クラテル迷宮第1階層
Side・真子
アイス・ウルフとホワイト・ウルフの群れを、ユーリ様、ヒルデ様、リカ様、アリアちゃん、マリサ、ヴィオラ、ミレイが蹴散らして、私達は第1階層の調査を続けている。
第1階層はアミスターにあるイスタント迷宮第2階層と同じぐらいの広さみたいだけど、時折吹雪いたりもするから、調査はあまり捗っていない。
「Sランクが多いとは聞いてたが、こうしてみるとBランクの方が多いな」
「そうね。とはいえホワイト・ファングまで出てきたんだから、難易度はイスタント迷宮やソルプレッサ迷宮より上かもしれないわ」
クラテル迷宮に入ってから5時間程経つけど、襲ってきた魔物は結構な数になる。
内訳はC-Uランクのホワイト・ウルフ47匹、B-Rランクのアイス・ウルフ26匹、S-Iランクのホワイト・ファング3匹、B-Uランクのスピアード・ラビット57匹、S-Rランクのロングフット・イヤーサイス13匹、B-Nランクのファイア・テイル32匹、S-Uランクのバーンテイル・フォックス11匹、B-Uランクのスノー・スタッグ26匹、S-Rランクのスノー・ビートル6匹の計219匹。
数は多いけど、第1階層を隈なく調査しているわけだから、こんなものじゃないかと思う。
問題なのはウルフ種の異常種ホワイト・ファングが出てきたこと。
合金製の武器を持つハイクラスなら労せず倒せるけど、それまではハイクラス10人以上で相手をして、それでも犠牲が出るのは避けられない魔物だったそうね。
そんな魔物が3匹も出てくるなんて、並のハンターじゃ第1階層すら突破出来ないわよ。
「ホワイト・ファングは確かに厄介ね。第1階層からいきなり異常種が出るなんて、タチが悪いにも程があるわよ」
「同感ね。合金を使えるハイクラスなら倒せるけど、その合金はまだ流通しきっていない。ノーマルクラスは言うに及ばずね」
「
大和君の意見に私も賛成だけど、それでも異常種が出てくるのは面倒ね。
「確かにそうですが、春にならなければトラレンシアは合金を輸入できませんから、しばらくはセイバーズギルド、ハンターズギルドに封鎖をお願いしなければなりませんね」
「そうした方がいいと思いますけど、セイバーはともかくハンターは止まるでしょうか?」
「あー、確かに微妙かも。特に自分の力を過信してるBランク辺りは、馬鹿な事考えそうよね」
あー、確かにリディアの言う通りかも。
私が知ってるハンターは、ソレムネとの戦争に参加したアライアンスがほとんどだけど、フィールを拠点しているハンターにも顔見知りがいないワケじゃない。
アライアンスに参加したハンターはアミスターでもトップクラスのハンターばかりだから、無茶な事はしないし、自分達の実力を過信する事は無い。
フィールのハンターは、ラウス君に絡んだ事が何度かあるみたいだけど、その都度返り討ちにあって痛い目を見てるし、物分かりの良い子も多いから、そこまで問題にはなってなかったはず。
トラレンシアのハンターも、基本的にはアミスターと同じで物分かりの良い人が多いんだけど、実力を過信する輩や根拠のない自信を持ってる馬鹿がいなくなることはあり得ないし、ハイクラスなら何をしても許されるなんて選民思想を持ってるクズもいるから、規制した所で
「勝手にさせとけばいいんじゃないか?
