第9話 昔話とおとぎ話
この国では一通りの読み書きなど、一般教養を六才から十五才までに施す中等学院と、更に十六才から二十歳までの高等教育を受けることが出来る
「妹が司書になった」
そんないつもの大学図書室。昼下がりも通りすぎ、西陽もそろそろ赤く燃え尽きる頃。
ぽつりと言葉をこぼしたのは、輝くような金髪と澄んだ蒼い眼の十七才くらいの少年。
いつもなら育ちの良さと賢さが漂い実年齢よりも大人びて見える彼はしかし、今日に限って言うなら年相応の子供らしさが見え隠れしていた。
図書室の奥まった場所にある大きな閲覧机のいつもの席で、いつの間にかいつも一緒に本を読むようになった、斜め向かいの席に座る名も知らぬ友人は、少々不貞腐れているようだ。
「気に入らないの?」
「……わからない」
自分の気持ちなのに?
そう言ってしまいそうな唇を噛み締める。多分、苦笑になっただろう。
それは友人にも伝わったらしい。ぷくっと頬を膨らませ、拗ねるように机に突っ伏す。
「
「……?」
もぞもぞと突っ伏したまま腕に顔を埋めて、友人は言う。
「兄なのに、僕は何一つ敵わない」
そうなんだ? とは言えない。こういう時は黙るに限る。
「司書は司書でも、特別なんだ。『だから今年の
「特別?」
特別な司書とは何だろうか?
自分の中で、好奇心が蛇のように鎌首をもたげるのを感じた。
友人は顔を上げると、周囲に自分達以外がいない事を確かめ、口許に手を添え身を乗り出す。
「知りたい?」
「うん」
友人も誰かに話したかったのだろう。
にんまりと笑って、声をひそめつつも話始める。
「図書館の地下に、迷宮があるんだって」
「迷宮……?」
「そう。特別な司書は、そこに入る事が出来るらしいよ」
何とも子供の冒険心をくすぐる話だ。
「わくわくするね」
「でしょ?」
クスクスと笑い、少し気を取り直したのか、友人は身を乗り出すのを止めて席につく。
こちらの視線も、ようやく本来の目的である手元の本に戻る。
「あ、でも本当に
月祭は親しい相手に、相手の瞳や髪と同じ色の装飾品を贈って、収穫と感謝を捧げる秋の風物詩的な大祭だ。
全国各地の街で行われるが、国の首都であるこの街ではその規模も段違い。
煌々と光り揺れるランプが街を彩り、装飾品の露店が通りを埋め尽くす。好機と集まる商人と、その品々を求める人で街はうるさいくらい活気づく。
当然、楽しいお祭りは親しい相手と出掛けるに決まってる。
常に独りでいる自分には縁の無いものだ。当日は大人しくここで引きこもろう。
「……あのさ、一緒に祭り、いかない?」
思わず本を捲る手を止めた。
「誰と?」
「……ごめん。嫌なら」
「あ、違う。違うんだけど……君と、ボクが?」
自慢じゃないけど取ってる講義のどれにも友人のいない自分と、何回か他の友人らしき人物がここに探しに来た彼が一緒に祭とか。
明日は槍が降るのかも知れない。
「逆にそれ以外ある?」
キョトンとしたその顔に思った。
凄い物好き。
「ちなみに、どうしてボク?」
「ここ以外で遊びに行った事ないし。それに、いつも妹と一緒に行ってたから回避出来てたけど……下手に独りでいると親が将来の嫁候補宛がおうとする」
なるほど。つまり、虫除けか。
「他の人でも良さそうだね」
「違うって! 本当に一緒に遊びに行きたいんだよ」
「……いや、意味わからないよ。他にも友人くらい君はいるでしょ」
