第二十一章・竜王国動乱

迷宮実習の予定

Side・マナ


 今日7月14日は、大和がヘリオスオーブに来て丁度3年になる日。

 記念日とは少し違うけど、大和本人はそう認識しちゃってるのが困りものね。

 だからといって祝ったりするのも違うから、特に何かするワケじゃないけど。


 祝うと言えば、丁度2ヶ月前にミーナとライラ、それからヴァルトのネージュ陛下が妊娠したことが判明したわ。

 ミーナとライラはそれぞれ妊娠4ヶ月、ネージュ陛下は妊娠3ヶ月だけど、特にネージュ陛下の妊娠はヴァルト獣公国待望の跡取りってことになるから、ヴァルト国内は凄い騒ぎになったわね。

 だけど一番喜んでいたのは、現在公妹という立場にいるプリムよ。

 公太子にはなっていないけど、それでもプリムはヴァルト獣公位継承権一位っていう立場でもあるから、ネージュ陛下に子が生まれなかったら次期ヴァルト獣公として即位する可能性もあったし、娘のツバキもそれは同じ。

 だから本当に喜んでるのよ。


 ミーナが妊娠したことも喜ばしいんだけど、今の時点で妊娠4ヶ月ということは、クラテル迷宮の攻略に向かった時点で妊娠2ヶ月だったっていうことになるから、大和はミーナの体調をしつこいぐらい真子やアプリコット様に尋ねていたぐらいよ。

 あんまりしつこいから、逆に負担になるって真子にすっごく怒られてもいたけど。


 そしてライラの妊娠は、ルーカスにとっても第一子ということになるから、こちらは喜びよりも戸惑いの方が大きかったみたいね。

 ただこのタイミングで、ルーカスは3人目の奥さんと結婚っていう話も出ていたりする。

 お相手は総本部所属のSランクオーダーで、ルーカスよりライラと仲が良いって聞いてるわ。

 名前はミカルナといって、年齢は23歳、レベル45のハイドラゴニュートよ。

 去年行われたイデアル連山での実戦訓練の際、クラウディスピアっていうM-Cランクモンスターから逃げる際にはぐれてしまって、あわやというところでルーカスに助けられたのが出会いなんですって。

 クラウディスピアはエアー・スネークの災害種だけど、目撃例は迷宮(ダンジョン)しかなかった。

 だけどエアー・スネークやS-Uランクのスカイ・スネーク、G-Rランクのスカイ・サーペントはイデアル連山に生息しているから、それが神帝の魔力で進化していたってことだと思うわ。

 オーダーは月に数度の頻度でイデアル連山で戦闘訓練を行ってるけど、クラウディスピアはかなり大きな魔物だから、最近進化したってことでもあると思うけど。

 そのミカルナとルーカスの結婚はライラが安定期に入ってからってことになって、同時にルーカスの部下っていう扱いになるはず。

 多分ミカルナもノーブル・オーダーになるんじゃないかと思うけど、こればっかりはお兄様やグランド・オーダーズマスター レックス次第だから、何とも言えないわ。


 メモリア総合学園も、新1年生達の授業は順調みたいだし、2年生になっているラウス達のギルド授業も評判がいいと聞く。

 特に騎士・狩人学科は、月に1度はフロート迷宮で実習を行ってるらしく、多くの学生が順調にレベルを上げているみたい。

 だけどフロート迷宮は第11階層から第14階層までは獣車が使えないから、別の迷宮に行くことも提案されているらしいわ。

 フロート迷宮近隣、というかメモリア近辺となると、一番近いのはクリスタロス伯爵領にあるソリア迷宮になるけど、あそこはまだ攻略されておらず、それどころか第16階層以降の詳細は分かっていなかったはず。

 構成的に2階層続けて似た階層が続いてるから、30階層近くあるだろうと予想はされているんだけど、第15階層は屋内迷路階層で、更にアンデッドが蔓延ってるから、好んで調査をしようというハンターはいない。

 それでも第13階層まではGランクモンスターも出てこないし、第14階層でも1,2匹ぐらいっていう話だから、学生達の実習にはうってつけな気もする。

 でも未攻略迷宮ダンジョンだから油断はできないし、何かの拍子で魔物が溢れる危険性もあるから、もし本当に学園の実習で使うつもりなら、早めに攻略しておいた方がいいとも思うわ。

 私達が行ってもいいんだけど、クラテル迷宮にバリエ迷宮を立て続けに攻略しているし、何よりこれ以上は領地予定地開発に多大な支障を来すから、誰か別のハンターに任せるしかないのが残念ね。


「え?ソリア迷宮って攻略されたの?」

「はい。先日フューリアス・レディースの方々が、リリー・ウィッシュやスター・ウインドの皆さんと合同で」


 そう思っていたら既にソリア迷宮が攻略されていて驚いたけど、攻略者の名前を聞いて思わず頭を抱えてしまった。

 フューリアス・レディースっていうのはサユリおばあ様、ヒルデ姉様の曾祖母でトラレンシア最強戦力の一角のセルティナ様、そして次期グランド・ハンターズマスターでアレグリア在住のヒトミ様の3人のユニオンになる。

