リハビリ前のトラブル

Side・リカ


 サキ様の天嗣の儀式も無事に終わり、属性魔法グループマジック天嗣魔法グラントマジックも判明した。

 その日の夜はお祝いということで、いつもより豪華な夕食だったわ。

 とは言っても、サキ様はまだ離乳食なんだけど。

 3ヶ月後には私の息子アスマが天嗣の儀式を行うけど、その日もこんな感じになるんでしょうね。


 それから2週間ほど経ったある日、私も執務はお休みにして、久しぶりにみんなと狩りに出ることにした。

 プリムさんとフラムのリハビリも兼ねてるけど、2人は年が明けてから数日おきに狩りに出てるから、むしろ私のリハビリと言ってもいいかもしれないわ。

 総合学園開校以来、けっこうお仕事が増えてきてるから、私もなかなか休みにくくてね。

 だから今日は、久しぶりに私も狩りに行くことにしたの。

 Gランクオーダーになっているとはいえ、アスマの妊娠中からロクに戦闘もしてないから、腕が鈍ってきてるでしょうしね。

 ただその狩場が、なんでイスタント迷宮なのかは疑問でしかないわ。

 プリムさんとフラムのリハビリだから、ある意味じゃ仕方ないのかもしれないけど。

 目的地はMランクモンスターも生息している第4階層だけど、第3階層にもGランクモンスターがいるし、モンスターズ・トラップからはPランクモンスターすら出てくるから、ハイクラスであっても油断は出来ない危険な迷宮ダンジョンね。


「そう思ってたんだけど、これは正直予想してなかったわね」

「周知はされてるけど、それでも不慮の事故は起こり得るからなぁ」

「とは言っても、あれはどう見ても違うわよ?」

「ですね。ともかく、助けます」

「ああ」


 イスタント迷宮第3階層を進んでいる私達だけど、目の前ではそのモンスターズ・トラップを作動させてしまったハンター達が魔物に襲われていた。

 ドラグーンも現れるって話だったけど、目の前の魔物はG-UランクのレプトケラトプスとP-Rランクのトリケラトプスの群れみたいで、他は見当たらない。

 それでも20匹はいるから、ハイクラスでも少数じゃ相手するのは大変だわ。


「というかあいつら、ノーマルクラスしかいないのに、よくここまで来れたわね」

「え?彼ら、全員ノーマルクラスなんですか?」

「ええ。1人だけハイクラスに近い魔力を持ってるけど、それでも近いっていうだけね」

「魔力の多いドラゴニュートだから、だろうな。だけどマジで、よく来れたと俺も思うよ」


 襲われているハンター達の人数は、まだ正確には分からないけど、それでも10人はいないでしょう。

 獣車は残骸も含めて見当たらないから、徒歩でここまで来たっていうことだろうけど、それでもGランクモンスターが普通に生息しているこの階層にノーマルクラスだけで来てたなんて、本当によく来れたものだと思うわ。

 だけどノーマルクラスだけだというなら、Gランク以上の魔物20匹以上に襲われるなんて、絶体絶命どころの話じゃない。

 私達が通りかかったのは偶然だけど、運が良かったわね。


「大和さん、終わりましたけど、彼らの様子がおかしくありませんか?」

「お、もう終わったか。って、マジで様子がおかしいな」

「なんかこっちを睨んでるわね」

「これは面倒なのを助けたっぽいなぁ」


 レプトケラトプスとトリケラトプスはフラムが全て仕留めたんだけど、助けたハンター達は完全にこちらを睨んでいる。

 マナ様やプリム様も面倒そうな顔をしているけど、これは私もそう思うわ。

 というか、私でも彼らが何を言ってくるのか、簡単に予想が付く。


「お前ら、俺達の獲物を横取りするつもりか?」

「何言ってるのよ。完全に襲われてたじゃない。しかもレプトケラトプスにトリケラトプスってことは、モンスターズ・トラップに引っ掛かったって事になる。ランク的に見てもレベル的に見ても、あんた達が勝てる魔物じゃないでしょう?」


 案の定噛み付いてきて、プリムさんが面倒臭そうに対応している。


「はあ?俺達が誰か、知ってて言ってんのか?この程度の魔物、俺達にとっては雑魚でしかねえよ」

「三流どころか四流以下のハンターなんて、知ってるワケないでしょう。この階層に来れたのだって、限りない偶然の結果だろうし、そもそもモンスターズ・トラップに引っ掛かってる時点で、情報不足としか言いようがないわ」

「倒した後で強がっても、滑稽にしか見えないしな」


 本当にね。

 そもそもの話、なんでG-UランクやP-Rランクのサウルス種を簡単に倒せるなんて勘違いしてるのかしら?

