グラシオン再開発構想
MARSをアレグリア獣王家に献上し、ラウス達を正式にデイヴィッド殿下に紹介した後、そのデイヴィッド殿下をラウス達に任せ、俺達は会議室に場を移した。
トレントの森跡地の開発とMARS施設の建造、結界の拡張など、話す事は多い。
グラシオンの結界は、2つの球状結界が重なっている形になる。
1つはグラシオンの街そのものを覆っているんだが、獣王城や獣王宮は結界には入っていない。
海沿いの街でもあるグラシオンだが、周囲は森も多く、また海からの敵に備えるために、獣王城は要塞としての機能も併せ持っている。
そのため小高い丘の上に建造されているんだが、グラシオンからは少し離れた位置になるため、結界からは外れてしまっている。
結界を広げろと思わなくもないが、その結界プロテクト・フィールディングは球状結界でもあるから、獣王城を含む規模にまで拡張してしまうと、当然のように海側も広がってしまう。
海側は港から少し出たところまでが結界の範囲だが、さすがにこれ以上広げてしまうと、グラシオン防衛に支障をきたしてしまうため、結界の拡張は難しい。
だからグラシオンの結界は一部が重なり合い、上から見ると8の字のようになっているんだそうだ。
プロテクト・フィールディングは天然の結界を改良発展させた魔法だから、重なり合わせても効果が切れたり打ち消されたりすることもないため、グラシオン以外でもいくつかの街が使っているらしい。
プロテクト・フィールディングの最小範囲は直系10キロだから、グラシオンには2つの起点がある事になるが、普通なら中心となる獣王城が郊外に位置してることもあり、結界の起点はそれぞれ獣王城と旧公国騎士団、現ランサーズギルドとなっている。
今回は獣王城が含まれている側の結界を少し拡張し、その範囲になってしまうトレントの森を完全に伐採、跡地にMARS施設を建造する予定になっている。
敷地面積は東京ドーム4つ分の17万平方メートルと、無茶苦茶広大だ。
もっともその半分以上が、コロシアムの予定なんだが。
高ランクモンスターはやたらめったらデカいのもいるから、東京ドームクラスでも動かすのは厳しい。
だからその倍の広さを予定してるんだが、正直これでも足りてるかは疑問なんだよな。
これ以上広くすると施設の管理が厳しくなるんじゃないかとか、拡張するグラシオンの結界をさらに拡張しなきゃならないんじゃないかとか、問題が大量に出てくるから、これで妥協する事にしたよ。
反対側や獣王城の裏側も同じぐらいの規模が拡張されるが、こちらは貴族街を拡張し、他国の貴族用の別荘なり別邸なりの予定地となるそうだ。
アレグリアはフィリアス大陸の中心部に位置している関係で交通の要所でもあるし、ナダル海に浮かぶ風光明媚な島でもあるから、別邸を望む他国の貴族は多い。
今までは土地に空きがなかったから、そういった貴族は断るしかなかったんだが、今回の拡張でグラシオンの貴族街もかなり拡張されるため、かなりの余裕が生まれる事になった。
だから貴族街を拡張し、アレグリアの貴族はもちろん他国の貴族にも解放する余裕が生まれたらしい。
東京ドーム4つ分って、無茶苦茶広いからな。
「大和天爵、コロシアムが膨大な広さですが、さすがにこれは広すぎでは?」
「確かにそうなんですが、大型の魔物は全長数10メートルありますし、全長100メートルを超えるフォートレス・ホエールなんていう魔物もいますから、本音を言えばこれでも足りないと思ってるんですよ」
会議では、やっぱりコロシアムの大きさを問題視してくる貴族がいた。
問題視っていうより疑問視だったが、コロシアムは直系500メートル、実際に魔物との疑似戦闘を行う闘技場は直系300メートルだから、普通に使う分には広すぎる。
だけど全長数10メートルもある大型の魔物、特に100メートルを超えるM-Iランクのフォートレス・ホエールを出すとなると、これでも狭いんじゃないかと思うんだよな。
「そ、そのような大型の魔物がいるのですか」
