2大帝国の戦力予想
Side・プリム
セリャド火山にある宝樹の根元から、無事に転移石板を回収したあたし達は、クラテルのハンターズギルドに報告してからリオに向かった。
スリュム・ロードの討伐後から、リオの近隣でSランクモンスターがよく目撃されるようになったし、Gランクモンスターすら出るようになったっていう話だから、あたし達も少し気になってるの。
クラテルでも似たようなものなんだけど、こっちは元々ゴルド大氷河と隣接してるから、Gランクモンスターの襲撃は数ヶ月に一度はあったみたいで、それなりに対応出来てるみたいよ。
「え?ホーリー・ブレイブとリリー・ウィッシュはゴルド大氷河の調査で、今日は帰らないんですか?」
「ああ。生態系が変わり始めてる事を、リオのハンターズギルドも気にしていたからね。だから私達にも依頼が出ているんだ」
「でも私達が派遣された理由が理由だから、さすがに全員で調査に行くのは無理でしょう?だけど放置しておくわけにもいかない問題だから、日数を決めて、手分けして調査をしているの」
そりゃそうよ。
元々アライアンスが派遣された理由は、ソレムネに対する為なんだから。
だけどゴルド大氷河が近いリオの街からしたら、スリュム・ロードがいなくなった事で生態系が変わったゴルド大氷河だって無視するワケにはいかない。
だから調査は速やかに行いたいけど、今リオにいるハンターは、ゴルド大氷河の調査なんて依頼が出来る実力は持ってないから、アライアンスに頼むしかいない。
でも全員で行く事は出来ないから、最低でも半数は残して、数日単位で調査に出向いてるって事なのね。
「じゃあ俺達も、後でセリャド火山の様子を伝えた方が良いのか」
「え?セリャド火山に行ってきたの?」
「ええ、俺達も気になってましたからね」
転移石板の回収っていう目的もあったけど、そっちだって無視する訳にはいかなかったものね。
アライアンスもセリャド火山の様子は興味あるみたいで、大和が一通りの説明をしているけど、だいたいは予想通りだったみたい。
「マグマ・パペットどころかマグマ・ゴーレムまでいたのか」
「普通に面倒ね」
マグマ・パペットはB-Nランク、マグマ・ゴーレムはG-Rランクの、溶岩が人型になった魔物の事。
パペット系は元になった鉱物によってランクが異なるんだけど、体が素材になる事は共通している。
一番厄介なのは
だけどマグマ・パペットは、一応希少な素材ではあるんだけど、ランクに反して用途が少ないから、あまり人気がないのよ。
しかも体は溶岩で覆われているから近接戦はし辛いし、下手な魔法だって効果が無い。
セリャド火山以外だと
「なるほど、フリーザス・タイガーはいたが、アイスクエイク・タイガーやアバランシュ・ハウルはいなかったか」
「ええ。だけどスリュム・ロードがいなくなった直後でもありますから、要警戒って事に変わりはないですね」
「そうだね。マイライトととは少し違うけど、アイスクエイク・タイガーぐらいはいてもおかしくない」
終焉種は異常種を増やす事が出来る。
だからアイシクル・タイガーの異常種アイスクエイク・タイガーがまだいたとしても、それ程不思議な事じゃない。
こないだの討伐戦でアイスクエイク・タイガー19匹、災害種のアバランシュ・ハウルも2匹倒してあるけど、スリュム・ロードは180年も眠っていたんだから、まだ数匹ぐらいはいると考えておくべきでしょうからね。
「僕達もいつまでもいられる訳じゃないから、後はトラレンシアのハンターに任せる事になるけど、少しぐらいは間引いておきたいな」
「その分私達の稼ぎになるしね。でもそれは、もうちょっと状況が落ち着いてからじゃないと無理よ」
「そうなんだけどね」
リオはトラレンシアの南にあるけど、セリャド火山は北になる。
獣車でも1週間はかかるから、調査って事になると往復で1ヶ月近くは見ておかないといけない。
クラテルからならそんなに掛からないけど、どっちにしても長期に渡る調査になるから、アライアンスが行くのは難しいわ。
「それにリベルターの戦況は、私達も聞いている。下手をしなくても、このままでは冬の間にリベルターは落ち、バリエンテやレティセンシアが狙われる事になるだろう」
「特にバリエンテは、君達がレオナスや反獣王組織を打倒したとはいえ、大きく戦力を落としている。今の戦力では、長くは持たないと思うよ」
