半裸の大男たちをなぎ倒しました。
「――見たか!」
顔面を真っ赤に染めたまま吠えるパーシャ。
しかし要塞の奥からは次から次に、新手の海賊が現われます。
すぐに次の呪文を唱えられないパーシャの隙を突いて、掠奪要員が三人、奇声を上げて斬り掛かってきました。
レットさんがふたり、ジグさんがひとりを迎え撃ち、頭を叩き割り、胸を刺し貫き、瞬く間に撃退します。
「――レット!」
「ああ、わかってる!」
ジグさんとレットさんが、いい加減乱れた息で、短く意思の疎通を図ります。
このままではジリ貧。いずれ押し切られる――ジグさんは、そう言ったのです。
一方、肩で息をするわたしたちを見て、海賊たちもここが勝負の
二〇人近い海賊が、最後列で手下を指揮する複数の
「パーシャ!」
「わかってる! 今使わないでいつ使うってのよ!」
レットさんに怒鳴り返し、津波のように押し寄せる海賊たちに向かって、最後まで温存したかった切り札を唱えます!
「――
神鬼籠もる速度で長大複雑な詠唱を諳じると、最後に三つの
広範囲に発生した有毒な微粒子を吸い込んだ瞬間、吶喊してきた海賊たちがピタリと動きを止め、次の瞬間にはドシャッ! と大量の砂をぶちまけたような音を立てて崩れ去りました。
生物が……生きた人間が一瞬で滅し消されてしまう光景は、何度も見ても戦慄を覚えます。
相手の命か、それとも自分たちか……ギリギリの状況でなければ、誰よりもパーシャ自身が割り切れないでしょう……。
「――えっ、なんで!?」
わたしが二〇人以上の海賊を一瞬で滅し去った友だちの心情を慮ったとき、当の本人が驚きの声をあげました。
慌てて彼女の視線の先を追うと、そこには確かに呪文の効果範囲内にいたはずの四人の船長たちの姿がありました。
「
「……ネームドはネームドだが、海賊じゃないみたいだぜ」
驚くレットさんに、ジグさんが嫌悪感も露わに答えました。
四人の
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