母とMARS
イークイッピングを使い、クレスト・ディフェンダーコートの上にバイザーとオーバーコートを纏う。
あとは幻影を出してもらうだけだが、母さんはMARSを使ったことがないから、操作はさっきのハンター達に任せる。
MARSは使う者が魔石をセットしないといけないし、スカラーは研究中だから、さすがに仕方がない。
「それじゃあ行くぜ」
「いつでも」
ところがそのハンターが出してきたのは、G-Uランクモンスター ティロサウルスだった。
おいおい、確かにティロサウルスの魔石は置いといたが、それを使うのかよ。
「さっきと違うじゃない!」
「自信満々なんだし、Gランクぐらい片手間で倒せるんでしょ?」
「偉そうに抜かしてやがったんだ、見せてみろよ」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべてやがるな。
俺は別に構わないが、他のハンターにこんなことをするようじゃ問題にしかならない。
俺のことを知らないっていうのはともかくとしても、これはルール違反だから、しばらくは使用禁止だな。
「お前らごときに見せるのは勿体ないけどな。だけどな、こんなルール違反をしたんだから、処罰は免れないぞ?」
「おいおい、俺を誰だと思ってんだ?俺の姉貴は、このMINERVAの管理責任者なんだぜ?お前ごときが何を言おうと、処罰なんてできるわけねえだろうが」
ほう、あの男、MINERVA管理者の弟なのか。
さすがに他のスカラーの手前もあるから独占はさせてないだろうが、優先的に使わせてた疑いはあるな。
これは後でしっかりと調べないといけないし、場合によってはオーダーズギルドにも出張ってもらうか。
「あっそ。ま、俺には何の関係もない話だな」
ティロサウルスの幻影を出されるとは思わなかったが、いくら竜種といえど、今更Gランクモンスターに苦戦するようなエンシェントハンターはいないし、わざと攻撃を受ける必要性も感じられない。
瑠璃銀刀・薄緑弐式を抜き、アクセリングを使ってティロサウルスに接近し、一息に首を斬り落とす。
「……え?」
「ティロサウルスが……一撃?」
「言っとくが、Gランクに苦戦するエンシェントクラスはいないからな?相手がサウルス、それも海棲種であっても、対策なんて必要ないんだよ」
ぶっちゃけ力押しだが、ティロサウルスは毒もないし精神に作用するような攻撃手段も持ってないから、それでもなんら問題ないんだよ。
「え、エンシェントクラスだと!?お前みたいなガキがか!」
「ついでに名乗っておく。俺はヤマト・ミカミ・フレイドランシア。アマティスタ侯爵領領主フレデリカの夫で、領主代理でもある。それが何を意味するかは、さすがに分かるよな?」
俺が名乗ると同時に真っ青になるハンター達。
いくらあいつらの身内にMINERVA管理責任者がいても、俺の立場はそれより上だから、何の意味もない。
むしろ俺達が苦労して開発したMARSで好き勝手してるような奴らには、絶対に使わせたくないな。
「お前の姉が、MINERVA管理責任者だって言ってたな。身内だから多少優遇するのは仕方ないが、本当にそれだけで済んでるのか、しっかりと調べさせてもらうぞ」
どうなるかはわからないが、偽証防止にオーダーズギルドにヒアリングを使った取り調べも頼むつもりだから、遠からず結果もわかるだろう。
スカラーズギルドから罰則が科せられるかもしれないが、そこまでは知ったことじゃない。
「す、すいませんでした!」
「最近何を狩っても上手くいかないから、イライラしてたんです!」
「もう二度としません!許してください!」
土下座する勢いで頭を下げてきてるが、あれは完全な八つ当たりだったな。
普通ならティロサウルスの幻影を出されたら動揺するだろうし、それが敗因につながることもある。
それを見て優越感に浸りたかったんだろうが、そんな下らないことを考えてる時点でアウトだ。
「上手くいかないこともあるだろうが、だからってイライラして、他人に八つ当たりってのは違うだろ?そもそも上手くいかないのも、自分達の実力を過信してるからじゃないのか?」
「それは……」
「自分の実力も理解できないで、ハンターなんてやってられる訳がない。いくらMARSを使っても、遠からず死ぬだろうよ。あと俺のことを知らなかったのはともかく、さっきのティロサウルスは明確なルール違反だ。だからハンターズギルドが許可を出すまで、MARSの使用は禁止させてもらう。ハンターズギルドからどんな処罰が下るかは分からないが、そっちも甘んじて受け入れるんだな」
