合同披露宴の予定

 ヒルデガルド陛下とイスタント迷宮に行った翌日、俺達はメモリアに来ていた。

 ラインハルト陛下にも報告して許可も貰ったから、トラレンシアに行く前にリカさんと結婚してしまおうと思ってな。

 既にフィールの別邸とメモリアの屋敷の私室にはゲート・ストーンを設置したから、リカさんはいつでもアルカに来ることができるようになったし、俺もいつでもメモリアに行くことができるようになって、最大の障害だった距離の問題は無くなった。

 だからってわけじゃないが、リカさんのお母さんのエリザベートさんも招いて、メモリアのプリスターズギルドで結婚の儀式をしようと思ったんだよ。


「ありがとう、大和君」

「いや、予定よりは早かったけど、それでも待たせちゃってたのも間違いないから」


 無事に儀式は終わった。

 リカさんはフレデリカ・ミカミ・アマティスタっていう名前に決めていたが、これはアマティスタ侯爵家を存続させるためでもある。

 だけど俺の家名をミドルネームにすることで、俺と結婚した証にするんだそうだ。

 あと問題になるのは、侯爵家当主が結婚したわけだから、当然のように披露宴をどうするのかっていう話だな。

 それはマナも同じなんだが、その披露宴は少し待ってもらうことにしている。

 本来ならエド達も含めて合同披露宴にする予定だったんだが、春になったらリディアとルディア、アテナとも結婚することになってるから、披露宴はそれからにしてもいいんじゃないかっていう案があるんだよ。

 俺としてはその都度やればいいと思ってるし、それだけの金もあるんだが、エドが面倒くさがってやがるってのが理由だな。

 それに明日からトラレンシアに行くから、まとまった時間が取れるとしたら冬だ。

 だからどうしようかと思ってるんだが、たった今結婚したリカさんも含めて、その問題は俺に丸投げされている。

 マリーナやフィーナも同意しやがってるから、マジで俺が決めたら準備は進んでしまう。

 いや、トラレンシアから帰ってきたらやるつもりだけどさ。

 なので今日はクラフターズギルドにその旨を伝え、詳しい日取りが決まったら調理師を派遣してもらうことになる。

 トレーダーズギルドには招待状の作成依頼、バトラーズギルドには当日の給仕依頼と、やることもすげえ多い。


「招待客だけど、フィールの領代にギルドマスターは当然として、後はエドとマリーナ、フィーナの家族ね」

「ミーナの友人ってことで、オーダーも何人か招待したいわね」

「ありがとうございます。同期には声を掛けたいと思っていたんです」

「それでいいと思いますよ。あとはプラダ村の村長とカルディナさんもですね」

「フラムの関係者だし、当然だよね」

「お兄様とお義姉様方、お父様達も招待してくださるとのことですが、本当によろしいのですか?」

「当然じゃない。あとサユリ様は問題ないと思うけど、おじい様とおばあ様はどうなのかしら?」

「おじい様もおばあ様も天樹城に屋敷があるっていうのに、月に何日かしか使わないのよね。だから私も、おじい様達の予定がどうなってるのかは分からないわ」

「メモリアからは、当然エリザベート様ですね」

「後はオーダーズマスターも招待したいけど、ダートとリアラをどうするかよね」

「それを言ったら、レックスさんもご結婚されたばかりですよ?」


 だが招待客に関しては、アルカに戻った後で嫁さんや婚約者達が総出で決めてくれているから、俺の出る幕はない。


「なんか、とんでもないことになってねえか?」

「俺の世界じゃ、披露宴は女性が主役で男は生贄なんだよ。だからこんなもんじゃないか?」

「いや、生贄って何だよ?」

「過去の恥ずかしい歴史を暴露されたり、次から次へと酒を注がれたりだな」

「生贄で間違いねえな。俺はドワーフだから後者は問題ねえが、前者はキツいぞ……」


 エドと2人で、招待客のリストを作成している嫁さん達を遠い目で見守る。


「大変なんですねぇ」


 他人事のように言ってくるラウスにイラっと来たが、お前も何年かしたら同じことするんだからな?

 既にレベッカとキャロルは、そのための勉強と称してあの中に混ざってるんだからな?