「高ランクモンスターの多くは、だいたい大型ですね。なので幻影が動くには、かなり広大な敷地が必要になるんです」
「なるほど、だからこの施設も、これほどまでに巨大なのですか」
低ランクでもデカい魔物はいるが、ハンターが狩るような魔物なら半分以下の広さでも十分だろう。
大型の高ランクモンスターを好んで狩るのはエンシェントクラスぐらいだと思うが、不意の遭遇っていうのはあるから、それに対する備えっていう意味でも一度ぐらいは経験しておくべきだと思う。
アライアンスに向けての備えにもなるしな。
「そうか。最大で30人まで疑似戦闘を行えるという事は、確かにアライアンスが組まれた事を想定した訓練も行えるな」
「ですな。施設はスカラーズギルドの管轄ですから、ランサーズギルドが好きに使う事は出来ませんが、有事に備えて訓練を積めるのは、かなり有意義です」
グランド・ランサーズマスターとアソシエイト・ランサーズマスターの言う使い方も想定してるし、いくつかのリッターズギルドは既に申請までしてきてるからな。
「作り出せる幻影は1匹のみですから、迷宮氾濫のような状況は再現出来ませんが」
「いや、大型の高ランクモンスターとの疑似戦闘を行えるのだから、それだけでも十分に有意義だ」
「異常種や災害種と戦う事など、アライアンスでもなければあり得ないからね」
幻影相手の訓練だから実戦に役立つは微妙だが、魔物の攻撃方法は知る事が出来るし、集団戦の経験にはなるはずだから全く役に立たないって訳でもないと思う。
もっともゴールド・ドラグーンの咆哮のように、体を麻痺というか委縮させる効果は再現出来ないから、そういった知識は別に得ておかないと訓練の意味も無くなるとも思うが。
こっちに関しては、完全に研究の分野だな。
「だからこそ、スカラーによる研究も重要という事ですか」
「ゴールド・ドラグーンの咆哮にそのような効果があったとは知らなかったが、ブル種の中にも似たような効果を持つものがいるのは知っている。とすれば他の魔物にも、似たようでいて別の、精神に作用するような攻撃手段を持つ種がいても不思議ではないか」
「はい。これはさすがにMARSでも再現は出来ないので」
「幻影ですから、ある意味では当然ですな」
さすがに精神に作用するような魔法攻撃は、再現させるのは無理だった。
もうちょい研究すれば出来るかもしれないが、カトブレパスやサードアイ・ブルなんかの視線はともかく、咆哮とかになると聞こえてしまった人全員に影響が出るかもしれないから、迂闊に再現させるのは危険だっていう問題もある。
だからそっちに関しては、完全にスカラーによる研究で解明してもらうことになるだろう。
魔石を手に入れてる時点で最低限の情報は手に入るから、ある意味じゃ本末転倒に近いんだが、全員が全員討伐出来る訳でもないし、そもそも遭遇するかどうかも分からないんだから、知識として知っておく程度になりそうな気もするんだが。
「開発者から直接聞けた事で、MARSについての有用性については理解出来たと思う」
「はっ。ハンターやランサーの疑似戦闘のみならずスカラーの研究にも使え、その施設の規模から維持のためにクラフターとバトラーも必須となる。人が集まるのですから、トレーダーの動きも活発になりますな」
「うむ。さらに結界を拡張する事によって、東側や北側もスペースを確保出来る。こちらは他国の貴族向けとなろう」
グラシオンの再開発はMARS施設だけじゃなく、東側にある貴族街の拡張も同時に行われる。
もっともアレグリアの貴族は少なく、今の貴族街でも十分賄えてしまっているから、今回拡張したスペースは他国の貴族向けの予定だ。
だから名称も貴賓街と決まった。
「貴賓街は区画整理に留め、依頼があってから建築を開始する。既にいくつかの貴族から要請が来ているため、なるべく早期に完了させる必要があろう」
「区画につきましては、既に完了しております。結界の拡張が終われば、いつでも作業に取り掛かれるよう手配しましょう」