エスペランサを襲撃したソレムネ艦隊や反獣王組織との戦いから6日程経ってるし、バシオンの複領もあるから、トラレンシアにもその事は伝えてある。
だからアライアンスが、バリエンテの現状を知っていてもおかしくはない。
そしてバリエンテは、アライアンスの言う通り大きく戦力を落としているから、今ソレムネに襲撃されたらひとたまりもないわ。
その理由は、獣王が組織した討伐隊にある。
ホーリナーの尋問の結果、東の王爵だったレインは、宰相で中央の王爵シュトレヒハイトと南の王爵ギルファの関与を認めている。
だから反逆者となった宰相シュトレヒハイトとギルファを討つために、獣王は討伐隊を組織し、シュトレヒハイトの治めているフライハイト王爵領に攻め入った。
シュトレヒハイトは討ち損ねたそうだけどギルファは討ち取ったそうだし、フライハイト王爵領とトライアル王爵領は王家直轄領として接収されているから、残っている王爵はネージュ姉様だけになる。
東のエスタイト王爵領はアミスターに併合されているけど、ソレムネの攻撃を受けた北のロッドピース、南のトライアルの復興もあるし、シュトレヒハイト達も自前の戦力を出して抵抗したそうだから、今ソレムネが攻めてきたりしたら、バリエンテはすぐに落ちる気がするわ。
セントロは内陸にあるから蒸気戦列艦の砲撃も届かないけど、乗り込んでいる軍人を派遣すれば事足りるでしょう。
「気になるのは、残っている蒸気戦列艦の数だね」
「そうね。エレクト海にオヴェスト王爵領、エスペランサで沈めた数を合わせると、100隻を超えているわ。なのにリベルターを攻めてるわけだから、ソレムネが用意した蒸気戦列艦の数は、最低でも200隻と考えておかないといけない気がする」
確かに同意だわ。
エレクト海で沈めた蒸気戦列艦は54隻、オヴェストでは20隻、エスペランサでは40隻沈めてあるから、合計で114隻って事になる。
だけどリベルターを攻めている戦列艦やロッドピースの事も考えると、200隻ぐらいは用意していてもおかしくはない。
大和が200人前後だと予想していた乗組員も、50人程度と思ってたより少なかったわね。
ソレムネ軍の総数がどれ程かはわからないけど、200隻の戦列艦があると仮定すると海軍だけで1万人って事になるから、陸軍も同程度の数がいると思ってもいいでしょう。
そう考えると海軍の戦力は半減って事になるけど、陸軍はほぼ無傷って事になるし、大砲は陸でも使えるそうだから、このまま放置しておくのも問題でしかない。
「面倒だが、バリエンテは王爵を討ち取ってるから、もう内乱の心配はないだろうし、リベルターを攻めてる戦列艦に注力した方が良いのか?」
「お兄様やヒルデ姉様とも話し合う必要があるけど、そうした方が良いでしょうね」
あたしも大和の意見に賛成。
それに蒸気戦列艦は1隻たりとも残しておく訳にはいかないから、出来ればリベルターに行っておきたい。
「そういえば大和さん、前にアバリシアは、蒸気戦列艦すら時代遅れの可能性があるって言ってましたけど、何故なんですか?」
リディアに言われて、あたしも思い出した。
確かに大和もサユリ様も、時代遅れだからこそソレムネに蒸気戦列艦の情報を流したんじゃないかって予想していたわ。
だから大和は、水流を利用した船の推進器を作るつもりになっているけど、あたしもその理由は知りたいわ。
「ああ、その話か。簡単だ、速度が出ないんだよ。あの蒸気戦列艦は調べさせてもらったけど、あの構造じゃ精々10ノット、時速20キロも出てないだろうな」
「え?そんなに遅いの?」
ルディアが驚いて聞き返してるけど、あたしも驚いたわ。
魔物が船を引いた場合でもその倍の速度は出るのに、蒸気戦列艦は時速20キロ程度って、すごい遅いじゃない。
あ、大和が言うノットっていう船の速度の単位だけど、そんなのはヘリオスオーブにはないわよ。
だから大和も、いちいち言い直してるの。
「ああ、いや。スクリュー推進だったから、もうちょい出るか。それでも時速30キロ程度だろうけど」
「それでも遅い事に変わりはないよ。いや、魔物が引かなくても進むっていうだけで、十分実用的だけど」
「そうね。じゃあアバリシアの船は、それより早いって事?」
シーザーさんもエルさんも、アバリシアの船の性能は気になるか。
