翼の解放者
魔物の数も減ってきたから、ようやくハヌマーンに攻撃を仕掛けられると思った矢先、真子さんが開発したばかりのS級術式ミーティアライト・スフィアによって、ほとんどの魔物が息絶えたから驚いた。
父さん達の世代はいろんな事件に巻き込まれた事もあってか、実力が頭一つ飛びぬけているって言われてるんだが、真子さんを見てるとマジでそう思えてくるな。
っと、今はそんな事より、ハヌマーンとの戦いに集中だ!
ハヌマーンは全長約20メートルと、昔の映画に出てきたような怪獣っていう表現がピッタリの魔物だ。
しかも
さすがにここまでデカいとは思わなかったが、終焉種はデカい図体してるのが多いし、ドラグーンやフォートレス・ホエールみたいにさらにデカい魔物を狩った事もあるから、今更それだけで怯む事は無いが。
俺は逸る気持ちを抑えながら、先制攻撃としてグレイシャス・バンカーを5本生成し、撃ち出した。
命中と同時にアイスミスト・エクスプロージョンとミスト・ソリューションが発動し、体内に大きなダメージを与える事が出来るグレイシャス・バンカーだが、俺はそれに改良を加えている。
グレイシャス・バンカーは
だが魔物によっては、魔法の相性の問題もあって効果が薄い可能性も考えられたし、物理防御力が高い魔物の場合は体表を貫けない可能性もあり得た。
だから俺は、グレイシャス・バンカーの後部にもアイスミスト・エクスプロージョンを発動させたマルチ・エッジを埋め込み、命中と同時にそちらを発動させる事で、貫通力を高めるよう調整を行った。
地球にも、似たような兵器があったと記憶している。
おかげでミラー・リングの処理能力じゃ足りなくなっちまった。
マルチ・エッジが消費型だから、かろうじて何とか出来たってとこだな。
消費型刻印法具の処理能力は低いが、それでも命中と同時に発動とか、ある程度の時間差で発動みたいな使い方は出来るから、そうじゃなかったら諦めてたところだ。
ところがそのグレイシャス・バンカーを、ハヌマーンは全て撃ち落としやがったばかりか、
ガグン大森林に土は無いが、皆無って訳じゃない。
特にここは宝樹があるから、他のとこよりも土は豊富だ。
なのにハヌマーンは、一握りの土からいくつもの溶岩弾を作り出してやがる。
いくら一握りとはいえ、20メートル近い巨体の一握りとなると、下手な砲弾よりデカくなる。
しかも煮え立つ溶岩に雷まで追加されてやがるから、直撃はもちろん掠っただけでも大ダメージは確定だ。
「くそっ!ぐあっ!」
アクア・アームズやマナリングを纏わせた薄緑で溶岩弾を弾いたり
クレスト・ディフェンダーコートやマジック・ガントレットで守られてたってのに、さすが終焉種の攻撃だけあって、俺の左手の手首から先は瞬時に炭化して、崩れてしまった。
すぐに
やべえ、避けきれねえ!
「大和!」
慌てたプリムが、フレア・ペネトレイターを纏って突っ込んできてくれたおかげで、ハヌマーンの攻撃は俺から逸れた。
「大和さん!一度退いて下さい!」
さらに俺の前に、シルバリオ・シールドを構えたミーナもやってきたし、フラムのタイダル・ブラスターや真子さんのミーティアライト・スフィアもハヌマーンに襲い掛かっているし、リディアとルディア、アテナも、ハヌマーンに攻撃を仕掛けている。
「だ、だけど……!」
エイディングのおかげで、なんとか痛みは引いている。
だけど俺が単独でハヌマーンに挑むなんて無茶なことをしたばっかりに、みんなに迷惑をかけてしまった。
まだ災害種は数匹残ってるのに、俺を一度下がらせるために、みんなはハヌマーンに意識を集中させる結果になるなんて……。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
「アテナ!リディア!」
その災害種ブラストブレード・ビートルの突進でアテナが吹き飛ばされ、アビス・パンサーの前足の一撃でリディアが地面に叩き付けられた。
真子さんのミーティアライト・スフィアのおかげで追撃は避けられたが、2人ともかなりの重傷だ。
その様を見て、俺の中でかつてない程の怒りが沸いた。
俺は……俺は何のために……何のために力を……強くなろうとしたんだよ!
みんなを守るためだろ!
なのに逆に守られたばかりか、傷つける原因を作っただけじゃないか!
ここまで自分に腹を立てたのは、多分二度目だ。
同時に俺は、何のために強くなろうとしていたのかを、あらためて思い起こした。
何故俺が力を求め、進化を望み、強くなろうとしたのか、その理由は仲間や家族を守るためだ。
アバリシア神帝を倒すっていう目的もあるが、それよりみんなを守る事の方が重要だ。
そう誓ったはずなのに……!
