オーダーの派遣先
Side・レックス
アルカと呼ばれる天空島に転移し、日ノ本屋敷と呼ばれる大和君や真子さんの世界の伝統的な屋敷で一息ついた後、私とローズマリー、ミューズは、大和君、プリムさん、マナリース殿下、そして真子さんと共に、トラレンシア妖王国妖都ベスティアに向かった。
「ヒルデガルド陛下に置かれましては、ご機嫌麗しく。Aランクオーダー レックス・フォールハイト以下3名、アミスター王国国王ラインハルト陛下の命により、参上致しました」
「よくいらしてくださいました。歓迎致します、
白妖城の謁見の間でヒルデガルド・ミナト・トラレンシア陛下と謁見し、簡単な挨拶を行う。
今回も正式な来訪ではあるが、同時に先触れでもある。
オーダーは私達3名を含めて488名、アルジャン公爵とバトラー3名を含めても492名と500名に届かない。
ハイクラスは150名程いるが、これ以上トラレンシアに戦力を割くことは難しいため、ノーマルクラスも含めて腕利きが選ばれている。
ソレムネの蒸気戦列艦という新兵器はフロートで全員が確認しているが、我々でもどこまで出来るかは分からない。
幸いなことに、プリムさんと真子さんが新たに奏上された新魔法フライングとスカファルディングがあり、我々も慣熟訓練を行っているから、何も出来ずに敗北というような醜態を晒すことはないだろう。
「此度の援軍、誠に感謝致します。セイバーズギルドも勇名高きオーダーズギルドと、さらに若き
「若輩者の私には過分な評価かと存じますが、その名に恥じぬよう、精一杯務めさせて頂います」
本来ならばグランド・オーダーズマスター トールマン様かアソシエイト・オーダーズマスターである父がジェネラル・オーダーとなるべきなのだが、アライアンスの功績によって
だから私がジェネラル・オーダーとしてトラレンシアに派遣される事は、ラインハルト陛下がトラレンシアから戻られたその日に決まってしまったと聞いている。
新婚ということもあって、妻のローズマリーとミューズの同行が認められた事が唯一の救いと言えるかもしれない。
「ウイング・クレスト様方も、ようこそお越し下さいました。アミスターに名高いハンターレイドによるアライアンスを組織できたと伺っていますが、我が国のために多大なる労を取っていただき、感謝申し上げます」
「恐れ入ります。此度の件はトラレンシアだけではなく、我が国にも多大なる被害をもたらすでしょう。ですが隣国の問題があるため、少数の援軍を派遣することしか出来ない不甲斐なさを、この場で謝罪させて頂きます」
ウイング・クレストのリーダーは大和君だが、彼はこのようなやり取りに慣れていないため、マナリース殿下が代わって答えられている。
本来ならばレイドリーダー以外の者が口を開く事は不敬だと取られてしまうのだが、それがマナリース殿下となれば話は別だ。
なにせマナリース殿下はアミスターの第二王女殿下であり、多忙なラインハルト陛下の名代としてこの場に来られているのだから、不敬だと口を挟む事など出来る訳がないし、仮に口を挟む者がいれば、それはアミスターに対する不敬となる。
その後、二言三言言葉を交わしたヒルデガルド陛下とマナリース殿下だが、詳細な打ち合わせを行うため、場所を移すことになった。
私は白妖城にある会議室だと思っていたのだが、案内された場所は驚いたことに白妖城の隣、結界と絶壁に覆われ、立ち入るためには白妖城から伸びている橋を渡ることしかない小島
ここに住まう事が出来るのは当代女王と王配、そして王子や王女のみであり、女王の兄弟姉妹は白妖城内に部屋を用意されていると伺った。
晩餐会等は白妖城で行われるため、
それ故に招かれる者は非常に少ないのだが、まさか私がその招かれる者になるとは思わなかった。
「狭い屋敷ですが、ご自分の邸宅だと思い、ごゆっくりお寛ぎください」
「ここも久しぶりね」
「本当にね。変わってないわぁ」
「眺めも良いし、綺麗な景色だわ」
だがマナリース殿下、プリムさん、そして真子さんは、本当に自宅のように寛いでいる。
マナリース殿下とプリムさんは理解できなくもないが、真子さんは順応性が高すぎないだろうか?
