6-6 観音さんの階(きざはし)

 喜一のいったように、静岡中央署から浜松中央署に匠繁、宮地武雄、田辺悟の捜索への協力を要請があった。それを受けて安全対策課では異動したばかりの雁屋誠憲にこの件を一任することにした。

「これで俺は正式に喜一君の力になれるだに」

「今まで協力してきたからな。せいぜい借りを返してくれたまえ」

 と、喜一にかわってなぜか直戸が胸を張る。


まず手始めに、喜一たちが「呪い」に遭遇したと思われる「観音さんのきざはし」に出かけけてみることにした。都市伝説サイトの記述によれば、それは浜松市北区と天竜区にまたがる観音山のどこかということになるが、喜一の夢の印象では観音山から離れている可能性もある。喜一は夢の中で見たドライブ中の景色を思い出せる限り描き出し、時系列に並べた。これをナビゲーションとして使用し、現地に向かう方針となった。メンバーは雁屋と綾小路親子、そして喜一の四名だった。穂香は呪い除けに霊能者を連れて行こうなどと言い出したが、直戸が却下した。

「最初の絵は高速の出口ですかね?」

「うむ。これは新東名の四大地出口だな」

 そこで一行はまず新東名高速道路の四大地出口へ向かった。

「地図と照らし合わせてみると、これは県道68号線から299号線へと折れて観音山方面へと向かうコースではないかね」

「そのようですね」 

 新東名四大地出口をスタートした車は助手席の喜一のナビゲーションで進んでいったが、直戸の言った通り、県道68号線をしばらく走った後、県道299線へと左折していった。

「あっ、あそこに観音山って書いてあるわ。次のところ右折じゃないの?」

「穂香さん、夢の中で匠も同じことを言っていたよ。だけど田辺は匠の言うことは無視して直進したんだよ」

 喜一のその言葉でそのポイントは直進することになった。そして夢の中でカーナビが指示した左折ポイントに差し掛かった。

「雁屋さん、そこを左に」

「観音山から外れるけぇが、いい?」

「……はい。相変わらず飛ばしますね、雁屋さん」

「飛ばす? なにゆってるだ、安全運転だに」

「運転のことじゃないんですけど……」

 そして車は喜一にとっては見覚えのある山道へと入って行った。町中だと夜と昼間では大分印象は違うものだが、こうした寂しい山間部の道は昼夜の違いはさほど大きくはなかった。やがて鉄板を敷き詰めた道を突き進むと、目的地へたどり着いた。

「はい、ここです。間違いありません」

 喜一がそう言うと、雁屋は車のエンジンを切り、サイドブレーキを引いた。そして全員車から降りた。

「うわあ、結構いいところね。呪われた土地だなんてとても思えない」

「穂香、呪いなどこの世にはないのだ。どのような超常現象も結局は科学的に説明できるのだよ」

「はいはい。それにしても私は何度か観音山に来たけど、何か感じが違うな」

 すると背後から何者かがやってくる足音が聞こえた。

「おい、そこの人たち! 一体ここに何しに来た?」

 一同は振り向いた。そして直戸は相手の顔を覗き込んだ。

「おや、生活環境課の阿部さんではないかね?」

「またあんたか、元刑事のヴァイオリン探偵。おいおい、雁屋さんまで一緒じゃないか」

「私は生活安全部所属になった。同じ部同士仲良くやりましょうや」

 雁屋はニヤケ顔で握手を差し出したが、阿部はそれを撥ねのけた。

「警察内部が仲良しになってどうする。ところでもう一度聞くが、何しに来た?」

「静岡中央署からの要請で、行方不明となっている三人の高校生の捜索だ。この天草喜一という高校生の記憶を手掛かりにここへたどり着いたというわけだ」

「記憶が手がかりというと、君はその事件に何か関係あったのか?」

 阿部が訊ねてきたので、喜一はこれまでのこと、夢で見たことをかいつまんで話した。それを阿部が腕組みしながら聞いていた。

「なるほど。……天草君とやら、まず言えることは、君たちは別に死霊に取り憑かれたわけでも呪われたわけでもないということだ」

「えっ……どういうことですか?」

 喜一はいぶかしげに阿部を見た。

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