第5話 測ったな、シャア!

「あのさ、あたしが設計したベルサイユ住宅があるじゃない? で、コーディネーターの人に協力して欲しいって言われたんだけど」

 第Ⅲ座から読み始めた方は御存じないと思うが、マリアがナゴブロックで作ったベルサイユ宮殿風の住宅が人気を呼び、北伊勢エリアで新築予定の施主達に、人気を博した経緯がある。


「マリアのおかげで、殺風景だった北伊勢市が華やかになったよ。で、コーディネーターさんに声を掛けてもらったんだったら、受けてみれば?」

 当然、バイト料は発生する。


「そんな本格的な仕事内容じゃないんだけど、どこに何を置くとか、色の組み合わせを決めたりとかそんな感じね」


「マリアが描いた基本図面をもとに、何十種類と派生したよね。注文だから一軒一軒違うけど、その個々のお施主さんの希望を聞いたり悩んでる箇所に対応してくってことなんだろうね」

 マリアの就職先が内定したようなものだが、そんな枠では納まらないだろう。


「正直いうとさ、他にも色んな家をデザインしたいのよね。世界を見渡せば、もっと魅力的で住みやすい家があるわけじゃない?」

 マリアのベルサイユは大したものだが、現代日本で新たに建つ家は、あまりにも一本調子なものが多い。


「マリアの気持ちは分かるなあ。あれも確かにスゴいんだけど、そればっかりになっちゃうとね」

「ま、ゆくゆくは、って話ね。とりあえず家具の配置決めね」


 新都となった北伊勢には、官公庁や財界人の住宅なども建ち始めている。それに加え、北伊勢の住人たちは建設・製造業の従事者が多く、好景気に沸いているため、建て替え需要もうなぎのぼりである。マリアの果たす役割は、思った以上に大きい。


「それじゃ、メジャーを携帯しないとね」

 どこに仕舞っていたのか、メシヤがメジャーをシャーッと取り出した。早口言葉に聞こえなくも無い。


「いつも持ち歩いてるわけ?」

 用意周到さに感心するマリア。メシヤの寸法通りである。


「よくあることだけど、家具屋さんとかで気に入ったからって即決して買ったものが、部屋に置いたらデカすぎたり意外と小さかったりして失敗することがあるんだよね。メジャーがあればそんな事態は避けられたんだけど」

 家具の寸法を測る前に、当然、部屋の空きスペースも測っておかなければならない。当たり前のことだが、この手間を省く人が多い。


「そうなのよね。服のサイズとかもさ、試着せずに買うと危険なのよ。ちょっと大きいとか、ちょっとキツいなとか。その違和感が着るたびに続くと、もったいないけどタンスに眠ったままになっちゃう」

 キッチン周りの小物や文房具、愛用の工具、そして本題の家具も、ずっと使っていくものだから、手間を惜しんではいけない。


「でもさ、どうしてもメジャーを忘れちゃうことがあるわよね?」

 少し考えたあと続けるマリア。


「大抵はお店にもメジャーがあるだろうけど、借りるのに気が引けるなら、百円ショップのを調達したほうがいいと思う」

 メシヤはそう言うが、彼のメジャーはキラキラと愛着があるように見えた。


「それと、カラダの各サイズを覚えておくと、なおいいね」

 メシヤは際どい発言をしたのではないことを記しておこう。


「ああ、一瞬びっくりしたけど、指の長さや腕を広げた長さを覚えておくと便利って話よね」

 正確な数字でなくても良い場合は、これが大いに役立つ。中指の先から肘まで、手のひら、親指から人差し指を広げた間の長さ、身長、靴のサイズなどなど。


 店舗で使用頻度の高い方法がある。巻いてあるものやカタログでしか寸法が表示されていないシチュエーションで、床タイル1枚の大まかなサイズを靴とのセンチ差からはじき出し、×枚数をする。たとえば1枚が約30センチだと分かったら、10枚で3メートルはこれくらいの長さだ、とやってみると、感覚が掴みやすい。

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