「早いと思いますよ。さっき俺が思い出した推進方法なら、時速70キロ以上は出るはずだし」
「……は?」
「時速70キロって……え?早過ぎない?」
確かに早過ぎるわ。
魔物によって船を引く速度に違いはあるけど、最速でも時速50キロは超えなかったはず。
なのに大和が考えてる水流を利用した船は時速70キロ以上って、魔物が引く意味が見出せないくらいだわ。
「さらに船体や砲弾は
アバリシアのあるグラーディア大陸は、
大和の予想でしかないけど、それを聞くだけでもソレムネの蒸気戦列艦が遅れてるって言われても仕方がないわね。
「ああ、そうか。確かアバリシア神帝は、大和君と同じ
「ええ。さらに同じ刻印術師らしいですから、時代的にはサユリ様より、俺や真子さんに近いでしょう。蒸気戦列艦なんて物を知ってるぐらいだから、軍事関係者だっていう可能性もありますし」
また厄介ね。
分かってるだけでも大和よりレベルが高いエンシェントヒューマンで、剣状の刻印法具も生成でき、さらには魔化結晶まで取り込んで魔族と化しているから、あたし達エンシェントクラスでも太刀打ち出来ないってイデア教皇猊下、グランド・プリスターズマスターは仰っていたそうよ。
それだけでも厄介なのに、軍事関係者って事はその軍事知識を使ってアバリシアの兵器を強化・改良している可能性まであるんだから、侵攻を再開なんてされたら手古摺るなんて話じゃ済まないわ。
「でも、だからといって、ソレムネを放置する訳にはいかないわよ?」
「当然だな。むしろソレムネなんかがフィリアス大陸の覇権を握ったりなんかしたら、その時点でヘリオスオーブの滅亡が確定する」
それは間違いないわね。
大和がグランド・プリスターズマスター、そしてホムンクルスから聞いた話によると、まだ300年近く猶予はあるけど、神帝を倒さない限りヘリオスオーブの滅亡は防げない。
でも魔族っていう新たな種族を生み出したとはいえ、それだけで神帝がヘリオスオーブの滅亡に関わってるっていうのがよく分からないのよね。
「それは俺も分からないんだよな。だけどグランド・プリスターズマスターはそんな感じの神託を受けてるっぽいし、ホムンクルス達も似たような事を言ってるわけだから、まだ何か理由があるって事なんだろうな」
確かにグランド・プリスターズマスターもホムンクルス達も、誓約があるから全てを話してくれている訳じゃない。
あたし達の及びもつかない問題が隠されていても、おかしくはないわね。
「多分俺が知る為には、条件を満たした上でアリアに神託が下るって事だと思う。だからアリアが派遣されてるわけだしな」
「ああ、なんでプリスターがいるのかと思ったら、そういう事だったのね」
「話してませんでしたっけ?」
「初耳よ」
あたしも説明したとばかり思ってたわ。
別に隠す事じゃないし、ヘリオスオーブの滅亡に関わるんだからって事で、大和はアリアが派遣された経緯を、アライアンスのみんなに説明し出す。
「なるほど、初代教皇と同じく、か」
「な、なんですか?」
だけど説明が終わったら、何故かみんな、生温かい視線を大和に向けている。
まあ、気持ちは分からなくもないけどさ。
「いや、シンイチ様とルナリア様の逸話を見る限りじゃ、大和君とアリアちゃんも時間の問題なんじゃないかと思ってね」
「なんで!?」
実はあたし達も、そう思ってたりするのよね。
今現在、大和の妻はあたし、マナ、ミーナ、フラム、リカさんの5人、婚約者はユーリ、リディア、ルディア、アテナ、そしてヒルデ姉様の5人だけど、大和の妻は全部で12人らしいから、あと2人空きがある。
あたし達はその2人が、アリアと真子になるんじゃないかって予想しているのよ。
真子にとって大和は親友の息子って事になるからなのか、お姉さんぶってる所が見受けられるんだけど、同じ世界出身って事で話しかける事も多い。
アリアはまだ何とも言えないけど、神託があったとはいえ押しかけてくるぐらいだから、何かきっかけがあれば一気に行きそうね。
あたし達としては、出来るだけ早めに残り2人も決めてもらいたいんだけど、その2人がアリアと真子って事なら、特に文句はないわ。
だから大和、頑張ってよね?
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