エンシェントクラスの真価
Side・バウト
ハイオーダーやハイセイバーの助けも借りてアバランシュ・ハウルの足止めをしている俺達トライアル・ハーツだが、さすがに相手が悪いと言わざるを得ねえ。
ミラとユングは既に地面に伏せちまっているが、まだ僅かに動いているから、恐らくは生きてるだろう。
レアルは右腕を、俺も左腕を食い千切られちまってるし、ハイオーダーやハイセイバーだって何人も倒れてるから、マジでこれ以上は耐えられねえな。
だが俺達トライアル・ハーツに、撤退っていう文字はねえ。
罪滅ぼしの気持ちがないと言えば嘘になるが、アバランシュ・ハウルを食い止めるって言い出したのは俺達なんだから、大和達がスリュム・ロードを倒すまでは、何があっても、意地でも食い止めてやる。
「がっ!」
「レアル!」
利き腕を食われ、半ば戦力外になっちまったレアルが、アバランシュ・ハウルの前足の攻撃で吹き飛んだ。
爪の一撃こそ避けたようだが、前足でも十分過ぎる攻撃力があるに決まってるから、レアルは立ち上がれない。
生きててくれと願いつつ、俺はこれ以上レアルを狙わせないように、アバランシュ・ハウルに向かって剣を振るった。
「遅えよ!なっ……」
アバランシュ・ハウルには大した傷を与えられなかったが、それでも注意を引くことは出来た。
だがアバランシュ・ハウルには面白くなかったようで、俺に向かって牙を突き立ててきてやがる。
その牙を避けようと動いた俺だが、突然眩暈に襲われ、ふらついちまった。
しまった、血を失い過ぎたか……。
アバランシュ・ハウルの顔が近付いてくるが、えらくスローに見えやがる。
俺もここまでか……。
出来る事なら、もう一度陛下の隣で戦いたかったぜ……。
「バウト!」
「マナ……様?」
そんなことを思っていたら、スピカに乗ったマナ様が、物凄い勢いで突っ込んできた。
確かにスピカはウォー・ホースに進化しているが、それでもS-Rランクでしかない。
アバランシュ・ハウルはA-Cランクだから、その差は歴然だ。
なのになんで、アバランシュ・ハウルを吹き飛ばす事が出来るんだよ……。
「派手にやられたね。だけどあんた達は、立派に目的を果たしたよ」
「ファリス?どういう事だ?」
「信じられないと思うけど、私とマナ様は、ついさっきエンシェントクラスに進化したんだ。だから後は、私達が引き受けるよ」
「なん……だと?」
マナ様とファリスが、エンシェントクラスに進化した?
いや、確かに2人共Pランクに昇格してるし、レベルだって低い訳じゃねえ。
この戦いに生き残ることが出来たら、もしかしたら進化するかもしれねえとも思ってた。
だけどまさか、戦ってる最中に進化したってのか?
「話は後でするよ。あんたももう戦えないんだから、後は任せてくれ」
「悪ぃがそうさせてもらうぜ。ああ、全部終わったらでいいから、俺達も治してくれよ?」
「ああ、真子に伝えておくよ」
大和と同じ
確かにあの姉ちゃんなら、俺達の傷を治しても、魔力が尽きることはねえだろう。
俺とレアルの腕はアバランシュ・ハウルの腹ん中だから、こればっかりはどうにもできねえが。
ファリスの言葉に甘えて、思わずその場に座り込んじまった俺だが、2人共もエンシェントクラスに進化出来たってことなら、俺達みてえに一方的にやられるようなことはねえだろう。
尻拭いを任せるようで気が引けるが、もう俺達に戦う力は残ってねえしな。
あー、ダメだ。
血を失い過ぎて、もう起きてらんねえ。
悪いが少し寝かせてもらうぜ。
Side・マナ
プリムの援護を買って出た私とファリスは、プリムが倒したアバランシュ・ハウルとの戦闘で、それぞれエンシェントエルフ、エンシェントフェアリーに進化してしまった。
だけど今は戦闘中でもあるから、私達はプリムと分かれ、大急ぎでもう1匹のアバランシュ・ハウルと戦っているトライアル・ハーツの援護に向かった。
だけど私達が駆け付けた時には、ミラとユングが地に伏し、レアルも吹き飛ばされていた。
オーダーやセイバーも倒れていたし、バウトなんて頭から食べられる寸前だったわ。
間一髪でスピカとの
いえ、今は人の心配より、自分の心配だわ。
トライアル・ハーツやオーダー、セイバーは少数だったとはいえ、多くがハイクラス。
なのに僅かな時間で、壊滅的な被害を受けていたんだから。
「行くわよ、ルナ、シリウス、スピカ!」
私を背に乗せているウォー・ホースのスピカ、私の肩に乗っているカーバンクルのルナ、そして上空を飛んでいるアイス・ロックのシリウス。
私の大切な召喚獣達よ。
召喚獣達の魔力は、私の魔力でもある。
召喚魔法士は召喚獣の魔力も自分の物として使う事が出来るけど、その逆も然り。
私がエンシェントエルフに進化した事で、召喚獣達はそれぞれが1つ上のランクの魔力を持っていると言っても過言じゃない。
その召喚獣達の
「さすがに早い!だけど速さなら、スピカだって負けてないのよ!」
S-Rランクモンスターのスピカだけど、今のスピカはG-Rランク相当の魔力を持つ。
A-Cランクのアバランシュ・ハウルに比べると大した事はないんだけど、召喚魔法士の私から言わせたら、Gランク相当の魔物の魔力を使えるという事は、ある意味では進化よりも強い魔力を扱えるという事になる。
しかもウォー・ホースに進化したスピカは、
そのスピカは、自分より遥かに格上のアバランシュ・ハウルを相手にしても一歩も怯む事なく、攻撃を避け続けてくれている。
スピカが攻撃を避けてくれるから私は攻撃に専念出来るし、ルナだって
だから進化したばかりの私でも、アバランシュ・ハウルの猛攻を避ける事が出来るているのよ。
「せいっ!」
アバランシュ・ハウルが右前脚を振り下ろした直後に、私はスターリング・ディバイダーを振るう。
するとさっきのアバランシュ・ハウルには大した傷を付けられなかったはずの私の攻撃は、右前脚を斬り落としてしまった。
A-Cランクにここまで簡単に大ダメージを与えられるなんて、これがエンシェントクラスってことなのね。
「マナ様、感動するのは後にして下さい、よっ!」
そんな事を言いながら、ファリスが上空から斧を振り下ろした。
プリムが奏上した
最初は大変だったそうだけど、今じゃプリムみたいに自由自在に飛んでるから、戦闘の幅はかなり広がったって言ってたわ。
「あんまり時間を掛けると、トライアル・ハーツやオーダー、セイバーにも余計な被害が出るかもしれないんですから、一気に行きますよ!」
「分かってるわ!」
既にアイシクル・タイガーとフリーザス・タイガーは、ラウスとキャロル、そして獣車から援護射撃を行ってくれている弓術士が倒してくれているし、アイスクエイク・タイガーも残りは2匹。
その2匹も、1匹はアライアンスが、もう1匹はウイング・クレストが戦っているから、程なく終わるでしょう。
スリュム・ロードだって、プリムが参戦した事で、大和達が優勢になっているわ。
なんか既に倒れてる気もしなくはないけど、終焉種なんだから油断は禁物よね。
というか真子の背後に、何かあるんだけど?
