グラシオン再開発に向けて
クラテル迷宮での狩りにバトラーとの契約、小型多機能獣車複数台の製作依頼、フィールやメモリア、デセオでユーリやリカさん、ヒルデの補佐をしていたら、あっという間に11月になってしまった。
クラテル迷宮から帰ってきて2週間近く経ってるが、マジで一瞬で時間が過ぎ去った感じだ。
光陰矢の如しっていう諺を、ここまではっきりと感じられる日が来るとは思わなかったな。
「お疲れみたいだけど、大丈夫?」
「リジェネレイティング使ってますから、体はなんとか」
本来は徒歩での長距離移動や長時間の戦闘に使う魔法だが、体力を使うのは戦闘だけじゃないから、執務で疲れた体に使っても効果を発揮してくれる。
「リジェネレイティングも使い過ぎは問題だと思うけどね。それに体力的より、精神的な疲労の方が大きいでしょう?」
「まさしく」
真子さんの言う通り、体力的な疲労よりも精神的な疲労の方が大きい。
なにせこの2週間、プラダに開設するハンターズギルドとトレーダーズギルド、プリスターズギルド支部の建設のためにギルドマスター達と話し合ったり、エネロ・イストリアス伯国の独立の噂を聞いた貴族達が自分達も独立させろとヒルデの所に押しかけたり、設置したばかりのMARSの使用を巡ってスカラーがいざこざを起こしたりと、常に何か問題が起きてたからな。
プラダの方はユーリが動けるし、どのギルドも既に建設予定地は確保済みだから特に問題は無かったんだが、デセオの方は本当に面倒だった。
中途半端に実績のある連中だったから、迂闊に実力行使する訳にはいかず、ヒルデの護衛として何日も拘束されたなぁ。
最終的にはラインハルト陛下に、独立のための実績が無いって事を告げられ、さらに代官のヒルデに無体を働いたって事で、今の役職からは外されたが。
MARSの方は、先に使ってた方が規則や時間を守らずに独占しようとしてた事が原因だから、俺としても黙ってる訳にはいかなかった。
そいつはグランド・スカラーズマスターの許可が出るまでは、MARSの一切の使用を禁止っていう重い処罰が下っている。
そいつに文句を言った方も、暴力を振るって怪我をさせてしまったという事実があるから、こちらも半年間の使用禁止だ。
研究は大事だが、独占なんてさせるつもりはないし、使えないからって暴力に訴える奴も同罪だからな。
「今日からしばらくはグラシオンだけど、やるのはトレント狩りだから、ストレス解消ぐらいにはなるか」
「それを期待して来ましたよ」
今日からしばらくは、アレグリア獣都グラシオンで仕事をする事になっている。
1ヶ月前にメモリア総合学園に設置したMARSを、グラシオン郊外に建設する専用施設にも設置する事が正式に決まり、アレグリア側の調整も終わったからだ。
たった1ヶ月で決まるとは思わなかったが、アレグリアにとっても願っても無い話だったらしく、大きな国益に繋がる話だって事で、グリシナ陛下のみならず宰相や大臣とかも諸手を上げて賛成した結果、トントン拍子に話が進み、今日という日を迎えてしまった。
そこまで期待されてるとプレッシャーを感じるが、既にメモリア総合学園のMARSはスカラーに解放されて一定の成果を上げてるし、使った事のあるハンターからの評判も良いから、メモリアを訪れるハンターやスカラーは増えている。
グラシオンに設置するMARSは3つの予定だし、規模もこちらの方が大きくなる。
さらにグラシオンはアレグリア獣都でもあるし船便もアミスター、バリエンテ、リベルターの三方面に通じているから、人によってはメモリアよりも向かいやすいだろう。
さらにグラシオンを拡張できる良い機会でもあるから、景気も良くなるんじゃないだろうか?
