グラーディア大戦開幕

Side・真子


 キメラとの初遭遇から1日明けて、ウイング・オブ・オーダー号は神都アロガンシアを目指して飛行を再開した。

 午前中は順調に進んでいたんだけど、午後になって少し大きめの街、地図通りならアロガンシアまでの道のりにある大都市の1つでデスグラーサっていうんだけど、その街に差し掛かると、駐留していた軍が襲い掛かってきた。

 とはいえ襲ってきたのは、ウイング・オブ・オーダー号がデスグラーサを完全に通過してからだったから、練度は高いとは言えないんだけどさ。


「ツインヘッド・ワイバーン26匹、トライヘッド・ワイバーン7匹、そしてスネークテイル・ワイバーン3匹か。予想はしていたが、アロガンシアに近付けば近付くほど、異形の魔物が出てくるのは間違いなさそうだ」

「だね。今のところワイバーンばっかりだけど、その内他の魔物も出てくるんだろうなぁ」


 ちなみに迎撃したのは、大和君とアテナの2人よ。

 新しく確認できたスネークテイル・ワイバーンはMランクモンスターで、その名の通り尻尾が蛇なんだけど、ワイバーンは尻尾で飛行中のバランスをとっているから、本来の尻尾の両側に蛇が生えている感じになる。

 ええ、両側っていう表現から分かるように蛇は2匹だったから、スネークテイル・ワイバーンは5つの頭を持っていることになるわ。


 追手は来なかったから、多分デスグラーサ駐留軍の空戦部隊は撃滅できたんだと思うけど、問題だったのは次の都市だった。

 次の都市エンビディアは夕方になる前に見えてきたんだけど、完全に待ち構えてた布陣だから、情報は届いてたようね。


「見る限りだが地上部隊は3,000人、空戦部隊は200騎ぐらいか」

「そのようです。エンビディアを抜ければ白虎軍駐留地を残すのみとなりますし、こちらの進軍速度から見ても、残りの四神軍の招集は間に合わないでしょうから、最終防衛線一歩手前といったところでしょうか」


 アロガンシアにも四霊軍や蚩尤軍があって、それらはアバリシアの最精鋭らしいんだけど、規模で言えば全て足しても四神軍の1つにも及ばない。

 だけど最精鋭っていう言葉の通り、戦力としては圧倒的だという噂がある。

 エンシェントデーモンに進化してるのは神帝だけのはずだから、最精鋭って言ってもハイデーモンが精々のはずなんだけど、リネア会戦の敗戦を教訓としている可能性は否めないから、エンシェントデーモンがいるって考えておくべきでしょう。

 神帝の性格上、自分を脅かす可能性があるエンシェントデーモンの存在を許すとは思えないけど、背に腹は代えられない状況でしょうしね。

 もし本当にエンシェントデーモンがいた場合は、大和君は神帝の相手をすることになっているから、エレメントクラスのプリム、マナ様、ミーナ、フラム、ルディア、アテナ、そして私が相手をする予定よ。


「そうだろうな。だが素通りは出来ん。レックス、リッター、並びにハンターに通達。これよりフィリアス連合軍は、アバリシア軍と本格的に交戦状態に入る」

「はっ!通達!これより我々フィリアス連合軍は、アバリシア軍との交戦状態に入る!各員、奮起せよ!」


 今までは小競り合いというか、追手を撃退していただけだから、武力衝突とは少し違う。

 だけど今回は、グラーディア大陸に上陸してから初めての、本格的な武力衝突になる。


「素通りは出来ないし、確かに倒すしかないですよね」

「挟撃の恐れがあるからね。ともかく、我々は出る。ウイング・クレストには遊撃をお願いするよ」

「了解です」


 私達は遊撃か。

 でも確かに、その方がいいか。

 私と大和君は神帝に対する切札であり、打倒できる唯一の存在でもある。

 さすがに魔族相手に後れを取るつもりはないけど、万が一がないとは言い切れない。

 大和君は何度か前線に出てたけど、相手は追撃部隊で数は多くなかったし、勘を鈍らせないようにっていう理由もあった。

 だけど一軍が相手となると、手の内を秘匿するっていう意味もあるから、後方支援に徹した方がいいでしょう。

 まあプリムやルディアは、積極的に前に出そうだけど。


「それじゃあデッキに……いや、ルーフバルコニーの方でいいか」

「けっこう広いし、そっちの方がいいかもね」

「空戦時にどうなるかは分かりませんが、ウイング・オブ・オーダー号で最も高い位置になりますしね」


 ルーフバルコニーは臨時指揮所としての機能も有しているから、そこで後方支援っていうのは確かに無難ね。

 それじゃあいつまでもここにいても仕方ないし、さっさと移動して準備を整えましょうか。


Side・ルディア


 あたし達がルーフバルコニーに出ると、既に戦闘は始まっていた。

 相手もツインヘッド・ワイバーンやトライヘッド・ワイバーンといった空戦戦力を用意してるんだし、何よりアバリシアから見たら、あたし達は侵略者ってことになるんだから、そりゃこっちの準備ができてようとできてなかろうと、襲い掛かってくるよね。