 サウルス種は竜種だけあって、普通の魔物よりワンランク強い個体が出てくることも珍しくない。

 それは群れであっても同様だから、20匹以上の群れなんて、ノーマルクラスどころかハイクラスであっても相手しきれないわ。


「うるせえよ!死にてえのか!」

「そうだぜ!詫び代としてこの魔物はもちろん、その獣車も俺達に寄越しな!ああ、その車獣もだぜ?」


 完全にチンピラね。

 いえ、盗賊と言っても差し支えないわ。

 というか、もしかして誰と話してるのか、本当に知らないのかしら?


「寝言は寝てから言え。と言うかだ、俺達が誰か、本当に知らないみたいだな」

「ああ?」

「てめえみてえなガキのことなんざ、知る訳ねえだろ」

「それならそれで構わないけどな。だけどな、お前らみたいな盗賊崩れのことだ、こんなことは初めてじゃないだろ?」

「第1階層や第2階層辺りでも、何かやってるでしょうね。まあ、私達に絡んだ時点で、運の尽きってことになるんだけど」


 そう言って大和君とマナ様は、自分のライセンスを投げ付けた。

 それを見たハンター達は、一様に真っ青になっていったけど、当然それだけで済むはずがない。


「真子さん、悪いけど俺はオーダーズギルドに行くんで、後任せてもいいですか?」

「仕方ないか。なら私達は、第4階層の階動陣付近で待ってるわ」

「了解」


 そう言って大和君は、念動魔法で盗賊崩れのハンター達を捕まえ、エスケーピングを使って地上に向かった。

 天爵家にケンカを売ったようなものではあるけど、ハンターとして活動してる最中でもあるから、その程度じゃ罪にはならない。

 だけど助けてもらったのにお礼も言わず、それどころか言いがかりをつけて倒した魔物ばかりか獣車まで賠償で寄越せなんて、マナー違反どころの話じゃないわ。

 余罪もあるだろうから、オーダーにヒアリングを使った取り調べを依頼して、その結果次第じゃハンターズライセンス剥奪、いえ、下手したら犯罪奴隷になることも考えられるわね。


 久しぶりの狩りに、いきなりケチがついた気がするけど、気を取り直して頑張るとしましょうか。


Side・プリム


 第4階層の階動陣近くで狩りをしながら待っていると、大和は3時間ぐらいで戻ってきた。

 思ってたより早く合流できたけど、話を聞くとフィジカリングとマナリングを全開にして、全力で移動した結果らしいわ。

 途中でいくつかのレイドを助けたりもしてたそうだけど、第4階層まで3時間、いえ、取り調べとかにも付き合っていたから、実際の移動時間は1時間ちょっとらしいけど、それでもそれぐらいで来れるなんて、エレメントクラスって本当にデタラメね。


 それはともかくとして、話を聞くと例のハンター達はオーダーズギルドに連行して、ヒアリングによる取り調べも受けたみたいだわ。

 あいつらはこのイスタント迷宮でも屈指の問題ハンター達で、ハンターズギルドにも毎日のように苦情が上がってたそうね。

 ハンターズギルドも何度も注意をしていて、次に問題を起こしたら罰金の上イスタントから追放っていう罰則も伝えていたと聞く。

 にも関わらずあいつらは、よりにもよってあたし達に絡んできたもんだから、上記の処罰が下されることが決まったみたいよ。


「イスタントから追放に罰金って、思ったよりぬるい処罰なのね」

「理由は、格上相手に絡んだことも何度かあるからだな。セイクリッド・バードやブラック・アーミーにも絡んだことあるらしいぞ」


 それは本気でバカだわ。

 どちらもエンシェントクラスが率いるユニオンで、ハイクラスの人数も多い。

 そんなユニオンに、ノーマルクラスしかいないレイドがケンカを売るなんて、自殺行為以外のなにものでもないわ。

 しかもセイクリッド・バードやブラック・アーミーにも、他のハンターに絡んでいるところを仲裁されたっていう話だから、普通ならライセンス剥奪案件じゃない?