その施設を建設するための場所は、グラシオン郊外にあるトレントの森の一角だ。
トレントは樹木だが、何かの拍子に魔物化してしまう。
トレントの木は多くの森にあるんだが、だからこそ森では魔物のトレントと遭遇する事も多い。
グラシオン郊外の森は、その名の通りトレントの木しかないため、トレントを相手に出来るハンターは多いし、特に天樹魔法が使えると引っ張りだこなんだそうだ。
そのトレントの森の一角を使い、施設を立てるんだが、そのためにはトレントの森を一部とはいえ更地にしなければならない。
魔物化したトレントはB-Nランクモンスターで、上位種になるUランクは存在していない。
だからすぐ上はS-Rランクになるんだが、稀に出てくる事もあるそうだから、今回は安全と時間短縮のために俺達が出張る事になった。
先月そんな話をしたし、俺にとってもストレス解消になりそうだから、けっこう楽しみにしてたんだよな。
妊娠中のマナやリカさんは羨ましそうな顔をしていたから、出産後に何か考えないといけないのが辛いが。
ともかく今は、獣王城に行かないとだから、天樹製多機能獣車に乗り、ジェイドに引いてもらう。
御者はアリスだ。
「そういえばフレイドランシア天爵家用の獣車って、いつ頃完成するの?」
「早くても来週だな。俺としては完成を合わせたかったんだが、マナやリカさんから、先にフレイドランシア天爵家用の獣車を仕上げてもらった方が良いって言われてるから、ちょっと無理をしてもらってる」
「それは仕方ないですよ。天爵がいつまでも、ウイング・クレストの獣車を使ってるのも問題ですし」
ルディアの質問に答える俺だが、残念ながらまだ小型多機能獣車は完成していない。
みんなが先に制作依頼を出してたから、俺の分は後回しになってるんだよ。
依頼順になるのは当然の話だから、これは俺も納得してるんだが、だからこそヴァルトとハイウインド侯爵家、ガイア様に贈る獣車の完成は合わせたかった。
本当ならフレイドランシア天爵家用獣車も同時に引き取るつもりだったんだが、自家用と贈呈用とじゃ意味が違うし、フレイドランシア天爵家としての獣車はまだないから、先にそっちを引き取り、実物を見てもらってから贈呈するのが礼儀だって言われちまった。
礼儀だって言われたら、俺も何も言えないからな。
だからフレイドランシア天爵家用獣車が完成したら、トラレンシアのブリュンヒルド殿下のとこを始めとして、ヴァルトのネージュさん、バレンティアのフレイアス侯爵、そしてウィルネス山のガイア様の所に行って、フレイドランシア天爵家用獣車を体験してもらってから、数日後に完成した獣車を贈呈って事になった。
本来なら数ヶ月は間が空くもんなんだが、既に獣車の製作は依頼済みだし、移動も俺のトラベリングを使うから、数日のタイムラグで済んでしまう。
だから非情に重宝してる魔法なんだが、そのせいでフレイドランシア天爵家用獣車の製作が遅れたっていう事情もあるから、便利すぎるのも問題だと考えさせられた。
貴族としての礼儀や常識なんかは無いから、ちゃんと勉強しないとな。
Side・フラム
獣王城に到着すると、私達はすぐに応接室に案内されました。
今回はトレントの森の伐採、もしくは討伐ですから、大和さん、プリムさん、ミーナさん、リディアさん、ルディアさん、アテナさん、アリアさん、ラウス、レベッカ、キャロルさん、レイナちゃん、セラス様、カメリアさん、そして私と、動けるハンターは全員が参加です。
「よく来てくれた」
応接室では、グリシナ獣王陛下のみならず、デイヴィッド王太子殿下やグレイス先先王陛下までと、獣王家総出で出迎えて下さいました。
「此度の件、改めて礼を言わせてもらう。まさかフロートや他の都市に先駆けて、このグラシオンにMARS施設を建造できるとは思っていなかった。いずれはと思っていたが、こんなに早くというのは、私達にとっても想定外だったよ」
確かにグラシオンにMARS施設を建造する予定は、前回の
その席で、メモリア総合学園だけではスカラーを抑えるのが難しいというお話が出て、それならば次はどこにという事になり、立地や開発の難易度からグラシオンが選ばれた形になりますが、グリシナ陛下からすれば願っても無いお話だったそうです。
「こちらとしても、こんなに早くっていうのは考えてなかったです。ですがメモリアを見てればお分かりいただけるかと思いますが、既に問題が出ていますから、グラシオンへの設置は急務かなと思います」
「独占を目論んだというスカラーの話か。その話はアレグリアにも届いている。登録抹消こそされなかったようだが、あれ以来そのスカラーは、どこのギルドからも白い目で見られ、ろくに研究も出来なくなったそうだな」