「同じ友人でも、ただでさえ疲れるから気の合うやつの方が良いと思わない?」
「気の合う……」
「借りる本も読書の場所の趣味も、ここまで合う相手、いないと思うんだけど」
そう言えば、きっかけは彼が読みたかった本をことごとく根こそぎ本棚から引き抜いて、ここで読み耽っていた事だった。
初めて顔を合わせた時の第一声が「何の嫌がらせ」って言われたから覚えてる。
「お願い。助けると思って」
両手を合わせて拝まれると、流石に断れない気がした。
「うん。……いいよ。ボクで良ければ」
明日は槍が降るのかもと思うくらい、嬉しかったんだ。
けど……。
(結局、月祭……一緒に行けなかったんだよね)
祭当日。妹と喧嘩した彼は……。
「
メーラの言葉に、意識が現実へと引き戻される。
「あ。……寝ちゃってた。起こしてくれてありがと。メーラ」
軽く口許に触れてみる。どうやらヨダレ垂らして爆睡ではなかったようだ。一安心。
「主人、大丈夫?」
「平気平気。所で時間……」
カウンターの上にある置き時計は、午後三時を指していた。
「ウェルと訓練の時間だね」
時計から目を移す時に、木製カレンダーが視界に入る。
年月日と曜日のわかるもので、数字と曜日のマークが描かれた木のチップを組み合わせて使うものだ。
「これのせいかな」
「なぁに? 主人」
「ん。もうすぐ月祭だなって」
苦い苦い
「月祭ってなぁに? 主人」
メーラが不思議そうに小首を傾げる。
そうか。今度曜日とかも含めて教えよう。忘れそうになるけど、メーラ達はまだ知らない事も多い。
例えばこういう行事とか。
一年は十二ヶ月でそれぞれ名前がついてる事とか、一週間は
「えーと、仲の良い人とかに感謝して、髪とか目の色と同じ装飾品とかを贈り合う行事かな。首都ほどじゃなくても、各地で盛大に行われるよ。毎年、
そこまで口にして、ヤバい、と。
「あ、あぁぁ!」
「どうしたの主人!」
「メーラ達の装飾品用意できてない……ごめん」
繰り返す。盛大な祭である。
こぞって皆様、装飾品を買い求めるわけだ。
当然、この時期にはどこを歩いても露店が絶えることはないので、品物自体が無くなることはあり得ない。
どこが問題かと言えば、主に色と値段と質で。
色について言うなら、この国で一般的な髪や目の色は髪なら金や銀、茶。目は青、緑、明るい茶。この辺りはそもそも大量に作られるから色切れの心配はない。少なくとも、首都じゃないなら。
(でも、メーラ達とウェル……)
おのれ、揃いも揃って綺麗で珍しい色しやがって、と思わずにいられない。
珍しい色は売り切れたら基本的に追加されない、追加して余ると売れ残るリスクが高い。一般的な色もこの時期だとあと少しなので追加で作成されない。この時期は全ての色共通で、もう売れたら次入荷は無いと思え、だ。
値上がりというのは滅多に無いが、後に残るのは品質良くても値段も高いか、値段と品質が見合ってないぼったくり品が多い。
(まあ、髪なら……)
葡萄酒色、金髪、蒼銀髪、銀髪。
(……)
厳密に同じ色である必要もないのだが、しかし。
「主人、別に俺達は平気だよ? 主人と一緒なら何もいらないし」
「…………る」
「え?」
「絶対、ほんとおんなじ色の最高の物贈る」
何かもう、ここまで来たら意地だ。
大丈夫。幸い明日は第一の
「ふ、ふふ。うふふ」
「主人……?」
おや、何でメーラがちょっと怯えてるんだろう?
