女王の覚悟

 アライアンスと共にベスティアに到着した翌朝、俺達は一度ベスティアを出てからアルカを経由し、ゴルド大氷河に隣接しセリャド火山を遠くに臨むクラテルの街に転移した。

 その際一度リオに飛んで、そっちからも援軍を派遣してもらっている。

 まあリオはソレムネに備えなきゃいけないから、第1分隊だけなんだが。

 さすがにアルジャン公爵は連れて来れないから、第2分隊の獣車に移動してもらって、さらにリオのことは第2分隊のファースト・オーダーに任せてきてあるぞ。


 クラテルの街にはヒルデガルド陛下も同行してるからあっさりと入れたんだが、スリュム・ロードが姿を見せたのは街の目前で、結界すら意味をなさなかったらしいから、街の雰囲気は沈み込み、恐怖に駆られて外を歩く人もまばらだ。

 たった一度姿を見せただけで、よくもまあここまでの影響力を発揮出来るもんだよ。


「昨日の事とはいえ、ここまでの影響が出ているなんて……」


 展望席からクラテルを見渡していたヒルデガルド陛下も、沈痛な表情を浮かべている。


 スリュム・ロードは、街の外で防衛準備を行っていたセイバーやオーダー数十人の前に下り立ち、一瞬でそれを壊滅させた。

 その後すぐに立ち去ったから死者は数人で済んだらしいが、それでも動けなくなる程の大怪我はもちろん、四肢欠損の重傷者も少なくなかった。

 今はクラテルのヒーラーズギルドで治療中との事だが、半数近くがハイクラスということもあって、治療は遅々として進んでいないとも聞いている。

 なので真子さんとキャロル、そしてリリー・ウィッシュのSランクハンターでハイフェアリーのスリザさんが治療を手伝うことが決まった。

 スリザさんはPランクヒーラーでもあるし、真子さんもPランクに昇格できてるからな。

 もちろんGランクヒーラーのユーリも手伝う予定だが、まだハイクラスに進化できてないから、他のヒーラーと一緒にサポートに徹してもらう予定だ。

 ヒーラーズギルドでヒーラーを降ろした後は、セイバーズギルドの詰所に向かう。

 派遣されたオーダーもそこにいるし、スリュム・ロード襲来時の詳しい話も聞く必要がある。


「ヒルデガルド陛下!?」


 詰所に到着し、ヒルデガルド陛下が獣車から降りると、すぐにセイバー達が跪いた。


「お立ちなさい。今はそのような事より、スリュム・ロードを何とかする事が重要です」

「はっ!」

「詳しい話を聞きます。セイバーズマスターを呼んで下さい」

「恐れながらセイバーズマスターは、スリュム・ロードが現れた際に負傷し、現在はヒーラーズギルドで治療中です」

「そうですか。ではサブ・セイバーズマスターは?」

「……サブ・セイバーズマスターは亡くなられました」

「……そうですか。では状況の分かる者を寄越してください。それとオーダーからも」

「はっ!」


 勝手知ったるようで、ヒルデガルド陛下は俺達を伴って詰所に入っていった。

 ウイング・クレストからは俺とプリム、マナ、オーダーからはレックスさん、ローズマリーさん、ミューズさん、アライアンスからはリーダーのファリスさんとクリフさん、各レイドリーダーだ。


「失礼致します。セイバーズマスター、サブ・セイバーズマスターに代わって現在セイバーを纏めている第一妖騎隊Gランクセイバー、アルベルト・リオスクードです」

「オーダーズギルド・トラレンシア派遣部隊第7分隊ファースト・オーダー、デルフィナ・ヴィアベルと申します」


 大広間で待つこと数分、セイバーズマスターが負傷し、サブ・セイバーズマスターが亡くなったセイバーズギルドを代わりに纏めている第一妖騎隊Gランクセイバーの男性ハイヒューマン アルベルトさんと、第7派遣分隊のファースト・オーダーを務めている女性ハイオーガのデルフィナさんがやってきた。

 だけど俺の記憶が確かなら、確か第6派遣分隊のファースト・オーダーが、ここのオーダーを纏めてたんじゃなかったっけかな?

