騎士の未来を担う者達
Side・ライラ
グランド・オーダーズマスターがスレイプニルの討伐を行っている間、フィリアス連合軍はセカンダリ・オーダーに任命されている、あたしの夫ルーカスが指揮を執っている。
エンシェントクラスを派遣しているリッターズギルドはオーダーだけだから、ほとんどなし崩し的な任命だったね。
それでもスリュム・ロード討伐戦やソレムネ戦役、リネア会戦を経験してるし、エンシェントクラスっていうのも間違いないから、ルーカスに逃げ場は無いんだよ。
「とは言っても、災害種が相手となると、さすがにあたし達が出張るのが無難なんだよねぇ」
「言うなよ。レックスさん、早く帰ってこねえかなぁ……」
あたしの呟きに、ルーカスが大きな溜息を吐いた。
今あたしとルーカスが相手をしているのは、P-Cランクモンスター デモンズ・ドレイク。
ハイクラス数人でも倒せるんだけど、魔物の数はまだまだ多いし、コバルディアの街並みもどんどん破壊されていっている。
魔族に変化しているはずの皇国民も、次々と犠牲になっているから、もうコバルディア外縁部の復興は無理じゃないかな?
コバルディアは魔族ごと消滅させるんだから、復興なんて気にしなくていいんだけどさ。
「クララも待ってるんだし、さっさと終わらせて帰るとするか!」
「帰ったら結婚だもんね」
「ここでフラグを立てるな!」
思いっきり死亡フラグを立ててみたら、思いっきりルーカスに怒られた。
確かに縁起でもないから普通は言わないんだけど、今更ルーカスがP-Cランクに後れを取るとは思えない。
「知ってて言ったんだよ。だってルーカス、セカンダリ・オーダーの職務を全うしようとして、肩にすごい力入ってたし」
「え?」
だからこそ口にしたんだけど、やっぱり気が付いてなかったか。
フィールの宿屋の息子で一介のオーダーでしかなかったルーカスからしたら、こんな大役を突然任されたら緊張しかしない。
だから少しでも肩の力を抜いてもらうために、あえて軽口を叩いたんだけど、ルーカスも気が付いてくれたんだし、これで少しは肩の力も抜けるんじゃないかな?
「あー、そういうことか。悪い、ライラ」
「気にしない気にしない。これも初妻の役目だからね」
うんうん、それでこそだよ。
クララの誕生日は、実は今日なんだ。
だからずっと前から、今日フロートのプリスターズギルド総本部で結婚の儀式をするつもりで予定を立ててたんだけど、さすがにこんなことになってしまった以上は延期するしかない。
だからこのレティセンシアとの最終決戦は、絶対に勝って、生きて帰らないといけないんだよ。
「それじゃあルーカス、デモンズ・ドレイクごとき、さっさと片付けちゃうとしようか!」
「クララも待ってるんだから、尚更な!」
うん、良い顔になったね。
まだ少し気負ってる気もするけど、これぐらいなら問題ないと思う。
「くらえっ!」
気合とともにルーカスは盾を持ち直し、
見た目は盾を使ったグランド・ソードだけど、全ての
ルーカスはそのガードエッジ・ブレイザーを伸ばして、大上段からデモンズ・ドレイクに向かって振り下ろした。
当然避けられるんだけど、それは織り込み済みだし、特に打ち合わせはしてないけどあたしも何をしたらいいかは分かっている。
「隙あり!」
人化魔法を解いたあたしは両腕の翼を広げて、フライングを使って飛び上がる。
その際に剣は右足、盾は左足の鉤爪に装備しなおすんだけど、盾は持ちにくいから念動魔法の補助も忘れない。
そしてデモンズ・ドレイクの真上に到達してから剣を収納して、
今は
ここにアンデッドはいないから、意味ないけどね。
そのサウザンド・スライサーが降り注ぐ中、デモンズ・ドレイクは身動きが取れなくなっているばかりか、体中に無数の傷が刻まれていく。
そのサウザンド・スライサーで動きを封じられたデモンズ・ドレイクに向かって、ルーカスは盾の先端に仕込まれていた杭を胸元に突き刺し、魔力を流す。
「くらえええええっ!!」
ルーカスの雄叫びとともに、杭の先端が勢いよく射出された。
それだけでも十分魔物を倒せる威力があるんだけど、ルーカスはそれに加えて
まだ
デモンズ・ドレイクはそのまま命を落としたけど、本当にえげつない盾だよね。
あ、この盾は大和と真桜さんが、ほとんど悪ノリで作った盾なんだ。
パイルバンカー、って言ったかな?