 3人とも同世代で、しかもヒトミ様は客人(まれびと)シンイチ・ミブ様の子孫でもあるから、サユリおばあ様とは頻繁に連絡を取り合っている仲でもあるの。

 そんな3人がエンシェントクラスに進化してトラベリングまで習得したものだから、今までは手紙を送り合うだけだったのが直接会うようになり、それからレイドを組もうっていう話になったらしいわ。

 サユリおばあ様なんて、そのためにハンターズギルドに登録までしたぐらいよ。

 さすがに100歳を超えてからのハンター登録は、ハンターズギルドとしても初めてのことだったらしいんだけど、サユリおばあ様は大和がヘリオスオーブに来るまではアミスター最高レベル保持者でもあったし、今ではエンシェントヒューマンに進化しているから、登録には何の問題もなかったみたい。

 まあサユリおばあ様はハンター登録して1ヶ月ちょっとらしいから、まだA-Cランクらしいけどさ。

 それにしても、巻き込まれたリリー・ウィッシュとスター・ウインドが気の毒だわ。


「リリー・ウィッシュとスター・ウインドもってことだけど、もしかしてけっこう難易度高かったの?」

「いや、確か全24階層で、道中で一番手強かったのはP-Cランクのクレストホーン・ペガサスだったらしい。で、守護者(ガーディアン)はM-Iランクのフォートレス・タートルだったんだと」


 30階層近くあると考えられてたはずなのに、階層が思ったより少なかったわね。

 それにクレストホーン・ペガサスって、バトル・ホースの災害種じゃないの。

 まあいくら災害種と言っても、エンシェントクラスなら倒すのは難しくない相手ではあるし、実際サユリおばあ様のケリで吹き飛ばされてから、ヒトミ様の大鎌で真っ二つにされたらしいけど。


「フォートレス・タートルって、ファング・タートルの異常種でしたっけ?」

「ああ。ベール湖にはいないから俺達も迷宮(ダンジョン)以外で狩ったことは無いが」


 大和の言う通り、ファング・タートルは湖畔や川辺に生息しているSランクモンスターなんだけど、ベール湖やナダル海どころかアミスター北部には生息していない。

 何度か迷宮(ダンジョン)では狩ってるけど、それでもG-Uランクのビッグファング・タートル、P-Rランクのアーマード・タートルまでで、フォートレス・タートルやA-Cランクのクラウン・フォートレスは見たことすらないわ。

 アミスター南部には生息してるけど、確かそれも一部地域だけだったはず。

 その代わりと言うか、橋公国や旧レティセンシア地方には多く生息しているわね。

 肉は不味くて食べられないけど、甲羅や牙は精力剤の素材になるから、そこそこ高値で買い取ってもらえるわよ。

 フォートレス・タートルの甲羅や牙だとより強力な精力剤になるし、噂でしかないけど子供を授かりやすくなるって言われてるから、これは競争率高そうだわ。 


「あ~、王族や貴族にとって跡取りは大切ですから、確かに子供を授かりやすくなるなら、それが噂でも手に入れたくなりますか」

「なるわね。ただフォートレス・タートルは何度か討伐されてるけど、クラウン・フォートレスは討伐されたことは無いわ」


 フォートレス・タートルを使った精力剤が子供を授かりやすいと言われてはいるけど、実際にどうなのかは分かっていない。

 ただ使った人は、ほとんどが数ヶ月以内に子供を授かっているのも間違いないから、効果があるのも間違いないでしょう。

 クラウン・フォートレスがどこにいるかは忘れたけど、エンシェントクラスが増えた今なら狩りに行くのも難しくなくなってるから、そのうち誰かが狩ってきて、それで作られた精力剤も出回りそうね。


「それはそれとして、守護者(ガーディアン)がフォートレス・タートルでそれを倒したっていうことは、フューリアス・レディースは一流レイドってことになってるはずよね?」

「多分な。まあメンバー的に誰も文句言えないし、言う奴もいないと思うけど」


 まあ、それはね。

 トラレンシア最強戦力の一角にして妖王の曾祖母、グランド・ハンターズマスターの直弟子にして客人(まれびと)の子孫、客人(まれびと)であり元アミスター王妃であり天帝の曾祖母っていう肩書まであるから、確かに文句を言ってくる輩はいないでしょうね。

 万が一いたとしても、物理的に潰されるだけでしょうし。

 そもそもサユリおばあ様はリリー・ウィッシュの、セルティナ様はスター・ウインドの師匠に当たるんだから、文句を言うなんて自殺行為でしかないわ。


「でもソリア迷宮が攻略されたという事は、総合学園の迷宮(ダンジョン)実習に使われることになるんですよね?」

「メモリア総合学園はな。ただ来年開校予定のグラシオン総合学園は、アレグリア国内は迷宮(ダンジョン)が少なくて、それでいてグラシオン近郊にはないから、どうしようかって頭を悩ませてるみたいだ」


