フィールでの解体依頼

Side・真子


 クラテルのハンターズギルドでクラテル迷宮の調査報告を終えた私達は、大和君のトラベリングでフィールに帰ることにした。

 クラテルでは頑張って363匹の魔物を買い取ってもらったけど、私達が狩った魔物の総数からしたら全然なのよ。

 フィールでも同じぐらいの数を買い取ってもらうつもりではいるけど、私達が引き取る魔物の解体もお願いするつもりだから、全部を買い取ってもらうワケじゃないわ。


「詳細を聞くのがイヤになってくるね」

「いくら調査だからって、この数はあり得ねえからな」

「まあ、エンシェントクラスが10人もいるユニオンですからね」


 だけどハンターズギルドの第10鑑定室で魔物を出すと、クラフターズマスター、ハンターズマスター、トレーダーズマスターから諦めにも似た溜息が漏れた。

 さすがに失礼な気もするけど、ウイング・クレストの戦歴を見ると、私達に反論する権利は無かったりするのよね。


「で、ガルムは3匹、ホワイト・レオ、ランス・マーリン、ヴァルゴ・アマゾネスが2匹ずつ、キャノン・モンキー、フェイク・カクタス、サンド・ワーム、クレイター・ドレイク、マグマ・スパイダー、チェーン・スクイド、テラ・ガルム、シー・ヴァイパー、ビッグファング・ホエール、ブレード・フィッシュ、グレートブレード・フィッシュは1匹ずつ、ティロサウルスとステラ・ガルム、キラー・ホエール、シー・サーペントは買取に出さず、解体だけか?」

「ああ。使いたい素材が多いから、魔石を含めてこっちで引き取る予定だ」


 本当はティロサウルス、ステラ・ガルム、キラー・ホエール、シー・サーペントも買取に出したいんだけど、今回はそんなに狩れたワケじゃないし、大和君が作ってるモンスターズ・アクション・リプロダクション・システム、略してMARSには高ランクモンスターの魔石が不可欠だし、素材も同様。

 Mランクモンスターの魔石はドラグーンがあるけど、Aランクモンスターの魔石はないから、出来ればそっちの方が良いみたいね。

 でもGランクモンスターの魔石でも、Pランクモンスターを再現させる事は出来てるそうよ。

 まだ試作だから、完全にってワケでもないそうだけどね。

 それよりMARSって、上手い感じに略称が纏まってる気がするけど、まさか略称に合わせて考えたんじゃないでしょうね?


「MARSね。話は聞いてるけど、かなり凄い魔導具よね」

「クラフターズギルドとしても関わりたいけど、本格的にやろうと思ったら相当大きな施設が必要になるし、使う素材も高ランクモンスターのオンパレードだからね。大和君が自分で素材を取ってきた方が早い」


 トレーダーズマスターのミカサさん、クラフターズマスターのラベルナさんが、少し惜しそうな顔をしている。

 大和君が開発中の魔導具MARSは、魔物の魔石をセットする事で、魔物の立体映像を作り出す事が出来るの。

 無駄な犠牲を減らしたり、魔物の生態を調査するために幻影を生成する予定だけど、現状では幻影を生み出すのが精一杯だし動きも緩慢過ぎるから、とても戦闘訓練には使えない。

 それでも生態はある程度再現出来てるみたいだから、現状でもトレーダーの研究用としては十分な性能だと思う。

 だけど魔物の大きさもそのまま再現されるから、大きな魔物だと下手にホログラムを作り出す事が出来ず、必然的に大きな施設が必要になってしまう。

 これは研究用でも訓練用でも必須事項だから、ギルドが乗り気であっても国の許可が下りない限り、施設の建設が出来ないの。


「そっちはまだまだ研究が必要なんで、実際にやるとしてもかなり先になるでしょうね」


 幻影の攻撃は、当然だけど実体がない。

 だからどれだけ攻撃されてもノーダメージなんだけど、それじゃ訓練にならないって事で、大和君はある程度のダメージが通る魔道具も並行して開発している。

 その魔道具はまだまだ構想段階らしいけど、装着者の魔力に応じた攻撃力と防御力、耐久力に応じたフィールドが形成され、幻影の攻撃を受けると減少し、ゼロになると死亡扱いになる。

