フィリアス大陸統一記念祝賀会

 ラインハルト陛下の演説も終わり、凱旋式も無事に終了した。

 慣れてるとはいえ、やっぱり晒し者になりたいとは思えないけどな。


 その後は天樹城の大ホールで、フィリアス大陸統一を記念した祝賀会と戦勝会が催されることになった。

 各国の王はもちろんだが、従軍したリッターやハンターも参加したし、貴族達も多くが呼ばれていたから、本当に大賑わいだったな。

 フロートでも天帝家が祝い酒なんかを振る舞っていたし、散々迷惑をかけてくれていたレティセンシアが滅んだってこともあって、多くの人達が祝杯を挙げてたそうだ。


「今日はフィリアス大陸が統一された、記念すべき日だ。皆、大いに飲み、大いに楽しんでくれ。乾杯!」


 ラインハルト陛下が乾杯の音頭を取り、祝賀会が始まった。


「話は聞いたけど、まさか終焉種が3匹も出てきたなんてね」

「だけどさ、大和と真子はわかるけど、レックスさん達も倒したんだし、これからはあたし達も楽になるんじゃない?」


 祝賀会には、妊娠中ってことでアルカに残っていたプリム、マナ、フラムも参加しているし、リカさんもメモリアでの執務を終えてから参加している。

 ユーリとアリアも学園が終わってから来てるし、デイヴィッド殿下達も同様だ。

 明日も授業があるから、今夜はアルカで泊まって、朝になったらゲート・ストーンを使ってアマティスタ侯爵家に戻る予定になっている。


「それは分からないけど、飛鳥君と真桜の訓練の方が、終焉種の圧力よりキツかったからね。他のユニオンも、種類によってはいけると思うわよ」

「ああ、それは俺も思った」


 実際レックスさん達は、スレイプニルより父さんから感じた魔力の方が圧倒的に上で、そのおかげで委縮せずに済んだって言ってたからな。


「確かにお義父様は、ニーズヘッグすら圧倒してたものね。そんな方に稽古をつけてもらったんだから、進化したての終焉種なら、怖気づくこともないか」

「それもそれですごい話だけどね」


 プリムとマナの言う通りだよな。


「あ、ちょっと待って。ということは、もしかしてお兄様達も、個体によっては終焉種を倒せるかもしれないってこと?」

「あー……どうなんだろ?可能性が無い訳じゃないと思うが……」


 ここでマナが、とんでもないことに気が付きやがった。

 確かにラインハルト陛下だけじゃなく、エリス妃殿下やマルカ妃殿下、シエル妃殿下も父さんや母さんに稽古をつけてもらっていて、しっかりとレベルを上げている。

 しかもラインハルト陛下は、コバルディア攻略戦じゃWランクのフラッド・クレインをはじめ、多くの異常種や災害種を倒してるから、レベル83になってるしな。

 ハイラビトリーに進化してるとはいえ、シエル妃殿下は戦闘経験も少ないから、援護であっても厳しいと思うが、エリス妃殿下とマルカ妃殿下はエンシェントクラスだから、進化したての終焉種なら倒すことはできるかもしれない。

