小島の開発計画

Side・マナ


 大和と真子が刻印神器を使ってブライン山脈を両断した翌日、私達はオルデン島へやってきた。

 何度か来てるけど、今までは軽く調査した程度でしかないから、今日は本格的な調査を行う予定よ。

 事前にしておきなさいよって話だけど、終焉種がいないことは確認できていたし、迷宮ダンジョンでもない限り開発に支障はでないだろうと考えられたから、後回しになってたのよね。

 だから今日は、オルデン島はもちろん、2つの小島もしっかりと調査する予定よ。

 小島の方は名前が無いから、それも付けないといけないわね。


「小島の名前なぁ」

「建設する町の名前もあるし、悩むわよね」

「領主の仕事だって言われてるし、俺が考えないとなんだよな?」

「そりゃね。案ぐらいは出すけど、決定権があるのは大和よ」


 ラピスラズライト天爵領の開発が始まったら私も同じことをしないといけないけど、ここはフレイドランシア天爵領だから、真子の言う通り名前の候補を考えるのは手伝うけど、最終決定を下すのは大和しかいない。

 まあ、焦って考えなくてもいいと思うけどね。

 調査をして、その結果や開発予定の施設や設備の名称を付けるっていう手もあるだろうから。


「ああ、その方がいいか。とはいえ街の名前は、先に考えとかないとだよな?」

「そりゃね」


 オルデン島に建設する街はフレイドランシア天爵領唯一の街であり、しかも領都でもあるから、建設前だろうと名前は必須。

 でも早い方がいいのは間違いないけど、焦って変な名前を付けないようにした方がいいわよ。


「確かにそうか。じゃあしっかりと考えておくよ」

「私達は頑張ってね、としか言えないけどね」

「ああ。じゃあ行くか。といってもオルデン島は何度か来てるから、先に小島の方から行こう」


 領都の名前にかんしては、案も含めて大和が考えないといけないから、私達に出来ることは無かったりする。

 それに今は調査が優先だし、小島は一度も調査したことが無いから、大和の言う通り小島から調査っていうのは私も賛成。

 大きな小島の方は標高600メートル程の山があるけど、それ以外は平地が広がっていて、小さい小島は小高い丘に池を囲むように森が広がっている。

 森はそこそこの広さがあるようだし、池もそれなりに大きいから、まずは大きい方の小島から調査した方が早く終わるでしょう。

 みんなも賛成してくれたから、私達は大きい方の小島へ上陸することにした。


 大きい方の小島は基本平地だから、見通しは良い。

 だけど小さな島だし、オルデン島までも数百メートル程だから、生息しているのは基本的に空を飛べる魔物ばかりだった。

 Tランクモンスターも確認できたけど、多かったのはBランクのアクア・ロックとエアー・スネークだったわ。


 ところがその島に上陸し、魔物を狩りながら山の麓に向かっていたんだけど、その山の麓に到達した瞬間、大和がガックリと膝をつくことになってしまった。

 うん、気持ちは分かるわ。


「なんであるのかしらねぇ」

「悪いことじゃないと思うけど、構成次第かしら?」

「なんにせよ、早めに攻略しないといけないですね」


 私達の目の前には、見慣れた神殿風の建築物が立っていた。

 うん、迷宮ダンジョンがあったのよ。

 どんな迷宮ダンジョンなのかは分からないけど、迷宮ダンジョンがあること自体は悪い事じゃない。

 だけど未攻略の迷宮ダンジョンは迷宮氾濫や迷宮放逐を起こすことがあるし、それが小さな島の上でっていうことになると、街どころか村すら作れないかもしれない。

 ましてや大和は、この大きな小島の環境を見て農地や放牧地を作ろうと考えてたから、その考えを見直さないといけなくなってしまったのよ。

 そう思っていたら、スッと大和が立ち上がり、ウイングビット・リベレーターを生成しだした。


「待ちなさいよ。何するつもりなの?」

迷宮核ダンジョンコアの破壊ですが?」

「さも当然のように言ってるんじゃないわよ。迷宮ダンジョンがあるってことはそれだけで領地が潤うってことなんだから、破壊なんて論外でしょうに」


 真子が念動魔法や風の刻印術を使って大和を止めてるけど、言ってることは至極もっともで、私としても羨ましいと思える。

 領地に迷宮ダンジョンがないユーリやリカだって、同じことを思うでしょうね。


「ぐ、それはそうなんだが……」

「大和さんの構想だと、こちらの島に農地や放牧地を作り、あちらの島に学園をということでしたけど、逆にしてしまえばいいのでは?」