「分かってますよ。だから俺は、ここで現実逃避してるんじゃないですか」

「ああ、そういうことか」


 思わず納得してしまった。


「それよりレックスさんとダートさんも巻き込むとか、そんな不穏な話が聞こえるんですけど?」

「……言うなよ。俺も気付いてたけど、あえて聞こえないフリしてたんだから」


 事の発端は、自分と同じく新婚の兄を気遣ったミーナだ。

 ミーナの兄レックスさんは、先日同じオーダーのローズマリーさん、ミューズさんと結婚しているんだが、急だったこともあって披露宴の予定は立っていない。

 だがオーダーズマスターということもあって、披露宴をしないという選択肢もない。

 だからレックスさんは、遅くとも春には披露宴を行う予定でいるんだが、そのレックスさんの披露宴も一緒に出来ないものかというミーナの呟きがプリムとルディアに拾われ、せっかくだから合同でやろうって話にまで膨れ上がってしまっている。

 さらに同じく新婚の、メモリアのサブ・オーダーズマスターに就任したばかりのダートも、リカさんが領主を務める街に赴任した縁ってことで一緒にやってやろうって話まで出てきた。

 そりゃダートもサブ・オーダーズマスターだから披露宴はやるべきだと思うんだが、それでもメモリアに赴任して数日なんだから、準備も何もあったもんじゃない。


「合同披露宴をやるのは俺も構わねえんだが、逆に2人の面子を潰すことにならねえか?」

「それは考えないようにしてる。というかマナが音頭を取ってるようなもんだから、それは大丈夫だろ」


 俺達の披露宴はアルカで行うが、食材にはAランクモンスターも含まれている。

 食用可能な魔物はIランクやCランクが一般的でBランクは高級食材、Sランクは希少食材扱いだから、Aランクなんて食ったことある人がいるのかっていうレベルになる。

 PランクやMランクでさえ幻の食材だとか、一生に一度食えたらラッキーとか言われてるんだからな。

 そんな食材を惜しげもなく提供する予定だから、オーダーズマスターやサブ・オーダーズマスターの面子に泥を塗ってしまうのは間違いないだろう。

 だけど披露宴の主役の1人でもあるマナはアミスターのお姫様だし、リカさんも侯爵家当主だから、致命的なまでに面子が潰れることもないと思う。


「問題は招待する貴族ね」

「そうですね。フィールで行うなら問題なかったのですが、フロートやメモリアからも招待客を呼びますから」

「それなんですけど、シュタルシュタイン侯爵とトライハイト男爵で良いのではと思っています」

「なんで……ああ、そうか。確かに問題ない、というか、最優先で招待しなきゃならない家だったわね」


 貴族は俺も面倒だと思ってたが、なんか解決してるな。

 なんでだと思ったが、トライハイト男爵家はローズマリーさんの実家だし、そのトライハイト男爵家はシュタルシュタイン侯爵領にあるから、この2つは確かに招待しなきゃだな。


「あとはアマティスタ侯爵領で代官をしている男爵家、フィールの隣になるテュルキス公爵でよろしいかと思います」

「それでしたらモントシュタイン公爵も招待しなければ、禍根を残しませんか?」

「ああ、それもそうか」


 王家の外戚になる公爵家は、アミスターには2家しかない。

 1つはフィールの南、アマティスタ侯爵領の北、トゥルマリナ伯爵領の西に領地を持っているテュルキス公爵、もう1つはフロートの南にあるボールマン伯爵領の東、アミスター最南端と最東端に領地を持つモントシュタイン公爵だ。

 テュルキス公爵家は建国時から続く家らしいが、モントシュタイン公爵は200年程前のアバリシア侵攻の際に、当時の国王の妹が公爵位を授かったそうだ。

 アバリシアの侵攻に際しては、常にモントシュタイン公爵領の領海が戦場になり、多大な犠牲を払いつつも侵攻を阻止したことから、モントシュタイン公爵家は海戦のエキスパートとも言われているとか。