 口にしたら本当に討伐に向かいそうだから、絶対に言わないけどな。


「ところでサキとアスマは?」

「サキはお乳を上げてきたから、今は多分寝てると思うわ。アスマは……どうなのかしら?」

「リカさんも来てるんだし、大人しくしてるんじゃない?」


 サキは寝てるが、アスマは分からないか。

 リカさんが仕事中はバトラーに面倒を任せてるし、サツキが生まれたこともあってフィーナも手伝ってくれてるから、お乳の心配も無い。

 なんかフィーナが乳母みたいな感じになってるが、マナやリカさんもサツキにお乳を上げることがあるから、お互い様ってことなんだろう。


「まあ、あたし達はもう少ししたら戻るから、サキとアスマのことは任せといてよ」

「俺も早く帰りたいけど、そういう訳にもいかないからなぁ」


 マナとリカさんはサキとアスマの世話があるし、プリムとフラムは妊娠中だから、祝賀会であっても長時間の参加はできない。

 今回は顔見せと俺達の出迎えのために、天樹城に来てるだけだからな。

 本音を言えば俺も一緒に帰りたいんだが、俺は今作戦の中心人物であり功労者でもあるから、残念ながら最後までいないといけない。

 明日からも会議で忙しくなるから、早くサキとアスマの顔を見て、やる気を補充してえなぁ。


Side・シャザーラ


 私は今、エスコート・オーダーズマスター クレアと一緒に、グラスに入ったワインを飲んでいる。


「やっぱりこのワイン、美味しいわね」

「20年もの、だったか。天樹の根元に埋めて熟成させた、最高級品だからな」


 ワインを含むお酒は酒造師と呼ばれるクラフターが作っているんだけど、私達が飲んでいるワインはクレアの言う通り、天樹の根元に埋めて熟成させている。

 広大な天樹の根元とはいえ、使用許可が出ている酒造師は5人しかいない。

 その酒造師が丹精込めて作り上げたワインを、天樹の根元にある虚に埋めることで熟成させるんだけど、それがこのワインで、私達が飲んでいるのは20年寝かせた逸品なの。


「それにしてもコバルディアを消滅させた刻印術は、本当に凄かったな」


 ワインを飲みながら、クレアが大和君と真子が使った、トゥアハー・デ・ダナンという刻印術について口にした。


「確かにね。だけどラインハルト陛下の許可が無ければ使えないようにしたって言ってたし、実際私達の目の前で封印までしてくれたんだから、余程のことがあってもあの刻印術が使われることは無いわよ」

「そうだね。まああれを使わなくても、あの2人にとってはあんまり関係ないかもしれないけど」


 ここでファリスとエルが、話に加わってきた。

 だけど私も、ファリスの言う通りだと思う。


「そもそも刻印神器なんて使わなくても、あの2人の実力は突出してるものね。多分ウロボロスやフェニックスも、普通に倒せたと思うし」

「でしょうね」


 コバルディアに現れた3匹の終焉種、ウロボロス、フェニックス、そしてスレイプニルだけど、以前のレティセンシアには生息していなかったことは分かっている。

 だからその3匹は、魔化結晶や神帝の魔力によって進化したことになるんだけど、だからこそ進化してそんなに経っていないんじゃないかっていう推測が成り立つ。

 特に後者の場合だと、神帝がコバルディアに上陸したのは2ヶ月程前だから、進化したのもそれ以降ということになる。

 大和君は進化したばかりと思われるオーク・エンペラーを単独討伐した実績もあるから、おそらく刻印神器が無くても倒せたんじゃないかと思う。


「信頼しているのだな」

「そりゃ命を救われたことも、一度や二度じゃないしね」


 それについては、私も同意だな。

 初めて会ったのはイスタント迷宮第3階層で、モンスターズ・トラップに引っ掛かってしまった私達を助けてくれた時だった。

 出てきた魔物もGランクどころかPランクまでいたから、あのまま戦っていたら、メンバーの誰かが犠牲になっていただろう。

 当時の私はレベル51だったし、武器も魔銀ミスリルだったから、今ほど戦えていたワケではなく、本当に助かった。


「陛下からの信用も厚いし、王家の方々も嫁いだり婚約してたりしてるからね。そのせいで天爵なんてものになっちゃってるけど、野心なんて持ってないし、多分爵位も重荷になってるんじゃないかな?」

