第42話 エルフの森と泉の悪魔 その7
リムナの泉にて
「久しぶりの乙女だあ。今回も良い子を連れてきてくれたね。もう、最近の人間共はボクを見向きもしない、どいつもこいつも英雄様、英雄様だ。昔は事あるごとにお祈りしに来たくせにさ」
「貴方はどうして乙女を連れて来させるの」
「綺麗な女の子と結婚するのが趣味なのさ」
「趣味って……。結婚してどうするの」
「うーん……すぐに動かなくなる。ずっと見てる。いつもそう、水を汲みに来る子は、せわしなく動くし、しゃべるのに、不思議だね」
「そりゃあ、亡くなっているのですから、動けないでしょうね」
「友達もそんなこと言っていたなあ」
「趣味って仰るからには、何回も結婚しているのですか」
「そうだね。だんだん、可愛くなくなるから。すると、他の子が欲しくなるんだ。で、結婚するとまた綺麗になる。ずっと見てるとまた、汚くなる。我慢できなくなる、やっぱり、新しい乙女が来るときは、とっても楽しいんだ、今度こそ、綺麗なだけじゃなくて、お喋りできる子が来るかもしれないって思えるからね」
「でも、乙女は嫌がっていたはずだわ」
「そんなことないよ。だって、乙女が来れば、僕が良いことしてあげるんだもん。皆大喜びで連れてきたよ、結婚する日は、面白そうに歌って踊っていたよ。ずっと、ずっとそうしてきた」
「そうだったんですね……。なら、言い方変えるわ。私は、貴方のお嫁さんにはなれない」
「なんでそんなこと言うの?」
「まだやりたいことがあるし、私が死んだら、きっと悲しむ人がいてくれる。それに、もし私が貴方と結婚したら、遠い未来に、またここへ連れて来られる人が出てくるでしょう。これ以上、誰かが犠牲になるのは嫌。もう辞めにしましょう。貴方は、寂しいだけよ。貴方が乙女と結婚しようとする限り、話してくれる人と出会うことはないでしょう。だったら、他の方法で貴方が寂しくないようにしてあげる」
「ヤダ。ボクは君をお嫁さんにする。そうだ、僕は寂しい、もし帰してしまったら、もう二度と来てくれないんでしょ、誰も、来なくなるんでしょ」
「そうかもしれません。でも、なんとかいたしますわ。貴方が楽しめるように。そうね、歌を歌ってあげる。私、それしかできないの。きっと、楽しい気分になりますわ。だから、帰らせて頂戴」
「えー。しょうがないなあ。じゃあ、聞いてあげてもいいよ。楽しくなかったら大人しく結婚してね」
「分かったわ。そうね……折角だから、ちゃんと歌いたいの。明日披露してもいいかしら」
「そうやって逃げる気だね。許さない」
「絶対に約束は守りますわ、だからお願い」
「本当? じゃあ、明日の黄昏時、ここで歌ってね。もし逃げたら君を食べて、他の乙女を連れて来させてやるから」
「わ、分かったわ。約束ね」
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。今回は視点が変わっているので短めです。
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