「そうだよ。まだ時間はある。明日と、それで見つからなきゃ祭まで平日の業務後に片っ端から店巡れば……」
「あう、あ……わ、ワンコー!」
理由はわからないが、メーラの怯えたような叫び声に、呼ばれたウェル以外の面子もバタバタと書架の奥から駆け付けてくる。
そして、やる気に満ち溢れていた私は師匠から冷静になるための愛の
「メリー」
「メル!」
金色に染まった森を抜け、月祭に向けてきらびやかになる街の中心へ向かう帰路の途中、薬局の前でメルシーに声を掛けられ、足を止める。
ふわふわの金髪と嬉しそうに輝く空色の瞳。飾り気のないシンプルな小花柄ワンピースと飴色の
今日もマジ天使。ぐふふ。
「おい。汚れた目で妹を見んじゃねえよ。メリーベル」
「大将お疲れー」
呆れと疲れの滲む顔で、無駄とは思いつつそれでも釘を指さずにはいられないのが兄なのかも知れない。
熊もとい溜め息をつきながら大将は、今日も今日とて送ってくれているウェルに目を向けた。
「無理だとは思うが、なるべく手綱握っといてくれ」
「……」
何かなウェル? その「そんなの出来るならやってるしむしろ方法が知りたい」みたいな顔は。
しかも大将とウェルは何か無言で通じ合っているらしい。二人して互いを労るように頷いている。
「ねぇ、メリー。今年の月祭だけど、お仕事はいつも通りお休み?」
「うん。ただ、一日一度は顔出したいし、やる事もあるから当日の参加は午後からかな」
メーラ達の本を読んで、掃除して、指示だしの訓練して。
それから、あんま無いけど迷宮に関する資料片っ端から漁るのと。まあ、これはお祭りから帰って来てからも出来るし。
「そう。わかったわ」
一日フルに使えないのは残念だけど楽しみね。そう言ってメルシーは手を叩く。
「あ。今年はウェルも一緒で」
こちらの一言に、メルシーの表情が一転。
「……あら。居るの?」
「急に心底邪魔って顔するな」
鼻筋にシワを寄せたウェルの言葉にメルシーが片手を頬に当て、困ったように首をかしげる。
「どうして私とメリーの時間に、
「おい」
意外と仲の良いやり取りに微笑ましくなるのだが、きっと二人に言ったら否定が返ってくる。素直じゃないよね。
「お前も、今なんかおかしいこと考えただろ」
じとっとした視線がウェルから向けられる。
「あっは。ヤダなぁ、ウェル。うふふ」
そろそろウェルも魔物じみてきたよね! 東の方には、サトリって名前の魔物がいるらしい。考えてる事が全部わかるってところがウェルや師匠ぽい。
「そだ。メル、今年はユート兄さんも当日休み取ったって」
「まあ! 本当?」
メルシーの雰囲気が一気に華やぐ。頬は上気して淡く染まっているし、手は祈るようにしっかり胸元で組み合わせられている。
「うん。一緒に回ろ」
美少女の歓喜の笑顔とか私得な感じだよね。うふふ。
「メリー、ありがとう!」
「ぐふふ。合法おさわり」
「妹から離れろ!」
べりっと
ふ。短い楽園だった。
「おい、これ持って早く行ってくれ」
「ちょっとー、大将。人を猫みたいにぶら下げないでくれるかな?
「誰が淑女だ。誰が!」
「すみません。引き取ります」
ウェルが疲れたような顔で大将から私を引き取る。
「行くぞ」
「ちょっ、ウェルまで首根っこ掴むの止めてくれるかな!」
「お・と・な・し・くしてろ」
何か目がウェルの据わってたので一旦は口をつぐんで、薬局から離れたところで、年頃の女の子に対してこの仕打ち! と尚も抗議する。
抗議のウェルは口を開きかけ、何故か少し考えた。
ぶっちゃけ、この時点で何となくイヤな予感。
「……ウェル?」
なんか真っ正面から受け止めた感が。
「ひぎゃっ」
上げた声に、ウェルが物凄く微妙な顔をしたけどそんな事はどうでも良くて。
「ウェル、これは無い。つか、下ろして。はずい」
ひょいっと猫持ちから変えられた持ち方……抱え方が、両膝の裏と背中に腕を回して抱き上げる、いわゆる世間一般で言うところの『お姫様抱っこ』だった。
「ほらほら、他の人とか何だあれって目で見てるし、つかコレは私に似合わないと思うんだよね!」
似合わないお姫様抱っことか、公害レベルじゃないかな!
そんな思いを込めてそう訴えてみると、ウェルが物凄く苦い顔をした。
「お前……」
「見つけたぞ! ウェル!」
え? そんな表情をウェルと一緒に浮かべた直後。激震が走った。
「痛っ!」
つか、ウェルに放り投げられた!