 あ、ファースト・オーダーっていうのは部隊長のことで、今回の場合は試作獣車の2号車から10号車の指揮官を指しているぞ。


「ご苦労様です。デルフィナ卿、第6分隊のファースト・オーダーはどうされたのですか?」

「先日スリュム・ロードと対峙した際、落命致しました」


 マジか。

 オーダーズギルドからも何人か死者が出たとは聞いてるが、ファースト・オーダーまで亡くなってたのかよ。

 他にも亡くなったのは、セイバーが8人、ハンターが3人、そしてオーダーが6人だが、その内ハイクラスは8人もいたらしい。

 だが死者が出たことも問題だが、それ以上に問題になってるのが重傷者だ。

 なにせ防衛準備を整えていたセイバー、ハンター、オーダー総勢70人超が大なり小なり傷を負わされ、四肢を失った者も半数以上に上るってことだから、普通に大惨事だ。

 しかも何人かは腕や足を食われたそうだから、完治させるためにはエクストラ・ヒーリングを使うしかない。


 180年前の討伐戦でもエンシェントクラスやハイクラスは腕か足を奪われたし、エリエール様なんて右腕と左足を食われているが、その時は回復魔法エクストラ・ヒーリングで完治させることが出来た。


 だけど今はヒーラーズギルドが設立されてしまっているため、エクストラ・ヒーリングは回復魔法から分離して治癒魔法ヒーラーズマジックに分類されてしまっている。

 しかもエクストラ・ヒーリングはAランクヒーラーに昇格しないと使えないから、180年前より使い手は減っているというおまけ付きだ。

 ヒーラーズマスターになるためにはAランクヒーラーに昇格していることが絶対条件ではあるが、ハイヒーラーも数は少ないから、全員を完治させるのにどれぐらい日数がかかるかは全く分からない。


「彼らの治療は、ひとまず置いておきましょう。悪いとは思うけど、四肢を失った状態でも命に別状はないんだから、しばらくは安静にさせて、終わってからお兄様に掛け合ってみるわ」


 確かにマナの言う通り、それしかないか。


 ヒーラーズギルドがトラレンシアに進出したのは、今から30年程前になる。

 だからトラレンシアにもヒーラーは少なくないんだが、ハイヒーラーは数人しかいないそうだ。

 しかもそのハイヒーラーはベスティアとリオに集中していて、クラテルにはいない。

 だから治療を行おうと思ったら、ベスティアかリオに送るか、もしくはクラテルまでハイヒーラーを連れてくるしかないんだが、スリュム・ロードが姿を見せたクラテルに連れてくることは難しいし、逆にそっちまで送るにしても、陸路じゃスリュム・ロードに狙い撃ちされるのが目に見えてる。

 そうなると残る手段はアルカを経由するかスリュム・ロードを倒すかだが、アルカを経由するにしても、一度クラテルの外に出なきゃならないから、そこを狙われたりしたら面倒な事になる。

 つまり一番手っ取り早い手段は、スリュム・ロードを倒す事になるだろう。


「そういうことになるね。撤退させても遺恨を残すことになるから、出来る事なら討伐しておきたい」

「そうね。でも私達の手には余る問題でもあるから、遺憾ではあるけど、主力はエンシェントクラスの3人になるわ」


 アルベルトさんとデルフィナさんの話を纏めたファリスさんとエルさんが、俺とプリムを見やりながら口を開いた。


「そうだね。その代わりという訳じゃないけど、アイスクエイク・タイガーは任せてほしい。僕は迷宮ダンジョンで戦ったことがあるから、アイスクエイク・タイガーの事はそれなりに知っている。だから言えるけど、今の僕達なら、数人で掛かれば1匹を仕留められるだろう」


 シーザーさんはアイスクエイク・タイガーと戦闘経験があったのか。

 だけど経験者の談だし、その言葉は俺達としても心強い。


「フリーザス・タイガーやアイシクル・タイガーもそうだけど、問題はどれ程の数で来るか分からないことだね」

「そうだな。しかもスリュム・ロードは飛べるんだから、偵察だってままならねえ」


 それも問題なんだよな。

 これが災害種とかだったら俺やプリムが空から偵察すればいいんだが、終焉種がいるのに偵察なんて、自殺行為でしかない。

 なにせ終焉種は翼を持ってるから飛べるし、魔法だって普通に広範囲に被害を及ぼす規模で使えるんだからな。

 同じ終焉種のオーク・エンペラーとオーク・エンプレスは飛べなかったが、そいつらは進化して間もない個体だから、背中の翼に慣れてなかったんだろうってことで一応の決着はついている。