「始まってるのはともかく、予想より攻撃が大人しいか」

「空戦部隊はほぼ全て来ていますが、陸戦部隊はこの高度ではどうしようもありませんからね。まあこちらからすれば、どちらも攻撃圏内ですが」


 だね。

 実際リッターもハンターも、フライングとスカファルディングを駆使して、自由に空を飛ぶなり駆けるなりして縦横無尽に攻撃してるし。

 高度500メートル程まで下りてきてるとはいえ、地上からの攻撃が届く距離じゃないから、地上部隊は丸っと無視できるのは大きいよ。


「制空権の確保は問題なさそう……いや、奥の方にいるキメラは、少し厄介そうだな」

「奥のキメラ……ああ、確かに。Aランクで種族名がヒドラか。見たまんまだな」

「首が5つでAランクってことは、Oランクになるとヤマタノオロチってとこかしらね。もう少し捻りなさいよって思うけど、名付けてるのは神帝だろうし、あの男じゃこの程度が限界でしょう」

「確かに」


 大和と真子が神帝のことをボロクソに貶してるけど、言いたいことは分かるよ。

 リネア会戦の時に見たけど、頭悪そうな顔と言動してたもんね。


「とはいえ、Aランクのキメラは面倒だろうし、あれに乗ってるのは隊長……ううん、もっと上の存在でしょうから、とっとと倒した方が良さそうだわ」

「ですね。じゃあ俺が……」

「いえ、私がやるわ。この距離なら、どうとでもできるから」

「確かに。じゃあお願いします」


 未だ動いていないヒドラは、真子がやるのか。

 そういえば真子は、この遠征で一度も戦ってなかったから、タイミング的に見ても丁度良いかもしれない。


「ええ。それじゃあやるわ」


 そう言って真子は、スピリチュア・ヘキサ・ディッパーを完全生成して、固有魔法スキルマジックフィールド・コスモスで戦場を覆った。

 もちろん地上のアバリシア陸軍も含めて。

 真子のフィールド・コスモスは終焉種でさえ破ることができないから、いくら魔族でも絶対に破れない。

 そのくせこちらは離脱も再突入も可能だから、ホント反則だよね。

 そのフィールド・コスモスの展開を済ませた真子は、ヒドラとその周囲にいるキメラに対して、最大の刻印術になるミーティアライト・スフィアを発動させた。

 ヒドラとキメラ達は、突然の風に体を煽られ、乗せている魔族ごと体を氷り付かせ、体内から発した炎で塵も残らず消え失せていく。

 いつ見てもえげつないなぁ。


「終わったわ。これであちらの指揮系統はズタズタのはずよ」

「相変わらずえげつないね。あっちは何が起きたのか、理解できてないよ?」


 空戦部隊は真子のおかげで、どうしようもなくなってきている。

 攻撃は続けてるけど、連携は全く取れてなく、むしろ逃げ出そうとしている魔族もいるぐらい。

 だけど戦場は、真子のフィールド・コスモスに覆われてるから、逃亡は不可能。

 実際逃げようとしている魔族が、乗ってるキメラと一緒に連携攻撃を仕掛けてるけど、フィールド・コスモスはビクともしていない。


「敵には遠慮も情けも無用です。それが油断に繋がり、逆にこちらが窮地に陥ることになるんですから」

「確かにね。それじゃあ兄様、私達も出るわ」

「わかった。こちらを見ているだけだが、地上にいる者達も多くは魔族だ。油断するなよ」

「ええ、もちろん」


 真子が倒した魔族は指揮官クラスだけだから、空戦部隊はまだ半分も減っていない。

 リッターやハンター達も出てるから戦況は優勢だけど、地上部隊は丸々残ってるから、そちらも何とかしなきゃだ。


「それでは陛下、私とフラムさんは、地上へ向かおうと思います」

「あ、それならあたしも行くよ」


 そう思ってたら、ミーナがフラムと一緒に、地上部隊を相手するって言いだしたから、思わずあたしも立候補しちゃった。

 2人なら何の問題もないんだけど、それでも数は多いし、何より相手は魔族が多いんだから、万が一がないとは言い切れないもんね。


「あ、それならボクも行く。いいですよね?」

「それは構わないが、そろそろリッターも向かうのではないか?」

「はい。空の戦況は優勢ですので、セイバー、ランサー、ソルジャー、それとハンターにも向かってもらおうと考えていました。ですがミーナ達も行ってくれるのであれば、オーダーも2部隊同行させましょう」


 オーダーもつけてくれるんだ。

 ありがたいけど、それだと空の戦況が不利に……なるワケないか。

 空戦が得意なプリムはもちろん、大和と真子もいるんだから、極端な事を言えば全部隊が地上に降りても何も問題ない。

 うん、じゃああたしも、遠慮なく地上に下りようかな。


「ライ兄様、あたしとマナはこのまま空でいいの?」

「そうしてくれ。大丈夫だと思うが、エレメントクラス全員が地上に下りてしまうと、士気に影響がでるかもしれないからな」

「確かにそれはあり得るか。了解よ」


 ああ、そっか。

 マナ様やプリムも地上に下りちゃうと、残るのは大和と真子だけになっちゃって、しかも2人はウイング・オブ・オーダー号から動かない、というか動けないから、空にはエレメントクラスがいなくなっちゃうのか。

 エンシェントクラスが多いから戦況には大きな影響はないだろうけど、自分達が軽んじられてるって思うリッターはいるかもしれないから、マナ様とプリムが加わってくれれば、それは避けられる。

 多国籍軍だからこその問題かもしれないけど、こんな時にも政治とかの話も考えないといけないなんて、はっきり言って面倒くさいなぁ。

 だけどそっちは、ラインハルト陛下や大和達に任せて、あたし達はアバリシア軍の相手だ。

 今までは散発的かつ少数しか相手にしてなかったけど、今回はあっちも大軍を率いている。

 グラーディア大陸に上陸してから、初めての本格的な武力衝突になるし、この先を占う大事な一戦でもある。

 だからみんなはもちろん、あたしも気合は十分。

 さあ、やるよ!

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