「同感。完全に自己責任でしょ」
大和君とプリムはあっさりと見限ったかのような発言をするけど、確かに最終的にはそうなるわね。
「それはいいとして、どうする?第2階層に進む?」
「隅々まで調べたワケじゃありませんけど、マッピングは8割方終わってますし、そうしてもいいかもしれませんね」
ルディアとミーナも、あんまり気にしてなさそうね。
まあ私もそう思うし、そもそもそんな馬鹿が出てくるかもわからないから、今は調査をどうするかの話に移りましょう。
「8割終わってるんなら、先に進んでもいいかもね」
「どれどれ……。セーフ・エリアは3つか。となると、まだ空白の多い南西側にもあるかもしれない。セーフ・エリアを探すついでに南西側も調査して、それから第2階層に行こう」
「南西側ってあんまり行ってなかったのね。ならそうしましょうか」
満場一致で大和君の意見が採用。
でも南西側って、ちょっと遠いわね。
クラテル迷宮の入口は地図の北西にあるんだけど、私達がいるのは現在は南東側。
セーフ・エリアは北側に2ヶ所、南側に1ヶ所だけど、もう1ヶ所ありそうな配置だから、南西側にもあるかもっていう大和君の予想には同意だわ。
でもそろそろお昼だし、休憩もしたいわね。
「一度お昼休憩を挟みたいし、このセーフ・エリアに寄らない?」
「いいですね、賛成です」
「じゃあこのセーフ・エリアで、小休止にしましょう」
「賛成!」
決まりね。
少し東寄りの南側にあるセーフ・エリアで、食事を挟んだ小休止に決定。
異世界ものの小説やゲームなんかじゃ、
ストレージングは、一言でいえばアイテムボックスとかインベントリとかと同じ収納魔法で、内部は時間が経過せず、容量は使用者の魔力に依存する。
翼族という例外を除くとハイクラスに進化しないと使えないそうだけど、容量は最低でも民家2軒分はあるそうよ。
エンシェントクラスに進化すると、どうも村どころか街規模の容量でも収納しきれる感じね。
大和君やプリムは、ソルプレッサ迷宮やイスタント迷宮で倒した魔物をほぼ2人で収納したそうだけど、どこが限界なのか分からなかったって言ってたから。
しかも大和君が奏上した新
私も使ってるけど、本当に便利よね。
Side・ヒルデ
無事にセーフ・エリアに辿り着いたわたくし達は、ロック・ボアの醤油煮を使った麺料理を堪能しました。
スープはロック・ボアの骨をお野菜と共に長時間煮込み、調味料を使って味付けをしたそうですが、濃厚でとても美味しかったです。
「やっぱり麺が……」
「スープの出来が良いだけに、尚更目立つわよね……」
ですが大和様と真子は、この素晴らしい麺料理が物足りないようです。
元々はお2人の国を代表する料理の1つと伺っていますから、物足りないと感じるお気持ちは分からなくもないのですが、調理師としても名高いOランククラフターのサユリ様ですら再現は出来なかったと聞いています。
「高望みだって分かってるんですけどね」
「サユリおばあ様も、未だに研究中だって言ってたわね」
「大和の刻印具にはないみたいだけど、真子の刻印具にはその料理のレシピが入ってたりしないの?」
「残念だけど無いわ。私も料理はするけど、さすがに麺作りからやろうとは思わなかったから。真桜なら知ってるはずなんだけど、さすがに聞けないし」
「あー、確かに母さんなら知ってるか」
大和様のお母様ですか。
ですがお聞きしようにも、大和様のお母様 真桜様は大和様達の世界 地球におられますから、話を聞くどころかお会いすることすら叶いません。
「というか、なんで大和のお母様が、サユリおばあ様が長年研究を続けている料理の作り方を知ってるの?」
「それはね、真桜の料理はプロ並みで、料理に関しては妥協をしないから、刻印具には様々な料理のレシピを入れてあるからよ。サユリ様がラーメンを完全に再現出来なかった理由の1つに、私や大和君が使ってる刻印具と、当時のスマホの性能的な問題もあるでしょうね」
「ああ、それはサユリ様も言ってましたよ。まあ、仮にスマホが使えたとしても、麺の作り方なんてレシピが入ってるかは分からないとも言ってたけど」
「そうなんだ。よくそれで、カレーとか再現出来たわね」
カレーですか。
スパイスが効いた辛いスープですが、私は甘口が好みです。
「ああ、それは学生時代カレー屋でバイトしてたからだって言ってましたよ」
