従魔の現在
ヴァルトではトントン拍子に話が進んでしまい、ネージュさんの私室にゲート・クリスタルも設置を終えた。
呼び方はネージュさんの希望でこうなり、夕方に執務を終えると、すぐにアルカにやってきた。
ネージュさんは何度かアルカに来た事があるが、泊まるのは初めてだし、本殿の4階と5階に上がるのも初めてだから、寝室や天守露天風呂に驚いていたな。
晩飯時にエド達にも改めて紹介したが、みんな慣れたもんで、すぐにネージュさんを受け入れていたのは納得いかなかったが。
結局、寝室のみならず天守露天風呂でもハッスルした俺だが、ネージュさんも受け入れてくれたようで、朝起きたら俺の隣で眠っていらした。
反対側は真子さんだったが、2人してガッチリとホールドしていたから、下手に動くと起こしてしまいそうで、2人が起きるまでは何も出来なかったのが辛かったな。
ネージュさんは朝飯後にオヴェストに帰っていったが、時間が出来たらまた来るそうだ。
今日は休日だから、もう少しゆっくりしてくれても良かったんだが、獣公だから忙しいんだな。
俺達の休日の過ごし方だが、MARSの開発はもちろんだが、それだけで1日が終わる訳じゃない。
フィールやフロートの街を歩く事もあるし、従魔達ともしっかりと戯れている。
アルカには山や森、湖もあるから、昼間はアルカにいる間は好きな場所で遊んでいて、夜には寝床となっている従魔殿に戻ってきているな。
今日はちょっとクルージングをしたくなったから、真子さんと湖にやってきてみた。
いつも天樹製獣車を使える訳じゃないから、マリーナが全長10メートル程の小型船を作って、それが浮かんでいる。
外観は天樹製獣車とほぼ同じだが、船体は
おかげで俺達も、気軽に乗る事が出来る。
その湖の畔には、ジェイドとフロライトが、魚を獲りながらのんびりとしていた。
ヒポグリフ・フィリウスのジェイドとヒポグリフ・フィリアのフロライトは、山や湖にいる事が多い。
特に湖には魚が放流されているから、自分達で食うのはもちろん、俺達に獲ってきてくれる事もある。
去年の夏に助けて契約した2匹だが、そろそろ生まれて1年が経つ。
ヒポグリフは生まれてから1年で大人になるそうだから、もう大人になったと思ってもいいだろう。
体長も6メートル強になり、背中に3人ぐらいは余裕で乗せて飛べるようになったが、もう少し大きくなるんじゃないかと思う。
大人になったら進化するんじゃないかっていう予想もあったが、それはまだだな。
その近くには、バトル・ホース達も歩いている。
バトル・ホースはマナのスピカ、ミーナのブリーズ、真子さんの楓、ラウスのレアン、レベッカのファー、キャロルのオーキッド、セラスのトレフルだけじゃなく、バトラーも1人1匹ずつ契約しているから、全部で14匹になるな。
ルミナさんのバトル・ホース ラファーガは、ハンター時代に契約したそうで、8年近い付き合いらしい。
ユニーとも仲が良いんだが、そろそろ生活が厳しくなってきたため、最悪の場合は処分を考えていたそうだから、アルカで自由にさせる事が出来て本当に喜んでいたな。
アリス、ローレル、フィレの3人にも契約させた理由は、バトル・ホースは2匹じゃないと獣車を引けないからだ。
俺達がアルカにいる間は問題ないが、出掛けていたりする事も多いし、マリサさん達もついてくるから、獣車が必要になった時に困る事になる。
誰か1人だけっていうのも考えたんだが、そうするとルミナさんとその1人が常に獣車を使えるようにしておく必要もあるから、負担も大きくなるんじゃないかと思った。
それならって事で、3人とも契約させてみた訳だ。
アリスの
ただアリスは、クラフターズギルドでは裁縫師として活動してるそうだから、キャタピラーかクロウラーと契約したいって言ってるんだよな。
見た目が受け付けないクロウラーだが、さほど行動範囲が広い訳じゃないから、従魔殿の一角を改装するか、いっそのことアルカの森の一角に生息地を用意して放し飼いにすれば、俺達も不必要に視界に入れないで済むか。
それに従魔や召喚獣は、進化するといきなり稀少種になるから、クロウラーの場合だとグランシルク・クロウラーに進化する。
グランシルク・クロウラーはP-Rランクだから、採れる素材はエンシェントクラスが普段使いしてもそれなりに長く使えるため、いちいち狩りにいかなくても済むというメリットもある。
だからアリスが望むなら、クロウラーと契約をしてもらうのも吝かではない。
見た目が大丈夫かという問題はあるが。
そのバトル・ホース達は、水を飲んだりじゃれ合ったりと、楽しそうにしている。
2匹だけ稀少種のウォー・ホースがいるが、1匹はマナの召喚獣スピカで、もう1匹はミーナが契約しているブリーズだ。
ブリーズが進化したのは、2度目のクラテル迷宮調査の時になる。
ミーナと契約してまだ2年足らずなんだが、本来はこんな早く進化する事はあり得ないらしい。
これは推測でしかないが、エンシェントクラスの魔力に引っ張られたんじゃないだろうか?
