連合軍対ソレムネ軍
行軍開始から10日、魔物の襲撃が多い上に砂漠が近い事もあって進軍に手間取り、ようやくデセオまで半分ぐらいの距離までやってきた感じだ。
魔物の襲撃は、先日のワーム種大量襲撃以来散発的になってるが、それでも砂漠が近いし、止む無く砂漠を突っ切る日もあったから、さりげなく高ランクモンスターも多い。
砂漠に住む亜人アントリオンとも戦ったんだが、蟻が人型になったような、それでいて微妙に人間の女に近い感じの見た目だったな。
アントリオンは人間の男を攫うような事はしないらしいが、メスだけしかいない種族だって聞いている。
どうやって繁殖してるんだ?
グラン・デスワームを含む大量のワーム種が襲ってきた理由だが、どうやらあの近くに、未攻略の
ソレムネの
だからグラン・デスワームが2匹いた事を考えて、迷宮放逐をする事で
今日も今日とて砂漠を突っ切る事になったんだが、昼過ぎになってやっとソレムネ軍と接敵したよ。
しかも海側には蒸気戦列艦が10隻、砂漠には2,000人を越す大軍勢だ。
「ここまで来てようやくか。まあ他の街を見る限りじゃ相当な圧政を敷いてたみたいだから、連絡も上がりにくいんだろうが」
やれやれといった感じのファリスさんに同意だ。
いくつかの街や村を通り過ぎたが、どこも駐留軍が幅を利かせ、治安も何もあったもんじゃなかった。
そのくせ連合軍が近付くと、我先にと逃げ出そうとしてたんだから、駐留軍の意味が全くなかったな。
もちろん逃がすつもりは無かったから、ちゃんと殲滅してあるが。
「栄えあるソレムネ帝国に侵略を企てるなど、身の程を知るがいい!」
相手さんの指揮官がそんな寝言をほざいてるが、俺達としては呆れるしかない。
「自分達の事を棚に上げて、よく言うわね」
真子さんの意見に、全面的に同意する。
「私はアミスター・トラレンシア連合軍ジェネラル・オーダー、レックス・フォールハイトだ。此度の進軍は、再三に渡る侵略の手からトラレンシア、並びにリベルターを守るためのものだ。礼儀知らずの侵略者風情に、そのような事を言われる覚えはない」
「大口を叩くのは結構だが、状況を見て物を言え。こちらの戦力は、新兵器を搭載した鉄の船10隻に、精鋭たる陸軍2,000人だ。対して連合軍とやらは、どう見ても1,000人もおらんではないか。その程度の数で我が国を攻めるなど、片腹痛いわ!」
ソレムネの指揮官が笑い、背後に控えてるソレムネ軍もそれに続く。
確かに単純な人数は、陸軍と比べるだけでも3倍以上で、それに蒸気戦列艦まで加わるんだから、総合的には10倍近く開きがあるかもしれない。
だけどこっちは、その差を覆して余りある戦力を有している。
なにせエンシェントクラスが16人もいるんだから、その程度の戦力差など無いも同然だ。
「蒸気戦列艦か。ご大層な名前だし、自惚れるのも分からなくもないが、あの程度の代物、我らにとってはただの鉄屑同然だ」
「はっはっはっ!ハイクラスを揃えているようだが、その程度の戦力で海に浮かぶ蒸気戦列艦を、どうやって沈めるというのだ?」
「では聞くが、トラレンシアに派遣した54隻、バリエンテとバシオンに進軍させた60隻、リベルターを占領していた46隻、これらはどうなったのかな?」
「……何だと?」
レックスさんに嘲笑を返す指揮官だが、既に沈めてある蒸気戦列艦を持ち出された瞬間、指揮官の笑いが止まった。
「再度言おう。我らの前ではあのような鉄屑など、何の戦力にもならない。我々の目的はただ1つ、暗愚な帝王の首だ」
レックスさんの言葉の真偽を図りかねている指揮官だが、数に心当たりぐらいはあるだろう。
丁度200隻沈めてるが、それでもここで10隻出てきてるから、ちょっと総数の見積もりが甘かった気はするが。
その指揮官は剣を抜き、高々と天に掲げている。
それを合図に、空に
「やれやれ、話の途中で不意打ちを仕掛けてくるとは。ある者が蛮族だと罵っていたが、改めてそうだと理解させられたよ」
「蛮族ごときに、高貴なる我が帝国が理解されるとも思っておらん。むしろ自分の身を心配したらどうだ?」
レックスさんは名乗りを上げるために、単身でソレムネ軍に接近している状況だ。
