竜王国の終焉種

Side・ルーカス


 12月になった。

 11月はなかなかの出産ラッシュだったが、みんな無事に生まれてくれて、俺としてもホッとしている。

 なにせそのうちの1人は、ライラが産んでくれた俺の息子なんだからな。

 ライトと名付けた俺の息子は、11月15日に生まれた。

 珍しい妖族ハーフ、つまりハーピーハーフ・タイガリーとして生まれてきたのは驚いたが、翼族だったのはさらに驚いた。

 ハーピーやハーピーハーフは両腕が翼になっているが、その翼族の場合は背中にも1対の翼が生えている。

 ライトには薄緑色の鳥系の翼があったが、さすがに生まれたばかりだから、まだまだ小さかったな。

 というか、翼の大きさは大和とプリムの娘ツバキの方が、一回り大きかったと思う。

 あの2人の娘だし、納得だけどな。


 そのライトの誕生から遅れること4日の11月19日には、ミーナが大和の四女となるヒューマンの女の子を出産した。

 その子は明け方に生まれたこともあって、大和が朝姫アサヒと名付けている。

 さらに3日前の11月28日には、ネージュ陛下がヴァルト獣公国待望の後継ぎとなるフォクシーの男児を出産された。

 和真カズマと名付けられたその公子の誕生が知らされると、ヴァルト獣公国はお祭り騒ぎになったらしい。

 俺は行かなかったが、諸々の手配をした大和とプリムが、すげえ疲れた顔して帰ってきたからな。

 カズマ公子が立太子できるのは学園を卒業してからになるから、まだ15年ぐらい先の話になるんだが、それでもプリムの獣公位継承権は落ちるから、喜んでもいたけどな。

 ちなみにヴァルト獣公位継承権は、カズマ公子とツバキに正式に継承権が発生してからになるが、1位がカズマ公子、2位がツバキになり、プリムは3位になるらしい。


 そんなおめでたいことが続いたっていうのに、12月になった瞬間、非常に厄介な問題が発生してしまった。

 その問題が起こったのは、バレンティア竜王国だ。


「テスカトリポカが!?」

「ああ。どうやらアロサウルスの終焉種タナトスが生まれてしまい、それに追われるかのように現れてしまったようだ」

「さらに悪いことに、マルドッソ迷宮が氾濫を起こしたの。元々兆候はあったけど、それはドラグナーズギルドとハンターズギルドが連携して中に入ることで抑制し、無能だった領主は貴族籍を剥奪しているわ。それは上手くいって、実際しばらくは落ち着いたんだけど、タナトスの出現に呼応するかのように溢れたって報告されているの」

「それに加え、マルドッソ迷宮とソルプレッサ連山の間にある町や村が、いくつか襲われた。特にマルドッソは壊滅状態で、再建は不可能に近いらしい」


 ラインハルト陛下に、急いで大和達を呼ぶように指示を受けてから天樹城に連れて行くと、すぐに陛下の執務室に通され、陛下とエリス妃殿下からバレンティアの惨状が告げられた。

 既にドラグナーズギルドとバレンティアのハンターは動いているそうだが、マルドッソの町はマルドッソ迷宮が溢れると同時に壊滅し、さらに溢れた魔物達は全てソルプレッサ連山に向かうような動きを見せているため、進攻上にあった村2つも全滅したと考えられている。

 現在はソルプレッサの町が最前線となっており、グランド・ドラグナーズマスターもそこで指揮を執っているんだそうだ。

 だがそのソルプレッサの町には、マルドッソ迷宮から溢れた魔物のみならず、ソルプレッサ連山に生息している魔物も多数現れ、しかもその中には終焉種テスカトリポカとタナトスの姿まであるため、グランド・ドラグナーズマスターが即座にトラベリングを使い、伝令をフロートに派遣した。

 伝令からの報告は、最初にフロートに出向中のコンフォーム・ランサーズマスターを経由し、すぐに陛下に届けられた。

 そして陛下から俺に指示が下り、俺と3人目の妻となったミカルナが、急いで大和達を呼びに行き、今に至る。


「了解です。じゃあ俺達は、すぐにソルプレッサに飛びます」

「すまないが頼む」

「はい」


 話を聞いた大和達は、即座にソルプレッサに飛ぶことを決めた。

 真子はメモリア総合学園で授業中だからこの場にはいないが、トラベリングを使ってミカルナをメモリアに向かわせたから、しばらくしたら天樹城にやってくるだろう。

 だが状況は、一刻の猶予も無い。

 俺もオーダーの先遣隊として、大和達とソルプレッサに向かう予定だ。

 オーダーズギルドからの援軍は、この場にいるグランド・オーダーズマスターが率いて来ることになっているし、奥方達も参加してくれるだろう。

 幸い武具はストレージに入っているから、俺達は天樹城の一角からトラベリングを使い、急いでソルプレッサに転移した。


Side・大和


 ソルプレッサに到着した俺は、目の前に現れたウインガー・ドレイクを殴り飛ばすと、すぐにウイングビット・リベレーターを生成した。

 聞いてはいたが、マジでとんでもない状況だな。

 幸いにもソルプレッサの町は、グランド・ドラグナーズマスターを中心としたドラグナーと、ソルプレッサを拠点にしているハンター達によって小さな被害で済んでいるが、それでも犠牲者は出てしまっているようだ。


