天空島への帰還

Side・プリム


 ハンターズギルドで、ラウス達がクズどもを捕まえたと聞いたあたし達は、すぐにハンターズギルドを出てオーダーズギルドに向かった。

 そこではオーダーズマスター レックスさんを筆頭に、妻のローズマリーさんとミューズさん、サブ・オーダーズマスター イリスさんもいて、ビースト・ブレインの取り調べを行っている最中だった。


「大和さん、皆さんも!」

「戻られていたんですね」


 レベッカとキャロルが出迎えてくれたけど、街門にあるオーダーズギルドの詰所の近くにはラウス達が使っている多機能獣車の試作2号車も停められていた。

 ビースト・ブレインが何人いるかは知らないけど、もしかしてこれで運んできたの?


「ええ、ただいま。ところで多機能獣車があるけど、もしかしてこれでビースト・ブレインを運んできたの?」

「はい。ビースト・ブレインは18人のレイドですから、私達だけでは運べませんでした。ですからレベッカがファーに乗ってフィールに戻り、オーダーを連れてきたんです」


 なるほど、その後オーダーと合流してから多機能獣車を出して、従魔契約しているバトル・ホースに引いてもらって帰って来たワケか。


「なるほどな。あれ?ラウスは取り調べに協力してるとして、レイナは?」

「レイナはラウスに引っ付いてますぅ。危うく人質になりかけましたからぁ」


 話には聞いてたけど、本当にレイナを人質にしようとしてたのね。

 レイナは戦闘経験が浅いから、本当に危ないところだったんでしょう。


「ハンターズギルドで、あなた達が狩りをしてる最中に襲われたって聞いたんだけど、実際はどうだったの?」


 リカさんが襲われた様子を尋ねているけど、それはあたしも気になるわ。

 フィール周辺にラウス達の相手になる魔物はいないけど、冬になると活動を開始する魔物もいるし、希少種や異常種がいないとも言い切れないから、状況によっては危ない所だったかもしれない。


「大筋ではその通りです。私達はハンターズギルドの依頼でスノー・ドロップを狩っていたんですが、運が良いのか悪いのか、希少種のホワイト・ティアーと戦っている最中に襲われたんです」


 スノー・ドロップって、冬場に動き出すって事で有名な魔物じゃない。

 ディアーの亜種でB-Nランクモンスターだから、この辺りじゃかなり手強い魔物だわ。

 しかもG-Rランクのホワイト・ティアーまでいて、それを狩ってる最中に襲ってくるなんて、本当に危ないところだったんじゃない。


「ビースト・ブレインに気が付いたラウスさんが、レイナにグリフィスライト・スターの翼を広げて身を守るように伝えなければ、人質に取られていたでしょう」


 キャロルによると、ホワイト・ティアー1匹にスノー・ドロップ3匹の群れに遭遇したらしい。

 ホワイト・ティアーはラウスが攻撃を引き付け、レベッカのサンダースケイル・レインで倒し、スノー・ドロップも2匹はラウスとキャロルが倒している。

 残った1匹は、レイナに経験を積んでもらうために攻撃をさせていたんだけど、丁度レベッカがホワイト・ティアーを倒したタイミングでビースト・ブレインが割り込んできた。

 先にホワイト・ティアーを見つけたのは自分達だから、寄越せって事だったそうよ。

 頭が悪いとしか言えないし、戦闘中だったとはいえラウス達はしっかりと拒絶したんだけど、それが気に食わなかったみたいで、レイナを人質にしようと考えたみたいね。

 だけど声を掛けられた時点で怪しんでいたラウスは、スノー・ドロップの攻撃を受け続けながらもレイナに指示を出したおかげで、レイナが人質になる事はなかった。


「ホワイト・ティアーやスノー・ドロップと戦ってる最中に現れて、ホワイト・ティアーを奪おうとしたりレイナを人質にしようとしたのか。俺ならその場で、粉々に砕いてるな」