召喚獣は契約者との間で魔力が増すから、エンシェントクラスなら進化させやすいらしいが、従魔はそんな事はないと言われている。
だが皆無かと言われると、そういう訳でもないらしいから、可能性としてはあり得るだろうとクラフターズギルドで言われたな。
「こら、ユニー!待ちなさい!」
「きゃははははっ!」
なんかルミナさんとユニーの声が聞こえてきたが、今度は何をやらかしたんだ?
見ると、ユニーが白雪の背に乗って爆走していて、それをルミナさんが追いかけていた。
白雪は真子さんが契約した、スリュム・ロードの子供だ。
P-Rランクのスノーミラージュ・タイガーという種族だが、ジェイドやフロライトと同じく特殊な進化をしているらしく、ランク的にはもう1つ上相当になるんじゃないかと思われている。
その白雪だが、今では仔馬サイズにまで成長していて、人1人ぐらいは楽勝で背に乗せられるから、3歳児のユニーなら何の問題も無い。
ユニーは従魔達とよく遊んでるが、特に白雪と仲が良いんだよな。
「白雪、止まりなさい!」
「ガウッ!」
白雪も全力で走ってた訳じゃないから、真子さんの呼びかけに応えて、ユニーを落とさないようにゆっくりと止まる。
「申し訳ありません、真子様」
「構わないけど、今度は何をやったの?」
「従魔殿の掃除をしていたのですが、突然ユニーが湖に行きたいと言い出しまして。それで白雪に声を掛けると、あっという間に背中に乗せられ……」
「……ごめんなさい」
つまり白雪も、湖に行きたくなったって事か。
まあ、それぐらいなら、別に怒るような事でもないか。
真子さんとルミナさんは、躾の問題があるから、そういう訳にはいかないんだろうが。
あ、お説教が始まった。
ユニーも白雪も、シュンってなってるな。
「いいですか、ユニー。遊ぶなとは言いません。ですが仕事の邪魔をしてはいけません。それに従魔殿の掃除は、あなたも手伝いたいと言ったんですよ?自分が言った事は、しっかりとやり遂げなさい」
「ごめんなさい……」
「分かれば良いんです。さあ、従魔殿に戻りますよ。オネストとヴァレイも待っているんですから」
「うん」
グラントプスのオネストとヴァレイは、従魔殿にいるのか。
オネストはアプリコットさん、ヴァレイはアリスが契約しているが、どちらも大人しい。
同じグラントプスって事で仲は良いが、従魔殿の外にはあまり出ず、日がな1日中ゴロゴロしている事も珍しくない。
だが人と触れ合うのは嬉しいらしく、従魔殿に行くと真っ先に出迎えてくれたりもする。
「あれ?ルミナ、フロウは?」
「フロウでしたら、私達が従魔殿に行くと同時に外に行きました」
「珍しいわね」
フロウっていうのは、ちょっと前にフラムが契約したリドセロスだ。
リドセロスはS-Nランクモンスターで、陸上でも水中でも自在に活動できる、サイみたいな魔物だ。
本来リドセロスには、サイみたいな大きな角もあるんだが、フロウの角は根元から折れてしまっている。
理由は、ナダル海には生息していないはずの魔物、ティロサウルスに襲われたからだ。
ティロサウルスはサウルス種という竜種でG-Uランクモンスターになるんだが、サウルス種はナダル海どころかバレンティア付近にしか生息していない。
ただ、稀に北上する個体がいるみたいだから、多分そのティロサウルスはバレンティアから北上して、ナダル海に入り込んだんだろうって予想されている。
フロウはティロサウルスに角を折られながらもプラダ村近くまで逃げ、そこでフラムに助けられた。
ティロサウルスがあっさりとフラムに倒された事に驚いたフロウだが、助けてもらった事は理解していたから敵対するような事はせず、フラムも水陸どちらでも活動出来る従魔と契約したがっていたから、そのまま従魔契約を持ち掛け、今に至るという訳だ。
俺としても、リドセロスっていうSランクの水棲従魔はありがたい。
万が一ハイドロ・エンジンが壊れた時に、獣車を引いてもらう事が出来るからな。
ちなみに折れた角は、少し時間がかかるが、ちゃんと生えてくるらしい。
そのフロウだが、オネストやヴァレイと同じく、あまり従魔殿から出てこない。
湖があるからたまに泳ぎに来ているが、それぐらいだ。
だから今回も、どこかを泳いでいるんじゃなかろうか?
