第11話 金田ぁ!

「この広告? みたいなの、このところよく見掛けるわね」

 PCを操作しているマリア。目障りなので、トラッキングはさせないようにしている。


「ああ、これね」

【あなたは部下をさん付けで呼んでいますか?】というリンクだった。メシヤは違和感を覚えたようだ。


「敬称は日本独自のものと思われていますが、海外でも敬語表現はもちろんありますし、日本人相手だと「~san」を付ける場合もありますわ」

 レマがメシヤたちを「~さま」呼びするのは、礼儀正しいからではないのだが。


「なんかサ、堅っ苦しくないかナ?」

 エリは賛意を示さない。


「俺は会社で一番若造だから、跡取りだろうと呼び捨てにされてるな。もちろん先輩達にはさん付けだ」

 建設業は体育会系で、上辺だけの礼儀はすぐ見抜かれる。


「う~んとさ。この議題の是非はともかく、それよりも自分のとこのお客さんに対して、その相手方がいないところでどう呼んでいるかのほうが、重要なんじゃないかな」

 店の人間が、客の去ったあとにその客を笑いのネタにしていることほど、聞き苦しいものはない。


「たしかに、メシヤさまがお店に来てくださった方を、そのお人がいないところで呼び捨てにしたり、陰口を言っていたとしたら、わたしの気持ちも変わりそうです」

よっぽど非常識なことをされた場合は、当然除外する。


「取引先を社内で呼び捨てにする光景は、残念ながらありふれている。だがメシヤの言うことはもっともだ。そうした物言いが、ネガティブなイメージを生み出してしまうし、相手への敬意も無くなって、仕事への取り組みも投げやりになってしまう」

 いないところで何を言おうが相手に分かるわけが無い、ということでは、のちのち虎の尾を踏む結果になるだろう。


「そんなに器用に切り替えできないわよね。普段相手に対して思っていることが、どう取り繕っても、相手に伝わっちゃうのよ」

 マリアは考えていることが顔に出るので、特に気をつけている。


「このあいだのメシヤとマリアのやり取りハ、笑ったヨ!」

 メシヤが待ち合わせに来ないので、怒ってマリアが電話した時のことである。



《あんた、寝ながら喋ってるでしょ! 見えないと思ったら、大間違いよ!》

 姿勢は声にあらわれる。相手への態度は、想像以上に見透かされている。

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