「大和様も、どうぞお掛け下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」
大和君は大和君で、ヒルデガルド陛下に椅子を引いてもらっている。
何を言っても藪蛇にしかならなさそうだが、私達は余暇でここに来た訳ではない。
見ればグランド・セイバーズマスター ブレザー卿も私と同じようで、右手で頭を抱えて大きな溜息を吐いている。
「陛下、申し訳ありませんが、ご歓談は打ち合わせが終わってからお願い致します」
「え?あ、ああ!も、申し訳ありません!つい……。きゃっ!」
「うおっ!」
宰相のエルバ卿が額に青筋を浮かべながら、爽やかな笑みを浮かべてヒルデガルド陛下に声を掛ける。
あれは相当怖いな。
「ごめんなさい。私達も懐かしくて、つい……」
「す、すいません……」
ありがとうございます、エルバ卿。
そして大和君、君は何をしているんだ?
「大和くぅん?君は何をしているのかなぁ?」
「落ち着いてくださいプリムさん。僕にも何が何だかよく分かりません」
滝のような冷や汗を流している大和君だが、エルバ卿に叱られたヒルデガルド陛下が思いっきりしがみつき、その反動で大和君が押し倒したような形になってしまっているのだから、プリムさんだって怒るだろう。
笑っているのに笑っていない笑顔を、エンシェントフォクシーの圧力と同時に浴びせられるなど、私ではそのまま気を失ってしまいそうな光景だな。
「あの……大和様?わたくしはいつでも構わないのですが、さすがにこのような場所では……」
「いや、だから陛下も何を口走ってるんですかねぇ!?」
「へ~ぇ、そうなんだぁ、大和ぉ?」
「だから俺は知らないっての!」
マナリース殿下もプリムさんの横に加わっているが、ヒルデガルド陛下は絶賛混乱中のご様子だ。
というかこの場にいる男は私と大和君だけだから、私まで居たたまれない気持ちになってくる。
本音を言えばこの場から逃げ出したいが、トラレンシアに来た理由を考えればそんなことは出来ない。
ブレザー卿は肩を震わせて笑いを堪えているが、エルバ卿の額の青筋は先程より大きくなっているから、そろそろ雷が落ちるな、これは。
見れば真子さんも、大きな溜息を吐いて、何か覚悟を決めたような顔をしている。
「皆様、この場に何をしに来られたのか、もう一度よく思い出して頂けますか?」
「話が進まないから、いい加減にしようか?」
「「は、はい!」」
「「ご、ごめんなさい!」」
エルバ卿と真子さんの静かなる怒りの前に、エンシェントクラス2人と王族2人が屈した瞬間だった。
Side・ヒルデガルド
はぁ~……。
もう溜息しか出ません。
混乱していたとはいえ、わたくしは何という事を口走ってしまったのでしょうか……。
いえ、確かに大和様でしたら、わたくしはいつでも受け入れる覚悟が出来ています。
ですが時と場合を考えなければなりませんし、まさに今はそのような場合ではありませんから、宰相のエルバに纏めて叱られることで猛省し、改めて気を引き締めねばなりません。
「先程は我が国の陛下が、大変無礼を致しました」
「こちらこそ、うちのリーダーやお姫様達が、本当に失礼を致しました」
ですがそんなわたくしの決意を嘲笑うかのように、エルバと真子さんが謝罪を繰り返しています。
「あ、あの……エルバ?」
「陛下は少しお黙り下さい」
「あ、は、はい」
確かにわたくしの無礼が原因ではありますが、だからと言って言葉を遮らなくても良いんじゃないでしょうか?