 怒りを滲ませている大和だけど、あたしも全く同感で、あたしなら骨まで残さずに焼き尽くしてるわね。

 だけどラウスは、そいつらに余罪があると感じたらしく、スノー・ドロップを瞬殺してから、レイナのグリフィスライト・スターに攻撃を防がれて驚いていたビースト・ブレインにヘビーファング・クラウドをけしかけ、意識を奪ったみたいだわ。

 その後でレベッカがバトル・ホースのファーに乗ってフィールに戻り、イリスさんに話をつけてオーダーを派遣してもらったんですって。

 派遣されたオーダーの中にミューズさんがいて驚いたけど、エンシェントオーガがいたからこそ多機能獣車で運ぶことが出来たんでしょうね。


「なるほどね。じゃあビースト・ブレインが意識を取り戻しても、ミューズさんがいたから何も出来なかったと?」

「ラウスさん1人に手も足も出なかったのですから、エンシェントオーガであるミューズさんの相手など出来るワケがありませんからね」


 ああ、ラウス1人でビースト・ブレインの意識を刈り取ってたのね。

 まあ18人のレイドとはいえハイクラスは2人だけだし、そのハイクラスもレベル41とレベル43だから、レベル62でエンシェントクラス目前のラウスの相手になるワケがないか。


「話は分かった。となるとビースト・ブレインは、犯罪奴隷は確定だろうな」

「でしょうね。レオナス元王子のシンパで、本人達も無法を働く事が多かったみたいだから、ハイクラスの2人はヒアリングによる取り調べで余罪を追及した後、処刑って事になるわね」


 バリエンテはハイクラスには甘い国だったけど、アミスターではしっかりと裁かれる。

 余罪があるのは間違いないから、ビースト・ブレインのハイクラスは極刑になって、ノーマルクラスは魔銀ミスリル鉱山に従事する犯罪奴隷になる事は決まったも同然ね。


Side・キャロル


 オーダーズギルドの詰所でビースト・ブレインというレイドを引き渡し、ラウスさんとレイナが事情聴取を受けている最中、クラテル迷宮に行かれたはずの大和さん達が駆け付けてくれました。