「失せろ!」


 最大範囲でニブルヘイムを発動させ、目の前の魔物達にアイスエッジ・ジャベリンを放つが、モンスターズランクにえらいバラつきがあるように見える。

 だが今は、そんなことを考える余裕はない。

 同行してくれたプリム、マナ、リディア、ルディア、アテナ、ルーカスも、固有魔法スキルマジックを使って攻撃を始めている。

 ヒルデとフラムは仕事中、ミーナとライラは産後間もないため、この場には来ていない。

 真子さんも仕事中だが、被害が大きいって話は聞いてたから、ルーカスの奥さんの1人のミカルナが、現在呼びに行ってくれてる最中だ。

 実際怪我人も多いから、腕の良いヒーラーは1人でも必要だからな。


「マルドッソ迷宮の氾濫って話だけど、そっちの方は聞いていた通り、何とかなりそうね」

「Mランクモンスターも確認されたって聞いてたけど、そいつらが出てこなかったみたいだからね」

「ええ。問題は、ソルプレッサ連山の魔物ね」


 リディア、ルディア、マナが言うように、マルドッソ迷宮の魔物だけなら、大きな被害を出しているとはいえ、バレンティアだけで対処できたはずだ。

 だがソルプレッサ連山の魔物、特にテスカトリポカとタナトスという終焉種がいるとなると、フィリアス大陸の最高戦力を集める必要がある。

 だからエレメントクラスの俺達に声がかかったんだが、真子さんがメモリア総合学園で授業中だったのは誤算だった。


「ルディア!」

「オッケー!」


 だがその代わりとでも言うかのように、リディアとルディアが、目の前のアルパガスとティラノサウルスを倒し、エレメントドラゴニュートに進化してくれた。

 タナトスがアロサウルスの終焉種になるためか、M-IランクのティラノサウルスやA-Cランクのアルパガスも複数確認できる。

 しかもアルパガスの1匹はソルプレッサの門を破壊しているところだったから、俺達の到着が少しでも遅れていたらどうなっていたことか。

 そのアルパガスは、プリムがセラフィム・ペネトレイターで倒したが。


「グランド・ドラグナーズマスター!」

「マナリース天爵か!救援、助かる!」

「いえ!」


 そしてマナは、グランド・ドラグナーズマスター ハルート卿が対峙していたヴォルテクス・ドラグーンの首を、固有魔法スキルマジックスターリング・ディバイダーで切断した。

 エレメントエルフのマナでも、一撃で防御力の高いA-Iランクモンスターの首を落とすのは難しいんだが、今回は完全な不意打ちで決まったな。

 それにしても、まさかヴォルテクス・ドラグーンまでいたとはな。

 俺達が来るまでは、ハルート卿しかエンシェントクラスがいなかったようだから、いくらハルート卿でも全てを相手にはできないし、アルパガスは数十年前にバレンティアに大きな被害をもたらしたティラノサウルスより格上の魔物だから、ドラグナーやハンターが尻込みするのも無理もない。


「マナ、ハルート卿から詳細を聞いといてくれ!」

「了解よ。大和は……聞くまでもなく、あれの相手ね?」

「ああ、行ってくる!」

「気を付けて!」


 もちろん!

 俺はウイング・バーストを纏い、展開中のニブルヘイムにソナー・ウェーブを重ね、さらに強大な魔力反応目掛けてアイスエッジ・ジャベリンを放った。

 アイスエッジ・ジャベリンは融合させてある念動魔法の効果で追尾性も高いから、2発をテスカトリポカに突き刺すことに成功した。

 その程度じゃノーダメージに近いだろうが、今放ったアイスエッジ・ジャベリンは、テスカトリポカにダメージを与えることが目的じゃない。


 姿を消すことが出来るテスカトリポカと言えど、世界から消えている訳じゃない。

 光学迷彩か何かで、周囲の認識を歪めているだけだ。

 つまり姿が確認できないだけで、実体はその場にある。

 姿が見えないというのは、戦闘においてはそれだけで有利だが、終焉種の膨大な魔力までは隠せていないし、何より薄く凍らせた地面の上を走れば、10メートルを超える巨体と強靭な四肢によって氷は派手に割れる。

 ソナー・ウェーブでそれを感知し、その上でアイスエッジ・ジャベリンの核にしてあるウイングビットの反応を追尾すれば、姿が見えなくても何の問題も無い。

 俺はニブルヘイムの範囲を狭め、ウイングビットを無数に生成し結界全周に飛ばた。

 ニブルヘイムとミスト・リベリオンの積層結界から抜け出そうとしていたテスカトリポカだが、全周囲をウイングビットで埋め尽くされたことで機会を失い、迂闊に動けなくなった。

 そのテスカトリポカに向かって、俺は氷で刃を作り、雷を纏わせたウイングビットを一斉に放った。


 これが俺の新しい固有魔法スキルマジックインフィニットセイバー・エクスキューションだ。


 無数に生成されたウイングビットの雨を避けきることは出来ず、姿を消すことも無意味である以上、テスカトリポカはその身でインフィニットセイバー・エクスキューションを受けるしかない。

 だがインフィニットセイバー・エクスキューションは、致命傷どころか掠り傷程度しか与えられていない。


 もちろんこれは、俺の狙い通り。

 今放っているウイングビットは、テスカトリポカの足止めが目的だからな。

 俺の本命はテスカトリポカの真上と真下、つまり天空と凍らせた地面だ。

 ウイングビットの雨に晒されながらもしっかりと大地を踏みしめている四肢を、ニブルヘイムとミスト・インフレーションで生み出した氷の刃で傷つけ、血管を破裂させる。

 そして真上に集めたウイングビットの一部を1つに集めて巨大な刃とし、その刃に氷と雷、そしてミスト・インフレーションを纏わせ、螺旋回転を加えて撃ち落とす。

 突然四肢が破裂したテスカトリポカは、天空から落ちてくる巨大な刃を避けることが出来ない。

 巨大な刃は寸分違わずテスカトリポカの首に命中し、ギロチンのように斬り落とす。

 落ちた首から大量の血を吹き出したテスカトリポカは、そのまま地面に倒れて動かなくなった。

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