第3話 笑門来服

「東野さん、オシャレだなあ」

 松本信者のメシヤが、ワイドナショーをている。


「峰さんのジャケットスタイルみたいにして欲しいと、スタイリストに頼んでいるそうだな」

 東野氏は、スーツスタイルにどうもしっくりこなかったようだ。


「あれはテレビ衣装だけど、私服でジャケットスタイルってけっこう難しいのよね」

 上下の色が違うので、毎回考えることも増える。この色にはこのアイテムが合わないからと、用意しなければいけない服や小物がどんどん増えていく」


「でもサ、それが本当におしゃれを楽しむってことなんだろうネ」

 メシヤもエリも、モノトーンの服より原色系やパステル系が好みだ。


「有名どころの格安洋品店にわたしも行きましたが、どうも手が伸びませんでした」

 人と同じ格好が嫌いなレマなら、当然の結果だ。


「まだまだあたしたちの財力じゃ、高級デパートでブランドモノをって訳にもいかないわよね」

 マリアはオブライエンがエレガントなスタイルで決めて来るのを、羨ましく思った。


「なんでかは分からないんだけど、日本の昔からあるような馴染みのスーパーって、婦人向けの洋服がすごく充実してない?」

 スーパー二階に、チェーン店ではない衣料品店が設けられていることがある。


「あれね! 値段も手頃だし同じ服が無いのが魅力よね!」

 マリアが着るような世代の服では無いが、色合いや柄、細かい装飾のある衣類が、バラエティ豊かに陳列されている。それも、驚くような低価格で。


「確かに謎だ。手が掛かってるような気がするんだが、どういうバックグラウンドがあるんだろうな」

 メシヤたちの話を聞いて、裁紅谷姉妹も購買意欲が高まってきた。


「残念なんだけど、これの若者向けバージョンの店ってのが見当たらないんだ。あるのはレマが言ったような低価格だけど同じ服が何着も置いてあるような店か、デザインは良くても値段も跳ね上がるような店のどっちかだね」

 若者のファッションが似通ってくるのも、こうした事情のせいかも知れない。オシャレをしようとしても、デザイン性のあるものはとても手が出せない。


「なんだろうネ? その婦人服を作っているような洋裁師さんガ、若者向けの服を作ればいいだけだと思うけド」

 エリの言うことはもっともである。現代人は、思ったほどファッションを楽しめていない。


「そうした観点で言いますと、靴や帽子、キッチン用品にスポーツグッズ、果ては車・家に至るまで、デザインをするにあたって、わたしたちには見えないなにかしらの制約があるのではないかと、疑ってしまうほどですわ」


「食器とかもさ、どんなに綺麗なお皿でも、それとまったく同じ形のモノを何枚も並べられると、なんか言葉がでなくなっちゃうんだよね。それよりも不揃いでいびつな器に惹かれるって部分があるかな」

ものづくりの楽しさを、背理法のように言い表した。


「若者向けでそういう店があったら、絶対流行るわね」

 テレビの司会者は、マスクをしていなかった。今年も依然として、プロミネンスがはやっている。

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