クレスト・プロテクターコート

 国際会議サミットは終わった。

 その後でプリムから、みんなにもエレメントクラスに進化してもらうために、どこかの迷宮ダンジョンを攻略するべきじゃないかっていう意見がでたんだが、それについては俺もラインハルト陛下も賛成だった。

 ただ今は、ミーナとライラが臨月で、ネージュさんも出産まで1ヶ月ぐらいだっていう時期だっていうことだ。

 ライラはルーカスの嫁さんだがミーナとは同期のオーダーだし、ネージュさんはヴァルト獣公でもあるから、3人の出産が終わるまで俺は動くつもりはない。

 なので12月ぐらいに、一度攻略に行こうっていう話で纏まった。


 問題はどこの迷宮ダンジョンに行くかだが、個人的な候補としてはガグン迷宮が最有力になる。

 ガグン迷宮はヴァルト獣公国にあるから、俺にとっても縁があると言えるし、2年前に迷宮氾濫でとんでもない質と量を吐き出してるからな。

 まあだからこそ、あと数年は大丈夫だろうっていう予想もあるんだが。

 逆に後回しでも大丈夫だと予想されるのは、ガリア迷宮とテメラリオ迷宮だ。

 この2つの迷宮ダンジョンに入るハンターは多く、特にガリア迷宮は低階層で人気の素材が手に入るそうだから、常に多くのハンターで賑わっているらしい。

 テメラリオ迷宮も人気ではあるんだが、テメラリオ大空壁に終焉種ワルキューレ・エンプレスをはじめとしたワルキューレ達が棲み着いているため、新規で挑むハンターは少ないって聞くな。

 国際会議サミットの議題に挙がった残り2つのエニグマ迷宮とマルドッソ迷宮だが、エニグマ迷宮は近場を棲み処にしていた終焉種ニーズヘッグが父さんに討伐されたこともあってか、挑むハンターはかなり増えてきている。

 エニグマ迷宮のあるエニグマ島には神金オリハルコン鉱山があるためか、エニグマ迷宮にはオリハルコン・パペットが生息しており、過去に何度か討伐されているから、神金オリハルコン狙いのハンターが増えたって感じだな。

 とは言っても武具は合金製のが出回ってるから、神金オリハルコンは自分で使うんじゃなくて換金目的が主らしいが。

 そしてマルドッソ迷宮だが、ここはバレンティア竜王国東部にある関係か、入るハンターは少ない。

 その理由は、国際会議サミットでも話題に挙がったバレンティア東部貴族が原因だ。

 なにせその東部貴族は、マルドッソ迷宮に入ったハンターから、得た素材の半分を強制徴収してるからな。

 もちろん連邦天帝国が建国されてからは完全な違法行為となってるんだが、以前は領主の裁量に任されていたこともあってか、領主は自分に忠実なドラグナーを使い、特にレベルの低いノーマルハンターを狙って素材を巻き上げていたようだ。

 当然ハンターズギルドやドラグナーズギルド、バレンティア竜王家が黙っているはずがなく、何度か監査が入り、領主も罷免されて竜王家直轄領になっているんだが、味を占めたドラグナーやハンターが裏で同様の行為を行い、さらにトレーダーも噛んでいたため、本当につい最近まで、マルドッソは無法地帯一歩手前に近い状態だった。

 本腰を入れたハンターズギルドとドラグナーズギルドによって、そういった不良ハンターやドラグナーは捕らえられ、処罰もされているんだが、事前に察知して逃げ出した連中も少なからずおり、そういった奴らが盗賊になり、バレンティアの治安を乱している。

 元ハンターや元ドラグナーってこともあって盗賊としてはレベルも高く、また狡猾でもあるから、未だ根絶できてないようだ。

 東部貴族にはそういった盗賊達を支援している連中もいるという噂があり、そのせいかバレンティア東部は盗賊の出現率も高く被害も多い。

 マルドッソの近くにも頻繁に現れており、被害も大きくなっている。

 そのため、次に迷宮氾濫が起こるとしたらマルドッソ迷宮ではないかと囁かれており、それを証明するかのように迷宮放逐されたと思われる魔物も確認されたと噂もあるぐらいだ。