それが内臓されていて、攻撃にも使えるようになってるんだ。
攻撃力不足を気にしていたルーカスは、最初はラウスのラピスライド・シールドと同じような、仕込み刃付きの盾を使ってたんだけど、ラウスとは戦闘スタイルが違うこともあって、相性が悪くて使いこなせていなかった。
それを聞いた真桜さんが提案して、大和もノリノリで開発したのが、ラピスバンカー・シールドと名付けられた
完成品を見た真桜さんが喜んで、実際にルーカスが使ったところを見たらすごい興奮してたなぁ。
「次は?」
癖の強い盾だけど、その場からあまり動かないルーカスの戦闘スタイルとラピスバンカー・シールドは相性が良いみたいで、ルーカスもけっこう気に入っているんだよ。
だからなのか、以前より安定して戦えてるし、ルーカスもその自覚があるから、今も油断なく次の魔物を探してる。
「あそこにダークブレス・ブルがいるね。レティセンシアには生息してないから、多分従魔か召喚獣だと思うけど……」
「よく契約できたな」
あたしも本当にそう思う。
M-Iランクのダークブレス・ブルは、元はSランクのグレイロック・ブルなんだけど、レティセンシアのハンターはBランクどころかCランクモンスター相手でさえロクに戦えないって聞いてたから、Sランクモンスターを従魔にするなんて、本当に良く出来たものだと思うよ。
「ともかく、あれも俺達でやるぞ」
「だね」
ダークブレス・ブルの厄介なところは、額にある第三の瞳と呼ばれるもので、こっちの動きを封じてくることだ。
希少種サードアイ・ブルの時点でも、ノーマルクラスじゃ抗う術はないらしいし、それが異常種となると、ハイクラスどころかエンシェントクラスでも油断はできない。
実際多くのリッターが、ダークブレス・ブルの第三の瞳によって動きを阻害されている。
それでも互いに連携して隙を作らないようにしてるから、まだまだ隊列は崩されていないのはすごいと思う。
だけど時間の問題だから、あたしはフライングを使ってダークブレス・ブルの真上まで飛んで、サウザンド・スライサーを使うことにした。
「やっぱり災害種だけあって、すっごく硬いよね!」
無数の刃を飛ばすサウザンド・スライサーだけど、その刃はそんなに大きくないから、ダークブレス・ブルの皮を斬り裂けていない。
さっきと同じ感覚で使ったあたしのミスだけど、今更サイズ変更は、大きくないとはいえ隙を晒すことになるから、ルーカスが来るまではこのまま攻撃を続けるしかない。
そう思ってたところに、ルーカスの
最近完成したばかりだけど、魔獣魔法と
魔獣魔法は獣族専用で、自分の種族と同じ魔物を作り出す上に、ある程度の命令を聞かせることも出来るから、そんなことが出来るみたいなんだ。
今回ルーカスは併走してるけど、ライドブレイク・ファングはルーカスの魔法でもあるから、1人でも凄い連携ができるってことで、大和や真子も褒めてたぐらいだよ。
そのライドブレイク・ファングは、あたしのサウザンド・スライサーの中に躊躇なく突っ込み、ダークブレス・ブルの首筋に噛み付いた。
ダークブレス・ブルも体を揺すったり魔法を使ったりしてライドブレイク・ファングの牙から逃れようとしているけど、魔法相手だからこそ手応えは薄いし、すぐに再生してるから効果も無い。
そこまで確認してから、あたしはサウザンド・スライサーを止めて、今度はスカファルディングを使って宙に立ち、右手に構えた剣に風と水、氷のグランド・ソードを纏わせ、真下のダークブレス・ブルに向かって思いっきり突き出した。
ライドブレイク・ファングに気を取られていたダークブレス・ブルは、あたしの攻撃に反応することは出来ず、首筋から大量の血を噴き出しながら、ゆっくりと倒れていった。
Side・大和
ウロボロスを倒してラインハルト陛下のとこに合流すると、既に真子さんは戻ってきていた。
「ウロボロスの討伐、ご苦労だったね」
「まだ慣れてないんで、素材としてはダメダメですけどね」
「構わない。今はこの場を収める事が最優先だ」
それは分かってるが、惜しいと思うのは仕方ないと思う。
真子さんも俺と似たような報告をしたようで、苦笑気味だ。