だが皮肉な事に、自分自身への怒りをはっきり自覚した瞬間、俺の右手と左手の刻印が反応を示した。
刻印は手の甲にあるのが普通だが、俺の左手はハヌマーンの溶岩弾のせいで焼け落ちている。
だが刻印は、手を失ったぐらいじゃ消える事は無い。
だから薄緑を念動魔法で保持してから、左手の消失と同時に消えたミラー・リングを、今度は右手に、同じく右手にマルチ・エッジを再生成し、感情の赴くままに刻印融合術を発動させた。
「や、大和さん……それは!」
「ウイングビット・リベレーター」
「ウ、ウイング……ビット?」
新たに生成した翼剣状融合装飾型刻印法具ウイングビット・リベレーターは、俺の背中にあった。
刻印法具を生成すると名称や形状、性能なんかは何となく頭に浮かぶから、俺の手元からマルチ・エッジとミラー・リングが消えていても驚きはない。
昔のアニメにあった、某機動兵器の脳波制御兵装っぽい形状なのは驚いたが、左手が使えない今の俺にとっては好都合だ。
「ミーナ、リディアとアテナを、真子さんの元まで連れて行ってくれ。その間、魔物は俺が引き受ける」
とは言っても、元は俺の不始末というか油断が原因で、アテナとリディアが重傷を負ったんだからな。
真子さんがいてくれたから追撃は受けておらず、命も無事みたいだが、もし真子さんがいなかったらと思うと背筋が凍る。
だから俺は、ウイングビット・リベレーターから12枚の翼刃を切り離し、その全てにグレイシャス・バンカーを纏わせ、ハヌマーンを含む災害種に向けて撃ち出した。
刻印融合術によって生成されたウイングビット・リベレーターは、マルチ・エッジやミラー・リングとは比べ物にならない程の処理能力を持つ。
さらに12のビット全てに俺の意識をそれぞれ投影させることが出来るため、ウイングビットを操作しながら接近戦を行う余裕も出てきた。
しかもウイングビットはマルチ・エッジの特性を持っているらしく、刃の形状を変化させることも出来るし、数を増やすことも出来そうだ。
手に持つ事も出来るし、ウイング・バーストも使い慣れてきてる事もあって、使い勝手は今までと大きく変わらず、そればかりか魔法や刻印術の強度や精度は向上してるから、十分以上に戦力アップと言える。
その証拠に、リディアとアテナを吹き飛ばしたブラストブレード・ビートルやアビス・パンサーを含め、ハヌマーンの周囲にいた災害種は、無軌道なグレイシャス・バンカーの直撃を受け、そのまま倒れた。
「す、すごい……」
「ミーナ、頼む」
「あ、は、はい!」
ミーナにリディアとアテナを任せ、今度は24のビットを切り離し、アイスエッジ・ジャベリンを纏わせる。
そして全てをハヌマーンに向けて撃ち出す!
残念ながら意識を投影できるのは12個が限界みたいだが、それでも十分過ぎる特性だ。
ハヌマーンはさっきと同様に溶岩弾で相殺してきたが、そう来ることは想定済みだし、同じ手を二度も食うかよ!