 幻影への攻撃も同様だから、倒せる程のダメージを与えたら幻影は消えるようになるのが理想だそうよ。


「かなり大掛かりな魔導具だな」

「他にもやってる事があるから、なかなか開発に集中できなくてな。今は暇を見繕って何とかやってる所だよ」


 まあ、通信具の開発もやってるしね。

 そっちはそろそろ実用化できそうだって話だから、ソレムネに行く時には試作を持ち込むでしょう。


「で、おっさん。解体にはどれぐらい掛かりそうだ?」

「お前らに戻す分は、3日ってとこだな。どうだ、ラベルナ?」

「それぐらいだろうね。ただ解体依頼を優先させると買取分の素材が流通するのに時間が掛かるから、できれば5日は貰いたい」


 3日って、解体師総出で取り掛かってギリギリの日数だったのね。

 解体依頼の魔物は、魔石を含めて全て私達が引き取るから、その分の素材は市場には出回らない。

 だけど珍しい魔物でもあるから、どのギルドでも早期に市場に流したい。

 だから解体依頼の魔物を優先しつつも、買い取った魔物の解体も並行して進めたいって事ね。


「それで構いません。お願いします」

「分かった。終わったらユニオン・ハウスに報せるように手配しておくよ」

「ありがとうございます」


 ユニオン・ハウスに報せてくれるなんて、助かるわね。

 その分料金がかかるけど、買取してもらった魔物の代金がとんでもない事になるから、そのぐらいなら全然問題ないわ。


「それでクラテル迷宮だが、マジでそんな面倒な構成だったのか?」

「そうじゃなかったら、こんな海棲魔物なんて持ってこねえよ」

「それもそうなんだが、さすがに信じられない話だからな」


 ハンターズマスターのライナスさんが、大和君にクラテル迷宮の詳細を訪ねている。

 迷宮ダンジョンにも海棲魔物は生息しているけど、その階層は島の周囲が海だったり、多くの島が橋で繋がってたりする階層が多く、クラテル迷宮みたいに一面が海っていう階層は存在しないそう。

 他にも第3階層がベスティアを模した市街地階層だったけど、こっちも存在しないって話ね。


「完全市街地に完全海洋かよ。面倒でしかないだろ」

「実際面倒だったぞ。特に海洋階層は、船が無かったら詰んでたからな」

「その前に第3階層じゃ、階動陣前にアマゾネス・クイーンが陣取ってたって言ってたな。タチが悪いにも程があるだろ」

「同感だな」


 私はクラテル迷宮以外だとイスタント迷宮、それもちょっと入っただけだからよく分からないけど、ヘリオスオーブの迷宮ダンジョンは階層が少ないけど第1階層から高ランクモンスターが出てくるか、階層が多いけど高ランクモンスターが少ないかのどちらかしかないらしい。

 クラテル迷宮は前者に当てはまるんだけど、第1階層からGランクモンスターが、第2階層にPランクモンスターが出てくる迷宮ダンジョンは無いし、第3階層みたいな完全市街地階層や第4階層みたいな完全海洋階層も存在していない。

 エンシェントクラスの存在が前提っぽい迷宮ダンジョンだし、セリャド火山で10人以上がエンシェントクラスに進化したせいで生まれたとも言われているから、もしかしたら階層は多いかもしれないって考えられてもいるわ。


「否定できない可能性だな。だがそれを確かめるには、エンシェントクラスを送り込む必要があるか」

「そうなんだが、俺達はソレムネに行くし、他の人達もイスタント迷宮に入るって言ってたから、調査には時間が掛かるぞ」


 そうなのよね。

 特にグレイシャス・リンクス、ファルコンズ・ビーク、ブラック・アーミー、ワイズ・レインボー、スノー・ブロッサムは、イスタント迷宮にリベンジに行くって言ってたし、セイクリッド・バードも一緒に行くって話だわ。

 トライアル・ハーツはポラルでレティセンシアを警戒しているし、ホーリー・グレイブとライオット・フラッグはフロートで休暇中。

 リリー・ウィッシュはサユリ様の治癒行脚に同行してるらしいから、誰も手が空いてないのよね。


「まあ第3階層が鬼門っぽいし、第4階層の様子も報告してるんだから、先に進むハンターは……」

「ハンターズマスター!大変です!」


 ライナスさんが話を纏めようとしていたら、第10鑑定室にハンターズギルドの受付嬢でリクシーのカミナさんが駆け込んできた。

 やけに慌ててるけど、何かあったのかしら?


「どうした、カミナ?」

「ラウス君達が、ビースト・ブレインを捕縛して来たんです!」


 はい?

 って、ラウス君達が?

 いえ、ビースト・ブレインっていうレイドは知らないけど、ラウス君達が捕縛したって事なら、そいつらが無法を働いたって事だと思うけど。


「またビースト・ブレインか。しかもよりにもよってラウスに絡むたあ、運のねえ奴らだな」

「それは俺も同感だが、そのビースト・ブレインって何なんだ?」

「ああ、お前らは知らなかったか」


 ライナスさんが言うには、ビースト・ブレインはバリエンテのハンターで、ハイクラスが2人所属している。

 リーダーはレベル43の男性ハイフォクシーで、もう1人はレベル41のハイウルフィー。

 レオナス元王子のシンパでもあったから、結構横暴なハンターズレイドでもあるそうよ。


「レオナスの、ね。で、そのクズどもが、なんでラウスに捕まったの?」


 プリムが怒りを隠そうともしてないけど、同じバリエンテ出身だし、レオナス元王子と繋がりがあるんなら、それだけで敵だって断定出来るワケだから仕方ないか。


「狩りの最中にラウス達を見かけて、お前らにちょっかいを出すための人質にしようとでも思ったんじゃねえか?」


 私達に用があったってことね。

 とはいえラウス君が捕縛済みなワケだから、私達の出る幕は無いんだけど。


「ハンターズマスターの仰る通り、狩りの最中に彼らを見掛けたので、レイナちゃんを人質にしようとしたそうです」


 はい、アウト。

 その時点で私達にもケンカを売ってるわ。

 レオナス元王子のシンパって事だし、敵討ちでもするつもりだったのかしらね?


「そういうことね。あのクズ、死んでからも迷惑かけるわね」


 忌々しそうに口を開くプリムだけど、実際に隷属の魔導具まで使われたんだから、本当に忌々しいでしょうね。

 私も聞くだけで気分が悪くなるわ。


「おっさん、そいつらはバリエンテのハンターって事だが、アミスターが捕まえたとしても問題は無いよな?」

「ある訳がねえだろ。仮にバリエンテが文句を言ってくるようなら、下手したら開戦ものだ。ビースト・ブレインがレオナスの手下だって事は有名だから、尚更な」


 レオナスはバリエンテにとっても逆賊だから、獣王がビースト・ブレインを庇う心配は無いでしょうね。


「ラウス君達を狙ったという事は、プリムさんは勿論マナ様やユーリ様、下手をしたらヒルデ様も狙ったという事になりますね」

「ああ、そうなるのか。という事はアテナも含まれるから、ドラゴニアンにもケンカを売ったって事にならない?」

「なるな。獣王がよっぽどの馬鹿でなければビースト・ブレインは切り捨てられるから、こっちも遠慮はいらないって事だな」


 オヴェスト王爵領の領主でプリムの従姉に当たるネージュ王爵の話を聞く限りじゃ、獣王は暗愚どころか賢王と言ってもいい人物みたいだから、アミスターにトラレンシア、ドラゴニアンを敵に回すような愚は侵さないでしょうし、そもそもそんな事を考えるとも思えないわね。

 オーダーズギルドには面倒を掛ける事になるから、私達も話をしに行く必要はありそうだけどね。

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