第9話 油そそがれしモノ

「ガソリン代が上がりすぎよね!」

 この世界では、15歳で自動車免許を取得できる。マリアもバイトをしていてそれなりに自由にお金を使えるが、この事態は財布を直撃する。


「ホントホント。ガソリン代ってどういう風に決まるのか、ベールに包まれてるよね」

 地域や店によってもバラバラである。


「ねえ、メシヤ。あたしの乗ってる車なんだけど、なんか燃費が悪くなってる気がするのよね」

 マリアはメカドック・真倉で車をレンタルしているが、返すときは当然ガソリンを満タンにしないといけない。


「う~ん、なんだろう? 空気圧やエンジンオイルなんかは真倉さんがチェックしてくれてるから、整備不良が問題って訳じゃないんだろうけど」

 だとすると、急発進や急ブレーキ、エンジンのふかし過ぎや長時間のアイドリングなどが考えられる。


「まあいいわ。ちょっとついてきてよ」

 マリアはメシヤを乗せて、買い物に付き合わせようとした。


「ふう、寒いわね」

 マリアがエンジンを掛けると、室温ダイヤルを2℃高く合わせた。


「マリア、分かったよ」

 コンソールを見つめているメシヤ。


「え、温度を高くしたからってこと?」

「う~んとね、A/Cボタンってあるでしょ? これがONになってるからだよ」

 エアコンディショニングシステムのスイッチは、ガソリン車であるなら、冬場は押す必要が無い。


「え? これ押さないと暖房が効かないんじゃないの?」

 車のエアコンは、冷房と除湿のみに使われる。ガソリン車は運転しているだけで大量の熱を発生するが、温まった冷却液の熱を利用して、車内温度を高められるように設計されている。


「そんなわけで、A/CボタンはOFFで大丈夫だよ。これだけで燃費もだいぶ変わるよ」

 電気自動車では、こうはいかない。


「でもさ、そうするとガラスが曇るんじゃない?」

 マリアの言うように、曇りガラスでは風の街が見えなくなる。


「そうなると危険だから、窓を開けて換気するのが最善だね。でも雨とか寒すぎるときは、デフロスターとデフォッガーボタンを押すといいよ」


 扇形に三本の温泉マークのような矢印のあるものが、フロントの曇りを取るデフロスターボタン。長方形に三本線のものは、リアウインドウの曇りを取るデフォッガーボタンである。


「よく分かったわ。でも夏場は絶対必要よね、エアコン」

「それでも炎天下に車を置いてあった状態から、急にエアコンを付けるのは良くないね。窓を全開にして熱気を追い出してから、外気導入→内気循環にするといいと思うよ」


「臭いが入ってくるのが苦手だからずっと内気循環にしてたけど、たまには窓を開けるようにするわ」

 内気循環だけだと、外気導入の場合と比べて、CO2濃度が5.5倍ほど高くなる。同じく内気循環のみの場合は、酸素濃度が1%程度下がってしまう。


「うん。頭が痛くなったり眠気も感じやすくなったりするから、外気を適度に入れたほうが運転も快適になるんじゃないかな」

「居眠り運転は、天国行きになっちゃうわね!」


 あれもしたいこれもしたい女の子に見えたって、油断したら地獄行きである。

オドメーターは、25743kmを示していた。

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