 ソリア迷宮はPランクダンジョン認定されているけど、私は階層構成は把握していない。

 だけど第13階層までで生息してるのは、最高でもSランクモンスターみたいだし、獣車も普通に使えると聞いている。

 だから護衛に就くオーダーやハンターがいて多機能獣車で纏まって行動していれば、学生達が大怪我をするようなことはないでしょう。

 もちろん上位種や希少種は手強いし、異常種や災害種なんかが生まれてたりしたらシャレにならないけど、そのために護衛の数人はハイクラスだから、余程の事が無い限り対処は可能。

 今ならラウス達もいるしね。


「グラシオンの迷宮(ダンジョン)実習かぁ。一番近いのって……どこになるんだっけ?」

「ピエドラ島だな。確かプラジア島には迷宮(ダンジョン)が無くて、他の3つの島に1つずつっていうのが、アレグリアの迷宮(ダンジョン)事情だったと思うぞ」


 ルディアの疑問に答える大和だけど、その通りでアレグリア獣王国国内にある迷宮(ダンジョン)は3つで、攻略済みなのはピエドラ島にあるピエドラ迷宮のみだったりする。

 だけどそのピエドラ迷宮、全11階層しかない上に生息してる魔物も最高でGランクまで、極め付けは守護者(ガーディアン)がG-Iランクモンスター アイアン・ガーゴイルっていう低難易度迷宮ダンジョンだったりする。

 ハイクラスどころか装備や事前準備をしっかり整えればノーマルクラスでも攻略可能ってことで、Iランクダンジョンに認定されちゃってるわ。

 だからある意味じゃ学生向けって言えるんだけど、問題なのはグラシオンからピエドラ迷宮までの移動手段になる。

 グラシオンはアレグリアの獣都であり、一番大きなプラジア島にあるんだけど、ピエドラ迷宮はその名の通りピエドラ島にある。

 だから移動は船になるんだけど、アレグリアのあるナダル海にはGランクモンスターもけっこうな頻度で出没するし、移動中に船が襲われることもよくあったりする。

 海上戦闘はフライングやスカファルディングを使いこなせないと大変だし、水中にいる水棲種は1ランク上相当になるから、慣れていないハンターがケガをしたっていう話は毎日ハンターズギルドにもたらされるそうだし、命を落としたっていう報告も月に何度かはあるとも聞く。

 だからアレグリアが頭を悩ませてるのも、無理もない話になるわ。


「飛空艇っていう手もあるけど、今はアバリシア進攻用の大型艇が最優先、その次が王家の専用艇だから、貴族とか学園用は後回しになってるんだっけ?」

「なってますね。一応天帝家と竜王家専用艇は完成して納品済みで、今は獣王家専用艇が建造中のはず」


 確かに天帝家専用艇と竜王家専用艇は完成してるし、私も乗せてもらったことはある。

 全長50メートルを超える大型艇だけど、普段は天樹城の一角に設けられた専用ドックに格納されているわ。

 まあトラベリングを使えるお兄様が乗ることは、ほぼほぼ無いと思うけどね。

 それと、三王家の中で何故竜王家が一番最初に建造されてるのかだけど、これは国土の問題が大きいわ。

 バレンティアは三王国の中で最も国土が広く、更に荒地や起伏も多い。

 だから獣車での移動は大変なんだけど、それを考慮して竜王家が優先された形になる。

 その次は4つの島で構成されているアレグリアで、最後が降雪量や積雪量の問題で飛空艇の使用制限が多くなるトラレンシアね。


「グリシナ陛下は獣王家専用艇が間に合えば、それを使ってもいいって考えてるみたいなんだが、それだとトレーダーや鉱夫からクレームが出るだろうし、学生だから特別扱いっていうのもどうかっていう意見も出てるんだよな」

「まあ、出るでしょうね」


 難しい問題よね。

 学生は学ぶために総合学園に入学してるんだから、ある程度の便宜を図る必要は確かにある。

 だけど過剰な保護や便宜は、学園を卒業した後で問題になるでしょうし、普通に働いているギルド・レジスターと軋轢を生じさせてしまう可能性もあるわね。

 護衛を付けてる時点で、過保護だっていう意見も聞いたことがあるわ。

 だからといって学生に特権を認めるのも、大和の世界にあった少年法の悪用みたいな問題が出るに決まってるから、そっちは一切認めるつもりは無い。

 これで一応のバランスはとれてると思うんだけど、実際に事態に遭遇しないと分からないことも多いから、今みたいな問題が出てきてしまっている。

 だからやるなら、学生だけを特別扱いするんじゃなくて、他の人達にも恩恵があるようにしないとダメね。

 学生だって卒業したらそっち側になるんだから。

 難しい問題だけど、そこはしっかりと話し合って調整しないと。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あけましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

今章より週1更新となります、ご了承ください。

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