「凡その目安としては、やはり180年前でしょうね」


 リリー・ウィッシュのリーダーでハイラビトリーの女性Gランクハンター サヤさんが、一つの目安として、180年前の襲撃を考慮すべきだと提案する。

 確か180年前は、スリュム・ロードとアイスクエイク・タイガー以外にフリーザス・タイガーが8匹、アイシクル・タイガーも23匹群れてたはずだ。

 俺の記憶だと虎は群れないはずなんだが、それは地球の虎の話であって、ヘリオスオーブの虎は普通に群れで生活しているらしい。

 だからスリュム・ロードは群れの長でもあり、他のタイガー種は配下ってことになる。


「その程度の数なら、今の私達なら問題ないと思う。だけど過信は禁物だし、何より数が増えないとは言い切れないから、数はその倍を想定していてもいいと思うよ」


 ファリスさんに同意だ。

 終焉種は異常種を増やす事が出来ると言われているし、前回の襲撃から180年も経ってるんだから、アイスクエイク・タイガーの数は確実に増えてると考えておく必要がある。

 力を回復させるために眠ってたんだから年1で増やしてたわけじゃないと思うが、それでも10匹前後は覚悟しておかないとだな。


「そうだな。だが何匹いようと、私達のやることは変わらない。セイバーズギルドやオーダーズギルド、そして私達が連携する必要があるけど、、恐らくいけると思う」

「問題は、やっぱりアバランシュ・ハウルだね」


 それが最大の問題か。

 俺とプリム、真子さんの3人は、スリュム・ロードを受け持つことになっている。

 真子さんはスリュム・ロードが狡猾な性格だと予想したし、180年前の敗北で学んだ事もあるだろうから、その可能性は否定できない。

 だから自分が窮地に陥れば、高い確率で逃走することも予想されている。

 もちろん逃がすつもりはないが、もしアバランシュ・ハウルが1匹でもいたら、俺達もそちらに気を取られる可能性があるから、逃がしてしまう可能性は十分にあり得てしまう。

 先にアバランシュ・ハウルを倒すのも手なんだが、A-Cランクモンスターが相手だと、俺達だって大きな隙を晒すことになるから、その隙を突かれることになるだろうしな。

 だからスリュム・ロードとアバランシュ・ハウルを同時に相手取るのは、俺達でもキツいと言わざるを得ない。

 じゃあ誰が止めるんだって話になるんだが、誰もいない。


「もしアバランシュ・ハウルがいたら、俺達が止める」


 俺達の誰もがそう思っていたら、バウトさんが名乗り出た。


「いいのかい?いくらトライアル・ハーツでも、A-Cランクが相手じゃ長くは持たないだろう?」

「もしかしてバウト君、罪滅ぼしのつもりかい?」

「まさか。罪滅ぼしって訳じゃねえし、英雄願望や自殺願望があるわけでもねえ。それでもこれは、俺達がやるべきだと思うんだよ」


 上手く言葉に出来ないが、と続いたが、罪滅ぼしって訳じゃないのか。

 だけどトライアル・ハーツは、全員がバウトさんと同じ気持ちのようで、覚悟を決めた表情をしている。


「あなた達もいいの?」

「ええ」

「相手が相手だから、もしかしたら死ぬかもしれないけど、そんなことはハンターをやってるんだから、いつだって覚悟は出来てるわよ」

「それに何て言うか、ここでスリュム・ロードにアバランシュ・ハウルを倒しておけば、トラレンシアだってソレムネの相手に集中できるし、景気付けにもなるだろ。俺達がその礎になるってのも悪くねえよ」


 ミラさん、ユングさん、ソウルさんが口角を上げ、不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。


「分かった。じゃあもしアバランシュ・ハウルが出てきたら、トライアル・ハーツに任せるよ。だけど倒す必要はない。他力本願になるけど、スリュム・ロードを倒せたら大和君達も参戦できるようになる。それまでは時間稼ぎに徹してくれ」

「そのつもりだよ。いくらなんでもA-Cランク相手に、俺達の攻撃が通用するなんて思っちゃいねえ」

「彼らの実力は、私達も良く知っているからな」


 もしアバランシュ・ハウルがいたら、トライアル・ハーツが受け持つことになっちまったか。

 もちろん誰かがやらなきゃならない事なんだが、それでもトライアル・ハーツがってのは、ちょっと予想外だったな。


「では残る問題は、いつスリュム・ロードが群れを率いてやって来るか、になりますね」

「そうだな。セリャド火山からクラテルまでは、獣車でも2日は掛かる。だがスリュム・ロードやタイガー種なら、1日もあれば到達出来ると考えておくべきだ」

「そうね。確か昨日の襲撃はお昼過ぎだったはずだから、そこから動き出したと仮定すると、早ければ今日の夕方、遅くても明日のお昼までには来るってことかしらね」


 確かに誰が何を受け持つかより、いつ来るかの方が重要度は高いか。

 なにせ奇襲を受けたりなんかしたら、せっかくの作戦が水の泡になる可能性だってあるんだから、いつ頃来るかっていう予想は真っ先に考えておいて然るべきだ。


「夜半の襲撃も考慮しておく必要があるけど、エンシェントクラスはもちろんハイクラスだって主戦力になるんだから、ここはノーマルクラスのみんなに夜番をしてもらうしかないか」

「そうだね。ノーマルクラスだから戦えないって訳じゃないけど、さすがに今回は荷が重すぎる。ハンターだけじゃなくセイバーの協力も必要だけど、それは構わないかな?」

「もちろんです。相手が相手ですし、先日の襲撃では、ハイクラスですらスリュム・ロードの威容に身が竦み、ロクに動けなかった者もいましたから」


 高ランクモンスターと相対した場合、ハイハンターやハイオーダーでも瞬時に自分の死を悟る。

 実際にマイライトで終焉種と相対することになったホーリー・グレイブやハイオーダーは、最初は終焉種だとは分からなかったそうだが、生きて帰れないってことを直感的に理解し、特攻を仕掛けようとまで考えていたと聞いた。

 グレイシャス・リンクスやファルコンズ・ビーク、ブラック・アーミーも、イスタント迷宮の守護者ガーディアンミスリル・コロッサスを見た瞬間、同じ事を思ったそうだ。

 だからノーマルクラスのみんながスリュム・ロードの姿を見てしまえば、それだけで戦意どころか意識まで喪失してしまう可能性は否定できない。

 だから申し訳ないが夜番に立ってもらい、襲撃があるかを警戒してもらおうってことか。


「大和君、そこは気にする所じゃないよ」

「そうだな。むしろあいつらにも出来る事があることになるから、嫌がるような奴はいないだろう」


 なんか心を読まれたぞ。


「気にする所じゃないって、夜番を申し訳なく思うことがですか?」

「そうだね。バウト君も言ったけど、ノーマルクラスのみんなにも、出来る事があるということになるからね。もちろん納得できない者もいるだろうけど、だからって終焉種の前に立てるかと聞かれたら、絶対に無理だという答えが返ってくる。戦えない上に夜番も出来ないとなれば、それはもう役立たずと言うしかないだろう?」

「厳しいように聞こえるかもしれないが、戦うだけがハンターの仕事じゃない。後方支援だって、重要な仕事なんだ」

「もちろんハンターだけではなく、オーダーやセイバーもね。君のその気持ちはありがたいと思う。だけど決断を下さなければならない場合には、邪魔になることだってあるんだ」


 シーザーさん、スレイさん、デルフィナさんが、俺を諭してくれる。


「無礼を承知で申し上げさせて頂きますと、ヒルデガルド陛下もこのような事態に、我らの身を案じて頂く必要はございません。我らセイバーはもちろん、救援に来て下さったオーダーも、いつでも死ぬ覚悟は出来ているのです。私などが申し上げずともご存知かと思いますが、陛下はお優しすぎます。相手が終焉種であれ、我らは国のために一命を賭す所存なのですから」


