スカラーズギルド設立に向けて
天樹城の大会議室には、各ギルドのグランド・マスターが勢揃いしていた。
リッターズギルドと纏めて呼ばれているセイバー、ドラグナー、ランサー、ソルジャー、ホーリナーズギルドのグランド・マスターまで来ているし、オーダーズギルドはグランド、アソシエイトの両マスターが出席している。
何故こんな事になっているかだが、スカラーズギルド設立に関しての会議が行われるからだ。
スカラーズギルドは教育機関としても活用される予定だから、各国の王も参加しているぞ。
「ふむ、教育を受ける側は特に登録する必要は無いと?」
「ええ。登録出来るギルドは3つが上限ですし、各ギルドに関する知識や技術を学ぶ場でもありますから、登録する意味もありません」
「確かにそうですな。ですがバトラーズギルドやオーダーズギルドは、登録から一定期間は研修として、昇格出来なかったはずでは?」
「はい、仰る通りです。ですからそちらに関しては、バトラーズギルドも含めて、多少は規則を改正する事になるでしょう」
スカラーズギルドに関しては、俺が発案って事もあってアミスターが中心となり、各ギルドと幾度か協議を行っていた。
だからって訳じゃないが、スカラーズギルドはオーダーズギルドと同じく、アミスター独自のギルドとしての設立が考えられていた。
だけど連邦天帝国となった今では、オーダーズギルドもフィリアス大陸全ての国で役割を与えられる形になっている。
だからスカラーズギルドもアミスターのみじゃなく、連邦天帝国全体で考えていく必要があるってことで、今回の会議が開催されることになったんだ。
「規則改正という事は、リッターズギルドもそれに倣う形になるか」
「そこはお任せしますが、統一した方がスカラーズギルドのカリキュラムも組みやすいかと」
バトラーズギルドは登録してから3年、オーダーとセイバー、ソルジャーズギルドは登録してから1年は研修期間となるため、昇格はしない。
ドラグナーズギルドとランサーズギルドもオーダーズギルドに倣って1年は研修期間を設けたそうだが、既存のドラグナーやランサーにはあまり必要ないため、ランサーは既に該当ランクへの昇格が終わっている。
ドラグナーは元々貴族が有していた竜騎士も統合しているが、貴族によって竜騎士への待遇や規律なんかが異なっていたから、そっちを統一するのに手間取っているそうだ。
国営だし、アミスターからも支援が行われているから、遠くない内に纏まるだろう。
「確かにその方が良いか」
リッターズギルドはオーダー、セイバー、ランサー、ドラグナー、ソルジャー、ホーリナーの6つの騎士ギルドの総称となっているため、スカラーズギルドの教育課程も細かく分かれる事になる。
細かく分かれると言っても、基本的に騎士の在り方や戦闘について学ぶ事になるから、ギルドの違いは心構えとかそんな感じになるだろうが。
そっちはリッターズギルドで煮詰めてもらう事になってるから、レックスさんやハルート卿にお任せだな。
「リッターズギルドは任せるが、ハンターズギルドもそこに組み込む可能性がある」
「それは何故……ああ、素行の悪いハンターを出さないためにですか」
グランド・ランサーズマスター シャルロットさんが、いち早くその理由に気付いた。
少し遅れてグランド・ドラグナーズマスター ハルート卿、グランド・ホーリナーズマスターの男性ハイアルディリー フォリア・クアドラードさんも気が付いたみたいだ。
「確かに最近は、素行の悪いハンターが増えていましたな」
「ハンターズギルドとしては申し訳ない限りじゃ」
「いや、天帝宣言以前はフィリアス大陸の情勢が緊迫していたから、国としても戦力を減らさぬようにあえて黙認していた所がある。グランド・ハンターズマスターのお膝元でもあるアレグリアでさえそうだったのだから」
グランド・ハンターズマスター ギャザリングさんをフォローするグリシナ陛下だが、その通りなんだよな。
特にバリエンテとリベルターは、ソレムネやレティセンシアに備えてハイクラスを確保しておく必要もあったから、法律自体がハイクラスに甘くなっていた。
ギャザリングさんのお膝元のアレグリアでさえ、ソレムネがいつ攻めてくるか分からなかったんだから、余程素行の悪い奴じゃなければ見逃してたそうだ。