それはソレムネの指揮官も同じなんだが、指揮官は護衛も付けてるし、何よりさっきの合図と同時に前衛部隊がレックスさんを取り囲んでいるから、こっちでも様子は分かりにくくなっている。
まあ、その程度じゃ何の心配も無いが。
「心配?この程度の戦力など、私にとっては物の数ではないよ。先に攻撃を仕掛けたのはそちらだから、こちらも手を出させてもらうとしよう」
剣を抜いたレックスさんは、剣に
それを見た俺達は、即座に砲弾を撃墜し、グレイシャス・リンクス、ファルコンズ・ビーク、ブラック・アーミーが蒸気戦列艦に向かっていく。
「な、なんだ……なんだそれは!?」
「言っただろう?この程度など、私にとっては物の数ではないと。これでも私はOランクオーダー、エンシェントヒューマンだからな」
ソレムネ軍にとって驚愕の一言と同時に、レックスさんは剣を振り下ろした。
振り下ろした剣の直撃を受けたソレムネ兵はそのまま命を断たれたが、悲惨なのは周囲にいたソレムネ兵だ。
なにせ余波で四肢を奪われた挙句、雷で体が麻痺してしまったため、動く事も出来なくなってるんだからな。
「見るがいい。先程も言ったように、蒸気戦列艦など鉄屑同然、その証拠があれだ」
「ば、馬鹿な……」
蒸気戦列艦も、スレイさんとシーザーさんが2隻ずつ、エルさんが3隻、それぞれのレイドで1隻ずつ、あっさりと沈めている。
エルさんが一番多く沈めた理由は、エンシェントハーピーって事でフライングが使えるから、それとスカファルディングを併用して、いち早く蒸気戦列艦に辿り着く事が出来たからだ。
「だから言っただろう?ああ、死ぬ前に教えておこう。我が連合軍には、私以外にもエンシェントクラスが15人も存在している。さらにドラゴニアンも2人いるが、それを知って出向いてきたのだとしたら、あなた方は実に勇敢だ。いや、蛮勇と言った方が相応しいかな?」
「!?」
言葉を無くす指揮官だが、そのドラゴニアンの1人はエンシェントドラゴニアンでもあるから、ソレムネにとっては鬼門だよな。
「先に手を出した以上、降伏はしないものと判断する」
絶句しているソレムネ指揮官にそう言い放ったレックスさんは、再び
ソレムネ指揮官を始めとした護衛達が、胴体から真っ二つになって崩れ落ちる。
同時にレックスさんが、声を上げて命令を下した。
「ここに戦端は開かれた!連合軍、攻撃開始!」
「「「おおおおおおっ!!!」」」
鬨の声を上げながら、連合軍はソレムネ軍に向かう。
「「う、うわああああああっ!?」」
逆にソレムネ軍は、あっさりと全ての蒸気戦列艦が沈められた事、指揮官が護衛諸共一太刀で真っ二つにされた事で、士気は落ちるところまで落ち切っている。
だから後方の兵士達は逃げ出そうとしてる連中も少なくないんだが、そうなる事は想定内。
俺と真子さんがウイング・バーストとアクセリングを全開にして飛び、後方に回り込むと同時に俺はニブルヘイムを、真子さんはヴァナヘイムを発動させ、積層結界と成す。
これでソレムネ軍は、誰も逃げ出す事が出来なくなった。
「ぎゃああああっ!!」
「な、なんだ……なんだよ、これはあっ!!」
「いや……いやああああっ!!」
逃げ出そうとしていたソレムネ兵に、ヴァナヘイムの光が襲い掛かり、飲み込んでいく。
相手に合わせてレーザーの大きさを調整してる真子さんだが、マジで凄い。
そこまで細かい制御は、俺には無理だからなぁ……。
「こっちは通行止めだ」
「と言っても、どこにも逃げられないんだけどね」
今の俺は、半径250メートルまでなら広域系を展開出来るが、もうちょい遅かったら何人か取り逃がしてたかもしれん。
真子さんは俺の倍以上の範囲で展開出来るから、その場合でも逃げられるような事はないんだが。
ニブルヘイムで作り出した氷鏡でヴァナヘイムの光線を反射させ、味方に誤射しないように気を遣いながらソレムネ兵を倒していく俺と真子さんだが、結構大変だぞ、これは。
なんかゲームかなんかでこんな兵器があった気がするけど、自分が使う事になるとは思わなかった。
俺がやってるのは氷鏡の角度の調整だが、マジでキツい。