 調査報告と買取、解体依頼をしている最中に私達の話が伝わったそうですが、予想より早く戻られていましたから少し驚きました。

 私達も、ラウスさん達の事情聴取が終わってからハンターズギルドに依頼完了の報告に向かいましたが、やはり4人で使うには多機能獣車は大きいですね。

 いえ、多機能獣車は快適ですし、使い慣れていますから特に問題はありませんが。


「おう、おかえり。大和達から話は聞いたぜ」

「面倒なのに絡まれたんだってね」


 アルカに戻り、日ノ本屋敷2階にあるリビングに顔を出すと、エドワードさんとカメリアさんがお茶をしていました。


「大変でしたよぉ」

「レベル60付近のハイクラスが3人もいるんだから、ちょっとやそっとの事で大変って事はないでしょう?」


 否定は出来ませんが、だからといって好んで面倒事に関わりたいとは思いませんよ。

 それよりもカメリアさんがいるという事は、武器は完成したという事ですね。


「カメリアさん、武器が出来たんですね」

「ええ。さっきまで感触を確かめてたから、今は休憩しているの」


 そう言ってカメリアさんは、ストレージ・バッグから刃渡り1メートルはある大剣を取り出しました。

 片手直剣を使っていたカメリアさんですが、攻撃力が不足している事を気にされていましたから、思い切って武器を両手持ちの大剣に変更する事を選ばれました。

 大和さんも賛成して下さったので、改めて瑠璃色銀ルリイロカネを使って武器を作る事になったんです。

 その大剣が、今カメリアさんの手にあります。


「銘はハイウインガー・ソード。ガードが鳥の翼に似ているからだけど、その翼が盾にもなるのよ」


 嬉しそうに大剣ハイウインガー・ソードを見せてくれるカメリアさんですが、翼が盾になるんですか。

 いえ、アリアさんのスターライト・オーブやレイナのグリフィスライト・スターといった前例もありますから、その程度の事では驚くに値しませんね。


「翼が盾にっていうことは、シールディングが付与されてるんですかぁ?」

「おう。クラテル迷宮に行く前に、ミーナさんのシールディングと結界魔法を、フラムが融合魔法で融合させて付与してくれたよ」


 ミーナさんの結界魔法まで、しかもフラムお姉様の融合魔法で融合させて付与となると、また凄い性能になっていそうです。


「後は実戦での使い勝手だけど、こればっかりは実際に使ってみないといけないから、時間が出来たら頼みたいんだけどいい?」

「それは構いませんけど、カメリアさんって大剣を使った経験あるんですか?」

「残念ながら無いわ。だから夕食が終わったら、もう一度中庭で振ってくるつもり」


 大剣を使った経験は無かったんですね。

 ウイング・クレストで剣を使っている方は多いですが、大剣は誰も使っていません。

 ですからアドバイスも難しいのですが……ああ、大和さんの刀は両手持ちですから、近いかもしれません。

 そういえばその大和さん達は、私達より先に戻ってきているはずなのですが、どこにおられるのでしょうか?


「エドワードさん、大和さん達はどうされたんですか?」

「大和は工芸殿だ。女連中は湯殿で旅の疲れを癒してるよ」


 ああ、なるほど。

 そういえば通信具の開発が佳境だというお話でしたし、魔物の幻影を使った疑似戦闘用の魔導具の開発も行われていますから、大和さんが工芸殿に行かれるのは必然でしたね。

 奥様方は、ヒルデ様も含めて湯殿で汗を流されているという事ですが、こちらも当然のお話でした。

 多機能獣車の浴室は広々としていますが、湯殿とは比べるべくもありませんから。


「なら私達も、もうちょっとしたら湯殿に行ってきますぅ」

「ああ、ならついでに、マリーナとフィーナ、フィアナも連れてってくれ」

「それはいいけど、もしかしてお姉ちゃん達、またお風呂に入ってないの?」


 フィーナさんとフィアナの妹になるレイナが、眉を寄せています。

 エドワードさんもですが、工芸殿に籠る方々はお風呂に入らず、奏上魔法デヴォートマジックウォッシングで済ませてしまう傾向があります。

 ウォッシングは体の汚れや汗を落とす魔法ですし、お風呂は貴族でもなければ所有は難しいですから、一般の方は週に一度入れるかどうかになるため、使用頻度は高い魔法です。

 レイナもアルカに来るまではそんな生活をしていたはずですが、湯殿や副殿の浴室に魅せられてしまっていますから、毎日お風呂に入っていますよ。


「俺もウォッシングで済ます事があるから構わないんだが、今日は大和達も帰ってきて、久々に全員が揃った訳だからな。丁度湯殿に行くんなら、そっちの方がいいだろ。ああ、カメリアも行ったらどうだ?」

「そうですね、そうさせてもらいます」


 意外に見えますが、エドワードさんはこういった気遣いが出来る方です。

 カメリアさんもウイング・クレストへの加入前やデセオで、エドワードさんに気遣って頂いていますし、そのせいで惹かれているのが丸わかりですから。


「じゃあお姉ちゃん達は、あたし達が連れて行くね!」

「おう、頼んだ」

「俺はここで休憩してるよ」

「分かったよぉ」

「それでは行ってきますね」


 ラウスさんは、ここで休憩しつつ、エドワードさんのお相手ですか。

 本当でしたら湯殿でもご一緒したいのですが、プリムさん達が既に入られていますから、それは出来ません。

 ですから今晩、私達が住まいとしている北東の副殿 金鯱殿にあるお風呂に、一緒に入る事にしましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る