目覚めた戦女神
ソレムネの蒸気戦列艦を沈めた後、すっかり忘れてた捕虜の身元を検めることにしてみた。
意識を失ってるとライブラリー情報が丸裸になるから、拷問とかしなくていいのが便利だと思う。
「という訳です」
「……大和君、海に捨てといてくれる?」
「できるわけないでしょう。貴重な情報源なんですから」
とはいえ、サユリ様の気持ちもよく分かる。
なにせこれが、その捕虜の身元なんだからな。
ヒュージ・ロワ・シュメルシュテルン
43歳
Lv.32
人族・ヒューマン
ソレムネ帝国元第3王子、ソレムネ帝国公爵、ソレムネ軍統括司令
「ソレムネの元第3王子で現公爵って、面倒でしかないわね」
「でも立場的には、総大将と見て間違いないのでは?」
「それはね。まあトラレンシアには宣戦布告済みなんだから、捕虜が誰であろうと知ったことじゃないけど」
「ですがトラレンシアとしては、この男から引き出せるだけ情報を引き出した後、どうするかは考えなければなりません」
この男が総司令だっていうリディアの意見には、俺も賛成だ。
そもそも称号が、それを示してるからな。
多分蒸気戦列艦の初陣ってことで、統括司令自ら出てきたってことだろう。
さらにマナの言うように、ソレムネはカズシさんとエリエール様が亡くなると同時に宣戦布告しているから、かれこれ30年近く戦争状態ってことになる。
その間何度も侵攻を阻止されてきてたんだから、総司令だろうと何だろうと、万が一の時は捕虜になる覚悟はあったはずだ。
蒸気戦列艦に浮かれて、そんなことは考えてなかったかもしれんが、そんなことは知ったことじゃない。
問題はヒルデガルド陛下の言うように、情報を引き出した後でどうするかだ。
あのまま俺とプリムが普通に戦ってたら、この公爵も死んでたのは間違いないから、普通に処刑でもいいと思うけどな。
「あたしも大和に賛成。そもそもトラレンシアには何度も助けてもらってるのに、カズシ様とエリエール様が亡くなった途端に宣戦布告してくるような恩知らずの国なんだから、見せしめにしてもいいんじゃない?」
「簡単には決められません。確かにソレムネは憎き敵国ですが、だからこそその敵国と同様の行為を行うわけにはいかないのです。そのようなことをしてしまえば、トラレンシアの威信は地に落ちますし、下手をすれば血で血を洗う野蛮な国に成り下がってしまうでしょうから」
ヒルデガルド陛下の意見も、分からないでもない。
相手に合わせて自らの価値を貶めたら、それはもう相手と変わらない。
カズシさんとエリエール様の遺志を継いで気高い精神を宿しているトラレンシアからしたら、ソレムネと同列に扱われるようになることは耐えがたい屈辱だろう。
「それは分かるけど、それでもあの公爵は処刑すべきよ。生かしておいてもメリットはないし、解放しても必ずトラレンシアに攻めてくるだけだからね」
「それも分かっています。ですから解放することは考えていませんし、情報を得るために
おおう、思ったよりエグいこと考えてらっしゃるのな。
しかもその結果死んだとしても、それはそれで受け入れるつもりかよ。
いや、特に珍しいことでもないんだろうが。
トラレンシア騎士団はセイバーズギルドっていう、オーダーズギルドとほとんど同じ体制の騎士団だから、
とは言っても、
「トラレンシアも尋問は
「ソレムネの軍人は、
既に何人かがそれで命を落としてるってことか。
ソレムネ軍人の口が堅いのは意外だったが、帝王に忠誠を誓ってる奴は多そうだったし、実際に蒸気戦列艦の開発でフィリアス大陸統一が現実的になったんだから、そう考える奴が増えててもおかしくはないのかもしれないな。
「あとはあの女の人か」
「エグザミニングで診てみたけど、どうも魔力疲労で気を失ってるみたいなのよね」
「魔力疲労ですか?」
魔力疲労ってことは、当然魔力を使ってたってことだが、その魔力は地球じゃ印子って呼ばれてるから、刻印術を使ってたって考えてもいいだろう。
だけど刻印術は印子、つまり魔力効率が良いから、魔力疲労を起こすことなんて滅多にないんだけどな?
