最終話
アバンタイトル
上も下もなく……。
光も闇もなく……。
ただ、圧倒的なエネルギーの奔流がほとばしっている世界……。
いや、ここを差して世界と称するのは
なぜならば、ここは次元と次元とを隔てる境界と呼ぶべき異空間なのだから……。
かような、
――大きい。
完全なる球形で構成されたその船体は、地球の天体で例えるならば月ほどもあるだろう。
船体の全ては未知なる金属を用いた機械で構築されており、そのテクノロジーは地球文明の数百年……下手をすれば千年以上も先を行っていると推察できる。
これなる次元間船舶の名は――ゼラノイア。
機械侵略体ゼラノイアの母艦であり、彼らを統べる皇帝そのものでもあった。
「――侵略を!
……さらなる侵略を!」
そのゼラノイア内部に存在する大講堂……。
空間の全てが複雑怪奇なパイプや機械の繋がりによって構成された中央で、ゼラノイア皇帝がそう叫んだ!
彼の見た目をひと言で形容するならば、
――老人型のアンドロイド。
……と、いうことになるだろう。
古代の哲学者を思わせる造形の人型機械は、まさにこの一大帝国を統べるにふさわしい風格である。
だが、その背から伸びたおびただしいコードの数といったら……!
無数のコードはゼラノイア皇帝の背後に存在する端子へ接続されており、これを通じてマザーコンピュータの意思が伝えられているのだ。
要するに、この老人型アンドロイドは母艦ゼラノイアの意思を表すための端末に過ぎないのである。
「マシン参謀ギアよ!」
「ははっ!」
皇帝の呼びかけに、一人の機械戦士がかしこまった。
まがりなりにも人型を形成している皇帝端末と比べたら、あまりにも異形の造形である。
何しろ、このギアという機械戦士――超AIチップを中心に、無数のメモリやそれを冷却するための部品が芸術品めいて組み合わされた姿をしており、申し訳程度に備えられた脚部がなければただのオブジェに見えてしまうのだ。
戦闘能力どころか、アンドロイドに求められるほぼ一切の性能を切り捨て、ただ情報処理能力のみを高めた存在――それが二大幹部の一人、マシン参謀ギアであった。
「次なる世界……五十番目に侵略する次元の選別は済んでおるか!?」
「――ははっ! こちらをご覧ください!」
脚部へ取り付けられた粗末なスピーカーを用いてギアが答えると、大講堂の巨大スクリーンに目指す世界の光景が映し出される。
ゼラノイアの基準からすれば、鼻で笑うにも値しない文明世界……。
いまだ移動に馬や帆船を使用し、明かりと言えばたいまつや油皿を使う他になく、石造りや木造りの住居に人々が住まう世界……。
唯一、特筆すべきは、どうやら超常の力を持つ人間や生物が存在するらしく、ケガした人間に祈りを捧げるだけで治癒する人間や、物理法則を無視して飛翔する大型爬虫類が存在することだろう。
これらの光景は、ギアが先んじて放ったスパイマシンにより撮影されたものである。
「ご覧いただいてる通り、文明レベルは極めて下等。
黒色火薬の銃器すらまともに流通してはおらず、我らの脅威となり得る戦力は存在しません!」
「リスクがないことは理解した。
その上で、侵略するメリットを挙げてみよ!」
「――ははっ!」
ゼラノイア皇帝の鋭い問いかけに、ギアは巨大スクリーンの映像を切り替えた。
そこに映されたのは、下方を海に……上方を山脈地帯に覆われた原始的国家の航空写真である。
それと同時に、種々様々なデータやグラフが表示された。
「これは……地中をスキャンしたデータか?」
「ご明察の通りでございます!
ここは現地に住む人間たちが、『レクシア』と呼称している原始的国家の国土なのですが……。
ご覧の通り、特にこの地において、我らが侵略してきた
スクリーンを目にしたゼラノイア皇帝の両眼部が、すさまじい勢いでデータを走らせる。
人型端末から受け取った情報を、母艦ゼラノイアのマザーコンピュータが無限に近しい処理能力で分析しているのだ!
「ふうむ……このエネルギー値は興味深い……。
研究し、しかるべき処置を施せば、我が帝国が誇る機械戦士たちも更なる強化が見込めるであろう!」
分析結果を受けて、皇帝端末が満足げにうなずいてみせる。
これはすなわち、機械侵略体ゼラノイアの次なる標的が決定したことを意味していた。
――侵略!
――戦力増強!
――侵略!
――戦力増強!
それこそが、母船ゼラノイアを生み出した文明が与えた唯一のプログラムである。
そして、それを忠実に実行し続けてきたことにより、ゼラノイアは他に並ぶものが無い強大な機械帝国となったのだ。
侵略し、現地の資源や技術を取り込んで戦力増強した先の目的など、存在しない……。
「――侵略を!
……さらなる侵略を!」
ゼラノイア皇帝が、
これこそが、手段にして目的!
ただ侵略し続けることこそが、彼らの存在意義なのだ。
「マシン将軍ボルト!」
「――はっ!」
皇帝の呼びかけに、一人の機械戦士が進み出る。
極めて武骨な、見るからに戦闘用のアンドロイドと分かる造形だ。
分厚い装甲で覆われた全身の至る所に重火器の
当然ながら、そこから発射されるのは鉛の弾丸などではない。
これまで侵略してきた次元から得られるレアメタル弾頭による一撃は、光学兵器や粒子兵器をしのぐ信頼性と威力を誇るのだ。
まさに、機械侵略体の将軍にふさわしい威容と言えるだろう。
「ギアから現地の言語データなどを受け取り、早速にも機械戦士の選別を開始せよ!」
「送り込む機械戦士の人数は、いかがいたしますか?」
「無論、一人!」
将軍の問いかけに、皇帝が力強くそう宣言する!
「競争心なき機械戦士など、有機体奴隷にも劣る!
大いに功を争い、より自己の性能を高めるのだ!」
「――
皇帝の言葉に、将軍が深くうなずく。
他ならぬ、参謀ギアと将軍ボルトこそ、この方針により自己進化と強化を繰り返し今の地位を得た機械戦士なのだ。
「では、行動開始!」
ゼラノイア皇帝が宣言の
全機械戦士、ならびにそれを補佐する
今ここに、新たな侵略行動が開始された!
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