天帝の迷宮対応
Side・ラインハルト
先程登城し、バリエ迷宮の攻略報告をグランド・オーダーズマスター レックスから受けた私だが、予想外の結果に驚くしかなかった。
全18階層で、
この情報を見る限りでは、フロート迷宮に並ぶ低難易度
Gランクダンジョンは、ハイクラスを有するレイドやユニオンが攻略すれば一流認定を受けるランクでもあるため、難易度は低くもなく高くもないといった塩梅だろうか。
私もエンシェントクラスだからこそ言える訳だが、実際エンシェントクラスとハイクラスの戦力差を鑑みれば、ある意味では止む無しだと思う。
フロート迷宮がCランク
もっとも攻略されたばかりでもあるから、今後はランクが下がることも考えられるのだが。
そのバリエ迷宮の詳細で何より驚いたのは、最深層に生息しているパペット種の存在だ。
オリハルコンをはじめとする鉱石系統はもちろん、コランダムやジュエルの宝石系統種まで、しかもそれなりの数がいたという。
上位種のドールや、一部は希少種のゴーレムまでいたというから、最深層は下手な宝石鉱山より実入りの良い狩場になるぞ。
バリエ迷宮のあるバリエ山脈一帯はフォールハイト伯爵家に下賜予定だが、バリエ山脈にも何かしらの鉱脈がある可能性もあるから、息子が初代領主となるレックスも喜びを隠しきれていない。
私としてもかなりの税収が見込めるのだから、フォールハイト伯爵領の開発は優遇してもいいと考えてしまう。
既に旧レティセンシア地方の区分けは完了しており、ラピスラズライト天爵家、フォールハイト伯爵家以外の領主となる貴族家も内定しているのだが、その数は20を超えているため、フォールハイト伯爵家だけを優遇する訳にはいかないのだが。
報告の際、レックスからバリエ迷宮の
魔石はここ数年、大和君達が献上してくれているために膨大な数となっており、宝物庫だけでは収めきれなくなってしまった。
そのため新しく、魔石専用の宝物庫が作られることになった。
それが魔石庫で、Tランクを含む多くの魔物の魔石が安置されている。
最も貴重なのは終焉種の魔石だが、この魔石はMARSを使用した研究に使うためにスカラーズギルドに貸し出すこともある。
MARSがあるのは、アミスター国内ではメモリアのみなので、貸し出すにしても信用ある者に運んでもらわなければならない。
今までは大和君やマナ達ウイング・クレストに頼んでいたのだが、彼らも暇ではない。
だから天樹城内でも使用できるよう、MARSを1台融通してもらうことにした。
MARSを用意できるのも大和君達だけだから非常に心苦しいが、運搬の手間やリスクを鑑みればこの方がいい。
もっともそのMARSは、クラテル迷宮やバリエ迷宮攻略の影響を受けて、まだ完成していないのだが。
クラテル迷宮で複数のOランクモンスターを狩れたことで、MARSにもOランクの魔石を使うことが可能になった。
今はその調整を行っていると言っていたな。
話が反れたが、レックスとミューズは3日後からオーダーズギルドに復帰することになり、今日はフォールハイト伯爵邸に帰っていった。
子供達も生まれたばかりだし、ゆっくりと体を休めてもらうべきだろう。
オーダーズギルドも、ミランダが新たにナンバー2のコンフォーム・オーダーズマスターとなり、ナンバー3となるアソシエイト・オーダーズマスターも任命を済ませてあるから、レックスがいなくとも余程のことがなければ対処は可能だ。
それで思い出したが、確かその余程のことになる迷宮氾濫を起こしたガグン迷宮について、報告が上がってきていたな。
報告書は……これか。
「これは……」
「どうしたの、ライ?」
思わず声を上げてしまったが、執務の補佐をしてくれているエリスにも聞こえてしまったか。
「すまない。いや、ガグン迷宮に関する報告書に目を通していたんだが、想定していたよりマズい状況かもしれなくてな」
「想定より?確かガグン迷宮って、迷宮氾濫以降はランサーも入るようになったし、場所がヴァルト獣公国ということもあって、ハンターも徐々に増えてきてたはずでしょう?」
エリスの言う通り、約2年前に起こったガグン迷宮、並びに旧ソレムネ地方にあるラオフェン迷宮の迷宮氾濫は、大和君達ウイング・クレストを中心としたエンシェントハンターの協力を得て無事に鎮圧している。
迷宮氾濫の原因は、中に人が入らないために魔物の数が増え、
ガグン迷宮はバリエンテ内乱の影響で入るハンターが減ってしまったことが原因で、ラオフェン迷宮に至ってはソレムネ兵ですら入ることがなかったため、それぞれ迷宮放逐を経て迷宮氾濫を起こしてしまったと結論付けられた。
ラオフェン迷宮は立地的に早期攻略が望まれ攻略も済んでいるが、ガグン迷宮はハンターの予定がつかず、また強力な魔物を放出したばかりということもあって、しばらくは様子見ということになっている。
だが放置は論外なので、ランサーズギルドが人を派遣し調査を兼ねて戦闘訓練を行うようになり、ハンターズギルドも迷宮氾濫が解決したことを積極的に喧伝し、入るハンターを招き入れることに成功したと聞く。
にもかかわらず、ガグン迷宮では今大きな問題が起こっていた。
「いや、ハンターが問題を起こしていたり、ランサーとの間に諍いが起きていたりとかではないんだ。先日グランド・ランサーズマスターが部下を率いて調査を行ったそうなんだが、そこで第26階層までは進むことができたとある」