「真子さん、もうその辺で……」
「今の君に発言権があるとでも?」
「ですよね、すいませんでした!」
大和様に至っては床の上に正座させられており、真子さんの冷たい視線で即座に頭を下げられました。
わたくしとマナ、プリムはまだ椅子に座らせてもらっているのですが、それでも真子さんの視線には戦慄せざるを得ません。
「ともかくエルバさん、今回の事は、お互いに無かったことに、ということでどうですか?」
「賛成します」
どうやら真子さんとエルバの間で、なにかしらの条約が締結されたようです。
「それにしても、真子様は利発でいらっしゃいますね。是非とも私の息子に嫁いで頂きたいぐらいです」
「申し訳ないですけど、まだヘリオスオーブに来たばかりですから、自分の事で精一杯なんですよ」
「分かっています。もちろん本音ではありますが、それでも
何やらエルバと真子さんが意気投合されています。
わたくしとしては好ましいと思えるのですが、
真子さんが望んで下されば別ですが、そうでなければわたくしとしても認められません。
「ともかく陛下、この場は派遣されてくるオーダーズギルドのベスティアでの滞在地、派遣予定地の確認のために設けられているのです。先程のような態度は、終わってからにしてください。そうであれば大和様と子作りをしようと、私はお止め致しません」
あ、終わったら構わないのですね?
では急いで終わらせて……ではなくて!
「エルバ、大和の妻である私とプリムがいるのに、随分と思い切ったことを口にするわね?」
「そうは申されましても、陛下の態度を見ていれば、大和様の事をどう思っているかなど、亜人にでも分かるというものです」
「それは否定しないけど、さすがに言い過ぎじゃない?」
「この数週間、時折空を見つめてはにやけた笑みを浮かべ、寝言で大和様の名を呟くことまであるのですから、これで分からなければ一度死んだ方が良いと思いますが?」
お待ちなさい!
何故エルバが、わたくしの寝言を知っているのですか!?
「
わたくしは思わず、両手で顔を覆ってしまいました。
顔から火が出そう、という表現は聞いたことがありましたが、まさにこのような状況のことなのですね。
ものすごく顔が熱いです。
「そのお話は後にしません?グランド・セイバーズマスターやジェネラル・オーダーが、何を言ったらいいのか分からないって顔してますから。特にジェネラル・オーダーは男性ですから、あまりこの手の話には慣れていないでしょうし」
「仰る通りですね」
確かにジェネラル・オーダーオーダー レックス卿は、何とも言えない顔をしています。
ジェネラル・オーダー補佐のハイオーガはお2人ともレックス卿の奥様と伺っていますが、同時に新婚でもあるそうですから、迂闊な真似は夫婦生活に水を差す事になるでしょう。
恐らくわたくしの失言も聞かなかった事にしているのではと思いますが、わたくしとしましても切にそう願います。
気を取り直して、改めて全員が着席し、ようやく会議が始まりました。
「オーダーに滞在していただく施設は、申し訳ありませんがセイバーズギルドの練兵場の一角になります。仮設ではありますが、500名程の騎士が寝泊まりできる宿舎もありますので、ご自由にお使いください」
仮設宿舎はカズシ様の奥様のお1人でエリエール様の同妻でもあられるユカリ様が、トラレンシアを建国する際に提案された物です。
規格を画一化することで作業効率を上げていますが、そのためにどの部屋も同じ大きさ、同じ内装となっており、貴人の宿泊には不向きです。
ですがコストは抑えられますし、あくまでも仮設なのですから、緊急時や災害時には手早く建てられます。
しかもユカリ様は、再利用しやすいように、解体時の事まで考えて設計なさっておられますから、普段は専用のストレージバッグに収めておけますし、保管場所も取りませんから、トラレンシアはもちろんアミスターでも、仮設住居はいつでも建てられるようになっています。
今回用意した仮説宿舎は、セイバーの臨時拠点用に設計された物になります。
さすがに個室は用意できませんでしたし、レックス卿のような指揮官や相談役というアルジャン公爵には白妖城の一室で過ごして頂くことになります。
「ご配慮、感謝致します」
「じゃあ姉様、トラレンシア側の準備は整っているのね?」
「はい。寝所は仮設宿舎になってしまうことが申し訳ありませんが、いつお越し頂いても問題ありません」
