天都を守りし者達

Side・ラインハルト


 大和君がウロボロスを、真子がフェニックスを、そしてレックス、ローズマリー、ミューズ、サヤの4人がスレイプニルを討伐した姿を横目で確認しながら、私はウイング・クレストの援護を受けながら、M-Wランクモンスター フラッド・クレインと相対している。

 アクア・ロックの災害種であり、更に余剰魔力の翼を含め2対4枚の翼を持つフラッド・クレインは、風属性の同族亜種モンスター ルドラ・ファウルに匹敵か凌駕する飛行速度を有し、水属性魔法アクアマジックの精度も高い。

 しかも災害種は2ランク上、さらにWランクということでもう1ランク上相当の魔物とされるから、このフラッド・クレインはO-UランクかO-Rランク相当の魔物ということになる。

 飛鳥殿と真桜殿に稽古をつけていただき、レベル77になった私ではあるが、さすがにOランク相当の魔物を単独討伐できると思う程自惚れてはいない。

 エリスやマルカがいれば考えたし、シエルの援護も加われば更に楽になると思うが、今回は3人ともフロートに残してきているのだから、無い物ねだりになるな。

 3人もレベルを上げ、マルカはレジーナを出産して間もないというのにレベル68に、シエルはレベル43のハイラビトリーに、エリスに至ってはレベル63のエンシェントエルフに進化している。

 ありがたいことではあるが、急激にレベルが上がってしまったのも間違いないから、マルカの体調が戻るであろう夏あたりから狩りの回数を増やし、感覚に慣れておく必要があるとも考えている。


 今はその3人に代わって、ウイング・クレストのミーナ、リディア、ルディア、アテナ、エオスが私のフォローをしてくれているし、終焉種を倒した者達もこちらに向かってきているから、倒せずともしばらく抑えておけば、後は何とでもなるだろう。


 だが私のハンターとしてのプライドは、それを許さない。


 さすがに終焉種討伐に挑むつもりはないが、私が相対しているのは災害種であり、ウイング・クレストの援護ももらえているのだから、相手がOランク相当とはいえ、M-Wランクモンスターならば倒しておきたい。

 神帝の魔力によって、複数匹が終焉種に進化しているが、他にも進化する可能性がある魔物もいると神託が下っており、しかもどこに生息しているのかも定かではない。

 それ故に連邦天帝国は厳戒態勢を敷いており、天樹城のあるフロートも例外ではない。

 神託の内容は終焉種のみだったが、異常種や災害種も当然のように増えているだろうから、エンシェントクラス達を派遣することは増えるだろう。

 天帝である私が派遣されることは無いが、だからこそフロートを襲うような魔物は、私が討伐するべきだと考える。

 戦うぐらいなら逃げろと言われてはいるが、エンシェントクラスの天帝が魔物に尻尾を巻いて逃げるなど、天帝国分裂といった事態を招きかねないし、何より私自身にそのつもりは一切ないのだ。

 だが私は、異常種はともかく災害種の討伐経験はない。

 だからこそ、この機会に討伐しておきたいと思う。


「すまないが、あのフラッド・クレインは私がもらうぞ」

「そう仰るのではないかと思っていましたが、本当に陛下御自ら戦われるのですか?」

「無論だ」


 迷惑を掛けるのは重々承知だが、私にも引けない理由があるのだ。


「危険だと判断したら、私達も介入します。それでよろしいですか?」

「わかった。では行ってくる!」


 天帝を単独で戦わせるなど、ミーナ達としても許容できるものではないのだろう。

 だが私もエンシェントエルフであり、飛鳥殿と真桜殿に稽古をつけていただいたことで力も付けている。

 マルカが無事にレジーナを出産したことで、春先からは週に一度は最低狩りに出ているから、勘が鈍っているということもない。

 相手もWランクの災害種なのだから、油断などするつもりもありはしない。

 単独で立ち向かっている時点で慢心していると取られても仕方ないが、私も無策で挑む訳ではないのだ。


「では行くぞ!」


 縦横無尽に空を飛ぶフラッド・クレインに向かって、私は雷属性魔法サンダーマジック光属性魔法ライトマジック、結界魔法、奏上魔法デヴォートマジック、ミラーリングを融合魔法で融合させた新たな固有魔法スキルマジックサンダーライト・リフレクションを放った。

 私を中心とした半径50メートルの結界の中に鏡を無数に配置し、光雷を反射させるサンダーライト・リフレクションは、アクセリングの思考加速が無ければ使いこなすどころか自爆の危険性が高い魔法だ。