私達もそう聞いています。
元々野心的なスカラーでしたから、いずれは総合学園のMARS使用権を独占し、暴利となる使用料を徴収しようとも考えていたと聞いていますから、当然のようにメモリアへの立ち入りは一切禁止されています。
他の町にもその話は届いていますから、研究どころか普段の生活にすら困窮しているという噂もありますね。
「自業自得ですね。そもそもメモリア総合学園のMARSは、スカラーズギルドじゃなくアマティスタ侯爵家に所有権があります。万が一総合学園のMARSの独占に成功したとしても、アマティスタ侯爵家に話が通ればそれで終わりですよ」
「なるほど、スカラーズギルドではなくアマティスタ侯爵家に所有権を持たせた理由は、スカラーズギルドの暴走を防ぐためもあったか」
スカラーズギルドは研究機関でもありますから、大和さんや真子さんはその点を大いに警戒されていました。
地球には、研究のためなら何をしてもいいと考える研究者が少なくない数おり、そのせいで社会的な問題にまで発展してしまった事が幾度もあるそうです。
ですから重要な研究設備となるMARSの所有権を、スカラーズギルドに持たせる事は避けられたんです。
将来的にアマティスタ侯爵家が暴走する可能性は否めませんが、私達はエンシェントクラスですから向こう200年近くは目を光らせておく事ができますし、エレメントヒューマンの大和さんは、どうやらドラゴニアンと同じぐらいまで寿命が延びられているそうですから、500年近くは暴走を抑えられるはずです。
「其方達の故郷では、そのような問題もあったのか」
「はい。ですからグラシオンに設置するMARSは、獣王家に献上する形になります」
「話の流れからすると、確かにそうするべきか。ありがたい話よな」
「ええ。ありがたく受け取らせて頂こう」
本来献上は、謁見の間で行われます。
MARSはそこそこの大きさがありますが、ストレージングやインベントリングという空間収納魔法がありますから、大きさや重さは大した問題ではありません。
ですが稀に、今回のように王家のプライベート空間で献上される事もあるんです。
大和さんは各王家の方々とも親しいですから、最近ではこちらの方が多いですね。
正式に献上していますから記録には残りますが、こちらの場合ですと内外に広まりにくいのが問題でしょうか。
MARSの献上は、なるべく広めておくべきお話ですから。
「あ、あの!」
「デイヴィッド?どうかしたのか?」
MARSの献上を終えた所で、デイヴィッド殿下が口を開かれました。
「はい!えっと、ラウス様達も僕と同じく、春から総合学園に入学すると聞きました。だから少し、お話をと……」
だんだんと言葉に勢いが無くなっていますが、デイヴィッド殿下にとっては同級生になりますし、ラウス達も面識があるとはいえ、それほど深いお付き合いではありませんから、入学前に交流を深めたいとお考えみたいです。
ラウス達は殿下方の護衛という大役も担っていますから、私も事前に交流を深めておく事は良い事だと思います。
「あー、確かにそうだ。なのに今まで正式に紹介もしてなかったんだから、こっちから提案すべきだったか」
「こちらも、無理に話を持ち掛けなかったからな。私も、入学してからでも遅くはないと思っていたよ。すまないな、デイヴィッド。大和天爵、彼らに時間を作ってもらっても構わないか?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとうございます、母上!大和様!」
嬉しそうに笑顔を浮かべるデイヴィッド殿下。
ラウスと同じウルフィーという事もありますし、親しみを感じておられるのかもしれませんね。
先日10歳になると同時に立太子なされたと聞いていますが、私やラウス達が同じ年の頃はもっと遠慮がなかった記憶がありますから、話がひと段落するまで話しかけてこられなかったデイヴィッド殿下は、しっかりと獣王家の方々の教育が行き届いているという事なんでしょう。
年が明ければマナ様がご出産なさいますし、春にはリカ様とフィーナさんもです。
近いうちに私とプリムさんも妊娠する事になりますから、デイヴィッド殿下を立派に育てられた獣王家の方々には尊敬の念を抱かずにはいられません。
ですが尊敬するだけではなく、生まれてくる子が立派に育つように、私達も頑張らなければなりません。
お手本も身近に多くおられますから、大いに参考にさせて頂きます。
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