受け身にしても無様にゴロゴロと道上で転がり、どうにか身体を起こしてウェルの方を見る。
「ウェル!」
何か黒いのに突撃されたらしいウェルが、そのまま顔面スライディングしたんじゃね? って感じで倒れていた。
石畳に広がる赤いものまで幻視できそう。
ピクッとウェルの指が動いたところを見ると、まだ生きてるようだ。
打ち付けた腕や脚の痛みをどうにか無視して、ウェルの所へ行こうとするのだが、なにせか弱い乙女なもので、中々上手くいかない。
その間にも、ウェルに突撃して私が放り投げられる原因となった黒いものは、ぐりぐりとウェルの背中に多分頭と思われるものを押し付けていた。
「全然帰って来ねーと思ったら、何だってこんなとこまで来てんだよー! 心配したんだぞ!」
「リュー……」
どうやら、顔見知り……というか話からすると……。
「ウェルの嫁? なるほどそっちの趣味が」
「違うっっっ!」
よほど冗談で聞き流せなかったのか、ウェルが絶叫と共に身体を起こす。
背中から転がり落ちた黒の尻尾髪が跳ねた。
良く見れば顔立ちはウェルよりも綺麗系だが、年はあまり変わらない少年のようだ。
背中くらいまでの黒髪を一つに括った尻尾髪に、金色のスッとした瞳、引き締まった体躯は黒いタートルネックと紺のジーンズパンツ、そして濃い茶の革サンダルに包まれている。
「成人の儀で出てったきり帰って来ないと思ったら! 何でこんなとこまで!」
「事情があるんだ! 事情が!」
「事情って何だよ! 事情って!」
うん。立派な痴話喧嘩だと思う。
「次期村長が泣くな!」
「うわあぁん! オレの補佐してくれるって言ったのにウェルのバカー!」
「村には他にもいるだろ!」
「ヤダヤダ! ウェルがいいー!」
すがられるウェルと、すがる尻尾髪少年。ウェルがどうにか引き剥がそうと足掻いている。
え。否定してたけどマジだった?
「メリーベル! 違うからな!」
「ウェル……そろそろサトリの化け物ぽいところをツッコむか、否定してたけど熱烈求愛されてるところをツッコミするか、迷うんだけど」
そこでようやく、黒い尻尾髪の少年はこちらを向いた。その顔に、今やっと存在に気付いたオマエダレ? 感が漂っている。
「えーと、初めまして。ウェル借りてます」
言った瞬間、何か尻尾髪少年の目が三角になった。
あ、これ
「ウェルが帰ってこられないのはお前のせいか? お前、何なんだよ。どうしてウェルがお前みたいなちんちくりんと一緒にいるんだよ!」
ですよねー。そのウェル大好きぶりだとそんな反応予想してました。
「リューエスト」
唯一予想出来なかったのは、ウェルの底冷えするような声音だけ。
つか、どうしたウェル。怖い。
思わず「ひっ」とか声を上げた尻尾髪少年(リューエストって名前っぽい)と両手を取り合ってぷるぷるしたくなるも、残念互いに親密度が足りなかった。
……冗談めかしてみても、やっぱり怖い。ウェル眼光鋭い。
「な、なに」
「謝れ」
「へ?」
「メリーベルに、謝れ」
「は? あ、あ」
思わずこっちも尻尾髪少年と顔を見合わせたんだけど、何、この怖い事態そこなのっ? それがウェルの逆鱗に触れたの? 何で。
「……」
じっ……と。ウェルは尻尾髪少年から眼を逸らさず見つめている。物凄く冷たい眼で。
「メリーベルは、俺の恩人だ。謝れ」
いや、むしろ宿直とかお世話になってるのこっち。
などと言い出せる雰囲気じゃないっぽい。
尻尾髪少年の喉がゴクリと鳴って、恐る恐るこちらを見る。
わかる。めっちゃ怖いよね。わかる。
尻尾髪少年が今にも泣きそうな顔でぷるぷるしつつ、声を絞り出す。
「ご、ごめん」
「……」
「ひっ……ごめんなさい!」
ウェル、厳しすぎ。
マジで涙目になった尻尾髪少年が叫ぶ勢いでそう言って頭を下げると、ようやく溜め息をついて、いつものウェルに戻る。
「あー。別に良いよ。最初から気にしてないし。それよりウェル……」
「?」
「とりあえずここ離れない? めっちゃ周囲の視線痛い」
大通りじゃないとは言え、往来の真ん中でそんな事を繰り広げた私達は、当たり前だけど凄く目立っていた。逃げよう。可及的速やかに。
ウェルも状況を把握したらしく、みるみるうちに顔が赤くなる。
そして私達は一目散にそこから逃げ出した。
「で。……何でまた増えてる」
既に師匠の氷蒼の瞳は諦めに染まっている。それでも問わずにはいられないらしい。
「いや、ウェルと一緒じゃないと帰らないって言ってるので」
「すみません……リヒターさん」
あはー、と笑っても師匠の眉間のシワが取れない。ウェルも心底申し訳なさそうに師匠に頭を下げた。
「……確かに、今ウェル君に抜けられるのは色々と困るな。わかった」
良し。話は終わり!
