Bパート 3
およそ天体と呼ぶべきものは存在せず……。
漆黒の闇に覆われた空では、常に雷鳴が轟く……。
大地は乾き、あるいは隆起し、あるいは底の知れぬ汚泥に覆われ、あるいは見るもおぞましき怪植物が生い茂っていた……。
――魔界。
神々と精霊により地上から廃絶されたものたちの生くる、暗黒の世界である。
その頂点に立つ者たちが集う城もまた、禍々しい……。
――魔城ガーデム。
あらゆる建築法を無視し魔性の技によって仕上げられた城には、数多の魔人たちがひしめき合っていた。
見た目も能力も何もかもバラバラな彼らに共通するのはただ一つ――強さだ。
強さこそが魔界で貴ばれるものであり、唯一存在する法なのである。
ならば、ガーデムが誇る玉座の間に集った三人こそ、この魔界において至高の存在であるに違いない。
「ミネラゴレムがやられたか……」
そう吐き捨てたのは、直立した獣のごとき魔人であった。
あえて地上の生物へ照らし合わせるならば、獅子こそが最も近い特徴を備えているだろうか……。
しかしながら、一つ一つが恐るべき切れ味を備えているだろう刃によって構成された
――獣烈将ラトラ。
魔界という世界に生きる者の理想形を具現化したかのような、三将軍が一人である。
「しかしながら、あやつは良い仕事をしてくれました。
――きゃつが人間共に与えた負の感情により、また新たな魔人を送り込むことができますでな」
そう言ったのは、ローブをまとった人骨そのものと称するべき魔人だ。
一見すれば、ラトラと並び立つなど考えられぬほどに貧相な
だが、ローブ内へ充満する漆黒の霧が秘めた魔力の、何と強大でおぞましいことであろうか……。
強さにも、種類というものがある。
ならばこの者もまた、ラトラとは違う意味で魔界の理想を具現化した存在であるに違いない。
――幽鬼将ルスカ。
ラトラとは同格に位置する、三将軍の一人であった。
「――そしてそれは、我らが主の復活へ一歩近づいたことを意味する」
一見してこの男を魔人と判断する者は、皆無であろう。
その姿は、地上に生きる人間そのものであった。
だが、その双眸に宿る殺気の何と鮮烈で身を凍らせることか……。
しかも、身にまとった漆黒の騎士鎧と腰の魔剣は、封印されている彼らの主が直々に与えた品なのである。
――大将軍ザギ。
三将軍の一人にして、その頭目だ。
ザギは一時だけ眼差しから殺気を消し去り、代わりに深い憂いを帯びると隣の玉座を見やった。
「――千年だ。
千年もの長きに渡り、我らはあの方をお待たせしてしまっている」
「……それもこれも、全ては千年前に現れたあの勇者が仕業よ」
声音に忌々しさをにじませながら、ラトラがそう吐き捨てた。
「そして勇者召喚の力と血は、今が世にも受け継がれていた……。
全ては我が不徳。千年前確かに殺害せしめたはずの巫女に、まさか子孫がいたとは……。
ラトラよ。お主の配下にはまこと、申し訳ないことをしてしまった、な……」
ルスカの体は白骨そのものであり、当然ながらそこに表情など浮かぶはずもない。
だが、そこには確かに親友とその配下に対する想いが宿っていた。
「気にすんな。先駆けを務めることになった時点で、奴も命を捨てていたはずだ」
「うむ。戦において、予期せぬ誤算は必ず生じるものよ……。
今はただミネラゴレムの冥福を祈り、そして我らが主の復活をもってその魂へ報いようぞ」
ザギが腰の魔剣を引き抜いて構えると、目を閉じ祈りを捧げる。
先駆けとして散ったミネラゴレムの魂も、それで救われたに違いない。
「それにしても、ブラックホッパーと言ったか……恐るべき勇者が招かれたものよ」
魔剣を鞘に戻しながら、ザギが倒すべき敵の名を口にする。
ルスカはそれに対し軽くうなずくと、右手を掲げた。
すると三人の間にある空間が歪み、勇者として召喚された異形の存在――ブラックホッパーがミネラゴレムと戦う光景が映し出されたのである。
「ブラックホッパー、か。
見たところ、人間よりはオレたちに近い存在に思えるけどな」
「うむ……。
この異形、そして力……。
姿を変じる前はただの人間にしか見えぬが、おそらく身の内は全く異なる作りになっているであろうよ……」
そこまで言うと、ルスカがちらりとザギの方を見やった。
その視線に存在する含みを感じ取り、大将軍はフッと笑ってみせたのである。
「そう言われると、何やら親近感を覚えるがな……。
とはいえ、倒すべき敵であることに違いはない!」
そして笑みを消し去った次の瞬間、その双眸には再び身も凍るような殺気が宿ったのである。
――銀光一閃。
ザギが、二人の将軍にすら見切ることのあたわぬ鋭い抜き打ちを披露した。
それは虚像の中にいるブラックホッパーを両断し、虚像そのものも圧力で消失せしめたのである。
「新たに送り込む魔人を選定せよ!
そして勇者を亡き者にし、地上を恐怖で染め上げるのだ!」
「――はっ!」
「――
大将軍の言葉に、残る二将が同意の意を示す。
空であるはずの玉座に、何か――底知れぬ闇と呼ぶ他にない何かが、うごめいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます