父母と戦女神

Side・真子


 第2階層で瀑布の火山の絶景を楽しんだ後、少しの休憩を挟んでから私達は第3階層に下りた。


 クラテル迷宮は難易度が高いこともあって、第3階層まで下りてきているハンターは少ない。

 第5階層に光絹布の素材となるグランシルク・クロウラーが生息してるから、エンシェントハンターは頻繁に足を運んでるんだけど、ハイハンター数人ぐらいじゃ第3階層どころか第2階層の突破も難しいから当然なんだけどさ。

 迷宮ダンジョンじゃたまに寄生行為が問題になることもあるけど、ここまで難易度が高いとそれも無理だし、ここまで来れるハンターはモラルも高いから、問題も起こりにくい。

 だけど起こりにくいっていうだけで、絶対っていうワケじゃないのよね。


「大和、あれはいいのか?」

「良くはないが、この階層の構成が構成だからな」


 第3階層はベスティアによく似た市街地階層だけど、第4階層への階動陣までは、実は一本道になっている。

 だから私達のすぐ後ろをついてきているレイドがいても、文句も言いにくいのよ。

 これが別の階層だったり、もしくはあからさまだったりしたらともかく、あっちはあっちでちゃんと魔物を倒してるから尚更ね。


「一本道だから、ついてくるなって言っても意味はない、か」

「よっぽど酷かったらセーフ・エリアで時間潰すか、第2階層なり第3階層で適当に時間を潰すって手もあるしな。まあ、ここで問題になったことは無いそうだから、気にしなくても大丈夫だって」


 確かにクラテル迷宮では、ハンター間でのトラブルは少ないって聞くわね。

 問題行動を起こすハンターはハイクラスどころかレベル30台でくすぶってることが多いから、第1階層ですら突破できないし、まかり間違って第2階層に下りれたとしても、難易度が高いこともあってセーフ・エリアから出ることもできないって聞くわ。

 実際クラテル迷宮は、ハイクラス数人じゃ第3階層の突破は厳しいし、何より第4階層は一面の海原だから、船がないと詰みっていう凶悪な迷宮ダンジョンだったりするんだけどさ。


 そして大和君の予想通り、私達の後ろから着いてくる形になったハンター達は、中央のセーフ・エリアに着いてから寄生紛いの行為を謝罪してきているわ。

 どうやら初めて第3階層に下りてきたそうだけど、ゴブリン達の攻撃が予想より激しかったから、第2階層に戻るかどうか検討してたところだったらしいわね。

 そこに私達が下りてきたものだから、少しでも正確な情報を集めるために、私達の後から進むことにしたんですって。

 大和君も問題にはしなかったし、この先はガルムやアマゾネスが多くなるってこともしっかりと伝えたから、どうするかは彼ら次第ね。


 そのまま休憩せずに進むと、階動陣が見えてきた。

 だけどアマゾネス・クイーンの姿は見えないから、エンシェントハンターの誰かに倒されてるってことになる。

 いつ倒されたのか、倒されてから次のクイーンが生まれるまでどれくらいかかるのか、とかはまだ分かっていないけど、余計な手間が省けたのは間違いないから、私達はそのまま第4階層へと進む。


「うわぁ、すごいねぇ」

「本当に一面海なんだな。迷宮ダンジョンとして、これはどうなんだ?」

「俺も同じ事思ったよ。遠回りな自殺志願コアかと、本気で思ったからな」


 そう言えば初めて第4階層に到達した時、そんなこと言いながら叫んでた気がするわ。

 私も似たようなこと思ったけど。


「まあ、ここに来るのはハイクラス以上だから、ストレージングやインベントリングは使えるし、稼ぎも良いから船ぐらいは用意できる。しかも第5階層は稼ぎやすいから、この階層はふるいみたいなもんだと思うようにしてるよ」