「それもそれで凄い話ね。ああ、刻印具の補助があるからか」
「ええ、そうです」
刻印術の魔力効率が良い理由は、刻印具によるアシストがあるからだ。
昔のことは知らないが、今の刻印術は刻印具を介して使用していて、刻印術に使用する起動刻印は、全て刻印具に登録されている。
その起動刻印に魔力を流すことで刻印術を起動させ、周囲の魔力を使って発動させることになるから、必要以上の魔力は消耗しないような構造になっているんだよ。
もちろん魔力を過剰に流すことで威力や精度を上げることも出来るが、普通に生活してる分には魔力枯渇を起こすような事態は起こり得ない。
つまりあの女の人には、そんな事態が起こってたってことになるんだが、じゃあ何がって聞かれると、全くもって分からない。
いや、1つだけ心当たりがないでもないが。
「蛇、でしょうね」
「ですね」
「蛇、ですか?」
フラムが首を傾げているが、他のみんなも同様だ。
いや、ヒルデガルド陛下はともかく、みんなには簡単に話した事あるだろ。
「前に話しただろ?俺もサユリ様も、蛇の化け物に飲み込まれた結果、ヘリオスオーブに転移したって」
「私は何も出来なかったけど、大和君は返り討ちにする寸前だったわけだから、あの子が魔力疲労で倒れてる理由は、大和君と同じ理由じゃないかっていう推測に繋がるのよ」
その説明で思い出してくれたようだ。
とはいえ、あの蛇はかなり手強かったが、何とかできなかった訳でもない。
もちろん不意打ちだったらヤバかったが、幸い俺の場合は事前に気付くことが出来たから、正面から戦うことができたんだ。
あの人がどうかは分からないが。
「あ、大和さん。目を覚ましましたよ!」
おっとナイスタイミングだ。
ミーナに続いて女性が貴賓室から出てきたが、困惑してるのが丸分かりだ。
いや、こんなことになるなんて想像の埒外なんだから、当然っちゃ当然なんだが。
「え?三上君?いえ、似てるけど……飛鳥君じゃない?」
俺を見て驚いてるが、俺も驚いた。
それ、俺の父さんの名前だぞ。
「えっと、助けてくれてありがとうございます、と言うべきかしら?」
俺を見て動揺したままではあるが、女性は丁寧に頭を下げてお礼の言葉を口にした。
そっちは大したことじゃないんだが、俺としてはなんで父さんの名前が出てきたのか、そっちが気になって仕方がない。
「助けたというか、救助したと言うべきか。まあ偶然でしたが」
「こちらのミーナさんから、簡単にだけど話は伺っています。ここはヘリオスオーブっていう異世界で、私は何らかの理由で転移してきてしまったって」
ミーナとマリサさんは、簡単に説明してくれてたのか。
だけどそうじゃなかったら、もっとパニックになってたかもしれないから、これは助かる。
「信じられないのも無理もないと思うけどね」
「いえ、いくつか証拠も見せていただきましたから。あ、申し遅れました、私は片桐
片桐 真子さんか。
凛とした感じで釣り目の美人さんだが、ちょいキツい感じもするな。
いや、美人さんだからこんなもんだろうが。
「私はサユリ・レイナ・アミスター。今はこう名乗ってるけど、これでもれっきとした、あなたと同じ世界の出身者よ」
「同じくヤマト・ハイドランシア・ミカミです」
他のみんなも自己紹介しているが、同じ
「よろしくお願いします。早速お伺いしたいんですが、元の世界に戻る方法って、やっぱり……」
「申し訳ないけど、あなたの予想通りよ」
本当に申し訳ないと思うが、こればっかりはどうしようもない。
探せばあるのかもしれないが、俺以外の
「そうですか……」
「こちらからも聞きたいんだけど、あなたは蛇のような魔物に襲われなかった?」
「え?何故ご存知なんですか?」
やっぱりか。
まあ俺やサユリ様っていう例があるから、予想するのは難しくなかったが。
「俺もサユリ様も、同じ経緯でヘリオスオーブに来ましたからね。まあ俺は、最後の最後で油断したのが原因ですが」
「私は不意打ちだったから、襲われたと思った次の瞬間にはヘリオスオーブだったわね。あなたは?」
「私は丁度戦闘中でした。それが終わった直後に襲われたんですけど、抵抗はしたので、それなりの手傷は負っているはずです」
いや、戦闘中って、いったい何があったのさ?
「その戦闘中っていうのは気になるけど、もう1つ教えて。それは西暦何年何月の話?」
「意味がよく分かりませんけど、西暦2101年3月5日です」
いやいや、俺が生まれる前じゃねえかよ。
あ、もしかして、だから父さんの名前が出てきたのか?