 うん、話を聞くだけでも、禍根を残すようなことはしない方がいいな。


「招待客はとりあえずこれでいいとして、大和、調理師は派遣してもらえるのよね?」


 100人近い招待客にウンザリしていた俺とエドだが、ここでプリムから話が振られた。


「ああ、正確な日時が分かったら、また教えてくれって言われてる」

「バトラーは?」

「そっちも大丈夫だが、やっぱり正確な日時が分かったら改めて連絡してくれって言われてるぞ」


 正確な日時が決まらないと、準備する方も動けないからな。


「それもそうか。じゃあこっちも、トラレンシアから帰ってきてから決めることになるかしらね」

「ええ。あとはユニオン・ハウスね。アルカから転移するためにも、ユニオン・ハウスは必要だわ」


 そうなんだよな。

 それにゲート・ストーンがあれば、対応するゲート・クリスタルを持ってる必要はあるが、アルカへの転移が可能になる。

 今までは街から出るかリカさんの屋敷から飛んでたから、けっこう不便なんだよ。

 フロートは天樹城 王連街にあるサユリ様の屋敷にゲート・ストーンを設置してるが、これは俺達が使うっていうよりサユリ様が使うためっていう理由の方が大きい。

 メモリアはリカさんの屋敷の私室に設置したが、これもリカさん用だな。

 だからフィール以外の街は街の近くに転移するしかないんだが、拠点はフィールだから、これはこれでいいかと思ってる。

 だけど拠点のフィールはそういうわけにはいかないから、早めにユニオン・ハウスを建てておきたい。


「まだ図面も出来てませんし、場所も決まってませんから、こちらもトラレンシアから帰ってきてからになりますね」

「そうね。時間はあったのに、後回しにしたツケが回ってきた感じかしら?」

「予定が詰まってたから仕方ないだろ。それにユニオン・ハウスの図面にまで手を出してたら、試作獣車は完成しなかったかもしれないからな」


 図面を引くとなると、経験があるフィーナに頼むことになる。

 だけどフィーナは試作獣車にかかりっ切りだったから、もしユニオン・ハウスの図面を頼んでいたら試作獣車、特に船体は完成してなかったかもしれない。


「あっちを立てればこっちが立たずね。まあトラレンシア行きは、ヒルデ姉様を送るついでに妖都を記録させるのが目的だから、いても数日になるでしょう」

「エオスでも片道2日だが、帰りはアルカ経由だからほとんど一瞬。まあ数日で済むだろうな」


 ソレムネのことは気になるが、この時期トラレンシアの海は氷で覆われるから、攻めるのは難しい。

 もちろん油断は禁物だが、天与魔法オラクルマジックを使えないソレムネには取れる手段が少ないのも事実だ。

 だから最大の目的は、妖都ベスティアをゲート・クリスタルに記録させ、気軽に行き来できるようにすることになる。

 ヒルデガルド陛下は、プリムやマナにとっては姉同然の人だからな。


「私は同行できないけど、いつでも行けるようなるわけだから、その時を楽しみにしておくわ」

「結婚したばかりで申し訳ないと思うけど、夜はアルカに戻るつもりだから」

「分かってるわよ。私も仕事でアルカに行けないことはあるし、Oランクオーダーと結婚したんだから、その辺の覚悟はできてるわ」


 バレンティア行きとは違い、今回リカさんは同行できない。

 領代だから当然と言えば当然なんだが、結婚した翌日にいきなり長期出張みたいな感じになって、すごく申し訳なくなってくる。

 それでも夜はアルカに戻ってくるつもりだから、それで勘弁願いたい。


「トラレンシアには、完成したばかりの試作獣車でいいわよね?」

「ああ。フィーナも言ってたが、車体はもちろん、できれば船体の試乗もしてきて欲しいみたいだからな」

「でもトラレンシアの海は氷ってるわよ?」

「それなんだよなぁ。まあアルカにも湖はあるし、最悪はそこで試乗してもいいだろう」


 あとはトラレンシアの沿岸か。

 海は氷っても、さすがに沿岸部まで氷ることはないだろうからな。

 ヘリオスオーブの気候は地球とは全く違うから、絶対とは言えないが。


 ともかく準備はできてるから、後はヒルデガルド女王陛下を護衛して、トラレンシアに向かうだけだな。

 客人まれびとのカズシさんが建国に関わってる国だし、ヒルデガルド陛下のドレスを見ても和風色の強い国っぽいから、俺としても楽しみだ。

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