「へえ、第26階層まで進めたのね。さすがはグランド・ランサーズマスターだわ。だけど、それのどこが問題なの?」
「第26階層は山岳階層らしいんだが、MランクどころかAランクモンスターまで出てきたらしい。Mランクモンスターは第25階層にも生息していたが、どうやらそこから一気に増えたらしいとある」
「それは……」
ガグン迷宮第25階層にはシャドー・ハイドというヴァイパー種のM-Cランクモンスターがいたそうだが、他種は確認できなかったと報告書にはある。
第25階層の全てを見て回った訳では無いので、いないと断定することはできないが、それでもマップは半分以上埋められているそうだから、生息している魔物の分布から考えるとその可能性は低い。
だが第26階層には、シャドー・ハイドどころかM-Iランクのクリフ・パンサー、更にはサウルス種まで生息しており、その上になるAランク種まで闊歩していたそうだ。
迷宮氾濫の際、ガグン迷宮から溢れた魔物はMランクやAランクも多かったため、生息していることは分かっていたのだが、たった1階層進んだだけでここまで増えるというのは、他の
さらに面倒なことに、第26階層まででは確認できなかった氾濫種もいるため、まだ先があることも確定している。
「無論、第27階層にはAランクが生息していない可能性もあるが、それでもハイクラス主体のランサーでは先に進むのは厳しいため、撤退を選択したとある」
「第26階層を少し調査しただけでそれだけの魔物を発見したんだから、それは当然の判断でしょう。というかハンターでも撤退するわよ、それは」
私も全く同感だ。
合金のおかげで、ハイクラスであってもMランクモンスターまでなら、数人がかりになるが倒せないことはない。
だがAランクモンスターとなると、合金製の武器を持っていたとしても、数人程度では相手にもならない。
数十人で取り囲み、それでも犠牲を強いることを前提としなければ、ハイクラスのみでAランクモンスターの討伐は叶わないだろう。
そんなAランクモンスターが複数体確認された以上、エンシェントクラスのグランド・ランサーズマスターが同行していたとしても、先に進むのは自殺行為に近いと言える。
第26階層より先に進むとしたら、最低でもエンシェントクラスが数人は必要と考えるべきだ。
「それも厄介だけど、こっちの報告書も面倒よ」
そちらの報告書?
エリスが目を通しているのも報告書のようだが、いったい何の報告書だ?
「こっちはバレンティアからよ。マルドッソ迷宮に、氾濫の兆しがあるみたいね」
「なんだと?」
記憶の糸を辿ってマルドッソについて思い起こしてみると、確かバレンティアの東部地方に位置する町で、アミスター・フィリアス連邦天帝国建国の際に領主が処断された地域ではなかっただろうか?
「それであってるみたいね。ただその後に任命した領主が、どうやら利己主義の無能だったみたい。それで重税を科した上で
私はエリスが報告を聞くと、思わず頭を抱えてしまった。
なんだ、その杜撰な顛末は。
数年前のフィールに近い状況のようだが、陸路は封鎖されていないのだから、マルドッソを出ていったハンターが報告をすれば、簡単に判明するだろうに。
「あと発覚が遅れた理由の1つに、領主の私兵やガラの悪いハンターを抱き込んで
それもそれで問題だが、気付けない方も問題だろう。
ただ以前のバレンティアは貴族の力も強く、それでいて陰湿だったと聞いているし、特にこんな事は東部では当たり前だったとも言われている。
連邦天帝国が樹立されたとはいえ、まだ2年程しか経っていないし、更に領主が前任者に近い無能者だったとなれば、気付くのが遅れても仕方ないとも言えるかもしれない。
その結果迷宮氾濫の兆しが現れたとなれば、本末転倒でしかないが。
「バレンティアとしては、どう対処するか言ってきてるか?」
「ドラグナーズギルドはグランド・ドラグナーズマスターを筆頭に、ハイドラグナーをいつでも派遣できるよう準備を整えたそうよ。ただマルドッソ迷宮はMランクモンスターも確認されている
エンシェントドラグナーはグランド・ドラグナーズマスターしかいないのだから、それは当然だな。
領主が無能だとしても、民には何の関係ないどころかむしろ被害者だ。
そんな民達に犠牲を強いるなど、無能どころか暗愚でしかない。
だから竜王も、メンツに拘らずにオーダーズギルドに援軍を要請しているのだろう。
「それは了解した。後でミランダに話を通しておく」
コンフォーム・オーダーズマスター ミランダはガグン迷宮の氾濫時に、ミステルまで援軍に行った経験がある。
彼女を指揮官に任命し、エンシェントオーダー5名を中心に計50名程の部隊を編成して派遣すれば、規模にもよるが対処は出来るだろう。
仮に対処不可能な場合、ミランダであれば伝令を寄越してくるから、増援を送ることも容易となる。
そちらも念のため編成させておいて、しばらくは待機させておくべきか。
場合によっては、私が出向くことも考慮しておこう。
最近は執務ばかりで、ロクに狩りも行けていないからではない。
断じてないぞ。
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