 だからマルドッソ迷宮に限っては、攻略より盗賊討伐の方が優先度が高いと言えるかもしれない。

 現在ドラグナーズギルドは、盗賊討伐のための情報を集めている最中で、同時に支援している貴族達の内定も行っている最中だそうだ。


 マルドッソはバレンティア竜王国にあるため、アミスターの天爵である俺が出張るには相応の理由が必要になる。

 ハンターとしても、依頼を出してもらわないといけない。

 マルドッソ迷宮の攻略ぐらいなら構わないと思うが、付随する問題が国際問題になりかねないから、できれば避けたい問題でもある。

 なので申し訳ないが、マルドッソ迷宮は盗賊の件が片付いてからにしようと思う。


 っていうのが、みんなで話し合って決まったことだ。

 そして俺達が入ることにした迷宮ダンジョンは、様々な情報を総合した結果、ガリア迷宮になった。


「人気のある迷宮ダンジョンだけど、けっこう深いからね。迷宮放逐も起こしてはいないけど、それでも早期攻略が望ましいわ」

「確か32階層まで確認されているんでしたよね」

「ええ。そこで種類は忘れたけど、サウルスの群れが生息していることが確認されたから、そこで止まってるの」

「ああ、確かそれはプテラノドンだったはずだ。と言っても上位種がメインで、それを希少種が率いていたんじゃなかったかな」


 ガリア迷宮の攻略が止まっていた理由は、第32階層でプテラノドン種の上位種と希少種が群れで確認され、実際に襲い掛かってきたからだ。

 プテラノドンはS-Nランクモンスターだから、上位種ステルンベルギはG-Uランク、希少種アエロティタンはP-Rランクになる。

 そのプテラノドンとステルンベルギが20匹以上の群れとなり、アエロティタンに率いられて来たらしい。

 確認したのはいくつかのハンターズレイドが協力しあったアライアンスだが、瞬時に撤退を決断し、エスケーピングを使って離脱したそうだ。

 そのアライアンスが行われたのは、今から20年近くも前で、俺の知り合いも何人か参加していたから、詳細を聞いたことがある。


「当時はエンシェントクラスもいなくて、合金も無かったから、そんな数のプテラノドンの相手なんて無理だものね」

「今は合金もあるし、エンシェントクラスも多いから、レイドやユニオンによっては十分先に進めたと思うけど、なんで誰も攻略を進めてなかったんだろ?」

「ガリア迷宮は人気だから、迷宮氾濫も迷宮放逐も起こる可能性は低いのよ。だからエンシェントハンターは、危険度の高い地域の調査や迷宮ダンジョンの攻略を優先していたの」

「そうなんだ」


 アテナの疑問に答えたマナの言う通り、他の未攻略迷宮ダンジョンの傾向から判断すると、ガリア迷宮が迷宮氾濫や迷宮放逐を起こす可能性は、皆無に近いと言ってもいい。

 その理由として、第8階層までに生息している魔物でも、暮らしていくには十分な稼ぎになるからだ。

 ガリア迷宮は2階層続けて似たような構成の迷宮ダンジョンだが、生息している魔物もあまり変化が無い。

 それでいてIランクやCランクモンスターまでしか生息していないから、ルーキー・ハンターにとっても事故が起こりにくく、低階層に限っては初心者向けと言ってもいいかもしれない。

 もちろん油断は命取りだが、実際にガリアにいるルーキー・ハンターの数は、フロートに次ぐとまで言われている。


「だからっていうワケじゃないけど、クレスト・プロテクターコートも完成したし、時期的には丁度良かったかもしれないわね」

「だねぇ」

「予備武器として短剣と、ルディアにはナックルダスターも装備させてるから、使い勝手をしっかりと確認しないとだけどな」


 プリムとアテナの言うように、新装備クレスト・プロテクターコートもこのタイミングで完成している。

 基本デザインはクレスト・ディフェンダーコートと同じだが、細部はマイナーチェンジが加えられていて、基本素材はクラテル迷宮の守護者ガーディアンリヴァイアサンをメインに、ニーズヘッグやハヌマーンといった終焉種やO-Cランクドラグーンの素材、それから王絹布なども使って仕立てられた。

