トライアングラー 使命と任務と契約と
「「絶対に嘘ッ!!」」
「本当ですよ~♪」
ふたりから視線を逸らして、口笛ピ~プ~♪ 吹いている~♪
「「だいたいなんであなたが、こんな時間に、こんな場所にいるの!」」
「それはこちらのセリフです。どうしてハンナさんやフェルさんが、こんな時間に、こんな場所にいるのですか?」
「「それはあなたの様子が、昼間からずっと変だったからよ!」」
むむっ、鋭い。
さすが女同士。こういうことには鼻が利きます。
仕方ありません。
ここはこちらから、カードを切りましょう。
「仕方ありませんね。発表は朝食のときにしようと思っていたのですが――わたしくしことエバ・ライスライトは、本日よりグレイ・アッシュロード様の債権奴隷(通称:借金奴隷)になりました。今後はご主人様共々どうぞよろしくお願いいたします」
「「――な、なんだってーーーーっ!!!」」
((そ、そうだった! この娘にはそういう事情があったんだ! これが “隠し球” かーーーーっ!))
「はい。そういうわけですので、わたしはこれからご主人様が快適にお休みになれるように、お身体をケアしなければなりません。ですので今夜のところはこれでお引き取りください。あしからず」
にこやかに、そして有無を言わさず、おふたりに退散を求めます。
ああ、これが大義名分が得るということなのですね。
実に素晴らしいです。
フェルさんの “使命”
ハンナさんの “任務”
わたしはずっと羨ましかったのです。
堂々とアッシュロードさんに関われる “名分” があるおふたりが。
でも、これからは違います。
わたしにも “契約” という立派な名分ができました。
これで、ふたりとも互角に渡り合えます。
今こそ、三国鼎立は成りました。
これぞライスライト流 “天下三分の計” です。
「グレイを三人でシェアする気!?」「閣下を三人でシェアする気!?」
「いえいえ、それはありません。人間は三等分にはできませんから。ですから正統なる権利を以て、グレイ・アッシュロード様のお世話は今後わたしが独占的に行わせていただきます」
「「正統なる権利ですって!?!?」」
「はい」
「「それって、いったいどんな権利よっ!?!?」」
「それは」
「それは!?」
「それは」
「それは!!??」
「それはご主人様が、わたしのご主人様だからです」
((か、覚醒しやがった、こいつ))
「故に、他の
断々々固、ありません。はい。
「「そ、それはあなたが所有されてるんじゃなくて、あなたが所有してるんでしょう! あべこべよ!」」
「主人と奴隷は一心同体です。病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、雨が降ろうが槍が降ろうが、勇者が来ようが魔王が立ち塞がろうが、騙されようが追放されようが、蹴散らしザマァし、進むのみ! ――です」
「「それ、なんの “なろう系”!」」
最近は “カクヨム系” でも多いんですよ。
「そういうわけですから、わたしにはご主人様の疲労を回復させ、安らかな眠りを守る義務があります。ささ、どうぞ今夜のところはお引き取りくださいませませ」
「そっちが “義務” なら、わたしは “任務” です! 帝国軍式のストレッチで、わたしが閣下の身体をほぐしてさしあげます! ええ、それはもうぐにゃぐにゃなるぐらいまで!」
「それならわたしは “使命” よ! 奴隷ですって? 部下ですって? そんな人間に身体をほぐさせるなんて、ふしだら千万だわ! わたしが女神ニルダニスの御名において、エルフ式のマッサージでグレイの身体を蕩けさせます!」
――バチバチバチッ!!!
とぶつかり合う、三人の視線と正義!
そうです!
戦争とは互いの正義がぶつかり合うときに起きるのです!
「どうやら、決着をつけるときが来たようですね」←ハンナさん
「勝負は正々堂々。誰かが勝っても泣き言はなしよ」←フェルさん
「本望です。負けた人は勝った人を “メンデルスゾーン” の合唱で送り出しましょう」←ライスライト(わたし)
「「「でも、勝つのはわたしです!」」」
カァァァンッ!
そして高らかに(脳内で)鳴り響く、ゴング!
そして高らかに(脳内で)鳴り響く、スタン・ハンセンのテーマ(ただし一五秒から)!
愛ある限り戦いましょう! 命、燃え尽きて灰になるまで!!
もはや、先手必勝! 受けてみなさい!
「――慈母なる女神 “ニルダニス”。厳父たる男神 “カドルトス”。その他、天に御座す諸神に代わりて、我、神々の代弁者にしてその意思の執行者たる、エバ・ライスライトの名の下に、悔い改めぬ不敬なる者たちに神罰を与えん! 畏れよ、神の怒りを―― “
「「――ちょっ!!??」」
「……ねぇ。あんたってば、たかだか痴話喧嘩程度で宿屋に “
いつの間にか客室の入口に立っていた小柄な人影が、心底呆れた口調で言いました。
「あら、パーシャ。あなたも “女の戦い” に参加希望ですか? それならば、あなたでも容赦はしませんよ」
「誰が!」
心底嫌そうな口調で、パーシャが怒鳴り返します。
「それよりも――賞品がないのに、まだその “女の戦い” とやらを続ける気なの?」
「賞品?」
パーシャの言葉に部屋の中を見渡すと、ご主人様の姿がありません。
「あら?」
「おっちゃんならさっき階段ですれ違ったわよ。枕を小脇に抱えてコソコソ下りてった」
(((……セコい……セコすぎる……なんたる小者臭……)))
「まったく仕方のない人ですね――でも、そういうことでしたら今夜のところは矛を収めましょう。このままお開きにするのもなんですから、お茶を淹れますね。わたし、昨日市場でよい香りのお茶を買ってきたのです。今お湯を沸かしますね。~♪」
((……て、敵にまわしたら絶対ヤバいタイプだわ、この娘))
◆◇◆
その少し前、件のご主人様はホビットの少女の言うとおり、小脇に愛用の枕を抱えてトボトボと階段を下りていた。
アッシュロードは淡泊で自虐的だが、自己憐憫に浸るタイプではない。乾いた根暗だ。
それでもこの時は、
(……俺って可哀想)
と心の底から思った。
そして以前にもまったく同じ気分になったような、
なにはともあれ今夜の寝床を確保しなければならないのだが、三階以上の個室はすべて鍵が掛かっていて、一階の酒場で宿屋の主に鍵をもらわないとならない。
(……この時間だとオヤジも寝ちまってるだろうしな)
簡易寝台か、あるいは最悪馬小屋か……。
取りあえず、アッシュロードは二階の
入口から中を覗き込むと、まだ眠らずに談笑をしていたレットたち “友情の七人” の男たちと目が合った。
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迷宮保険、初のスピンオフ
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信~』
連載開始
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本編への導線確保のため、なにとぞこちらも応援お願いします m(__)m
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迷宮無頼漢たちの生命保険
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