毒舌な幼馴染みでもキスをすれば俺のことだけを考えるヤンデレになるようです
しゆの
第1話
「……寝癖くらい直してきたらどうですか?」
高校に入学して二度目のゴールデンウィークで学校が休みの日、
休みだからって幼馴染みのだらけている姿を見て呆れてしまったのだろう。
寝癖は直さない、上下ジャージ姿、欠伸をしながら涼太はリビングに来たので、真冬が呆れてもしょうがないのかもしれない。
一方の真冬は涼太と違ってきっちりとしている。
きちんと手入れされているであろう腰下まで伸びているサラサラとした緑がかった金髪は艶があって綺麗だし、長いまつ毛に宝石を思わせるような美しい瞳、整った鼻梁に潤いのある桜色の唇、シミ一つ見当たらない透けるような白い肌は、普段からしっかりとケアしている証拠だ。
真冬の髪と瞳の色は生まれつきで、いとこ婚したことがある家系だと覚醒遺伝で稀に産まれてくるとのこと。
誰もが見惚れるほどの容姿をしている真冬であるが、名前の通り自分にも他人にも冷たくて厳しい。
特に身だしなみをきちんとしない人は許せないらしく、いつも真冬は涼太に注意をする。
「ご飯食べたらまた寝るから大丈夫」
せっかくのゴールデンウィークはしっかりと休まないと損だ。
「大丈夫ではありません。いつも気を張ってろ、とはいいませんが、少しくらいはしっかりしたらどうですか?」
「家では誰もが気を抜く~」
早速、涼太はリビングのソファーで横になる。
このまま寝てしまいたくなるが、もうすぐご飯なので我慢だ。
「あなたはどこでも気を抜いているじゃないですか。授業中でも平気で寝るわ、家事は全くしないわで何もかも全て私頼みですよね」
料理を作っているからか白いワンピースの上からエプロンをつけている真冬は、今までの涼太の言動を思い出したかのようにため息をつく。
両親が海外出張でいない変わりに、真冬が森元家の家事をしてくれる。
真冬というしっかりとした幼馴染みがいるおかげで、涼太の親は安心して家を開けてられるのだろう。
同じ分譲マンションの隣に住んでいるから親同士も知り合いで、家を空ける時に涼太の両親は真冬に面倒を見てほしいと頼んだようだ。
真冬がいなかったら涼太のご飯はコンビニ弁当やおにぎり、スーパーの惣菜などになっていただろう。
「幼馴染みがなせる業」
このままだと寝てしまいそうだと判断した涼太は上半身だけお越し、キッチンにいる真冬に向かって親指を立てた。
「そうですね。涼くんが幼馴染みじゃなければとっくに見捨ててますよ」
小学生の頃から毎日のように一緒にいるせいか、確実に真冬は涼太にだけは少しだけ優しい。
毒舌なのは変わりないが、他の人に比べたらマシだろう。
涼くん、と愛称で呼ぶことから嫌々で面倒を見ているわけではないことも分かる。
「ただそのドヤ顔はイラつきます」
学校一の美少女である真冬に見捨てられないドヤ、と思ったのだが表情に出てしまったのが彼女には気に入らなかったようだ。
一瞬だけこちらに白い目を向けた真冬は、直ぐ様に調理を再開した。
「今日の昼ご飯は何?」
十二時前まで寝ていた涼太は朝ご飯を食べておらず、お腹が鳴るくらいに何か食べたい気持ちでいっぱいだ。
「そうですね。激辛煮込みラーメンですよ」
グツグツ、と何かを煮込んでいる音が聞こえるので、真冬が言ったようにラーメンなのだろう。
「激辛無理……」
好きな食べ物がチョコレートなくらい甘党な涼太にとって、唐辛子などの香辛料がが使われている料理が苦手。
食べれないわけではないが、チョコやジュースなどの何か甘い物で中和をしなくてはならない。
苦い顔をしてみるも、真冬はこちらを見ることすらせずに料理を作っている。
「グータラな涼くんは激辛料理を食べて基礎代謝を上げた方がいいと思うんですよね。普段動かないから太りますよ」
「俺は太ってないぞ」
太っていると言われたことはなく、むしろ細いと言われるくらいだ。
「高校生の今は大丈夫でしょうけど、三十代になったら一気に基礎代謝は落ちますよ。そうしたらグータラな涼くんは太りますよ」
「俺は三十代になっても真冬に面倒を見られるのか?」
「今のままでは涼くんにお嫁さんが現れるわけがないので、私が面倒を見るしかないですよね」
再びため息をつく真冬は、涼太が将来ニートになると思っているもかもしれない。
何もしないからしょうがないかもしれないが、いくらグータラな涼太でも将来はきちんと働くつもりでいる。
「私がいないと何も出来ない涼くんは本当にどうしようもないです。グータラし過ぎて本当に将来が心配になります。呆れられた両親にも捨てられて犯罪に走るんじゃないかと……」
料理を作りながら毒を吐く真冬。
確かにしっかりとしていれば言われないことだが、あまりハッキリと口にされるとイラつく。
「真冬」
「なんで……んん……」
幼馴染みの毒舌を封じるため、キッチンまで行った涼太は真冬にキスをした。
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