バリエ迷宮攻略開始

Side・プリム


 フロートのバトラーズギルド総本部でBランク8人、Cランク11人のバトラーと契約した翌日、大和とマナはベスティア、ドラグニア、グラシオンのバトラーズギルド本部に足を運び、新たにSランクバトラー4人、Bランクバトラー9人と契約してきた。

 すぐに契約可能なBランクバトラーが9人しかいなかったのは予想外だったけど、その代わりSランクバトラーが4人もいてくれたから助かったわ。

 フレイドランシア天爵邸とラピスラズライト天爵邸には、それぞれSランク1人をチーフにしてBランク6人を住み込みにし、残ったSランク2人とBランク5人はエスメラルダ天爵邸に配属できた。

 Cランクバトラー達も均等に振り分けたけど、この子達は通いだし、もう少し人数を雇った方がいい感じかしらね。

 新しく雇用したバトラーはウイング・クレストじゃなく天爵家との契約だから、基本的にアルカに来るようなことは無いんだけど、これでバトラーの増員は完了したと言える。


 なのでその後は、ライ兄様やレックスさん達も交えて、バリエ迷宮攻略に向けての準備に取り掛かった。

 とは言っても話し合いは1日で終わったし、レックスさんとミューズさんの留守はアソシエイト・オーダーズマスター ミランダさんに任せる事にも決まったから、それまでは普段通りの生活ね。


 そして迎えた4月26日、あたし達はバリエ迷宮に向かう。

 メンバーはあたし、大和、マナ、ヒルデ姉様、ミーナ、フラム、リディア、ルディア、アテナ、真子、マリサ、ミレイ、アリス、それからレックスさんとミューズさんの15人よ。


 あたし達は第2階層までしか確認しておらず、第1階層が山岳階層、第2階層が雪山階層ということしか知らない。

 他のハンターも好んで入ろうとはしていないけど、一応第6階層までは判明している。

 確か第3階層が草原階層、第4階層が高原階層、第5階層は湖畔階層、第6階層は中洲階層だったはずよ。

 一応第4階層からCランクモンスターが出てくるけど、第6階層まで進んでもBランクモンスターは出てこなかったみたい。

 だからといって生息してないとは言い切れないんだけど、仮に生息してたとしても数は少ないでしょうね。

 というか、第6階層まで進んでもCランクまでしか出てこないとなると、バリエ迷宮は迷宮氾濫を起こしていない、起こしていても大勢に影響を与えるような魔物は出てこなかったのかもしれないわ。

 それはそれで、別のところに別の迷宮ダンジョンがあるかもしれないってことにもなりかねないから、すっごく面倒な話になるけどね。


 旧レティセンシア地方が封鎖されてることもあって、バリエ迷宮に入るハンターはいない。

 皆無ってワケじゃないけど、現在旧レティセンシア地方への立ち入りは許可制になっていて、最低でもレイドやユニオンにハイクラスが複数在籍していることが条件になっているわ。

 迷宮氾濫で溢れた魔物もまだいると考えられているし、生態系が変わってる可能性もある。

 神帝が上陸してしまったせいで進化してしまった終焉種までいるっていう予想まであるから、ハイクラスであっても気軽に来るのは厳しい。

 それでも調査は必須だから、エンシェントハンターのいるレイドやユニオンに指名依頼を出しているのが現状ね。

 ハイクラス数人でも調査は可能だけど、想定外の事態も十分あり得るから、許可は出るけど推奨はされてないっていうが現状でもあるけど。


 幸いというか第6階層までの地図は購入済みだから、レックスさんとミューズさんにも同意してもらって、あたし達は第6階層までは飛んで移動することにした。

 レックスさんとミューズさんはウイング・バーストを使えないけど、今年になってから大和が新たに奏上した奏上魔法デヴォートマジックウイングリングを使うことで、フライングの使用を可能としている。