水車とか風車とか、そんな感じの何かが。
「『グランド・サンダー・レイ』!」
フライングを使って空に上がったファリスが、切り札として作り出した
私も何度か見たことがあるけど、グランド・サンダー・レイには大幅な改良が施されている。
以前のグランド・サンダー・レイは、上空から無数の雷を落とす魔法だったんだけど、今は大和から教えてもらったライト・スフィアっていう魔法を組み込んだことで、上空どころか下方や側面からも無数の雷や光が舞い踊る、凶悪な
しかもリディアのグランダスト・ブリザードのように結界魔法も使っているから、結界の外に雷が飛ぶこともない。
光の玉から放たれる無数の稲妻は、右前脚を失い機動力を落としたアバランシュ・ハウルに避けられるような代物ではなく、ほとんど全てが命中している。
以前のグランド・サンダー・レイならアバランシュ・ハウルの皮や皮膚を貫くことは出来なかったけど、改良された今はしっかりと貫いて、アバランシュ・ハウルに大きなダメージを与えている。
「マナ様、どうぞ!」
「ええ!これで終わらせるわ!」
グランド・サンダー・レイを解除したファリスに譲られる形で、私はスターリング・ディバイダーと同じ要領で使う事が出来る新しい
グランド・サンダー・レイによって弱っていたアバランシュ・ハウルは避けることも出来ず、ゆっくりと倒れていった。
「まさか2人でA-Cランクモンスターを倒せるとは、さすがに思わなかったわ」
「同感ですけど、恐らくこれが、エンシェントクラスの本当の力ってことなんでしょう」
「どういうこと?」
アバランシュ・ハウルが息絶えたことを確認した私は、スリュム・ロードを倒してしまった大和達を見やりながらそんなことを呟いたんだけど、それにファリスが解答をくれた。
「恐らくとしか言えませんが、今までのエンシェントクラスは、ハイクラス以上に魔力に制限をかけなければなりませんでした。武器はもちろん、防具の問題もありますから」
「ええ。だから大和は合金の開発を行い、Mランクモンスターの素材を使っているわ」
「そこです。武器に関しては、
ファリスの言いたい事が分かってきた。
180年前にスリュム・ロードと戦った5人のエンシェントクラスは
だから
その結果、全体的に魔力を制限してしまっていたことになるから、エンシェントクラス本来の魔力を使いこなせてはいなかったんじゃないか、そういうことね?
「私の推測でしかありませんが、恐らくは。私もお土産として頂いたオーロラ・ドラグーンの革で防具を仕立てましたが、エンシェントフェアリーに進化した今でも、何の問題もなく使えていますからね」
「それは私もよ」
大和やプリムの魔力に、S-Rランクのウインガー・ドレイクじゃ耐えられないからってことで、ソルプレッサ迷宮でドラグーンを狩りまくったんだからね。
「ああ、つまりかつてのエンシェントクラス達は、高ランクモンスターの素材を使っていなかったことになるワケね?」
「それも推測でしかありませんけどね。ですが
その話は、私も聞いたことがある。
レティセンシアの迷宮氾濫で現れたA-Iランクモンスター ディザスト・ドラグーンを討伐する際、スリュム・ロードすら退けた5人のエンシェントクラスが集ったというのに有効的な攻撃を与える事は出来ず、Oランクオーダー ジャンヌ・キルシュリヒトが命を賭けて突破口を開いた事で、かろうじて討伐に成功したと記録が残っているわ。
その結果ジャンヌは命を落としてしまったけど、もしかしたらスリュム・ロードとの戦いで防具の限界を理解してしまったから、スリュム・ロードの時のような攻撃を繰り出せなくなっていたのかもしれない。
そこでディザスト・ドラグーンを手に入れる事が出来ていたら問題なかったと思うけど、強欲なレティセンシアが、魔石を含めて全て奪ってしまっているの。
しかも戦闘直後の疲弊した時に少数のレティセンシア部隊が援軍と称してやってきて、成果となるディザスト・ドラグーンや氾濫で出てきた高ランクモンスターを持っていってしまったから、他国からの心証は最悪で、それ以来レティセンシアに援軍を派遣する国はほとんどなくなっているわ。
「それに関しては、検証した方が良さそうね」
「ええ。ハイクラスどころかエンシェントクラスにも関わる問題ですし、何より進化してしまった私達にとっては、文字通り死活問題ですからね」
「全くだわ」
大和とプリムがたった2人で数々の異常種や災害種を倒せていたのも、これも理由の1つなのかもしれない。
まあそれを差し引いても、終焉種の単独討伐なんて真似は無理だと思うけどね。
だけどファリスの仮説は、私にとっても凄く興味深いものだし、他のみんなも進化する可能性は否定できないから、エド達に頼んで、一度しっかりと検証した方が良いわ。
「どうやら、全て終わったようですね」
「え?ああ、ホントだわ」
既に大和達も戻ってきてるから、やっぱりスリュム・ロードは倒せていたみたいね。
ヒルデ姉様の指示で、ヒーラー登録をしている者が忙しなく動いているけど、やっぱり命を落とした者は少なくない。
アバランシュ・ハウルを食い止めてくれていたトライアル・ハーツやオーダー、セイバーも、無事かどうかすら分からない。
だけど影の殊勲者だということは間違いないから、出来る事なら無事でいてもらいたいわ。
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