ブラックユーモアを本気出して書いてみるチャレンジ
「税関」
「なんでだい? なんで僕じゃだめなんだい?」
男は女の顔をのぞき込んで叫んだ。
女は金髪を優雅に掻き上げると答えた。
「だって、あなた私のタイプじゃないんだもの」
「じゃあどんな男がタイプなんだい?」
「そうねえ。まず何より先に幽霊であること。私生身の男に興味ないの」
男は溜息をついて店から出ていった。
駅前の巨大ヴィジョンが夜のニュースを映している。
『……以上のことが、今日の国会で正式に決定し、明日には国民の承認を得て実施されるようです。現場の声を聞いてみましょう』
画面が切り替わり、橋の下で何人もの薄汚い男が恨めしそうにカメラを睨んでいる光景が現れる。
『そんなのねえぜ。こっちゃ好きで幽霊やってるんじゃないのに。ただでさえ苦しい生活費にさらに毎月の幽霊税、成仏しようにも俺達にはできない。神は何を考えて居るんだ』
『一方、そんなホームレス霊も多くいる中、最近ひときわ目立っているのが幽霊の人間界への進出。今若手ナンバーワンとも言えるコメディアン、ゴースト・キューブさんはこう語っています』
『僕たち幽霊にだって自由はある。ちゃんと働いて、人々と接し、生活していく権利がある。幽霊税さえきちんと払っていけば、人間とほとんど変わらない生活が送れるんだ』
『また、最近では人間を装った不法現世滞在の幽霊達による犯罪事件が急増、警察では先月設置された霊犯罪課が全力で対策を練っています』
『連中もどんどん頭が良くなってきているんです。人間のふりをして幽霊税の徴収から逃れたり、強盗、殺人などを繰り返してます。我々霊犯罪課は今後、元警察官の幽霊と共同で捜査を続けていく方針です』
『先日の幽霊調査で特に問題になったのが、成仏の権利です。一般では幽霊は神の許す日が来れば成仏できると言うことですが、実際は現世への未練から成仏勧告が出ているにもかかわらずこの世にとどまり続ける不法現世滞在霊が、人々の生活を脅かしています。幽霊代表側はこれをゆゆしき問題とし、全幽霊に自主的成仏と幽霊税を払うことを呼びかけています』
「なんてこった、あの子ならきっとわかってくれると思ったのに」
先ほどの男が髪をくしゃくしゃにしながら足早に歩いている。
「なんで今まで気付いてくれなかったんだ。あの子ならわかってくれると思ったのに。あの子にふられちゃ、僕にはもうここにいる意味なんてないじゃないか」
男は巨大ヴィジョンの下を通り、駅構内へと入った。せかすような足取りで、灰色の窓口に駆け寄る。
「おい、誰か居ないのか」
「はい。霊社会保障番号をどうぞ」
「1003のA37だ。今すぐ天国行きの切符をくれ」
「自主成仏でございますか」
「そうだ、一刻も早くしてくれ」
「現在天国行きの列車に開き席はございません。幽霊税の方は」
「ああ、毎月ちゃんと払ってるよ。なんとかならないのか」
「でしたら成仏資格審査を申請しておきましょう。神の許しが出ればすぐに切符は手に入ります」
「よし、そうしてくれ。僕にはもうここに居る意味がないんだ」
「それでは、結果が出るまでの幽霊税に、審査料が加算されますが、お支払いは現金かカードか霊界ローンか、いかがなさいます?」
【了】
はいはい、今回のブラックユーモア篇も、第一発目はお蔵出しから始めてみました! これは中一の時に書いたものなので、13歳? くらい? の掘り出し物です。
……え、ちょっと待て、俺今月誕生日だったらこの年齢の三倍近くになってまう!!
まあそれはさておき、もっと設定練ってればよりよくなったのではないのかな、とは思いますが、とりあえず「ブラックユーモア篇開幕!」ということでひとつ!!
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