 ウイングリングは魔力を放出して疑似的な翼にする魔法だけど、ウイング・バーストみたいな強化効果は有していない。

 ハイクラスに進化すれば使えるし、翼を持たない種族でもフライングを使えるようになるから、ハイハンターやハイリッターによる空中戦はかなり増えてきてるって話ね。

 まあハイクラスじゃ、数分から十数分程度で魔力が尽きるみたいだけど。


 ハイクラスのマリサとミレイ、ノーマルクラスのアリスは大和が念動魔法で抱え上げて、風属性魔法ウインドマジックで防壁も展開させているんだけど、けっこうな速度で移動してるから、特にアリスは涙目になってるのが可哀そうに見えちゃうわね。

 だけどその甲斐あって、約3時間ほどで第6階層まで到達することが出来たわ。

 その第6階層も半分近く埋まってるから、1時間ちょっとで踏破出来たわよ。


「ここが第7階層か」

「森林階層ね。スタンダートではあるけど、生息してるであろう魔物を考えると、ここも素通りしたいところだわ」

「とは申されましても、ここで飛ぶのは難易度が高くありませんか?」

「はい、そこが問題だと思います」


 ミューズさん、ヒルデ姉様の言う通り、森の中で飛ぶのはけっこう大変だわ。

 エンシェントクラス、エレメントクラスのあたし達からしたら、迷宮ダンジョン内の木であっても障害にはならないけど、それでも邪魔なものは邪魔。

 かといって森の上を飛んだとしても、セーフ・エリアを見過ごしてしまう可能性がある。

 森林階層の場合、セーフ・エリアは開けているところにあることが多いけど、絶対っていうワケじゃないからね。


「『マッピング』。この階層はそこまで広い訳じゃなさそうだな」

「見せて。確かにこの感じだと、迷宮ダンジョンの標準的な広さってとこかしらね」

「というか、第1階層や第2階層が広すぎだよ」


 大和がマッピングを開いてマナが横から見てるけど、そのセリフはちょっと安心できる。

 というより、あたしもルディアに同意だわ。


「何考えてんだかって気もするが、迷宮ダンジョンの考えなんて理解できないし、するつもりもないしなぁ」

「まあねぇ。でも私達は先に進むしかないから、行くとしましょうか」

「だな」


 まあ攻略に来たんだから、先に進むしかないわよね。

 それに第1階層より狭くなってるみたいだし、その点は歓迎できるわ。


 ただ先に進むのは良いんだけど、やっぱり森の中はものすごく飛びにくい。

 一応林道はあるんだけど、木がすごく生い茂ってるから、獣車で移動したとしても枝が当たるわね。

 というか、徒歩であっても枝が邪魔になるレベルじゃない、これ。


「深層ならこんな林道も珍しくないけど、第7階層辺りでこれって、なかなか厄介だな」

「ええ。これ程の枝でも獣車なら結界の天魔石のおかげで無視できるけど、飛んで移動ってなると邪魔で仕方ないわ」

「急いでいるといえば急いでいるけど、未確認の階層調査も兼ねてるワケだから、ここからは予定通り獣車ね」


 そうなるわね。

 バリエ迷宮攻略のために今回捻出できた期間は、最長で2週間。

 広さは不明だけど、1日1階層踏破を目指して進めば、一応第26階層までは到達できる計算になる。

 もちろん1日に2階層以上踏破できることもあるし、逆に1階層の半分も進めないこともあるんだけど、階層数が第20階層前後なら、攻略は十分可能ね。

 30階層以上ある迷宮ダンジョンもあるけど、もしここもそうだったなら、攻略は次回に持ち越すしかないけどさ。


「そ、それではパールを召喚します」

「ああ、頼む」


 高速飛行移動のせいでまだフラフラしてるアリスが、召喚契約しているグラントプス パールを召喚して、天樹製多機能獣車に繋ぐ。

 多機能獣車は箱型獣車に代わって貴族や裕福なギルド・レジスターの標準になりつつあるけど、問題となっているのが大きさに比例した重量。

 だから対策として、多機能獣車の車輪には風属性魔法ウインドマジックを付与させて重量を軽減させている。

 それもあって箱型獣車と同じく、バトル・ホースなら2匹、グラントプスやヒポグリフなら1匹でも牽引できる。

 他にもフラムが従魔契約しているフロウみたいなリドセロスでも、1匹で牽引できるわね。

 アリスが契約しているパールは、グラントプスにしては少し荒っぽい性格らしいけど、ちゃんと指示は聞くし、それに力も強い方だから、車獣としてはすっごく優秀だって聞いてるわ。