「そういう考えもあるのか」


 ああ、確かに大和君の考えがしっくりくるかも。

 第5階層の魔物も手強いけど、環境的に見ると第4階層の方が厳しい。

 だから第4階層を突破できるハンターなら、第5階層なら思いっきり稼ぐことができる。

 だけど到達するには第4階層を抜けないといけないんだけど、ハイクラスでも並大抵の実力じゃ厳しいし、ちょっとした油断で船ごと沈められてしまう。

 だから何かの間違いで進化してしまったようなチンピラハンターじゃ、何人集まっても第3階層のアマゾネス・クイーンを倒すことはできないし、立派な船を用意できたとしてもこの階層で沈められて終わりでしょうね。


「確か迷宮核ダンジョンコアって、人間に管理してもらいたがってるって話だよね?」

「そう言われてるってだけで、実際にどうなのかはわかってないわよ?」


 真桜の疑問もわかるけど、迷宮核ダンジョンコアの気持ちなんて察しようがないもの。


「わかる人がいたら、会ってみたい気もするけどね。あ、大和、船体の準備をお願いしてもいい?」

「わかってる。ユニー、危ないから、少し離れてろよ」

「ユニーちゃん、こっちおいで」

「は~い!」


 ユニーも迷宮ダンジョンに来たのは初めてだし、何よりこんな海を見たのも初めてだから、さっきから興奮しっぱなしね。

 4歳と可愛い盛りだから真桜もえらく可愛がってるし、ユニーも懐いてるから、ここは任せときましょう。


「申し訳ありません、真桜様」

「ルミナさんには大和達もお世話になってるんだから、これぐらい気にしないで。ねー?」

「ねー?」


 はたから見たら完全に孫とおばあちゃんね。

 いや、大和君曰く、真桜はもともと年齢より若く見られてたってことだし、ヘリオスオーブに来たことで細胞とかも活性化してる疑惑があるから、親子に見えなくもないか。

 本人に言ったら絶対調子に乗るから、言わないけどさ。


「それじゃあ父さんも母さんも、この獣車も動くけど、驚かないでくれよ?」

「わかった」


 大和君が天魔石に魔力を流すと、獣車に備え付けてあるストレージ・スペースから船体が現れ、海に浮かんだ。

 そしてその船体に向かって、獣車が浮き上がり、ゆっくりと接続される。

 最初は驚いたけど、慣れると面白いわよ。


「これはすごいな」

「だね。まさか合体するなんて、思ってもいなかったよ」

「多機能獣車たる所以だからな。確かいくつかのレイドも、船としても使えるように船体を発注したって聞いてる」


 確かに発注してるレイドは多いわね。

 というかエンシェントハンターにとってクラテル迷宮は必須ともいえる狩場だから、エンシェントハンターのいるレイドは全部注文してるわよ。


「それじゃあ行くか」

「ええ。あ、でも今日って、ここで少し過ごしたら帰るんだったわよね?」

「その予定だよ。リカさんは出産直後だし、プリムとフラムは妊娠中。さらにサキとアスマまでいるんだから、あんまり長時間は問題でしかないだろう?」


 まったくもってその通り。

 この機を逃したら義理の両親と旅行なんてできないから、今回は仕方なく許可しただけだからね。

 とはいえさすがにこれ以上は、ヒーラーとしても看過できないわ。


「それに夕方から、お義父様とお義母様はサユリおばあ様のお屋敷に招待されているのよ」

「そうなんですか?」

「そうなんだ。明日帰るということもあるから、是非にと言われてね」


 サユリ様のお屋敷か。

 確かに一度は行っておきたいわね。

 なにせ天樹城王連街は天樹の虚にあるし、海と桜が1年中見放題の絶景なんだから。

 正直、羨ましいと思うわ。


「というか、まだ王連街に行ったことなかったのか?」

「うん。行ってみたいとは思ってたけど、確か天帝家からの招待がないと、誰であっても立ち入れないんでしょ?だから無理かなって思ってたんだ」

「申し訳ありません、てっきりもう招待されていると思っていました。そうと知っていれば、お兄様にお願いしたのですが」


 真桜のセリフに、マナ様とユーリ様が申し訳なさそうな顔をしている。

 うん、これは私も気付くべきだったから、申し訳なく思うわ。


「気にしないで」

「そうだぞ。こちらもこちらで、久しぶりにゆっくりした時間を過ごさせてもらっているんだから」


 まあ、2人はそう言うでしょうね。

 というかこの1ヶ月、3種の終焉種討伐のみならず、リッターズギルドやエンシェントハンターへの訓練なんかも請け負ってくれてたんだから、ゆっくり過ごせてたとは言えなくない?

