母の助言
Side・ルディア
大和とマナ様が、お義父さんとお義母さんを天樹城に案内している間、あたしは真子と一緒に、グラシオンMINERVAに設置するMARSを作ることにした。
といっても大和は、メモリアでのお仕事が終わってから天樹城で合流するらしいけどさ。
フラムもプラダに研修に行ってるから、今日は本格的な組み立てじゃなく、新しい結界パターンの構築とかオーバーコートの改良とか、そっちがメインになる。
「これ、必要かな?」
「実際に
「だよね」
新しく組み込んだ結界パターンは、
もちろん再現してるのはその一部だし、実際に迷路になってるワケじゃないんだけど、迷路階層は左右に壁があって、天井もしっかりとある。
完全な閉所での戦いになるから、壁を蹴ったりとかして方向転換なんていうこともよく行われているんだ。
だけどだからこそ、どうやってそれを再現するのかっていう問題が残ってしまう。
「単純に閉所での戦闘なら、試作みたいな範囲の狭い結界を使えばいいんだけど、それだと壁とか天井とかを利用した戦闘ができないのが問題よね」
「そこなんだよねぇ。それでも感じは掴めると思うけど、実際にそんな場面に遭遇した時と違いが出過ぎちゃうから、逆に戸惑われちゃうかもしれないよ」
「そうなのよねぇ」
結界パターンはあくまでも風景を見せているだけだから、実際には壁も天井も存在していない。
だから壁や天井を利用した戦闘は行えないんだけど、戦闘訓練でもあるんだから、できることなら実戦と近い感覚で使えるようにしたい。
「模造船みたいに、念動の天魔石を組み込んだ小規模の戦闘空間を用意した方がいいのかしら?」
「それって別に結界パターンを用意する必要ないよね?」
「そうなのよねぇ」
真子の言うように、壁とか天井とかがある小型の戦闘空間を用意することは難しくないと思う。
だけどそれはコロシアムの中に小さなコロシアムを作るっていうことにもなるし、そこまでやるんなら結界パターンは逆に必要なくなる。
それに完全な閉所空間にしちゃったら、外から様子を見ることもできなくなるし、事故とかが起こっても確認とかができない。
最悪それを悪用する奴も出てくるかもしれないから、外からの確認は絶対に必須だって大和や真子は口を酸っぱくして言ってるし、その案は却下するしかないなぁ。
「そうよねぇ。それにハイクラスが本気を出したら、下手な強度の材質だと簡単に壊されちゃうから、訓練どころじゃなくなっちゃうわ」
「あ~、その問題もあったねぇ」
忘れてたけど、壁や天井を利用して方向転換とかをするってことは、壁や天井にも負荷がかかるってことになる。
ノーマルクラスでも普通の石とかを壊すことがあるんだから、ハイクラスやエンシェントクラスなら壁を蹴った瞬間に壊れることも十分考えられるよ。
なのに
「ただいま~。あれ?真子もルディアちゃんもすっごく悩んでるみたいだけど、どうかしたの?」
どうしたもんかと真子と額を突き合わせて悩んでいると、いつの間にか夕方になってたようで、お義母さんが帰ってきた。
あれ?今日って天樹城で晩餐会じゃなかったっけ?
「お義母さん、今日の晩御飯は天樹城じゃなかったっけ?」
「真子にお義母さんって呼ばれるの、やっぱり慣れないなぁ」
「いい加減に慣れてよ。まあ私も、実は呼び辛いんだけど」
「だったら無理しないでいいよぉ。あ、晩餐会だよね?それって明日に変更になったんだって」
親友が義理の親子になったんだから、どっちもやり辛いよね。
というか晩餐会が変更って、この土壇場で?