ギャザリングさんの目に留まったりしたら、さすがにアウトだったらしいが。
「我々には耳の痛い話だな。だがソレムネは滅び、レティセンシアも自滅への道を進んでいるし、何よりこの場にいる国は全て連邦天帝国参加国だ。既に法もアミスターの物へ移行させている以上、ハイハンターであろうと容赦なく取り締まらなくてはならない。グランド・ハンターズマスターには申し訳ないが」
「悪行を働く者が裁きを受けるのは当然のお話ですな。既にハンターズギルドも動いております。あまりにも悪辣な者はライセンスを剥奪しておりますから、そういった者達は遠慮なく裁いて下され」
「さすがに兄弟子殿は厳しいですな」
「当然であろう?フォリアも師の教えを忘れたか?」
「まさか。現在はプリスターズギルドの守護が最優先任務ですが、今も昔も師の教えを実践しておりますぞ」
なんて言い合うギャザリングさんとフォリアさんだが、そういやどっちもシンイチさんの弟子だったな。
ギャザリングさんがシンイチさんの弟子になったのはスリュム・ロード討伐戦が行われる前で、フォリアさんは80年程前だったか。
年齢的には倍近く離れているが、シンイチさんは初代グランド・ホーリナーズマスターを勤め上げてたから、ギャザリングさんは何度もバシオンに足を運んで、フォリアさんにも稽古をつけた事があるそうだ。
今でも私的な付き合いがあるらしいし、ホーリナーズギルドにとってはシンイチさんに次ぐ師匠とでも言うべき存在なんだとさ。
「そういえばシンイチ殿は、ハンターでもあったな」
「初代グランド・セイバーズマスター カズシ様もですし、アソシエイト・オーダーズマスターになられたジャンヌ様もハンター登録はされていましたから、ハンターとリッターの戦闘教練は合同でも問題はなさそうですね」
カズシさんもハンターだったのは知ってるが、ジャンヌ様もハンター登録をしてたのは知らなかったな。
って事は180年前のスリュム・ロード討伐戦は、5人のエンシェントハンターに討伐依頼を出してたって事だったのか。
「そうじゃな。じゃがその話は後程にさせていただこう。申し訳ありませんな、陛下」
「お気になさらず。では話を戻そう。スカラーズギルド総本部もフロートに建造予定だが、残念ながら総合学校舎は難しい。よって総本部は、研究施設がメインになる」
スカラーズギルド建設については、なかなか難しい話になっている。
理由は、フロートに空いている土地が無いためだ。
フロートの拡張工事をしても総本部が街外れになってしまうし、現在の建物を移設する場合は区画整理から行う必要があるため、どれだけの日数が掛かるか分からない。
あ、移設は
土台から切り離した建物をストレージに収納して運ぶっていう、かなりの力技なんだとさ。
「今後の事を考えると、拡張と区画整理を行うのが望ましいのではありませんか?」
「私もそう思っているが、現状では難しいと言わざるを得ない。いずれはフロートにも総合学校を建設したいと思うが、今は可能な街に任せるべきだとも思っている」
「そうですね。ベスティアやドラグニア、グラシオンにも建設すべき施設ですが、街の拡張工事は必須です」
「それでいて教育は重要な問題ですから、可能であればいずこかの街に建設する必要がありますね」
さすがに一国の君主にグランド・マスターは、教育の重要さをしっかりと理解している。
だけど建設が予定されているフロート、ベスティア、ドラグニア、グラシオンは拡張工事を行わないと建設ができない。
ハンター、クラフター、トレーダー、バトラー、ヒーラー、リッターを目指す子が、座学だけじゃなく実技も含めて勉強するとなると、かなり広い場所が必要だ。
そうだな、城とはいかなくても、それに近い広さはあった方がいいか。
「となると、候補はメモリアでしょうか。現在拡張工事を行っているし、何よりフロートからも近い」
グリシナ陛下は俺と同じ考えか。
フィールもアリじゃないかと思ったんだが、フィールのあるエスメラルダ天爵領はプラダ村の開発をしている最中だから、フィールの拡張まではさすがに手が回らない。
他の街も、拡張しないと学校は厳しい。
だけどメモリアは、今年伐採した桜樹が全て街側だった事もあって、外側への大体的な拡張を実施している。