俺は次々とウイングビットをリアラックから生成し、アイスエッジ・ジャベリンを纏わせながら迎撃を行う。
処理能力が向上してる事もあってか、同じ魔法を付与させて撃ち出すという行為は全く苦にならない。
逆にハヌマーンは、いつ終わるとも知れないアイスエッジ・ジャベリンの無限連射に戸惑い気味だ。
いくら終焉種といえど、無限に魔法を放ち続けられるわけじゃない。
だけどだからこそハヌマーンは、俺から目を離すことが出来ないでいる。
少しだけ視線をリディアとアテナの方に向けると、ミーナの念動魔法で真子さんの元に運ばれているところだった。
真子さんはヒーラーでもあるから、これで一安心だ。
「プリム!ルディア!」
俺は視線をハヌマーンに戻し、さっき援護してくれた最愛の妻達に合図を送った。
「了解!」
「うん!」
プリムがセラフィム・ペネトレイターを、ルディアがアサルト・ブレイザーを纏い、ハヌマーンに突っ込んでいく。
2人に気が付いたハヌマーンだが時すでに遅く、セラフィム・ペネトレイターが右腕を貫き、アサルト・ブレイザーが左足を砕いた。
倒れたハヌマーンはカラミティ・ヘキサグラムによって上空に飛ばされ、タイダル・ブラスターが突き刺さり、メイス・クエイクによって叩き落される。
その隙に俺は、落下地点にウイングビットを集め、巨大なグレイシャス・バンカーを作り出す。
ハヌマーンの半分ぐらいのデカさの巨大な氷の杭の完成と同時にハヌマーンが落ちて突き刺さったが、終焉種だけあってまだ生きている。
だが一拍置いて発動したアイスミスト・エクスプロージョンによって、体内に大きなダメージを受けたハヌマーンは、最後に俺の方を見て、そのまま力尽きた。
それを確認してから、俺は真子さんの元に急いだ。
「真子さん!リディアとアテナは!?」
「大丈夫よ。ほら」
真子さんに促されて見ると、気を失ってはいたが傷一つ負っていないリディアとアテナの姿があった。
「四肢欠損とかは無かったし追撃もされなかったから、ノーブル・ヒーリングで何とかなったわ。言いたい事はあるけど、それはアルカに戻ってからね」
「ええ……」
真子さんは怒っているが、それは当然だ。
スリュム・ロードの討伐に赴く前に、真子さんに遊び感覚で戦ってるんじゃないかって言われた事がある。
俺はそんなつもりはなかったんだが、最近は高ランクモンスターでも簡単に倒せてたから、図に乗ってたのは間違いない。
真子さんは当時から俺がそんな風になってると感じてたから注意してくれたんだが、それが当たってた事が今回の戦いで証明されてしまった。
どれだけ俺がそんなつもりはないと言っても、今回ばかりは説得力がない。
「ともかく、今は大和君も治療が優先よ。左手を再生しないといけないしね」
「え?」
「忘れてたの?呆れたわね」
そういえば俺の左手は、ハヌマーンに焼け落とされたんだったっけな。
そんな事よりもリディアとアテナの方が心配だったから、完全に忘れてた。
「はい、終わったわよ」
「ありがとうございます」
真子さんのエクストラ・ヒーリングで、俺の左手は再生した。
軽く動かしてみたが、以前と全く変わらない感じで動かせるな。
使ってもらったのは初めてだが、マジで
「それが大和君の融合型法具ね。また面白い形状だけど、能力はえげつないわね」
「ビットは俺の魔力が許す限り、無限に生成出来ますからね。思ってたのとは違うけど、今の俺にはありがたいですよ」
接近戦は瑠璃銀刀・薄緑があるから、武装型で生成されると逆に困った事になった気がする。
これでも武装型の範疇だと思うんだが、どうやらウイングビット・リベレーターは装飾型になるらしいから、基準がよく分からないな。
「それが刻印法具だしね。それで、レベルの方はどうなったの?」
「あ、見てみます」
真子さんに呆れた顔をされてしまったが、リディアとアテナが無事だった事に意識がいってたことで、マジでレベルの事は頭から抜け落ちてたから、俺は慌ててライセンスを確認した。
ヤマト・ハイドランシア・ミカミ
18歳
Lv.102
人族・エレメントヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:オリハルコン(O)
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド
オーダーズランク:オリハルコン(O)
クラフターズギルド:アミスター王国 フィール
クラフターズランク:シルバー(G-S)
「そんな予感はあったけど、本当にエンシェントクラスの上があったって事ね」
「ええ。エレメントクラス、って事になるのかな」
俺は無事に、エレメントヒューマンに進化していた。
見た目とかは特に変化は無い感じなんだが、1つだけ大きな変化がある。
「大和君、ウイング・バーストって解除してるの?」
「ええ。ハヌマーンも災害種も倒しましたから」
「じゃあなんで、翼が残ってるの?」
「へ?」
真子さんに言われて背中を見ると、未だに翼が出たままだった。
ウイングビット・リベレーターはまだ生成したままだから分かるが、マジで翼が残ってるとは思わなかったから驚いた。
「これがエレメントクラスへの進化の証って事になるのか」
「って事は、エレメントクラスに進化すると、必ず翼が生えるって事ですか?」
「生来の翼ってワケじゃないけど、翼族とそんなに違わないんじゃないかしら。どんな感じなのかは、プリムに聞いてみるのが一番じゃない?」
確かに。
そのプリムは、今はみんなと一緒に魔物を回収してくれてるから、後でしっかりと話を聞いてみよう。
「あっちも終わったみたいだし、回収が終わったら一度アルカに戻りましょうか」
どうやらホーリー・グレイブやファルコンズ・ビーク、ランサーも魔物を倒し終わったみたいだ。
怪我人はいるようだが死者は出ていないっぽいから、ミステルへの報告は明日でもいいだろう。
だけど俺としては、リディアとアテナが無事でよかったと、心から思う。
ホント、慢心だけはしないように気を付けないとな。
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