「どうせあっちの森は伐採予定だったんだし、むしろ池がある分農地としてはあっちの小島の方が適してるんじゃないかな?」


 リディアとルディアも大和を宥めてるけど、私も同感ね。

 特にルディアの言うように、こちらの島に池は無いから、池があるあちらの島の方が農地にしろ放牧地にしろ、適してるのは間違いないわ。

 水は魔導具でなんとかできるけど、それでも費用が嵩むからね。


「あー、確かにそうか。悪い、まさか迷宮ダンジョンなんてもんがあるとは思ってなかったから、ちょっと取り乱した」

「まあ、確かに予想外ではあるわよね」

「ですね。ですがどんな迷宮ダンジョンなのかは気になりますから、少しだけ入ってみませんか?」

「あ、確かにね。お兄様やハンターズギルドにも報告しないとだし、ちょっとだけでも入ってみましょう」

「だな」


 迷宮ダンジョンが見つかった以上、ハンターズギルドへの報告はハンターとしての義務になるし、お兄様への報告は領主としての義務になる。

 国にとってもハンターズギルドにとっても、新たな資源が生まれたようなものだから、調査や管理の優先度は高い。

 手に入れられる魔物素材はもちろん、資金源にもなるんだからね。

 もちろん迷宮ダンジョン次第ではあるけど。

 それを確認するためには、ミーナの言うように中に入るしかないんだけど、それを差し引いてもハンターなら興味を引くわ。

 いったいどんな階層構成で、どんな魔物が生息してるのかしらね?

 楽しみだわ。


Side・大和


 フレイドランシア天爵領開発のためにオルデン島にやってきて、その隣にある大きい方の小島に足を踏み入れたまでは良かったんだが、まさか山の麓に迷宮ダンジョンがあるとは思わなかった。

 こっちの島は平地が多いから、俺としては農地や牧草地として整備して、場合によっては入り江や水棲魔物の育成地にしてもいいかもしれないと考えてたんだよ。

 ところが迷宮ダンジョンがあったということは、そのプランはオジャンになってしまう。

 なにせ迷宮ダンジョンがあるってことはハンターがやってくるってことだし、治安維持のためにオーダーも常駐することになる。

 さらに迷宮ダンジョンの規模や難易度によっては、多くのハンターが滞在する可能性もあるから、場合によっては宿や食事処、武具店なんかも必要になるかもしれない。

 そうなってしまうと牧草地どころか農場すら作れなくなるだろうから、当初の計画を大幅に変更することになってしまう。

 だから迷宮核ダンジョンコアを破壊してまっさらな土地にしてしまおうという邪心が芽生えてしまったんだが、真子さんに止められた上にみんなから言い含められることになってしまった。

 俺としても早まった行為をするところだったから、止めてくれて素直に感謝だ。


 それはそれとして、どんな迷宮ダンジョンなのかが分からないと開発も進められないから、少しだけだが中に入ってみることにしてみた。


「まずは草原かぁ」

「遠くに山も見えるし、この小島の環境そのままと言った方がいいかもしれないわよ」


 ルディアとリディアの言うように、第1階層はこの迷宮ダンジョンのある小島とほとんど同じ環境だった。

 違いは、周囲に海があるかどうかぐらいか。


「どれぐらいの広さがあるかは分からないけど、地上と同じような環境だとしたら、そこまで広くはないってことかしら?」

「マッピングを見る限りじゃ、そんなに広くなさそうではありますね」


 狩人魔法ハンターズマジックマッピングは迷宮ダンジョン内の地図を記録する魔法で、奏上魔法デヴォートマジックステータリングと連動させることで、オペレーターと呼ばれる操作盤兼タッチパネルみたいなもんで空中に表示させることが出来る。

 ステータリングは俺が奏上した魔法だが、長距離転移魔法トラベリングで転移できる町や村、工芸魔法クラフターズマジックカラーリングで使うカラーパターンなんかも登録、使用が出来るから、使い勝手はかなり良い。

 そして実はマッピングにも恩恵があって、階層の広さだけなら初めての迷宮ダンジョン、初めての階層でも分かるようになっていたりする。

 もちろん拡大や縮小も出来るから凡そでしかないんだが、それでも広さが推測できるっていうのは、調査をする身としては非常にありがたい。


「ともかく、先に進んでみよう。できれば第2階層も見てみたいし」

「そうね。しばらくは徒歩で進んで、その後は飛んで移動しましょうか」

「だな」


 今日は迷宮ダンジョンに入る予定は無かったが、天樹製多機能獣車はインベントリに入ってるし、車獣も俺のジェイドやフラムのフロウ、マナのスピカと真子さんの楓を召喚すれば解決する。