エンシェントクラスが一気に増えた事もあるが、元々リカさんは桜樹園の拡張を計画していたから、この機会にと言っていた。
桜樹園はかなり広いから、一角とはいえ総合学校を建設するには十分な広さもあるな。
桜樹園の拡張もあるから、実際に建設に入るのは早くても夏から秋頃、下手したら来年って事もあり得るが。
ちなみにその一角には、現在俺が鋭意製作中の魔導具MARSを置く施設を建設する予定だったりする。
フロートじゃなくメモリアに設置予定な理由は、フロートの土地に空きが無いからだ。
そうじゃなかったら、フロートに設置を考えてただろうな。
「私もそう思う。とはいえ今は桜樹の伐採時期だから、フレデリカ侯爵も手が回らないだろう。話はするが、着工は伐採が終わってからになると思う」
「それは仕方ありませんな。ですが総本部は、先にフロートに建設してもよろしいのでは?」
「そうですね。研究施設だけになるとはいえ、そちらもスカラーズギルドの本分となりますし、個人で行っている研究でも人を集めやすくなります」
ライアー大公の意見にいち早く賛成をしたのは、意外な事にフォリアス陛下だった。
どうやらフォリアス陛下はトレーダーズギルドに登録して、既に何かの研究を始めているらしい。
「天帝陛下、竜王陛下の仰る通りなのですが、申し訳ありませんがグランド・スカラーズマスターがまだ決まっておりません」
「そうなのですか?グランド・トレーダーズマスター」
グランド・トレーダーズマスター クリノスさんが、申し訳なさそうに口を挟んできた。
そうなの?
「はい。スカラーズギルドの性質上、研究者や教育者が移籍する事になりますが、総合学校開校が未定である以上、トレーダーズギルドに在籍している研究者が対象になります。ですがグランド・スカラーズマスターに就任という事になると、研究の時間が取れなくなるでしょう。何名か打診はさせて頂いているのですが、そういった理由で断られているのです」
あー、なるほどな。
確かに研究者はハンターズギルドやクラフターズギルド、ヒーラーズギルドにもいるが、一番多いのはトレーダーズギルドだ。
研究するために登録したのに、その研究が出来なくなるなんて言われたら、そりゃ誰も首を縦には振らんわな。
「ですからスカラーズギルドには、私が移籍させて頂こうと考えております」
「という事は、グランド・スカラーズマスターに?」
「はい。スカラーズギルドのお話を伺ってから考えていたのですが、スカラーズマスターは研究費を含めた経費の配分はもちろん、研究内容の売り込みも必要になります」
クリノスさんの意見に、みんなが頷く。
「ですからスカラーズマスターは、トレーダーズギルドからの出向、あるいは移籍者が務めるべきではないかと」
もちろんスカラーズギルド登録者の就任は当然で、人手が足りない場合はトレーダーズギルドから出向させて、スカラーズマスターに任命した方が、予算を無尽蔵に使わないようになるんじゃないかというのが、クリノスさんの意見だ。
研究者の多くはトレーダーズギルドに登録しているが、その理由は研究内容によって援助が行われるからだ。
もちろん大した意味のない成果になる事もあるんだが、どんな結果になろうと研究を認めたのはトレーダーズギルドだから、援助金の返還を求められる事は無い。
トレーダーズギルドに登録しなくても研究は可能だが、その場合は資金の調達から含めて自己責任だから、大抵はトレーダーズギルドに登録している。
ウイング・クレストもプリム、マナ、リディア、マリーナが登録しているから、報告は何度か行っているぞ。
「となるとトレーダーズギルドはもちろん、クラフターズギルドやヒーラーズギルドでも該当者は出てきそうですね」
「だが予算の管理となると、慣れているトレーダーが無難ですか」
「詳細はもっと煮詰める必要があるな」
決めなきゃいけない事はまだまだ多いが、クリノスさんがグランド・スカラーズマスターに就任してくれるって事だから、準備が整えば総本部の建設は可能だろう。
メモリアに建設される総合学校の事もあるから、早くても着工は夏ぐらいになるだろうけどな。
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