「ハンターやクラフターとして、気楽に暮らしたいって何度も言ってたね」


 私も聞いたな。

 今でこそ受け入れているが、爵位を授かると決まった時は、無駄な抵抗を試みたとも聞いている。

 幸い、と言っていいのかは分からないが、今はエスメラルダ天爵領とアマティスタ侯爵領の代官ということになっていて、拝領するのは数年先みたいだが。


「拝領か。ではコバルディア跡地は、彼が拝領するかもしれないのか」

「それかマナ様だろうね。公国っていう可能性もあるけど、宝樹があることを考えると、天爵領にした方がいい気もするし」


 マナ様が懇意にしていたレイドだけあって、ファリスは政治的な話をすることも多い。

 だからファリスの予想は、私も十分あり得ると感じてしまった。


「私達ハンターには、あまり関係のない話よね。どっちかと言えば、終焉種の方が興味深いわ」

「確かにね」


 ただエルの言うように、誰がコバルディア跡地周辺を拝領するにしても、私達ハンターにとってはあまり興味がない。

 良い領主がいるところなら頻繁に足を運ぶけど、悪い領主になったりしたら行かなければいいだけの話だからね。

 だから私も、新たに進化した、あるいはこれから進化してしまうであろう終焉種の方が、重要度は高いわ。


「確かグランド・オーダーズマスターは、大和天爵のご両親の方が強かったと仰っていたな」

「それはそうだよ。クレアはあの人達の稽古に参加してなかったようだけど、本当に地獄だったからね。あ、思い出したら泣きそうになってきた……」

「あれはねぇ……」

「大和君が地獄だったって言ってたけど、その意味が心から理解できたからな……」


 ファリス、エル、そして私は大和君のご両親に訓練をつけてもらったが、あれは本当に地獄だった。

 以前大和君、プリムちゃん、真子を相手に訓練をしたことがあるし、その時も地獄だと感じたものだが、大和君のご両親はその比じゃなかったからな……。

 私も思い出したら、体が震えてきたぞ……。


「そ、それほどだったのか……」

「もう一度あの地獄を見ろって言われるぐらいなら、終焉種の討伐に向かった方がマシだね」


 私達の反応に怖気づくクレアにファリスが言葉を返すけど、私もその意見に完全に同意する。


「相手がアークヒューマンだからね、私達も本気で、それも殺すつもりで行ったのさ。飛鳥さんも、それで構わないって言ってくれたからね」

「ハンターだけじゃなくオーダーもいたし、その上大和君達ウイング・クレストまで参戦してたっていうのに……」

「攻撃が効かなかったのはもちろん、触れることすらできなかったな……。しかも初めての時は、30秒ぐらいで終わってしまって……」

「そ、それは……」


 あれは本当に、自信喪失ものだったわね。

 真子は不参加だったけど、大和君達ウイング・クレスト、更にはラインハルト陛下やヒルデガルド陛下まで含めて、総勢30名超のエンシェントクラスが挑んだのに、初めての模擬戦の時は、飛鳥さんの魔力だけでほとんど戦闘不能になってたもの。

 勝てないまでもある程度は善戦できると思ってたのに、蓋を開けてみたら惨敗だったんだから。

 さすがに訓練にならないってことで、2回目からは魔力を抑えてくれたけど、それでもこっちの攻撃は簡単に避けるか防がれるかだったし、逆に飛鳥さんの攻撃は、狙われる=終了を意味するほど理不尽だったわよ。


「しかも恐ろしいことに、一番早く戦闘不能になった者にはペナルティとして、1対1の模擬戦をさせられたからね。こっちが倒れないギリギリの魔力を纏って、積極的に剣を振ってくるんだ。あれは本気で鬼としか思えなかったね」


 あれは傍から見てても凶悪だったわね。

 そもそも30人超のエンシェントクラスが一斉にかかっても手も足も出なかったのに、1対1で戦うなんて、絶望しか感じられないわ。

 本当に鬼だと、誰もが思ったものよ。


 あ、鬼っていうのは客人まれびとの世界の亜人のような存在で、オーガのような角を持っているそうよ。

 伝説上の存在でもあるけど人々に恐れられる存在でもあるから、昔から客人まれびとが口にしていて、いつの間にか同じような意味で定着していたみたいね。

 オーガに似ているとはいえ、どちらかと言えば鬼は亜人に属するし、エルフとワルキューレ、ウンディーネとセイレーンも外見は似てるところがあるから、差別されたこともないし、オーガ自身も全く問題視してないけど。


「まあ、そのおかげで、うちのバークスは進化できたんだけどね」

「グレイシャス・リンクスのディオスも、確かそうだったわね」


 他にもロイヤル・オーダーも何人かが、飛鳥さんと1対1での戦闘を経験したことで、進化してたわね。

 終焉種以上の相手をハイクラス1人で相手するなんて、自殺願望があってもやらない行為だけど、訓練だし二度とない機会だから、ある意味じゃ貴重な経験ができたって言えるでしょう。

 残念ながら、私達セイクリッド・バードがその訓練に参加できたのは2回だけだったから、エンシェントクラスへ進化できたメンバーはいないけど。


 だけど地獄の訓練ではあったけど、私達にとっても非常に有意義な時間だったわ。

 もうお会いできないのは残念だけど、教えを無駄にしないように、私達も頑張っていかないと。

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