「よし、準備完了だ。じゃあ行くとするか」

「はい。パール、お願いね」


 パールを繋いでから全員が乗り込み、アリスが指示を出すと獣車が動き出す。

 御者はアリスが務めてるけど、隣にはミレイも付いているし、前部デッキにはミーナとフラムもいるから、魔物の不意打ちを受けても問題無く対処できる。

 まあ、今までの階層にはCランクまでしか生息してなかったから、アリスのレベルならよっぽどのことがなければ大丈夫なんだけど。

 Bランクモンスター辺りなら出てくる可能性はあるけど、それもどうとでもできるし。

 そう考えると、アリスに進化してもらうとしたら、最低でもGランクモンスター辺りに出てきてもらわないといけないから、10階層辺りまで行かないと厳しいか。


「視界は悪いが、凶悪という感じはしないな」

「そりゃ、なんだかんだ言ってもまだ第7階層ですし、生息してる魔物もIランクとかCランクでしょうしね」

「Bランクならいるかもしれないけど、それでも私達にとっては取るに足らないからね。それはレックス達にとっても同じでしょう?」

「まあ、仰る通りですが」


 レックスさんもエンシェントヒューマンだから、BランクどころかSランクモンスターの攻撃だって効かないし、それどころか瞬殺できる。

 そもそも今回はエレメントクラス4人にエンシェントクラス8人、ハイクラス2人、そしてノーマルクラス1人だから、AランクやOランクモンスター辺りが大挙してこない限り、後れを取ったりはしないしね。


「そういえば大和君」

「はい、何ですか?」

「アリスのレベルアップについてだが、仮にこの階層からBランクモンスターが出てきたとしても、その程度ではあまり意味は無いんじゃないか?」

「ええ。なんでGランク辺りが出てくるまでは、俺達が適当に倒すことにしています」


 アリスはレベル42になってるから、レベルアップと同時にハイクラスに進化する可能性は十分にある。

 だけど今回の臨時アライアンスはエンシェントクラスは8人、エレメントクラスも4人いるから、ハイクラスが1人増えたぐらいじゃ戦力的には大差がない。

 それでもアリスに進化してもらいたいと思う理由は、アリスが召喚契約を結んでいるシルケスト・クロウラー達を、グランシルク・クロウラーに進化させやすくするためよ。

 ハイクラスに進化したら召喚獣も進化するってワケじゃないけど、召喚魔法士と召喚獣は魔力で繋がっているから、どちらかが進化すると残った側も進化しやすいって言われている。

 もちろん絶対じゃないんだけど、ハイクラスと契約している召喚獣は進化種も多いみたいだから、可能性が低いワケでもない。

 アリスが進化しなくてもシルケスト・クロウラー達を進化させることは出来るんだけど、それでもあたし達としては、シルケスト・クロウラー達の進化は早い方がありがたい。


 その理由は、グランシルク・クロウラーが吐く糸で光絹布を作り出すため。


 エンシェントクラスやエレメントクラスにとって、Gランクモンスター以下の素材は魔力強化の影響で痛むのが早い。

 普段使いしてても1ヶ月もつかどうかなのに、戦闘までしてしまうと1日どころか1戦もたないことも珍しくないわ。

 だからエンシェントクラスの多いあたし達にとって、Pランクモンスター以上の素材は必需品なの。

 グランシルク・クロウラーはクラテル迷宮第5階層に多く生息してるから、必要になったらそこまで狩りに行けばいいんだけど、そこまで行くのはけっこう面倒だし、狙ってるライバルも多くなってきてるから、下手したら取り合いになる上に数を確保できるかも分からない。

 だからアリスのシルケスト・クロウラー達が進化してくれたら、その手間も大きく減ることになる。

 アリスの進化とシルケスト・クロウラー達の進化がイコールってワケじゃないけど、あたし達にとっては死活問題だから、今回のバリエ迷宮を攻略してる間に、アリスには是非とも進化してもらいたいわ。

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