「が。お前はまだだ」
「痛い痛い痛い! 師匠ー! 指! 指が頭に食い込んでますっ!」
師匠のアイアンクローが頭を鷲掴みにしてくる。
「昨日の帰りだと言ってたな。何故その日の内に連絡して来ない?」
「すみませんすみません!」
グググッと掴んでいた手を離し、師匠は腕を組んだ。
「うう……」
「次は連絡しろ」
「はひ……」
「まあ、今回は帰り道の事で、翌朝報告でも早い方だから良いのだが」
「え。それ、今アイアンクローした後で言います?」
こちらの抗議など聴こえないようで、師匠はウェルにリューエスト用の日用品を整える資金を渡している。
「おい」
「ん? 何」
そして噂をすれば
くいくいと袖を引っ張られて振り向くと、リューエストが白いシャツと黒いズボンに紺色のエプロン姿でそこに居た。
「いつウェルはオレと帰れるんだ?」
「あー。ごめん。当分先」
「…………」
じっとり睨まれても人手不足何だから仕方無い。
ふと、師匠と話終わったウェルが此方を見て、頭が痛そうに溜め息をついて額に手を当てた。
「リュー」
名前を呼ばれたリューエストはパッと顔を輝かせた。が。
「仕事しろ。掃除!」
うっわ可哀想と思わず思うくらい、眼に見えてリューエストがしおれる。
「どんまい」
じろっと睨まれたけど、すごすご掃除用具入れに向かう姿には同情を禁じ得ない。
「てか、ウェル。リューエストに厳しくない?」
「良いんだ。働かざる者、食うべからず。それに、あいつは次期村長だ。甘やかすと為にならないだろ」
既に遅い気もするが。溜め息混じりにウェルはそう呟く。
「むしろ次期村長にその扱いで良いの?」
「良い。自分が迷惑掛けてるってわからないなら尚更だ」
「いや、宿直要員増えて助かってるけど」
「……あいつは必ず帰るし、欲しいのは長期的に継続して働ける奴だろ」
「んー。でも、交代出来るからウェル少し休めるでしょ」
そこが一番大事なんだけど。
「ん?」
何か視線が刺さると思ってそっちを見る。何故かリューエストがギリギリと歯ぎしりしそうな感じでこっち見てた。
「へちゃむくれのクセに……」
いや、何故。どうしてそんな、と。思った瞬間。
「リューエスト」
大魔王再びの気配にリューエストは蜘蛛の子を散らすように素早く逃げ出した。
「すまない」
「お? 良いよ。別に気にしてないし。それにしても、ウェル好かれてるね」
あれジェラシーとかそういうものだ。
「はぁ……。元々幼なじみで、小さい頃はあいつ一番チビだったんだ」
身体は弱いし泣き虫だしで、当然の如くいじめられていたらしい。
「次期村長になる
「金狼?」
「何世代かに一人の割合で生まれる、先祖の血が濃い奴。あいつの眼、金色だろ?」
「あー。確かに金色だったね」
「眼とは限らないけど、生まれつき金色の髪や眼で完全な狼姿になれる奴をそう呼ぶんだ。血が濃く出てるし、大体は群れを率いるのに相応しい器だからな」
「ウェル、遠い目になってるよ」
「俺も含めて、周りが甘やかし過ぎたんだな……」
現実に戻ってきたウェルの目が据わった。
「あんまり締め付け過ぎても可哀想だよ?」
「……ここに居る以上、リヒターさんとメリーベルが自分より上だって事だけは叩き込む必要があるだろ」
「いやいやいや、師匠に関しては今のところまともだし、私は気にしないから良いよ!」
叩き込むまでウェルに大魔王になられる方が怖いし。
「俺が良くない」
「んー。でも、それなら私がやる」
「は?」
「それってウェルが言っても変わらないと思うし」
むしろジェラシー煽るだけっていうか。
「その理屈なら、私が言わなきゃ駄目でしょ」
「それは……」
「一応、まだまだ新米で見習いレベルでも私がここの司書で館長なんだし」
「……できるのか? 手加減したら絶対舐められるぞ」
「あはは。まぁ、頑張る」
そう言った時はまさか夢にも思わなかった。
月祭の当日、その時が来ようとは。
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