 だが本格的な調査って訳でもないから、今回は獣車は使わず、徒歩後飛行で移動することになった。

 下手に獣車を使うよりその方が早いっていうのも、進化した弊害って言えるかもしれないな。


 そのまま20分ほど進むと、最初の魔物が現れた。


「こいつらかよ……」

「こうきたか~」


 現れたのはT-Nランクモンスター スライムである。

 倒しても水属性の魔石しか採れず、Tランクということでレベル1の子供でも簡単に倒せてしまう、ヘリオスオーブ最弱の魔物だ。

 しかもお襲い掛かってきた訳じゃなく、たまたま俺達の前を横切ろうとしていただけで、むしろ俺達の姿を確認した瞬間逃げ出したぐらいだ。


「さすがに追いかけてまで倒す必要性は感じられないわね」

「高ランクならともかく、Tランクだしね」

「だね。あ、あっちにもいるよ。あれは……ブリンク?」

「カファー・ブリンクとカカオ・ブリンクね。実入りもだけど、フレイドランシア天爵領にとっても益のある魔物だわ」


 だな。

 ブリンク種もTランクモンスターだが、こいつらは植物型の魔物になる。

 名前が示すように、コーヒーやカカオや大豆やらの豆類を採取できるから、豊かな食生活を送る上で欠かせない魔物だ。

 攻撃手段は豆を飛ばしてくる他に蔦なんかを伸ばしてくるぐらいだが、Tランクモンスターのこいつらの攻撃力は、子供の駄々っ子パンチより低い。

 上位種や希少種になればさすがに攻撃力は跳ね上がるが、同時に豆の質が上がるから、高ランクハンターでも見かけたら積極的に狩る魔物でもあるな。

 召喚契約を結んでいるクラフターやトレーダーもいて、特にフロートにある有名喫茶店の経営者は異常種になるB-Iランクモンスター トゥルースウィート・ブリンクとトゥルービター・ブリンクに進化させることに成功しているため、俺達も何度か足を運んだし、ラインハルト陛下達も狩りの帰りには必ず立ち寄っているぐらいだ。


「ブリンクか。契約したいとは思ってるんだけど、どうしてもできないのよねぇ」

「私達を見たら、向こうが逃げていきますからね。無理やり捕まえても逃げようとするばかりか気絶する個体もいるから、どうしようもないし」


 異常種の豆を使ったスウィーツはかなり美味いから、マナや真子さんはカカオ・ブリンクと召喚契約を結ぼうと考えたことがある。

 だがTランクモンスターでしかないカカオ・ブリンクは、2人の姿を見るや一目散に逃げ出すし、捕まえて召喚契約を持ちかけようとしても、必死で逃げようとするばかりか気絶する個体まで出てくる始末だった。

 当時はエンシェントクラスだった2人だが、魔力がデカすぎるからブリンクが恐れてしまい、契約が出来ないんだろう。

 実際、他のTランクモンスターも同じだったから、マナも真子さんもカカオ・ブリンクとの召喚契約は泣く泣く諦めてたな。


「ま、まあカカオ・ブリンクやカファー・ブリンクがいるなら、ソイ・ブリンクやビーンズ・ブリンクもいるかもしれませんから、フレイドランシア天爵領にとっては朗報じゃありませんか?」

「そ、そうですね。それに上位種や希少種だって生まれてくるかもしれませんから、お2人も契約できるかもしれませんし」


 少し沈んだ雰囲気を出すマナと真子さんに、ミーナとフラムが慰めの言葉を掛ける。

 確かにその可能性が無い訳じゃないが、そいつらはハンターにとっては金蔓でしかないから、発見即討伐っていうのがパターンになってるんだよなぁ。

 希少種辺りまでなら生け捕りができない訳じゃないが、高級品とは言っても採れるのは土属性の魔石と豆各種ぐらいだから、買取額はしれている。

 生け捕りはリスクが高いから報酬は高額にせざるを得ないし、それでいてリターンが十分かどうかは依頼を出す側も受ける側も微妙というかマイナスになりかねないしな。

 だからこそ2人も、捕縛依頼を出してない訳だし。

 俺としても、できれば出てきてもらいたいんだが、現実的には難しいと言わざるを得ない。

 だが食い物のことだから、できれば俺としても出てきてもらいたいもんだ。

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