「なんでライセンス剥奪にならなかったの?」

「さっきも言った通り、格上に絡むことも多かったからだな。だから苦情が上がってたとは言っても、具体的な被害はゼロに近かったみたいだ。何件か獲物を横取りされた事例はあったけど、それも連中が売り捌く前に被害にあったハンターがハンターズギルドに訴えてたから、クエスティングの確認やオーダーズギルドのヒアリングによる取り調べを受けることで、ちゃんと解決したんだと」


 話を聞くだけでも、後先考えないチンピラでしかないじゃない。

 そんな連中こそ、ライセンスは剥奪するべきだわ。

 だけどその魔物もCランクやBランクモンスターだったそうだから、被害総額も数千から1万エルちょっとしかならず、それもちゃんと被害者の手元に戻っている。

 だからあまり重い処罰を科すことが出来ず、それでも問題を起こしたのは間違いないから、イスタントからの追放っていう処分になったらしい。

 ただそれだけだと他の街で問題を起こす可能性があるから、ライセンスの特記事項欄に簡単に今回の顛末が記載されてるそうよ。


「特記事項欄って初めて聞きましたけど、そんなのあったんですね」

「俺も初めて聞いたけど、問題行動を起こした連中は、他の街でも同じことをする可能性が高いからな。言われて納得したよ。あとそれは、ギルド専用魔法を使わないと確認できないらしい」


 あたしも初耳だったけど、普通は見れないってことだし、ギルドとしても問題行動の常習者は把握しておきたいから、そういう欄があるってことなんですって。

 大和も詳しくは教えてもらえなかったそうだけど、どこの町で何を仕出かしたのかが簡単に記されていて、ハンターズギルド的にもブラックリストに載せる一歩手前っていう状況らしいわ。

 この特記事項欄への記載が多くなると、微罪ばかりであってもライセンス剥奪っていう処罰を科すことになるみたいね。


「で、ロクに仕事もできなくなるし、何より町に入ることもできなくなるから、盗賊に身をやつすってことか」

「そうなる奴が多いって話だな。完全に自業自得でしかないが」

「確かにね」


 リカさんと大和が言うように、ライセンス剥奪処分なんて、その人物がやらかしたことが原因。

 他のギルドに登録することはできなくもないけど、オーダーなんかのリッターズギルドは絶対に無理だし、剥奪されたギルドなんてのは論外。

 だから必然的に仕事は減るし、収入も無くなってしまう。

 ライブラリーがあるから町に入ることは出来るけど、入場税が払えないってこともあるから、持ち合わせがなければそれも無理。

 残るは小さな村に身を置くか盗賊になるかだけど、前者もリッターが常駐しているし、仕事をどうするのかっていう問題は残っている。

 だから多くの場合は後者を選ぶ。

 クラフターやトレーダーであっても、全く戦えないワケじゃないからね。


 実は旧バリエンテでは盗賊が多くて、あたしの生まれたハイドランシア公爵領なんかは魔物よりも盗賊の方が多かったぐらいなんだけど、その理由がこれだったってことなんだと思うわ。

 ハイドランシア公爵領は小さかったけど、だからこそ領主である父様の目が隅々まで行き届いていて、横暴を働くハンターはすぐに獣騎士によって捕縛されていた。

 だからその結果ライセンスを剥奪されたハンターが盗賊になって、そのまま恨みを持つハイドランシア公爵領内で悪事を働いており、それが他の地方で活動していた盗賊達の耳にも入ってしまい、どんどんと集まってきてたってことなんでしょうね。

 完全に逆恨みでしかないけど、そのせいで獣騎士達の手も足りなくなってしまって、あたしも何度か盗賊狩りに行ったことがあるわ。

 それだけバリエンテのハンターのモラルが低かったってことなんでしょうけど、今は良くなったって思いたいわね。


「まあ、そっちはそれで片付いたんだが、こっちはどんな感じなんだ?」

「順調、とは言い難いけど、それでもそこそこは狩ってるわよ」

「私は2つほどレベルが上がったし、プリムさんもフラムも、だいぶ感覚が戻ってきたみたいよ」


 連中のことは、あたし達も興味がない。

 それよりもこっちのことの方が重要よね。


「それは何よりだけど、あんまり無茶はしないでくれよ?」

「わかってるわよ」

「はい」


 心配性な旦那様だけど、あたしは前科があるからねぇ。

 だけど今日は本当に調子も良いし、感覚もかなり戻ってきた感じがする。

 さすがに今日はあと1時間ぐらいしたら帰るけど、近いうちにソルプレッサ迷宮かイスタント迷宮の守護者ガーディアンの相手をしてもいいかもしれない。

 素材的に見ると、ソルプレッサ迷宮かしらね。

 多分マナやフラムもやりたいだろうから、帰ったら提案してみましょうか。

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