「土壇場でっていうより、明日だとアレグリアの女王様も都合がつくからみたいだよ」
ああ、そっちの理由だったのか。
お義父さんがニーズヘッグ討伐を宣言しちゃったし、そのニーズヘッグが住んでるエニグマ島はアレグリア国内だから、グリシナ獣王陛下にも話しておかないといけないよね。
だから明日、グリシナ陛下も招待しての晩餐会に変更したのか。
「なるほどね。ってことは多分、グリシナ陛下も見学に来られそうな気がするわ」
「お義母さんもいるしあたし達も行くから、護衛するだけならなんとかなるもんね」
ファルコンズ・ビークも来るし、多分他にも来たがる人はいるだろうから、護衛戦力としては十分だね。
「十分どころか、それだけでも多分倒せるでしょ。まあ飛鳥君の戦いを見るのが目的だから、手は出さないだろうし、そんな隙もないと思うけど」
「うん、ないよ。多分一瞬で終わるんじゃないかな?」
「い、一瞬って……」
真子とお義母さんの会話が怖いけど、こないだの戦争であたし達をドラゴンから助けてくれたのはお義父さんらしいし、それも軽く剣を一振りしただけだって言ってたから、相手がニーズヘッグでも本当に一瞬で終わるかもしれないっていう気がしてくる。
だってお義父さん、レッド・ドラゴンやバーニング・ドラゴンの首じゃなくて胴体を真っ二つにしちゃったんだもん。
その時に使った刻印術でニーズヘッグの首を狙えば、いくら終焉種でも絶対に耐えられないと思うよ。
「あれを使ったら本当に一瞬だし、あんまり魔力を使いすぎると帰れなくなるから、今回は使わないんじゃないかな?」
「そうなの?あ、でもミスト・インフレーションもあるから、それを使えばいいのか」
「うん、使うとしたらそっちだと思うよ」
ミスト・インフレーションって、確か大和のミスト・ソリューションの元になった刻印術だよね?
大和は劣化版だって言ってたけど、そのミスト・インフレーションっていう刻印術、そんなに凄いの?
「すごいわね。ミスト・ソリューションは体の大きな相手には効き辛いけど、ミスト・インフレーションなら関係ないわ。仮に耐えたとしても、体内にダメージが残るからね」
「学生時代より改良が入ってるから、さらにすごくなってるよ」
真子が知ってる時点の話でもとんでもないけど、さらにすごくなってるって、想像がつかないよ。
「まあ、実際にどんな戦い方をするのかは、その時を楽しみにしときましょ」
「そうだね」
なんて2人は言ってるけど、あたしはちょっと怖くなってきたよ。
「それで、2人は何をやってるの?」
「話したでしょ?MARSに使う結界の調整よ」
「ああ、ARみたいな感じのやつだっけ」
「ええ。参考にしてるから、ヘリオスオーブ版ARって言ってもいいでしょうね」
2人の言ってることはよくわからないけど、確かに大和は自分の世界の技術を参考にしたって言ってた。
一般的だから大和も何度も使ったことがあるそうだけど、実際に自分が作ることになるとは思わなかったとも言ってたっけ。
でもそのおかげで魔物の研究は進んでるし、ハンターも魔物の攻撃や防御の方法を知ることができるから、事故は減ってるっていう話もあるんだ。
「へえ、大和ってそんなすごい物作ったんだ」
「私達も手伝ったけど、本当に大変だったわね」
「だね。一応今は実用化されてるけど、コストも高いし改良の余地もまだあるから、日夜研究を続けてるんですよ」
いまあたし達が調整してる結界パターンもだけど、MARS本体にバイザー、オーバーコートもまだ改良できそうだから、毎日っていうのは無理だけど、時間があれば頑張って色々試してるんだ。
「それで今は、
「迷路?」
「ええ。もちろん迷路そのものじゃなくて、閉所空間での戦闘を再現できるようにってことなんだけど、壁とか天井とかをどうしようかって話になってるのよ」
「そうなんだ」
材質の問題もあるから、ただでさえ難しい問題がさらに難しくなってるんだよね。
「それならさ、確か真子が作った魔法で、足場を作る魔法ってあったよね?それって使えないの?」
「私が作ったって……ああ、スカファルディングか。確かにあれは足場を作るけど……あっ!」
「え?どういうこと?」
ところがお義母さんの助言を受けた真子が、突然何か閃いたみたいだ。
あたしはまだわかってないんだけど、それってどういうこと?
