Bパート 11

 ――真変身!


 ……新たな変身動作を繰り出したブラックホッパーの全身が、灼熱の炎に包まれた!

 勇者を包む炎は完全な球体を形作っており、それはさながら、超極小規模の太陽が地上に現出したかのようである。


 炎の中で、勇者の……改造人間ブラックホッパーの体が、これまで見せてきたいかなるフォームとも異なる姿へ作り変えられていく……。

 昆虫じみた漆黒の甲殻は、それを上回る強度・耐刃性・耐熱性、さらには光の魔力による防護が備わった被膜――ルミナスフィルムへと置き換わり……。

 フィルムの上から、この場で生まれた全く新しい金属……クリティアスプラチナによって構成された鎧――ギガントアーマーが装着される。

 その間――実にわずか五〇〇分の一秒!


 にわかに現れた太陽が消え去り……。

 新たな姿となったホッパーが、その姿を現した。


「これは……その姿は一体……?」


 これを目にした獣烈幽鬼が驚きの声を漏らすのも、致し方の無いことであろう。


 それまでの、昆虫と人間をかけ合わせたかのような生物然とした姿とは打って変わり……。

 新たなホッパーの姿は、全身を鎧とスーツによって覆われた戦士と形容すべきものである。


 元来備わっていた甲殻の色を受け継いだフィルムスーツは、全身を余すところなく覆っており、その上から各所を保護するアーマーはトノサマバッタの各部位を象形化しょうけいかしたかのようなデザインだ。

 胸部を防護するアーマーの中央部には銀色へ輝く球体――アクセルクリスタルがきらめいており、何か神秘的な力がそこから湧き出しているのを感じさせる……。

 異形であり、異貌いぼうであった頭部はこれもフルフェイス型の兜へ置き換わっており、顔面部にはやはりトノサマバッタのそれを彷彿とさせる仮面が装着されていた。


『フフン……まずはワシから名乗っておこうか!

 これこそが、勇者と聖竜を一つに結び付け最強の力を生み出す新形態!

 ――ドラグドライバーじゃ!』


 ベルトへ収縮変形し、勇者の腰に装着された竜翔機りゅうしょうき――ドラグドライバーがそう名乗りを上げる。


「そして……おれは……」


 仮面の両眼りょうがん部分が真っ赤な光を放ち、絆の証である真紅のマフラーが風になびく!


陽蝗ようこうの勇者――サンライトホッパー!」


 ――サンライトホッパー!


 名乗りを上げながら拳を突き出すその姿は、まぎれもなく戦士としての到達点であり……。

 相棒である竜翔機りゅうしょうきと一つになった様は、さながら仮面の騎手ライダーと称するべきものであった……。




--




「そうだ……それだぜ! 兄弟!」


 キルゴブリンたちもはけさせ……。

 一人で玉座に座りながら地上の様子を見ていた俺は、思わず喝采の叫びを上げていた。


「ついに……究極の力を手に入れたな……!」


 かつての巫女や聖戦士から受け継いだ武具を通じ、人々の思いが聖竜へ集結することで生まれる力……。

 それこそはまさしく、人と勇者が生み出した太陽であると言って過言ではないだろう。


 善も悪も、光も闇も超越し、全てを照らし出す光がそこに存在していた……。


「これでやっと……!」


 興奮のまま、この手を伸ばす……。




--




「みんな……心配をかけて済まなかったな」


 勇敢にも獣烈幽鬼へ立ち向かい、時を稼いでくれた孤児たちに……。

 そして、今まさに大神殿から飛び出してきた市民たちに向かって、新たな姿となった勇者がそう言い放つ。


「だ――」


『――じゃが、もう大丈夫じゃ!

 お主らは、巻き込まれないよう離れておいてくれ!』


 今まさに言おうとしていたセリフを取られたホッパーが、腰元のドラグドライバーを見やる。

 だが、すぐに気を取り直し、子供たちと人々に向けて力強くうなずいてみせた。


「わかりました!」


「先生! がんばって!」


「この子たちは、我々に任せてください!」


 市民の先頭に立っていた騎士らが子供たちを誘導し、戦いの場から遠ざかる。

 次いでホッパーは、ようやく戒めから解放されたヒルダたち竜騎士隊に向き直った。


「ヒル――」


『――ヒルダたちも、魔法から解放されたばかりで満足に体を動かせまい?

