第20話 マニュアル人間になれ!
「まあ、必要ないわね」
マリアがゴミ箱に冊子をほうりこんだ。
「何を捨てたの?」
メシヤがくちばしを挟んだ。
「さっきエディオンに行ったんだけど、なんでもかんでもマニュアルが付いててじゃまっけだったのよね」
エディオンは中日ドラゴンズのオフィシャルパートナーである。
「え、なんてことを!」
信じられないといった表情のメシヤ。
「いいじゃない。どうせいまはネットでもマニュアル見られるんだし」
マリアのいうことも一理あるのだが。
「マニュアルってモノによっては100ページ近くもあったりするんだよ? それをスクロールしてやり方を見つけるだなんて、まどろっこしいよ。もうマニュアル自体が存在しない商品も多いしさ」
破天荒な生き方に見えるメシヤも、先人の知恵に敬意を表している。
「それを言われると痛いけど、確かに使い方が分かんなくなってほったらかしになってるものもあるわね」
アップル製品のような、感覚で操作しなければいけない商品は、メシヤの好みでは無かった。
「はは。またやり合ってるな」
イエスが二人の掛け合いを目にして、寄って来た。
「イエスくん。こいつね、意外にもマニュアル人間なのよ」
本来の使い方と異なる。
「建設業界にもマニュアルは存在するが、釘も打ったことのない人間が書いていたりするんだ。そんなものは論外だが、マニュアルを無視して自分のやりたいように勝手に進めるのは、もっと極悪だ」
ピアノのレッスンや絵画教室においても、最初は基本ばかりで退屈かも知れない。ひとつ言えるのは、なにをするに付けても、過去に蓄積された技法や思考のエッセンスを、我々はほとんど知らないまま生きている、ということだ。それらをある程度吸収してから自分のスタイルを構築していったほうが、よりよい作品になるのは間違いない。
「マニュアル通りの対応って言うと、悪い意味で使われるけどさ。もうひとつの意味は“手動”だもんね」
時代の流れという言葉に、自動的に支配されるかのような気味悪さを、メシヤは感じていた。
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