「そんなっ!」
後学のためにベテランの戦いを見せてもらうこともよくあるんだが、その場合は自分達が戦っていた魔物の幻影を使うというルールがある。
そうじゃないと自分達とベテランの違いが分からないし、ベテランも手の内を晒したくないこともあるだろう。
他にもいくつかあるが、違反した場合は一定期間MARSの使用が禁止されるし、ひどい場合はハンターズギルドからペナルティが科せられることもある。
このハンター達は明確にルール違反を、知らなかったとはいえ領主代理の俺に対してやらかしてしまった訳だから、どうあっても処罰は免れない。
さらにMINERVA管理責任者のだっていう身内も、どれだけ処罰が軽くても降格の上でMINERVAの管理職から外されるだろう。
「それからこの場にいるスカラー。あんたらは俺のことを知っていただろう?なのに介入してこないとは、どういうことなんだ?」
コロシアムは魔物の幻影が出ることもあり、スカラーの姿も少なくない。
どんな魔物を選ぶかはハンター次第だが、それでも魔物の研究に使うことはできるから、スカラーはしっかりと研究している。
なのにスカラーは、俺とハンターのやり取りに割って入ってくる気配はなかったし、研究に集中してるような様子も無かった。
おそらくだが、このハンター達が管理責任者の身内だから、下手に介入すると自分達も罰せられるかもしれないって考えたんだろう。
俺の立場は知っていても、MINERVAの管理はスカラーズギルドに任せてるから、領主代理が何を言っても意味がないって考えてる可能性もあるな。
確かにスカラーズギルドに限らず、ギルドの内情や人事は、余程のことが無ければ領主でも口出しは難しいものがある。
だけどMINERVAの管理は、アマティスタ侯爵家がスカラーズギルドに委託している形になっているし、MARSに至っては貸与だ。
だから領主であっても口を出すことは十分可能だし、そのために貸与っていう形をとっていたりするんだよ。
スカラーにもその説明はしているはずだが、多分忘れてたか、もしくは聞いてなかったかのどっちかだろうな。
実際俺が改めて説明したら、真っ青になったスカラーもいたし。
「いくら研究者だからって、話を聞かないのはどうなんだろう?」
「研究者だからこそ、MARSを使えればいいって考えてたんだろ。さすがに問題だし、貸し出してる身としても許容できないな」
処罰はスカラーズマスターに任せるが、もしまた同じことをした場合は、メモリアからの退去勧告ぐらいはさせてもらう。
入学式直前と言ってもいいこの忙しい時期に余計な手間を掛けさせられたんだから、処罰が厳しくなるのは覚悟しといてもらいたいね。
後で聞いた話だが、事態を重く見たハンターズギルドとスカラーズギルドによって、MINERVA管理責任者を務めていたスカラーは、身内への優遇が過ぎるってことで降格の上で役職を解かれ、許可が出るまでMINERVAの使用禁止を言い渡され、フロートの総本部へ移動になった。
ただこちらの方は許可を出したってだけで、弟ハンター達が好き勝手やってたってのが真相だったそうだし、本人も監督不行き届きを反省してるから、長くても1年足らずで許可が下りるだろう。
あの場にいたスカラー達も、全員が1ヶ月の使用禁止を言い渡された。
巻き込まれるのを恐れてのことではあるが、最初にしっかりと説明を聞いてれば起きなかった問題でもあるし、何より自分の研究を優先してたってことが問題視されたな。
今回の件は悪しき前例として、スカラーズギルドでもしっかりと告知することに決まったぞ。
問題の弟ハンター達だが、こちらも許可が出るまでMINERVAの使用禁止の上、メモリアから追放、同時にグラシオンへの立ち入りも禁止された。
さらにスカラーどころか、他のハンターにも姉の立場を利用してMINERVAの使用を制限していたようだし、高ランクモンスターの幻影と戦わせようとした罰もあるから、1年や2年程度じゃ許可は下りないだろうな。
だからこそメモリアだけじゃなくグラシオンへも立ち入り禁止になった訳だし、今後MINERVAが設置された街へも、緊急時以外立ち入り禁止って通達されたらしい。
それでいて連中はBランクハンターだし、姉を巻き込んだって話も広まってるから、少なくともアミスターにはいられなくなるだろう。
まあ、自業自得ってことで受け入れてくれ。
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