「それでは私達は、従魔殿に戻ります」
「お願いします。ああ、そうだ。ユニー、ちゃんとお母さんのお手伝いをしたら、後で船に乗せてやるぞ?」
「ホント!?」
「ああ。もちろん白雪も一緒にな」
「わあいっ!白雪、一緒にお船に乗ろうね!」
「ガウッ!」
ユニーは白雪に抱き着いて喜んでいる。
「ありがとうございます、大和様」
「ごめんね、大和君」
「白雪はともかく、ユニーは俺達がいないとアルカから出られないからな。これぐらいはするさ」
ユニーには、ゲート・クリスタルは渡していない。
まだ3歳だから、勝手に使われてしまっても問題にしかならないからな。
だからユニーは、母親のルミナさんか俺達と一緒でなければ、アルカに缶詰め状態だ。
簡単な作業は手伝えるが、アルカも日ノ本屋敷も広いから、日中はユニー1人で過ごす事も少なくない。
だから従魔達と遊ぶ事が多いんだが、その従魔達も俺達が
マナみたいにカーバンクルを贈るっていう案もあるんだが、3歳じゃ従魔魔法も使えないしな。
それにユニー的には、背中に乗れる魔物の方が好きみたいなんだよな。
「ユニーの事は、おいおい考えましょう」
「それしかないかぁ」
ちょっとどうするかは、真剣に考えないとな。
「クルージングっていう雰囲気じゃなくなったけど、どうする?」
「真子さんと2人でっていうのは捨てがたいし、せっかくだし乗りましょう」
「そ、そうね。そういえば結婚してから、2人きりになるのって初めてかも」
「ですね」
顔を赤くする真子さんだが、結婚したのがそもそも2日前だからな。
というか真子さんと2人きりで行動したのって、トラレンシアへの援軍要請をしにポラルにトライアル・ハーツを訪ねた時ぐらいじゃなかろうか?
うん、俺もちょっと緊張してきた。
「……ルナ、なんでここにいるんだ?」
そう思っていたんだが、船には先客がいやがった。
マナの召喚獣、スタールビーのルナだ。
マナが一番最初に契約した召喚獣で、リスみたいな魔物なんだが、実は人気の割に数が少ない。
もとはカーバンクルだったんだが、進化して種族が変わっている。
人懐っこい魔物だから討伐される事は滅多にないが、どうやら寿命が長いらしく、それでいてあまり強い魔物でもないから、見かける機会は非常に少なく、牧場でも飼育されている事はほとんどないそうだ。
ルナはサユリ様からのプレゼントだったそうだが、サユリ様も見つけたのは偶然だったと言っていたな。
ちなみにカーバンクルには上位種は存在せず、稀少種はスタールビー、異常種はレッドスターというそうだ。
災害種や終焉種は不明だな。
つぶらな瞳をこちらに向けて首を傾げているが、今回に限ってはあまり可愛く見えないぞ。
「ルナがいるとは思わなかったわね。どうする?これから船を動かすんだけど、あなたもついてくる?」
「キュイッ」
真子さんがルナを誘ってみたが、ルナは空に向かって一声鳴いた。
するとアイス・ロックのシリウスが降りてきた。
シリウスもマナの召喚獣だから、同じ召喚獣のルナとは仲が良い。
シリウスはまだ進化していないが、ルナとスピカは進化しているし、契約者のマナはエンシェントエルフだから、遠くない内に進化するだろう。
ルナは俺と真子さんに向かって一礼するとシリウスの背に乗り、シリウスも俺達に向かって一声鳴いてから、そのまま飛び立った。
気を遣われたんだろうか?
「気を遣われちゃったみたいね」
「っぽいですねぇ。まあ、行きますか」
「ええ。せっかくだし、湖上のデートを楽しみましょう」
はい、楽しみましょう。
その言葉通り、俺と真子さんは湖上デートを楽しんだ。
初めて2人きりになった事もあって、やる事もやったけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます