会議終わって
無事に会議は終了したが、今後も継続的に話し合わなきゃならない事柄が増えた事もあって、4日後にもう一度開催される事になった。
何も問題なければソルジャーズギルドが開設されるから、その次の日にって事だ。
次回はリベルター軍とバリエンテ獣騎士団の今後、トラレンシアも連邦に参加するかどうかに焦点が当てられているが、バレンティア、アレグリアにも参加を打診するためにロイヤル・オーダー ミランダさんが両国を訪ねるそうだ。
ミランダさんは王家の護衛としてバレンティアやアレグリアに同行した事があるから、ラインハルト陛下の書状を携えて向かうらしい。
そっちも重要だが、俺にとっては今日の会議が終わってからの事が驚きだった。
バリエンテのギムノス獣王がプリムとの会談を望み、その結果バリエンテの聖剣ホーリネス・ブレスを受け取ったんだから、何が何やらって感じだな。
それでもプリムはギムノス獣王に膝を付き、臣下の礼まで取ってたんだから、プリムの胸につっかえていたわだかまりも、少しは融けたんじゃないかと思う。
「ヒルデ姉様、こっちに来ててもいいの?」
「はい。天樹城にはヒルドもいますし、トラレンシアの事はほとんど引継ぎ終わっていますから。わたくしは情勢が落ち着くまでソレムネを治めれば、後は退位するだけですし」
ああ、だからヒルデも、頻繁にアルカに来れるようになったのか。
代わりにブリュンヒルド殿下は、トラレンシア国内の復興や政治なんかでてんてこ舞いらしいが、ヒルデも王位を継いだ直後はそんな感じだったらしいから、ある意味じゃトラレンシア妖王家の伝統か。
「どれぐらいで落ち着くか分からないけど、そんなに時間は掛からないでしょう」
「ユーリの結婚までには、落ち着いてるみたいだしね」
確かにな。
バレンティアの聖山ウィルネス山で、
俺はユーリが成人すると同時に結婚する予定でいるが、その時点で俺は正式に10人と結婚しているって事だから、ヒルデとも結婚している可能性が高い。
ユーリと一緒にもう1人と結婚するみたいだが、年齢的にアリアじゃないかと思う。
アリアはユーリより1歳年上だから、なんで1年も待つことになってるのかが疑問ではあるが。
「そっちはなるようにしかならないけどな」
「まあね。それよりセラス様、バトラーはいないんですか?」
「うむ。父上は付けたかったようだが、妾が断った。これでも身の回りの事は、一通りできるからな。あ、それと妾はラウスに嫁ぐのだから、敬称や敬語は不要に願いたい」
なんて言ってくるセラス様だが、リヒトシュテルンが小国とはいえ連邦を形成する独立国になるって事は、セラス様はそこのお姫様ってことでっせ?
さすがにそんな人を呼び捨てにして、さらにはため口なんて、なかなか厳しい話なんじゃなかろうか?
いや、貴族家当主どころかお姫様、果ては女王様まで呼び捨ての上ため口な俺が言える事じゃないんだが。
「さすがにリヒトシュテルン大公家のご令嬢を、呼び捨てにするのは大変じゃないかしら?」
「ラウスは慣れないといけないけどね。まあ、そこはおいおいって事にしましょう」
プリムとマナが、無理矢理話を纏めやがった。
いや、一番厳しいのは姉扱いされてるフラムだろ。
キャロルからもお姉様って呼ばれてるし、セラス様だって普通に呼んでたからな。
最近でこそ慣れてきてるが、それでも村娘のフラムからしたら相当なプレッシャーじゃなかろうか?
「それで明日だけど、予定通りバトラーズギルドで良いわよね?」
「ああ、早い方がいいからな。バトラーズ・ウェアは、マリーナがやりたければ任せるが、どうする?」
「もちろんやるよ。素材を引き取ってからになるけど、デザインも決めないといけないから、バトラーと顔を突き合わせないとね」
まあバトラーズ・ウェアは、マリーナが仕立てると思ってたよ。
となると俺や真子さんも、デザインが決定するまでは動けないな。
マジでデザイン集って事で、ゲームの装備品をドローイング使って描きだした方がいいかもしれん。
ちょっと聞いてみるか。
「マリーナ、ドローイングでデザインを描きだしておいた方がいいか?」
「そりゃその方があたしも勉強になるから助かるけど、大和のドローイングって、細部が怪しいんだよね」
痛い所を突かれた。
俺はあんまり絵が上手くなく、それに比例するかのようにドローイングも上手くない。
だから同じデザインを描き写したとしても、フラムやマリーナと比べるとデザインそのものが異なって見える事もままあった。
となるとフラムやマリーナに頼んで描き写してもらうしかないんだが、それを頼むと何日動けなくなるか分かったもんじゃねえ。
「ドローイングは使い手を選ぶ魔法だからな」
「なんてしたり顔で抜かすお前も、俺と似たようなもんだろうが」
「うるせえよ!」
口を挟んでくるエドだが、こいつも絵心がないから、ドローイングは使いたがらない。
一度使わせてみたが、俺より下手だったからな。
俺も大まかな形ぐらいしか描けなかったから、マリーナに言わせればどっちもどっちらしいが。
「デザイン集はともかくとしても、時間がある時にやればいいだけじゃない?」
「移動中とか、時間はありますからね」
確かに真子さんとフラムの言う通りだが、トラベリングを使えるようになってからというもの、その移動時間はめっきり減っている。
皆無って訳じゃないから出来ないことはないが、それでもかなり時間掛かりそうだな。
「あと明日は、試し斬りも兼ねてセラスを狩りに連れて行かないといけないわね」
「確かにそうなんだけど、それならシエル様も連れて行った方が良くないか?」
「既にお兄様から打診されています。本当はご自身も参加したかったそうですが、各国の要人が天樹城に滞在されていますから、今回は諦められたみたいです。代わりに、マルカお義姉様が同行されるそうですよ」
シエル様も武器が出来たばかりだからどうかって思ってたら、既に打診されてたのかよ。
しかもラインハルト陛下も参加したがったようだが、さすがに今の状況じゃ好き勝手はできないって事で、断念せざるを得なかったか。
代わりにマルカ殿下が来る事になったようだが、これはまあ当然か。
マルカ殿下の本音は、煩わしい政治の話から逃げられて万々歳ってとこだと思うけどな。
Side・セラス
ついにウイング・クレストに加入し、アルカに招待された妾は、天空の景色に呆気に取られてしまった。
話には聞いていたが本当に空に浮かぶ島で、そこには山や湖ばかりか大きな城のような建物まであり、その城がウイング・クレストの本当の拠点だという。
転移石板やゲート・クリスタルという魔導具でしか行き来できないそうだが、そのためにフィールという町にユニオン・ハウスを建て、管理するためのバトラーとも契約するという話だから、こちらも凄い話だ。
妾はラウスと婚約したために、北東にある金鯱殿という建物に住まう事になった。
キャロル付きでもあるバトラーのユリアが案内してくれたが、外観ばかりか内観までも趣があり、
さらに湯殿という、全てが浴場という建物まであったのだから、もはや何と言ってよいのか分からなかったぞ。
土足厳禁という決まりだけは、慣れるのが大変だと思う。
その日は興奮してしまったが、はしゃぎすぎてすぐに寝てしまったぐらいだ。
「おはよう、セラス」
「おはようございます、マナリース殿下」
翌朝、ラウス達と共に向かった本殿2階の食堂で、マナリース殿下とお会いした。
同じユニオンなのだから当然ではあるが、少し驚いてしまった。
「まだ慣れないから仕方ないけど、私は王位継承権を放棄しているし、大和に嫁いでいるからもう王女じゃないわよ」
確かに仰る通りではあるのだが、対外的には王女殿下という肩書が必要になる事もあるため、マナリース殿下とお呼びさせて頂いても問題はないと思います。
「あと自分の事を敬称不要って言ってるんだから、私達の事もそうしないとね。大公家からハンターに嫁ぐわけだから、あなたも慣れないといけないわよ?」
そちらも仰る通りです。
マナリース殿下、いえ、マナ様に限らず、ユーリ様やリカ様、ヒルデ様ですら、敬称は不要であり、愛称で呼び合っておられる。
妾はまだ入ったばかり故慣れておらんが、いつまでもそういうワケにはいかない。
後はこの口調も、少しずつでも変えて行った方が良いかもしれん。
マナ様と歓談していると、他の皆も起きて食堂に集まり始め、最後に大和様とプリム様が来られたところで、アルカを管理しているホムンクルスが朝食を運んできた。
アルカでの食事はホムンクルスのレラが中心となって用意しており、バトラーのエオス、ユリアも、アルカにいる間は手伝っているそうだ。
ホムンクルスは基本的にアルカから出る事はないため、ウイング・クレストの全員が出払ってしまっても問題なく管理できるそうだが、それではホムンクルス達の負担が大きいため、皆はバトラーと契約する事を決められたと教えていただいた。
ホムンクルスは7人だが、アルカの広さからしたらとても足りないのだから、妾もそうした方が良いと思う。
朝食後、レベッカを除くハンターは、全員が天樹製の多機能獣車に乗り、フロートに転移する事になった。
レベッカのみ不参加の理由は、ハイクラスへの進化の副作用となる肉体の痛みが激しくなってしまったためだ。
朝起きてから、歩くのも大変そうな痛みに苛まれてしまったため、今回は安静にしなければならず、ユリアも残るそうだ。
キャロルも残ると言ったのだが、プリム様の母君アプリコット様が看病を申し出て下さったため、お言葉に甘えて獣車に同乗している。
「それじゃなるべく早く戻ってきますから、レベッカをよろしくお願いします」
「ええ、気を付けてね」
アプリコット様もヒーラーとして、ウイング・クレストに加入されると仰っていた。
大和様やプリム様はずっと勧められていたのだが、アプリコット様はそれを断り続けておられたそうだ。
だが先日、プリム様がバリエンテのギムノス獣王陛下から聖剣を賜った。
その聖剣は、驚いた事にバリエンテの王権だという。
バリエンテはギムノス陛下の代でアミスターに併合される事が決まったから、プリム様が次期獣王陛下というワケではない。
聖剣は初代獣王陛下が、初代教皇猊下から賜ったとのことなので、直系の子孫が所有するに相応しいという理由で、プリム様が所有される事になったそうだ。
その聖剣を見たアプリコット様も、思う所があったのだろう。
固辞し続けていたウイング・クレストへの加入を、大和様やプリム様が驚く程素直に決められたと聞く。
妾は話だけしか伺っていないが、良かったと思う。
「で、今日はどこで狩りをするつもり?」
「イスタント迷宮辺りが良かったんだが、さすがに時間が無いからな。もしかしたらいるかもしれないっていう可能性に賭けて、イデアル連山ってとこか」
「素材狙いね。確かにいるかもしれないけど、イスタント迷宮は攻略済みだから迷宮放逐も無くなってるし、いない可能性の方が高いわよ?」
「わかってる。だからいたらラッキー程度の認識で行くよ」
今日の狩場は、イデアル連山か。
って、イデアル連山!?
中央付近はGランクモンスターの巣になっているという話ではなかったか!?
いや、大和様達の話を聞く限りでは、高ランクモンスターの素材を狙っているような雰囲気があるが……いったい何を狙っているのだ!?
「あー、多分大和さんの狙いは、グリフォンだと思うよ」
呆れたような観念したような顔で、ラウスが妾に呟いてくれた。
グリフォンといえばMランクモンスターだが、限りなくAランクに近く、個体によってはAランクモンスターすら凌駕し、出会ってしまえば死を覚悟しなければならない空の覇者の一角ではないか!
「終焉種すら倒せる人達だし、そうでなくてもエンシェントクラスが10人もいるんだから、MランクどころかAランクモンスターが相手でも、そうそう大事にはならないよ」
それはそうかもしれないが、だからといって妾のウイング・クレストとしての初めての狩りがグリフォンなど、さすがに恐怖でしかないわ!
だがラウスだけではなく、キャロルやレイナにも諦めたような諭すような顔をされてしまった。
「私も加入してすぐにソルプレッサ迷宮に入りましたし、レイナも同じくイスタント迷宮に入りました。ですからイデアル連山は、まだマシだと思いますよ?」
遠い目をしたキャロルとレイナの姿に、妾は戦慄を禁じ得なかった。
噂ではウイング・クレストは、かなりとんでもない狩りをしていると聞いていたが、どうやら噂通りだったらしい。
妾もそのウイング・クレストの一員となったのだから、これは諦めて慣れろという事か?
果たして慣れる日が来るのか、それだけが心配だ……。
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