「大和、頭抱えてるけど、どうかしたの?」
「したよ。その日付、俺が生まれる20年以上も前だよ」
「えっ!?」
真子さんも驚いているが、当然だろう。
「20年?え?あ、もしかして大和君、だっけ?あなたのお母さんって、もしかして真桜?」
「母さんの名前まで知ってるのか……」
「これはまた、面倒なことになってきたわね……」
俺とサユリ様、そして真子さんは、想定外の事態に頭を抱えるしかできなかった。
「大和、どういうことなの?」
「俺が聞きたいが、どうやら真子さんは、俺の両親の知り合いだったらしい」
「同級生、って所かしらね」
「はい。三上
頭痛ぇ……。
これ、マジでどうしようもないんじゃないか?
真子さんにとって、地球への帰還が絶望的になった瞬間って言ってもいいぞ、これは。
「仮に地球に帰れる方法があったとしても、私には無理ってことね……」
真子さんもしっかり理解出来てしまったようで、悲しそうな表情を浮かべてる。
そらそうだろ、突然異世界転移に巻き込まれて、そこで会った同じ異世界人が同級生の息子って言われたら、普通に考えたら帰還は絶望的だ。
「それについては何も言えないけど、ヘリオスオーブも悪い所じゃないわよ?特に老化に関してはね」
「え?どういうことですか?」
「魔法については聞いてる?」
「はい。ミーナさんとマリサさんに、ライブラリーという物は見せていただきました。レベルについても、簡単に聞いています」
「なら話が早いわ。『ライブラリング』。これを見れば、意味が分かるわよ」
そういって自分のライブラリーを見せるサユリ様。
確かに老化に関しては、これ以上ない程の説得力があるよな。
「え?107歳なんですか!?でも、どう見たって20代にしか……」
驚く気持ちはよく分かる。
地球で107歳っていったら、シワシワのお年寄りしか浮かばないからな。
「もちろん全員がこうってわけじゃないけど、条件を満たせば老化は抑えられるのよ。魔力が細胞を活性化、もしくは保護して、老化を抑えてくれるって言うべきかしらね」
「そ、そうなんですね……」
女性にとってアンチエイジングは永遠の課題だから、興味津々のご様子。
本心からってわけじゃないかもしれないが、気を紛らわせるには格好の話題と言ってもいいかもしれない。
「こうですか?『ライブラリング』。きゃっ!」
キツい感じのする美人さんには不釣り合いな可愛い悲鳴が響いた。
初めてライブラリーを出したんだから、驚くのも無理もないんだが。
「これが私の……」
「他にも色んな魔法があるわよ。大和君、丁度良い恰好してるから、着替えたら?」
おお、すっかり忘れてたが、アーク・オーダーズコートのままだったっけか。
だけど確かに丁度良いから、この場で失礼させていただきましょう。
「そうですね。では失礼して。『イークイッピング・オン、クレスト・ディフェンダーコート』」
「え?ええっ!?」
俺のクレスト・ディフェンダーコートも、この数日で完成していたからな。
他のみんなのディフェンダーコートも仕上がっているから、ちゃんと受け取っているぞ。
「驚くわよね。でも便利なのよ?」
便利ですよね、イークイッピング。
奏上しといてなんですが、マジで素晴らしい魔法だと思います。
だけど真子さんは、早着替え魔法なんてもんがあるとは思ってなかったらしく、すげえ驚いてらっしゃる。
ライブラリーも無防備に展開したままだから、俺からも丸見えだよ。
「あの、ライブラリーが見えてるんですけど?」
「え?ああ、別に良いわよ。個人情報ではあるけど、見方とかを教えてもらわないといけないから」
そう言って真子さんは、俺達にライブラリーを開示した。
「うわ、凄いわね」
「俺よりすげえな」
「そうなの?」
「この称号があるってことは……」
真子さんのライブラリーに驚いたのは、俺だけじゃなかった。
まあ仕方ないんだが。
マコ・カタギリ
20歳
Lv.66
人族・ハイヒューマン
スピリチュア・ヴァルキリー、ヴァルキュリア、
これが真子さんのライブラリーだが、ヘリオスオーブに来た直後の俺より全然レベルが高い。
というか、エンシェントクラス直前と言ってもいいんじゃなかろうか?
称号にもヴァルキュリアっていうのがありやがるし、スピリチュア・ヴァルキリーなんていう二つ名まであるじゃねえか。
二つ名を持つ刻印術師は一流の生成者で、しかもヴァルキュリアっていうのはうちの母さんを筆頭にした女性達の称号で、日本どころか世界中にその名が轟いている。
人によってはその名を聞いただけで、震えあがるぐらいだぞ。
まさか真子さんが、そのヴァルキュリアの称号を持っていたとは……。
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