マルチ・エッジじゃこんな細かい制御は無理だし、ミラー・リングでも微妙なとこだから、アイス・スフィアとアクセリングを併用して何とかしてるが、おかげで一歩も動けねえ。
「腕輪状の装飾型じゃ、厳しいでしょうね」
「というか真子さんなら、スピリチュア・ヘキサ・ディッパーを生成すれば、1人でも出来るんじゃ?」
「出来るわよ?まだ見せた事はないけど、私のもう1つのS級がそんな感じだから」
マジかよ……。
スリュム・ロード討伐戦で見た真子さんの無性S級無系術式カラミティ・ヘキサグラムは、俺にとってもかなり衝撃的な術式だった。
討伐戦の後で真子さんに聞いたんだが、真子さんは俺の師匠達とも友人で、一緒に戦った事もある。
だから両親どころか師匠達のS級も知ってるんだが、さわりを教えてもらっただけでも非常識だと断じれる術式のオンパレードだった。
ミスト・ソリューションやアイスミスト・エクスプロージョンは、俺的には十分満足できる術式だったんだが、全然足りなかったよ……。
「というか大和君、まだ刻印融合術は出来ないの?」
「色々と試してるけど、さっぱりですね」
「融合型刻印法具に出来れば処理能力が格段に上がるから、出来る事も増えるんだけどね」
父さんや母さんも、そう言ってたな。
俺の父さんは武装型と消費型を、母さんは装飾型と携帯型を生成し、それを刻印融合術で融合させる事で、それぞれの特性を受け継ぎ、能力を大幅に向上させた融合型刻印法具を生成出来る。
ミスト・ソリューションを完成させたら教えてもらえる事になってたんだが、その前にヘリオスオーブに来ちまったから、残念ながら教えてもらえる機会は無くなってしまった。
それでも強くなるためには必要な事だから、ヘリオスオーブに転移してからずっと、俺は刻印融合術が出来るように試行錯誤を繰り返している。
全く出来そうな気配がないが。
「興味あったから聞いた事あるんだけど、何て言ってたっけなぁ……?」
お願いですから、思い出してあげてください。
主に俺の為に。
「それは戦闘が終わってからね。じきに終わると思うけど」
「あと5分、ってとこですかね」
2,000人いたソレムネ陸軍だが、面白いぐらいに蹂躙されている。
なにせ俺と真子さん以外のエンシェント14人が戦場に散って、単身で百人単位で屠ってるんだからな。
連合軍には非戦闘員もいるからそっちの護衛も必要になるんだが、最優先で護衛されるべき王族の方々すら全員ハイクラスだからって事で、非戦闘員の護衛に回ってるぐらいだ。
あ、いや、ラインハルト陛下は打って出てるな。
ロイヤル・オーダーが護衛をしているが、一国の王なんだから少しは大人しくしといてもらいたいもんだ。
「こっちはこれで終わりっと。お疲れ様、大和君」
「マジで疲れましたよ。まさか一歩も動けなくなるとは思わなかった」
「慣れれば少しはマシになるけど、大和君とは相性悪いわよね」
ニブルヘイムとヴァナヘイムの積層術で逃げ出そうとしてたソレムネ兵を殲滅した俺と真子さんだが、マジでキツかった。
俺は剣士だから、この反射誘導光線とでも呼ぶべき積層術とは相性最悪だ。
一歩も動けない剣士なんて、何の役にも立たないからな。
「あっちも終わったわね」
「ですね」
5分どころか3分でソレムネ軍を殲滅してやがる。
俺が言うのもなんだが、マジでエンシェントクラスってとんでもないな。
武器を一振りするだけで数人が命を落としていってたし、それが16人もいるんだから、2,000人どころか20,000人が相手でも、30分あれば殲滅出来そうな勢いだったぞ。
だけど面倒なのは、死体の処理だ。
回収するつもりはないから念動魔法を使える者が総出で死体を集め、プリムのフレア・トルネードや
「疲れている所を申し訳ないと思うが、こんな場所で野営は出来ない。だからもう少し前進し、今日は少し早めに野営を行う。各員、もうしばらく頑張ってくれ」
死体の処理を終えるとレックスさんが進軍を命じたが、俺としてもこんな戦場跡で野営はごめんだし、他の人達も同様らしいから、誰からも文句は出なかった。
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