 天魔石の代わりに魔法を付与させた宝石もあしらっているし、装甲は日緋色銀ヒヒイロカネ製だから、防御力は段違いに上がっている。

 共通装備として利き腕の反対側にミラー・シースというミラーリングを付与した短剣用の鞘を備え付けてあるし、収められている短剣も日緋色銀ヒヒイロカネ製だ。


 個別装備としては、俺とリカさん、ミーナのガントレットはシールディングを使えるように小型の盾のような意匠が盛り込まれ、プリム、マナ、ヒルデ、アテナの左腕用ガントレットにはシールディングの付与をさせてあるし、ルディアの両腰にはアクセサリーっぽい加工を施した、予備武器となる日緋色銀ヒヒイロカネ製のナックルダスターが付けられている。

 ルディアのフレア・グラップルは、けっこう嵩張るから閉所では使いにくいため、そういった事態に備えての予備武器でもある。

 フラムの腰裏にはミラーリング10倍付与の大容量矢筒ミラー・クイバーを下げられるようになっていて、さらに収納されている矢は全て日緋色銀ヒヒイロカネと桜樹、M-Cランクモンスター ルドラ・ファウルの羽根、念動魔法を付与させたアンバーを使った特注品で、フラムとレベッカそれぞれに50本ずつ用意した。

 フレアライト・アローと名付けられたこの矢は使い捨てではなく、付与させた念動魔法を使うことで容易に回収できるようになっている。

 とはいえ、念動魔法の射程距離は300メートルが限界だから、長距離狙撃に使った場合は自力で回収するか、最悪回収できなくなるんだが。

 そしてユーリ、リディア、アリア、真子さんは、右腕にも日緋色銀ヒヒイロカネ製の短剣を収めたミラー・シースを備え付けた。


 完成したのは俺や嫁さん達の分だけで、他のみんなの分は今も製作中だ。

 優先度としては、俺達に同行することが多いエオスが最優先で、次いでルーカスとライラ、ラウス達学生組、最後がエド達とバトラーだな。

 まあミーナとライラは臨月だから、試着は出産後の予定だったりするんだが。


 とはいえ、完成したのは実は昨日だから、まだ試着と最終調整が終わったばかりだったりする。

 だから近いうちに時間を作って、実戦での使用感を確かめてみないといけない。

 仕立ててくれたマリーナとフィーナの腕はよく知ってるし、試着の時点でも特に大きな問題は無かったから、大丈夫だとは思うけどな。

 実際、着心地は良かったし。


 だけど俺としては、グラーディア大陸進軍までに完成すればいいかなと思ってたから、この時期の完成は非常にありがたい。

 武器は既に、日緋色銀ヒヒイロカネ製の物を使ってるから、これで防具も、最高峰の物が完成したことになる。

 グラーディア大陸への進軍は夏の予定だから、最低限の準備は整った。

 あとは俺が、俺達が強くなるだけだ。

 そのためには迷宮ダンジョンに入るのが手っ取り早いから、ガリア迷宮だけじゃなく、できれば他にもいくつか攻略、もしくはクラテル迷宮の深層に行っておきたい。

 神帝には借りがあるし、何よりあいつは俺の世界の犯罪者なんだから、責任を取るという意味でも、俺が討ちたいしな。

 天爵としての仕事や奥さん達の補佐もあるけど、時間は何とか作るつもりだし、みんなも協力してくれている。

 だから俺は強くなって、必ず神帝を討つ。

 そのためにはまず、フレイドランシア天爵領の開発かな。

 本当は10月ぐらいから始めたかったんだが、準備に手間取ってしまって始まるのは年が明けてからになる。

 既にトレーダーやクラフターはもちろん、プリスターも動き出している。

 ラピスラズライト天爵領やフォールハイト伯爵領の開発は神帝討伐後で、フレイドランシア天爵領の開発がある程度進んでからの予定だから、今は詳細を詰めている段階だ。

 フィリアス大陸発展のためでもあるし、サキをはじめとした子供達のためでもあるから、そっちも頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る