「その手があったか……。あ、ごめん、ルディア。スカファルディングって、魔力で疑似的な足場を作るから、水の上だろうと空だろうと構わず立てるでしょう?」
「うん。おかげであたしも助かってるし、ハンターやリッターも戦闘の幅が広がったから、生存率も上がったって聞いてるよ」
「その疑似的な足場だけど、使い方によっては壁を蹴るみたいな感じで使うこともあるわよね?」
「うん。あたしみたいな武闘士は、よく使ってる……あっ、そうか!」
そこまで説明されて、やっと理解できた。
そうだよ、その手があったんだよ!
「お役に立てたかな?」
「それはもう!ありがとう、真桜!」
「良かったよ」
お義母さんの提案をまとめると、スカファルディングを付与させた天魔石を作って、迷路の壁や天井になるように展開させることになる。
もちろん常時展開は魔力をドカ食いするから考えないといけないけど、オーバーコートを上手く連動させて、壁や天井に接触すると同時に自動的に展開するように調整できれば、迷路内どころか建物の中とかでも再現できるかもしれない。
調整は大変だけど、それだけの価値があるよ、これは。
「調整は必要だけど、まずはスカファルディング付与の天魔石を作らないといけないわね」
「だね」
スカファルディングの付与が上手くいったら、前に作った模造船を使った疑似海上戦闘もやりやすくなるんじゃないかな?
「これは処理が大変になるから、本格的にマルチ・コアも検討する必要があるか」
「え?マルチ・コアって、前に没になったんじゃなかったっけ?」
確か基幹魔石を並べて使って、処理を分散させようって案だったよね?
「それは複数の魔物を出すのが難しいからよ。だけど普通に使っても、処理速度も性能も上がるわ。それに今気が付いたんだけど、マルチ・コアにすれば魔物の挙動がもっと自然になるかもしれないし、Aランクモンスターも使えるようになるかもしれないわ」
「え?そうなの?」
「かもしれないっていうだけだけど、試してみないと何とも言えないっていうのが正直なところね」
今のMARSだと、自然に動かせるのはMランクモンスターまでが限界で、そのMランクモンスターであってもところどころ不自然な動きをすることがある。
だけどそれを改善できて、その上Aランクモンスターまで使うことができるようになれば、魔物の研究はさらに進むんじゃないかな?
「でもそれなら、こないだ倒したバーニング・ドラゴンの魔石を使えばいいんじゃない?」
「それは無理よ。魔族の魔力に汚染されてるそうだから、使い物にならないわ」
「さっき天樹城で聞いたんだけど、魔法の付与だっけ?それはできないそうだし、それどころか悪影響がでるかもしれないんだって」
うわ、そうなのか。
確かに魔族だけじゃなく、バーニング・ドラゴンやレッド・ドラゴンも魔化結晶を使われてるんじゃないかって話だったけど、そのせいで魔法付与ができないどころか悪影響が出るかもしれないって、クラフター泣かせでしかないじゃん。
「そうよね。ただフィリアス大陸の魔物だと平気みたいだったから、多分グラーディア大陸は魔族が増えたことで大気中の魔力が澱んで、そのせいで魔物にも悪影響が出てるって予想されてるわ」
真子がファルコンズ・ビークから教えてもらった情報を口にするけど、それって魔族が害悪でしかないってことの証明でしかないよ。
バーニング・ドラゴンやレッド・ドラゴンは、魔物素材としても使い物にならないそうだから、苦労して倒しても見返りがないってことだし、そんなの誰も戦いたがらないじゃんか。
「本当の意味で魔族だよねぇ。あの神帝って名乗った男も、魔王って改名した方がいいんじゃないかな?」
「フィリアス大陸じゃそう呼ばれてるけど、あいつは多分神に選ばれたとでも思ってるから、絶対に改名なんかしないと思うわよ?」
だから神帝って名乗ってるって話だしね。
だけどグラーディア大陸のドラゴン素材が使えないのは、普通に痛いよ。
でもない物ねだりしても仕方ないから、今ある素材や方法を駆使して、何とかしてみよう。
お義母さんからいいアイディアももらったし、まずはそっちを完成させないとね。
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