「ですが陛下、お気持ちは理解できますけど、単独で災害種、それもWランクの相手なんて、この後は認めませんからね?」
そして、さりげなくラインハルト陛下に釘を刺す真子さん。
俺も話を聞いて驚いたからな。
確かに今の陛下なら、Aランクモンスター辺りまでなら単独でも倒せると思ってたが、よりにもよってM-Wランクのフラッド・クレインを狩ってたとは思わなかった。
真子さんはその様子が見えてたようだが、俺の戦ってたとこからだと丁度死角になってたから、わからなかったんだよ。
「さすがにこの後は、そんな無茶はしないさ。だがこれで私も、自分に自信を持てる。高ランクモンスターを狩る機会など、おそらく在位中は訪れないだろうからな」
ああ、そっちの理由もあったのか。
天帝として即位しているラインハルト陛下は、先頭に立って戦うのではなく、戦場では守られ、場合によっては最優先で逃がされる存在だ。
だから相手が何であれ、戦うことはご法度と言える。
だけどエンシェントエルフでもあるラインハルト陛下からしたら、相手が何であれ敵前逃亡は屈辱でしかないし、進化した意味すら失ってしまう。
だから自分がどの程度戦えるのかを知っておくことで、戦うか撤退するかのラインを見極めておきたかったってことか。
とはいえ、だからといって1人で戦うのは勘弁してもらいたい。
無茶はしないと言ってはいるが、援護があれば戦うのも間違いないんだからな。
「さすがにエンシェントクラスが全力で戦うような魔物が頻繁に出てきたりなんかしたら、生活なんてできませんよ」
「それも理解しているさ。だからこそエンシェントクラスの多くは、
俺達もそうだし、
俺達もそうだがレックスさん達だって、休みの時は
そのレックスさん達も、無事にスレイプニルの討伐を成功させてるし、そろそろここに来る頃か。
そう思って視線を向けると、レックスさん、ローズマリーさん、ミューズさん、サヤさんが、魔物を屠りながらこっちに向かってきている姿が見えた。
Gランクモンスターもいるってのに、片手間で屠ってるなぁ。
俺達も人のことは言えんのだが。
そしてラインハルト陛下の眼前に到着すると、4人揃って敬礼し、代表してレックスさんが口を開いた。
「ご報告致します。我々は無事に、スレイプニルの討伐に成功致しました」
「見ていた。ご苦労だったな、4人とも」
「ありがとうございます」
今まで終焉種の討伐を成したのは、俺、プリム、真子さん、父さん、母さんと、見事にウイング・クレストか関係者オンリーだ。
ファルコンズ・ビークのエルさんも該当するんだが、本人から絶対に数に含めるなと、殺気の籠った目で訴えられてるから、こんな場合は含めないことにしている。
それでも噂が独り歩きしてるから、市井の間じゃエルさんもしっかりと数に含まれてるんだが。
「それと、フロートに戻ってからになるが、ローズマリー、ミューズ、サヤも昇格させる。合わせてアーク・オーダーズコートも下賜することになるな」
「わ、私達が、ですか?」
「終焉種の討伐を成したのだから、当然の話だろう?」
ごもっとも。
しかもアーク・オーダーズコートは支給品じゃなく個人所有になる装備でもあるから、オーダーを引退した後でも正装や戦装として使える。
派手だから狩りには使いにくいのが難点だが。
まあ、レックスさん達のハンター装備は、サヤさんが高ランクモンスターの素材を使って仕立ててるから、何の問題も無いんだけどな。
Oランクオーダーはオーダーズランクの最上位だが、条件は
後者は該当者が増えてきているが、前者は天帝かグランド・オーダーズマスターが認めた者のみだから、現時点では俺とレックスさん、そしてアソシエイト・ランサーズマスターを務めているトールマンさんの3人だけ。
だけど功績っていう点じゃ、終焉種討伐は十分過ぎるものだから、ローズマリーさん達も昇格ってことになるんだろう。
これで6人になるOランクオーダーだけど、
終わったら陛下やレックスさんに提案してみるか。
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