「またピンポイントな。いえ、そのおかげで私達もカレーを食べられるわけだから、文句はないんだけどさ」
「気持ちは分かりますよ」
大和様と真子だけに分かるお話ですね。
というかそんなお話をされてしまったら、わたくしも久しぶりに食べたくなってしまいます。
「カレーも良いけど、今は
「分かってるって」
「もちろんよ。とはいえ、第2階層は火山地帯で巨大リザードがいるっていう情報しかないから、第3階層まで行けるかよね」
「そればっかりはね。それに巨大リザードって言ってるけど、本当に大きなリザード種なのか、単に見間違えたのか、それともサウルス種なのか、実物を見ないことには判断できないわ」
マナがやんわりと口を挟んだことで、
セイバーズギルドからの報告によると、第2階層の火山地帯には巨大リザードがいたため、調査隊の戦力では心もとないということで撤退しています。
ですが実際に巨大リザードを目撃したのは2名だけだそうですから、普通のリザード種、火山帯となると恐らくは火属性になるでしょうが、その個体なのか、バレンティアにしか生息していないサウルス種なのか不明ですし、見間違いという可能性すら残っています。
だからといって撤退したセイバーの判断を責めるつもりはありませんから、実際にわたくし達の目で確かめなければなりません。
幸いなことにウイング・クレストにはエンシェントクラスが10名もいますから、GランクどころかOランクモンスターが現れたとしても対処は可能でしょう。
事実として大和様、プリム、真子の3名は、終焉種すら倒しているのですから。
「火山にいるリザードとなると、ファイア・リザードになるのかしら?」
「火属性のリザードとなると、サラマンダーっていう可能性は?」
「どっちも聞いた事ないわね。セリャド火山にリザード種はいないから、予想も難しいわ」
確かにプリムの言うように、セリャド火山にリザード種は生息していません。
いえ、もしかしたら生息しているのかもしれませんが、180年前のスリュム・ロード討伐の際も、数ヶ月前にウイング・クレストが調査を行った際も、リザード種は確認されていません。
ですが池や湖、河口に出没する事は珍しくありませんし、森の中や荒地にも生息しているそうですから、恐らくはそれらの種族の亜種という可能性が高いとわたくしは思います。
「エオス、あなたの意見は?」
リカ侯爵がエオスに意見を求めていますが、エオスはこの中で一番ハンター歴が長く経験も豊富ですから、わたくしにも興味がありますね。
「そうですね、私見ではありますが、ファイア・ドレイクの希少種か異常種の可能性があります」
ファイア・ドレイク、ですか?
「はい。バレンティア北東部にあるマルドッソ迷宮第15階層に現れる、炎を纏ったドレイクです。マルドッソ迷宮は第15階層までしか踏破されていませんが、その理由の1つにファイア・ドレイクの異常種、フレイミスト・ヒートヘイズの存在があります」
ファイア・ドレイクの異常種、フレイミスト・ヒートヘイズですか。
エオスの話ではファイア・ドレイクはSランク、フレイミスト・ヒートヘイズはP-Iランクになるそうです。
希少種はクレイター・ドレイクというG-Rランクだそうですが、そちらも確認した事があると口にします。
「また面倒な」
「ホントにね。さすがに第2階層でP-Iランクが出てくるとは思えないけど、希少種はG-Rランクだから、そっちはいる可能性があるわね」
確かに今まで発見されている
ですが何が起こってもおかしくないのが
「とはいえ、あくまでも私見です。サウルス種の可能性もありますし、リザードの異常種という可能性も残っていますよ」
「そうだけど、ファイア・ドレイク系がいるかもっていうのはあたし達も考えてなかったから、結構助かるよ」
わたくしもルディアの意見に賛成です。
エオスが話してくれるまで、わたくしはファイア・ドレイクという魔物がいることすら知りませんでしたから、知識として知っておけるだけでもありがたいです。
問題なのは、第2階層にいる魔物が何なのかですが、こればかりは行ってみなければ分かりません。
その後も少しお話をしてから、わたくし達は小休止を終え、調査を再開しました。
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