宰相のリモーネさんが、手にした資料に目を通しながら、貴賓街の作業手配を請け負う。
建築依頼を出すのは他国の貴族だが、最低限の道路や敷地は用意しておかないと後々揉めるに決まってるから、敷地面積はどこも同じにする事になっている。
その中ならどんな屋敷を立てようと貴族の自由だから、実際に建築が始まるのは早くても半年ぐらい先になるとアレグリアは予想しているみたいだ。
「そして肝心のMARS施設だが、こちらは既にトレーダーズギルドに資材の買い付けを依頼し、クラフターズギルドにも職人の派遣を依頼済みだ。だが結界の拡張を終えぬ限り、作業を行う事は出来ん」
貴賓街もアレグリアの国益になるが、メインとなるのはMARS施設だから、グリシナ陛下のみならず臣下の方々の意気込みや期待も大きい。
だから既に人員や資材は手配済みなんだが、何をするにしてもトレントの森をどうにかしない限り、結界の拡張は行えない。
そして結界の拡張を行わない限り工事は始められないから、皆様の視線は一様に俺達に向けられた。
「大和天爵、此度は拙速を貴ぶため、ハンター達には依頼を出していない。事前に伝えているが、其方達だけでやってもらう事になる。その上で、改めて訊ねたい。本当に3日で終わるのか?」
グリシナ陛下が疑問と不安を感じるのも無理もないだろう。
今回開発する敷地の広さは、東京ドーム約5つ分となる及ぶ20万平方メートルとなっていて、その中にはトレントの森が3つもある。
東側の2つはだいたい約3,000平方メートルとそんなに大きくないんだが、西側の森はかなり大きく、30万平方メートルはあるだろう。
さすがにそれだけ広大な森全てを更地にしてしまうとトレントが採れなくなるし、そこまで広大に開発する訳じゃないから伐採は半分程に留める予定でいるが、それでも15万平方メートルというとてつもない規模になるから、普通に考えたら3日程度で終わる訳がなく、それどころか魔物も生息しているから年単位でかかるかもしれない。
「ええ。何度かやった事がありますから」
ただ俺はエレメントヒューマンだし、プリム達もエンシェントクラスだから、莫大な魔力による環境破壊はお手の物だったりする。
それはそれで問題なんだが、プラダ開発の際にはマナとミーナが
さすがにこれだけ広大な範囲は初めてだが、俺は広域系術式の最大展開は、エレメントヒューマンに進化した事で半径300メートルまで出来るようになってるから、やろうと思えば1日も掛からないだろう。
さらに真子さんの広域系術式は半径400メートル、
もちろんぶっつけ本番なんて真似は、さすがにするつもりはないから、何度かマイライトで試しているぞ。
その結果マイライトの山肌が酷い事になって、ライナスのおっさんにしこたま説教食らったもんだ。
「あ、あるのか……」
「はい。ただそれをやってしまうと、さすがに素材もダメになるので、ある程度までは普通に狩ろうかと思っています」
俺は唖然とした表情をしながら、何とか言葉を絞り出すグリシナ陛下に、そう答えを返す。
試したのはオークの集落だが、制御が大変な上にめんどいから横着してみたら、魔石すら取れなかったからな。
それに本当に環境破壊になるし、地面も隕石でも落ちたんじゃないかって思うぐらいのクレーターが出来た事もあるから、今回はそこまでしないつもりだ。
「わ、分かった。では予定通り3日後から作業を開始するよう、クラフターズギルドとプリスターズギルドには通達しておく」
「分かりました」
予定通り進めば、3日後には予定地は切り株すら残らない更地になる。
そうすれば結界の拡張が出来るようになるから、ヘッド・プリスターズマスターとグランド・ランサーズマスターの
それを確認して、俺達の仕事は終了だ。
最近は面倒事や書類仕事ばっかりだったから、ストレス解消って事で暴れさせてもらうとしよう。
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