 完成してまだ2週間程度ということもあり、習熟度もさほどではない。

 だから反射させる光雷は、3本までとしている。


 鏡に反射しながらフラッド・クレインを追う光雷だが、フラッド・クレインは4枚の翼を使い、鋭角に飛ぶことで避け続ける。

 鳥型の魔物とは思えない程の動きだが、相手は災害種なのだから、私にとってもこれぐらいは想定内だ。

 だからこそ結界は、徐々に規模を小さくし、今では半径30メートル程になっている。

 しかも結界にも雷属性魔法サンダーマジックを融合させているため、脱出を試みようとしても感電し、一時的にではあっても動きを止めることを余儀なくされる。

 事実フラッド・クレインは、水属性魔法アクアマジックを纏った体当たりで結界を破壊しようと試みたようだが、体当たりした瞬間に雷の檻に捕らわれ、苦しんでいる。

 水は雷を通すのだから、水属性魔法アクアマジックを纏っての体当たりは悪手でしかないのだが、魔物には理解できないか。


 その隙を逃さず、私は雷のグランド・ソードを振るい、4枚ある翼の内1枚を斬り落とすことに成功した。

 3枚になったところで飛行には支障ないようだが、バランスが崩れてしまったことに違いはないため、フラッド・クレインの動きは一目でわかる程鈍くなっている。


 好機と判断した私は、サンダーライト・リフレクション全てをフラッド・クレインに向けた。

 もちろん正面からだけではなく、反射を利用して全方位からだ。

 先程とは違い、全てを避けることができなくなったフラッド・クレインは、一度直撃を受けてしまうとなす術がなかった。

 5度程光雷を浴びたフラッド・クレインは、力なく地面に向かって落ちていく。

 それでもまだ動いているのが確認できたから、私は再度グランド・ソードを使い、振り下ろすのではなく前方に突き出す。

 剣先はフラッド・クレインの首に命中し、次の瞬間私は真横に薙いだ。

 フラッド・クレインは首から大量の血を流し、地面に激突すると同時に命の灯を消した。


Side・ヴォルフ


 俺達リリー・ウィッシュは、P-Cランクモンスター クレストホーン・ペガサスの相手をしながら、横目で周囲の戦況を確認していた。

 大和がウロボロスを、真子がフェニックスを倒したことは、あいつらの戦績を見れば理解できるし、手にしている武器についても聞いてるから、特に驚きはない。

 だがリリー・ウィッシュの先代リーダー サヤが、夫や同妻達と共にとはいえ、まさかスレイプニルの討伐を成功させるとは、さすがに思ってなかった。

 だがサヤはもちろん俺達も大和の両親に稽古をつけてもらったし、そのおかげで俺達もエンシェントクラスへの進化が見えてきているぐらいだ。

 実際俺とシャルロットは、さっき倒したS-Iランクモンスター ワイバーン・オーバーロードと戦ってる最中に、エンシェントウルフィーとエンシェントドラゴニュートに進化したからな。

 弓術士でハイエルフのアルコは進化できなかったが、レベル的に見てもここの魔物を殲滅し終えたら進化してそうな気がする。

 だがサヤの旦那はグランド・オーダーズマスターで、ウイング・クレストを除けばヘリオスオーブ最高レベルの実力者だから、ウイング・クレスト以外で終焉種の討伐を成せるとしたら、グランド・オーダーズマスターの名が真っ先に上がる。


「アイゼン!」

「おうよ!おりゃああっ!」


 サヤの跡を継いでリリー・ウィッシュのリーダーになったエンシェントドワーフのアイゼンが、アルコの矢で体勢を崩したクレストホーン・ペガサスに、青鈍色鉄ニビイロカネを使って自作した斧と槌の複合武器ディライト・アックスハンマーの槌の部分を叩き付け、頭蓋骨を叩き割りやがった。

 確か大和が持ってる絵を参考にしてたはずだが、本当にあいつの世界は恐ろしいところだよ。


「リーム、大丈夫?」

「悪い、スリザ。あの角、本当に厄介だね」


 クレストホーン・ペガサスの攻撃で負傷していた女性ハイヒューマンのリームに、ヒーラーでもあるハイフェアリーのスリザが治癒魔法ヒーラーズマジックを使い、傷を治す。

 リームの左腕は、クレストホーン・ペガサスの額の角が当たってしまったため、あとちょっとで切断という憂き目にあうところだったんだが、武闘士でもあるリームは寸前で膝蹴りをかまして、ギリギリ軌道を逸らしてやがったから、重傷ではあるが切断まではいかなかったみたいだ。

 傷は深いが、スリザにノーブル・ヒーリングを使ってもらってるから、しばらくすれば戦線に復帰してくるだろう。


「下手な剣より、よっぽど切れ味が鋭いからな。ただ剣や槍の穂先にするには、ちと短いんだよなぁ」

「クレストホーン・ペガサスに限らず、魔物素材って武器には使いにくいわよね」

「全く使えない訳じゃないけどな」


 確かに魔物素材は武器にはし辛いが、今する話じゃないだろう。


「その話は後にしなさいよ。あっちもこっちも、とんでもない乱戦状態なんだから」

「さっき陛下も、フラッド・クレインを倒してたぐらいだしな」

「ウイング・クレストもいるってのに、まさか単独で戦うとは思わなかったわよ」


 は?