 アルベルトさんも、ヒルデガルド陛下に諫言しちまった。

 ヒルデガルド陛下はこの話し合いにほとんど参加していなかったが、アルベルトさんは死んだセイバーやオーダー、ハンターに思いを馳せていたからだと断じた。

 それは個人としては嬉しいしありがたいが、国を治める者としては不適格に近い。

 絶対に悪いって訳じゃないんだが、為政者だからこそ非情な決断を下す必要がある。

 今回がまさにそれで、命を賭ける覚悟を決めているセイバーの身を案じてばかりではなく、笑って送り出してくれとアルベルトさんは言っている。


「アルベルト……」

「分不相応な真似を致しました」

「いえ、あなたの諫言は、わたくしにとっても非常に大きな意味があります。ですがわたくしが非情に徹しきれるかは……。いえ、女王だからこそ、やらねばならないのですね」


 目を瞑り、アルベルトさんの言葉を反芻するヒルデガルド陛下。

 やがて目を開くと、陛下はしっかりとアルベルトさんを見据え、力強く言葉を紡いだ。


「アルベルト、改めてセイバーズギルドに命じます。アライアンスと協力し、スリュム・ロード討伐に参加しなさい。また万が一アバランシュ・ハウルまでもが現れた場合は、トライアル・ハーツばかりに任せてはなりません。ですが、無駄に命を散らす事も許しません。あなた方には、まだまだやってもらいたい事があるのですから」

「はっ!」

「そしてレックス卿、デルフィナ卿、オーダーズギルドもセイバーズギルドやアライアンスと連携し、事態に当たって下さいますよう、お願い申し上げます。相手は終焉種スリュム・ロードですから、命の保証は出来ません。ですが我が国のために、その力をお貸しください」

「ヒルデガルド陛下の御下命、承りました!」

「オーダーズギルドの誇りに懸けて、必ずやこの国を守る事を誓います!」


 アルベルトさんとレックスさん、デルフィナさんは、ヒルデガルド陛下の命令に力強く答え、ローズマリーさんとミューズさんも最敬礼で応えた。

 セイバーズギルドは当然だが、オーダーズギルドもトラレンシアを守るために派遣されている。

 だから途中で命を落とす事になろうと、それでも本望だってことなのか。


「そしてアライアンスの皆様、改めてご依頼させて頂きます。依頼内容は終焉種スリュム・ロードの討伐。生死は問いませんが、可能ならば死に至らしめて頂きたく思います。報酬に関しては先日お話したようにハンターズギルドの規定に従うことになってしまいますが、妖王家からも追加でご用意させて頂くつもりです。アミスターに名高きハンターズレイドのお力を、我が国にお貸しください」

「お任せください、陛下」


 そしてアライアンスにも、昨日とは打って変わって力強い言葉で依頼内容を告げる。

 こんなすぐに変われるわけじゃないだろうから、虚勢の部分も大きいんじゃないかと思うが、それでもすぐに実践できるだけで凄いな。


「大和様」

「はい?」

「ヘリオスオーブで唯一のAランクハンターであり、Oランクオーダーでもあるあなた様のお力も、我が国を救うために、私にお貸しください」

「勿論です。死に損ないの虎ごとき、速攻で退治してみせますよ」


 ちょっと格好つけ過ぎな気もするが、気分も乗ってるし士気も上がってきてるから、これぐらいな大きく出た方がいいだろう。

 後ろの奥様方の視線が怖いから、そっちの方は見ないようにしないといけないが。

 いや、怒ってるっていうより呆れてる気がしなくもないんだが、俺、何かやらかした?


「こういうことなのか」

「こんな雰囲気だから仕方ない気もするけど、これは決まりじゃないかしら?」

「でしょうね。あたしとしては歓迎する気持ちもあるんだけど、さすがにこれは面倒よ?」

「同感ね。とはいえすぐってワケでもないんだから、しっかり対応を考えておきましょう」


 なんかプリムとマナが密談してる気がするが、何の話かマジで分かんねえ。

 いや、そりゃスリュム・ロードの討伐なんて、簡単じゃないのは分かってるよ。

 だけど少しぐらい大きく出ないと、雰囲気ブチ壊しでしょ?

 そういうことじゃない?

 ならどういうことなわけ?

 マジで誰か教えてくれ!

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