「それじゃあお言葉に甘えて、明日のお昼過ぎには、こちらに連れてくることにするわ」
「ええ、お待ちしています」
500名にも満たない数ではありますが、わたくし達としては非常に助かります。
ハイオーダーも150名程おられるとのことですが、この数はセイバーズギルドの3分の1に届きますし、わたくしも乗せて頂いたことのある獣車も用意されたと伺いましたから、本当に心強いです。
なにせ先の侵攻で、エレクト海から出陣したはずのセイバーズギルドの船は、1隻を残して沈められておりますし、犠牲者もハイセイバーを含めて、かなりの数に上っていますから。
「派遣先ですが、ベスティア、クラテル、リオを予定しております」
そのオーダーの派遣先ですが、妖都であるベスティアでは治安維持に、ゴルド大氷河に最も近いクラテルの町ではスリュム・ロードの監視に、そしてエレクト海を臨み、ソレムネに最も近いリオの町では、ソレムネの侵攻に備えて頂くことになります。
10台の獣車に分乗しているとのことですから、ベスティアに2部隊、クラテルに3部隊、リオに5部隊の派遣を考えているのですが、正直クラテルへの派遣に関しては、申し訳ないと思います。
「そのクラテルだけど、スリュム・ロードは確認されてるの?」
「いえ、相も変わらずです。無警戒という訳にはいきませんが、そちらのセイバーズギルドも何割かリオに移動させますので、申し訳ありませんがオーダーには、セイバーズギルドの穴埋めを行って頂く形になるかと」
エルバの言う通り終焉種スリュム・ロードは、180年程前の戦いを最後に、その姿を見た者は誰もいません。
その戦いで致命傷に近い傷を負ったとされていますが、生きているのか死んでいるのかも分かりません。
ですが生きている可能性があるというだけで、セリャド火山の警戒を疎かにするわけにはいかないのです。
万が一スリュム・ロードが現れれば、クラテルの町は一瞬で滅んでしまうでしょうし、下手をすればトラレンシアという国そのものが多大なる被害を被ることになるのですから。
「それも当初のお話通りですから、こちらに異存はありません」
「確かにね。3隊しか派遣出来ない事が、逆に申し訳なくなるわ」
「いえ、我々としては、十分以上の支援となります」
クラテルの町に派遣される予定のオーダーは、ハイクラスが多めに配備されていると伺っています。
もちろんソレムネに対しての警戒を疎かにするわけではありませんが、ある意味ではスリュム・ロードは、ソレムネ以上に警戒をしなければならない魔物ですから、オーダーズギルドもその点を配慮して下さったのでしょう。
「そしてリオの町ですが、こちらはソレムネとの海戦が主体になると思われます。いつもでしたらこの時期はそこまで警戒する必要はなかったのですが、蒸気戦列艦という兵器が開発されてしまった以上、いつも以上に警戒態勢を布く必要があり、ベスティアだけではなく他の街からもセイバーを派遣し、警戒に当たらせています」
今回の派遣が叶った最大の問題は、ソレムネが開発した蒸気戦列艦の存在です。
今は冬ですから助かりましたが、もしあの艦隊が春や夏に出航していたらと考えると、背筋が氷ります。
この時期に艦隊を動かした理由は、どこまで海氷を溶かすことが出来るのかという実験も兼ねていたと思いますが、もし春や夏でしたらトラレンシアは成す術もなく敗れ、国土を奪われていたでしょう。
「そちらもご安心ください。我がオーダーズギルドは雪上戦闘はお手の物ですから、リオの街周囲の魔物でしたら、労せず相手に出来るでしょう。氷上戦闘は未経験の者も多いですが、奏上された新魔法もありますから、そこまで苦にはならないかと」
フライングとスカファルディングですね。
蒸気戦列艦を開発したのは、
ですがそのせいで魔導具の流通数が激減し、国内が混乱しても帝王は徹底的に弾圧し、魔法に頼らない国を作り上げたのですから、その手腕は為政者としては一流と言えるかもしれません。
もちろん他国を侵略した際に略奪したり、スパイを派遣して破壊工作を行わせたりもしていますから、わたくしは決して認めませんが。
海氷が溶け出すと同時にそのソレムネに出航し、帝王家を討つことも考えられていますが、その時期はアミスターの雪解けと重なってしまいます。
ですからその点をどうするかは、また煮詰めなければなりません。
何か良い手があると良いのですが……。
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