 俺は見てなかったが、陛下が単独でフラッド・クレインと戦ったって?


「私も見てなかったわ。もしかして、討伐に成功したの?」

「してたな。しかも陛下が戦ったフラッド・クレインは、Wランクだったぞ」


 マジか、それは。

 いや、確かに陛下なら、単独で戦おうとされてもおかしくはないんだが、天帝なんだからそれは勘弁してもらいたいんだけどな。


「あたし達でさえ頭を抱えるんだから、ウイング・クレストにとっては胃が痛いだろうねぇ」

「そりゃそうだろ」


 ウイング・クレストは陛下方と狩りに行くことも多いから、ある程度の癖とかも知ってるだろうが、だからこそ陛下が単独で戦うのを止められなかったんだろうな。

 まあ大和やプリム、真子がいなくても、あいつらのレベルは俺達より上なんだから、万が一があるとも思えないが。


「終わったわよ、リーム」

「ありがとう」

「よっしゃ、それじゃあ次に行くか」

「そうしよっか」


 リームの治療も終わったところで、次の獲物を物色する俺達だが、その間も魔物はひっきりなしに襲い掛かってきている。

 ただ襲ってきた魔物はバトル・ホース系やワイバーン系、アクア・ロック系の希少種までばかりだったから、今の俺達からしたら片手間でも十分倒せてしまう。

 俺達に稽古をつけてくれた刻印術師の親子が、本気で化け物だって証拠だな。


「次は……ねえ、あれって何だと思う?」

「うわあ……また面倒なのが……」

「さすがにあれは、従魔じゃないだろうねぇ」

「大和達ならともかく、レティセンシアの奴らじゃ会った瞬間にやられてるだろうからな」


 俺もそう思う。

 なにせシャルロットが見つけたのは、A-Cランクモンスター ヒポグリフ・グランロードなんだからな。

 大和やプリムが契約しているヒポグリフの災害種が生まれてるとは、さすがに思ってもいなかったぞ。


「さすがに大和に相手をさせる訳にはいかねえ。あれは俺達がやるぞ」

「了解よ!」

「分かった!」


 大和はヒポグリフと従魔契約してるから、災害種とはいえ戦いにくいだろうからな。


「それじゃあ行くぜ!」


 アルコが矢に風のグランド・ソードを纏わせ、ヒポグリフ・グランロードに放つ。

 矢なのにソードってのは違和感あるが、武器に纏わせて攻撃力を上げる魔法でもあるし、あくまでも名称がそうなってるだけだから、剣や矢どころか槍や斧にも使える。

 そのグランド・ソードは、ヒポグリフ・グランロードには余裕を持って避けられてしまったが、アルコも当てるために射た訳じゃない。


「おいでなすったな。ぬかるなよ!」

「当然だ!」


 グランド・ソードを避けて突っ込んできたヒポグリフ・グランロードを無視するかのように、リームが突然地面を殴った。

 同時に地面が隆起し、ヒポグリフ・グランロードの前方に巨大な壁を作り出す。

 更にその壁をブラインドにし、雷雲を展開させる。

 リームの固有魔法スキルマジックダークミスト・レイダーか。


「続けていくよ!」


 さらにシャルロットも氷の壁を、ヒポグリフ・グランロードの後方を覆うように作り出し、退路を断っている。

 そこにアルコの固有魔法スキルマジッククラウド・サンダーボルトによって引き起こされた落雷が雨のように降り注ぐ。

 兄弟姉妹のように育った間柄ではあるし、何度も見たことあるが、相変わらずえげつない魔法だな。


 かなりの速度で向かってきていたヒポグリフ・グランロードは、リームの作った壁をブチ破ったが、待機していた雷雲に取り込まれ、動きを鈍らせ、アルコのクラウド・サンダーボルトも同時に浴びることで、絶え間ない雷撃に晒された。

 さらにシャルロットの氷壁による結界までもが加わり、雷撃は反射するかのように全方位から襲い掛かっている。


「ヴォルフ!」

「分かってる!」


 そして俺とアイゼンが、武器にグランド・ソードを纏わせ、アクセリングも使って突っ込む。

 俺達が接触する寸前に、シャルロット、リーム、アルコが魔法を解き、そこに俺とアイゼンの一撃が交差。

 刹那、ヒポグリフ・グランロードの胸元に抉れる程の巨大な傷が付き、そのまま地面に落下し、息の根を止めた。

 進化したことで戸惑うこともあるが、そこは長年の付き合いってもんもあるし、だいたいの癖も分かってるからこその連携だ。

 飛鳥さんと真桜さんにも、そこは褒めてもらってるからな。

 まあ、そのリリー・ウィッシュ自慢の連携も、2人には一切通用しなかったんだが。

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