 いえ、七師皇の仕事は大変だって聞いてたし、さらには実家の神社の仕事まであるんだから、それらが無いだけでもゆっくりできるとは思うけどさ。


「とてもゆっくりできたとは思えないが、まあ実家の仕事もあるし、七師皇の仕事は激務だから、それから解放されただけでも十分ってことか」

「そういうことだ。とっとと引退したいんだがな」

「いや、さすがに無理だろ、それは」


 大和君も同じ考えだったみたいね。

 それに引退なんて、あと30年は無理なんじゃない?

 神器生成者っていう理由もあるけど、実力も世界最強の1人なんだから、国が許さないわよ。

 さすがに死ぬまでってことはないと思うけど。


「ん?これは……何かこの船に向かってきてるな」

「ああ、来たか。これはグレートブレード・フィッシュだな」

「グレートブレード?」

「ああ。ヒレが大剣並みにデカいんだ。魔銀ミスリルだって簡単に切り裂く。確かP-Iランクだったかな」


 モンスターズランクはそれであってるわよ。

 あと魔銀ミスリルじゃなく、金剛鉄アダマンタイトね。

 いえ、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネでも切れるって話だったかしら?


 なんて考えてたら、そのグレートブレード・フィッシュが獣車の正面から飛び上がった。


「げ、Wランクだったのかよ」

「Wランクって……ああ、確かプリムちゃんみたいな、魔物の翼族っていうのになるんだっけか」

「はい。元々翼を持つ種族以外は、余剰魔力が翼になっています。それは人間だけではなく魔物もですから、ランクも1つ上として扱われています」


 という説明を翼族のプリムがしてくれたんだけど、そのプリムは熾炎の翼を纏い、固有魔法スキルマジックセラフィム・ストライカーを放ってしまった。

 ちょっ、何してるのよ!?


「お、おい、プリム!」

「ごめんごめん。でもこの1ヶ月、お義父様やお義母様の戦いを見てたから、あたしも体がうずいちゃってさ」


 だから私達の隙をついて、魔物に手を出してしまったってことか。

 気持ちはわからなくもないけど、お腹も大きくなってきてるんだから大人しくしてなさいよね。


「変にストレスを溜められるよりはマシか。まあ私もそうだったから、気持ちはよくわかるけど」

「私もわかるなぁ」


 マナ様と真桜も、プリムの味方かぁ。

 まあ私も妊娠したらそうなる自信あるし、無理はしてないみたいだから、今回は目を瞑るとしましょう。


 その後1時間ほどクルージングを楽しんだ私達は、一度階動陣のある島に戻ってから外に出て、アルカに帰ることにした。

 帰ってからはサユリ様のお屋敷に伺うために、お土産として用意してた真桜のドレスを1日早く渡すことになったけどね。

 ああ、飛鳥君はスーツで来てたから、それに着替えてたわよ。

 らしいと言えばらしいんだけど、もうちょっとラフな格好でも良かったと思うけどね。

 だけど、どうやら王連街はしっかりと堪能してきたようで、帰ってきた時は2人とも満足そうだったわ。


 2人とも、明日でお別れか。

 ヘリオスオーブに来た当初は二度と会えないと思ってたけど、何の因果かまた会うことができた。

 だけど明日になれば、本当に二度と会えなくなってしまうから、やっぱり寂しいわね。

 でもヘリオスオーブで生きていくと決めたのは、他ならない私自身。

 だから明日は、笑顔で2人を見送ろう。

 その前に今夜は、真桜とたっぷり語り明かそう。

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