 さっきは助かったぞ! 後はワシらに任せてゆるりとしておくがいい!』


 またもやセリフを取られた勇者が、腰に装着された従者を見やる。

 仮面の下に隠されたその顔は、果たしてどのような表情を浮かべているのだろうか……。


 ともかく、再度気を取り直したサンライトホッパーは、沈黙のままやり取りを見守っていた獣烈幽鬼と向き合ったのである。


「フン……毎度毎度、飽きもせず新しい姿になりおって……!

 サンライトだかなんだか知らぬが、しょせんはコケ脅しに過ぎん!

 ……もう、手加減はせぬぞ? 最初から最大の力で、ひと息にほふってくれるわ!」


「や――」


『――やれるものなら、やってみるがいい!』


 三度みたび、セリフを取られたホッパーが、ため息をつきながら腰元を見やった。


「レッカ……おれにも何かしゃべらせてくれ」


『ん? おお、すまんのう!』


 のん気なやり取りをする主従をよそに、両手を掲げたラトルスカが体内の魔力を練り上げる!


「かあああああ……っ!」


 獣烈幽鬼が内在せし闇の魔力はたちまちの内に充実して膨れ上がり、黒雷こくらいへ変じて両手の間を荒れ狂った!


「――死ねっ! 勇者!」


 そして、必殺の気迫と共にそれが放たれる。

 ひと息にほふるという、その言葉に嘘偽りはないのだろう……。

 放たれた黒雷こくらいは太さといい数といいこれまでの比ではなく、まるで漆黒の大蛇が群れを成して勇者に襲いかかっているかのようであった。


 果たして、大蛇らのあぎとは勇者を噛み砕くことができたか……?

 あるいは、超高熱高電圧の体がまとわりつくことでその身を焦がしたか……?


 その答えは――どちらも否である!


「――むん!」


 無防備に立ち尽くし、全身に黒雷こくらいを浴びたホッパーが、気合を入れながら胸を張った。

 すると……おお……ただそれだけで黒雷こくらいは弾き飛ばされ、雲散霧消し果てたのである!


『――効かぬわ!』


 腰元のドラグドライバーが、勝ち誇るようにそう宣言した。


「――何っ!?」


 恐るべきサンライトホッパーの耐魔能力に、ラトルスカが驚愕きょうがくの声を漏らす。

 陽蝗ようこうの勇者はそれに取り合わず、一歩、二歩と倒すべき敵に向け歩みを進めた。


「く……調子に乗るな!」


 魔法が通用しないのであれば、この力でもって制すればよい……!

 そう結論したのだろう獣烈幽鬼が、跳躍しその拳を見舞う!

 鋭利な骨によって構成された拳は、それそのものが凶器の集合体と呼ぶべき代物だ!

 だが……、


「――なんだと!?」


 獅子の頭骨がごとき顔から、再び驚きの声が漏れた。


 勇者は……サンライトホッパーは、ラトルスカの拳に対し身構えてすらいない。

 しかし、真正面から仮面に直撃した一撃は、勇者に対しいささかの痛痒つうようももたらすことができなかったのである!


「――ふん!」


 お返しとして、ホッパーが腰を落としながらの正拳を放つ!


「――ぐおっ!?」


 まともにこれを受けた獣烈幽鬼は、たまらず腹を押さえながら後ずさることとなった。

 これはまるで――先までと真逆の光景だ!

 魔人の攻撃は勇者に一切通用せず、勇者のそれはただ一撃が会心の効果をもたらすのである!


『――まだじゃ!』


 ドラグドライバーの宣言と共に、胸のアクセルクリスタルがきらりと輝く!

 その瞬間――ホッパーの姿がかき消えた!


 そして、ラトルスカの側頭部に空中回し蹴りを放つ勇者の姿が現れ……。

 それが命中すると同時に、今度は反対側から膝蹴りを叩き込む勇者の姿が現れた!

 さらに、今度は真正面から跳躍蹴りを見舞う勇者の姿が現れる!


 ――ほぼ同時の三点連続攻撃!


 あまりに高速で行われたそれは、見る者の目に残像を映しているのだ!


「――があああああっ!?」


 怒涛の連続攻撃を浴びた獣烈幽鬼が、たまらず吹き飛ばされ石畳の上を転がる!


 サンライトホッパー……強し!

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